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弁護士コラム

保険金不払いにはどう対応したらよい?訴訟の流れを解説

紛争解決
投稿日:2022年03月28日 | 
最終更新日:2022年03月28日

保険金不払いが起きたら

火災保険の保険対象になっている建物や家財が、火事などが原因で燃えてしまった場合や損傷した場合には火災保険の保険金を請求し、損害を補填するのが通常の流れです。しかし、火災保険の保険金は保険事故が発生すれば常に支払われるものではなく、保険金が支払われない場合について保険会社との契約で定められています。

そのため、保険金を請求しても保険会社からはこうした事由に該当する事を理由に保険金の支払いを拒否される場合があります。実際に保険会社からの保険金が払われない事例は、2011年12月17日の朝日新聞によると、2001年から2010年までの10年間で1136億円にのぼる旨が報道されており決して珍しい事ではありません。

では、このような場合にどのように対応したらよいのでしょうか。

まずは保険会社と協議を行う

保険会社から保険金が支払われない旨の連絡があった場合、まずは保険会社と協議(話し合い)を行いましょう。
その際には、不払いの理由と保険契約上の根拠を聞いておき、メモしておくと、次のステップで役に立ちます。

弁護士に相談する

保険会社との協議の結果、保険会社の結論が変わらない場合、保険金の請求をするために保険会社と交渉や場合によっては裁判(訴訟)を起こすことも検討する必要があります。

こうした事態に備えるために、弁護士へ相談することが有効です。弁護士へ相談する場合には、以下の点を確認しておきましょう。

  • 火災による被害の状況
  • 修理費用等の金額
  • 加入している保険会社名
  • 火災保険の保険証書
  • 火災保険の保険約款
  • 保険会社が保険金を支払わない理由

以上の点を確認したうえで、弁護士へ相談し保険会社の主張が妥当なのか、裁判を起こした場合に請求が認められる可能性はあるのかなどの相談をしましょう。

また、実際に依頼する際には弁護士費用が発生しますが、加入している保険によっては弁護士費用特約と呼ばれる弁護士費用を保険でまかなえる条項がついている場合があります。弁護士費用特約が利用できないかも含めて弁護士へ相談しましょう。

金融庁に相談する

弁護士への相談以外の方法として考えられるのが金融庁への相談です。あまり知られていませんが、保険会社の監督官庁は金融庁で、金融庁では保険などをはじめとした金融商品に関する相談を受け付けています。
相談の受け付けは電話やHPで行っているので、弁護士への相談に関して少しハードルが高いと感じられる方は、こちらへ相談してみましょう。

そんぽADRセンターを利用する

裁判以外の紛争の解決方法として近年注目されているのがADRと呼ばれる裁判外での紛争解決です。ADRの中でも、「そんぽADRセンター」は保険に関する紛争を専門的に取り扱っており、日本損害保険協会が紛争の解決窓口として運営している組織です。
特定の保険会社だけでなく、複数の大手保険会社が参加しているため、第三者としての意見を期待することができます。

費用は原則として無料となっているため気軽に利用が可能なのも魅力です。

保険金不払いの事例

では、保険金不払いの事例にはどのような事例があるのでしょうか。ここからは具体的な例で見てみましょう。

保険金詐取を企てたと言われた

保険金不払いの例として考えられるのが保険金詐取、つまり保険金詐欺ではないかといわれるケースです。もう少し詳しく言うと、虚偽の申し立てを行って保険金請求をするような場合がこれに該当します。

典型的な例としては、自宅が火事で全焼してしまったので火災保険を保険金請求手続きをしたケースで火災の発生について被保険者の不注意があるものの、大きなことではないと判断してこれをあえて記載せずに保険金請求したところ、保険会社から自身で放火したまたは重過失による火災にあたり、これを隠して保険金請求をするのは保険金詐欺だという主張です。

また、ここまで極端な例でなくても見られる例として、保険金請求の際に代行業者を利用して代行業者に作成させて手続きをしてもらった場合に、代行業者が事実を誇張して保険金請求を行ったりした場合にも起こりうるトラブルです。

実際と異なる事実、つまり虚偽を申し立てて保険金請求をする行為は詐欺罪に問われる可能性もあり、絶対に避けるべきですが保険会社が行った調査などと申告事実が一致しないケースでもこうした事態は起こりえます。特に後者の事例は、悪徳代行業者を信用してしまって全て任せてしまうと、気が付かないうちに詐欺の共犯となってしまうケースです。

保険会社からこのような理由で保険金の支払いを拒否された場合には、まずは申告した事実に誤りがないか確認したうえで、保険会社の主張が事実と一致していないのであればすぐに上で紹介したいずれかの方法で相談するのが良いでしょう。

特に保険金詐取であると保険会社が主張している場合には刑事告訴される可能性も考えられるため、こうした場合には弁護士への相談が良いでしょう。

免責条項にあたると言われた

保険金詐取の例と重複する個所もありますが、保険会社が保険金を支払わない例として見られるのがこの免責条項に当たることを理由に保険金支払いを拒否する事例です。火災保険には免責条項と呼ばれる保険会社を免責する場合が定められており、免責条項には以下のような場合があります。

①被保険者の故意または重過失により火災が生じた場合

重過失というのは被保険者自身による著しい不注意により家が火災によって全焼したケースです。以下のようなケースで裁判上、重過失が認められています。

  • 石油ストーブの火をつけて、タンクのふたの閉まり具合を確認しないまま、石油ストーブに給油した結果こぼれた石油に石油ストーブの火が引火して火災が発生したケース
  • 寝たばこが危ないと認識しながらそのまま吸い続けて、特に対策も講じなかった結果、漫然と喫煙をした結果火災が起きたケース
  • 鍋にてんぷら油をいれて火にかけたまま台所を離れた結果、鍋に引火して火災が発生したケース

この他にも重過失が認められたケースはたくさんありますが、以上のようなケースでは重過失にあたることが裁判で認められています。ただし、過失の判断はケースごとに個別具体的に判断されるため、類似の事例であっても事案によって判断が異なる場合があります。保険会社から重過失であることを理由に免責条項にあたるとして保険金の支払いを拒否された場合には弁護士へ相談しましょう。

②被保険者の犯罪行為による場合

典型例としては被保険者自身が自宅に放火したようなケースです。被保険者自身の自宅に放火した場合でも放火の罪にあたるため、こうした犯罪行為が原因となって生じた火災については保険会社は免責されます。また、第三者の放火によって火災が発生した場合でも被保険者と第三者が共犯関係であったようなケースでも被保険者の犯罪行為による場合に当たるとして、免責事由に当たると主張されるケースもあります。

このような事例では、裁判では被保険者自身の放火への関与が争点となる場合もあり、裁判も見据えた行動が必要となるため、この場合にも弁護士へ相談することをおすすめします。

なお、火災保険に関しては、保険金請求者は火災の発生について立証すれば足り、その火災が保険金請求者の故意によるものであることについては、保険者(保険会社)が負います(最高裁平成16年12月13日民集58巻9号2419頁)。

すなわち、火災保険に関しては、保険金請求者は、火災の発生が「偶然なる事故」であることの立証責任を負わないと判断されています(いわゆる「偶然性」の立証責任を保険請求者は負わないということです)。

これは、火災の場面において、保険金請求者が自らの故意による火災ではないこと(放火ではないこと、又は放火であったとしても第三者によるものであること)を立証することは極めて困難であるのに対し、保険会社の側には、それらを立証するだけのノウハウがあるとういことを実質的な理由とするものと思われます。

保険金を訴訟で請求できない4つのケース

保険会社との交渉も上手くいかず、弁護士に委任し訴訟によって保険金を請求しようとした場合でも、以下のケースに該当する場合には保険金の請求は訴訟にした場合でも困難です。
そこで、具体的にどのような場合に請求が困難なのか解説していきます。

支払事由に該当しない場合

火災保険はあらゆる原因での火事を補償対象としている訳ではありません。火災によって被保険者の建物や家財が損傷した場合であっても、支払事由に該当しない場合には保険金の支払いがなされないため訴訟を行っても保険金の支払いを受けることはできません。

支払事由に該当しないケースとしては以下のようなケースが挙げられます。

  • 火災が地震や噴火、津波などが原因で生じた場合
  • 経年劣化による損傷と判断された場合
  • 免責金額以下の損害の場合
  • 消滅時効(保険法95条1項)を経過してしまった場合

免責事由に該当した場合

先程もご説明したように火災保険には免責事由が定められています。免責事由としては、被保険者の故意または重過失によって火災が生じた場合や被保険者の犯罪行為による場合には保険会社が免責されるため、訴訟によっても保険金請求を行っても請求は認められません。

告知義務違反による解除の場合

健康保険などの場合に告知義務があるということを耳にしたことがある方は多いでしょうが、火災保険においても告知義務があり、告知義務違反が認められる場合には保険契約が解除されることから保険金の支払いを拒否することができるということになっています。

火災保険の場合の告知義務の対象には以下の事項があります。

  • 保険目的物の所在地
  • 保険目的物の所有者
  • 保険目的の建物の構造・用法・延べ面積
  • 保険目的物に他の火災保険が付保されていないか

以上のような点が火災保険における告知義務として被保険者には加入の際に保険会社へ告知する義務があります。また、これらの事項については変更が生じた場合には契約上保険会社へ連絡するよう義務付けられているケースが多く、こうした変更の連絡を怠っても告知義務違反とされる可能性もあります。

この中で特に注意が必要なのは、保険目的物に他の火災保険が付保されている場合には保険会社に告知しなければいけないという点です。火災保険は気がつかないうちに付保されている場合もあるため、契約時に注意しておきましょう。

なぜこうした点について告知義務が課されているかというと、これらの事項は火災発生の際のリスクや保険で補償する範囲を判断する上で必要な事項であるためです。そのため、こうした点について告知を怠ると保険金が支払われなくなってしまうというケースにつながるのです。

なお、こうした告知義務を果たしていないケースでも、告知義務違反と無関係に発生した損害については保険金の支払いがされます。

具体例を挙げると、建物の用法を住居ではなく倉庫として報告していた場合には、告知義務違反とされる可能性はありますが、その建物に落雷がおきて火災が発生した場合、火災自体は住居であっても倉庫であっても発生したと考えられるため、告知義務違反とは無関係に生じた火災として保険金の請求は可能と考えられます。

重大事由による解除、詐欺による取消、不法取得目的による無効の場合

あまり耳にしたことがない方もいらっしゃるかもしれませんが、保険契約では当事者間に信頼関係があることが前提として求められており、契約者の側に信頼関係を破壊するような行為があった場合(重大事由)には契約を解除できることが保険法によって定められています。

重大事由に該当する例としては、被保険者が保険金を受け取る目的で自宅に放火し、保険金を詐取しようとした場合のような例が挙げられます。

また、重大事由に該当する以外にも、保険契約の締結自体が被保険者の詐欺行為の結果保険会社が締結したようなケースでは民法上の詐欺(民法96条)による契約の取り消しがあります。

この詐欺を理由とした取り消しは契約した時点にさかのぼって効果を有する(民法120条)ことから、最初から契約が無かったことになるため、こうした場合にも保険金の請求は保険契約自体が存在しなかったことになるため認められません。

この他に保険契約の効力が否定される場合として不法取得目的による場合が挙げられます。不法取得目的とは、被保険者が保険金を詐取することを目的として保険契約を締結した場合など保険金を不法に取得する目的で契約を締結した場合がこれに該当します。不法取得目的に該当する場合には保険契約の締結は無効となるため、この場合にも保険金の請求は認められません。

訴訟手続きの流れ

ここからは実際に保険金を請求するために民事訴訟を提起した場合の訴訟手続きについて解説していきます。民事訴訟は概ね以下のような流れで進みます。

①訴状の提出

まずは裁判所に原告から訴状を提出することで民事訴訟手続きは開始します。裁判所は訴状が必要な記載事項を満たしているかなどの確認を行ったうえで、不備がないときは第一回口頭弁論期日を定めます。口頭弁論期日が決まると被告に対し訴状を送付するとともに第一回口頭弁論へ呼び出しを行います。

なお、訴状には、請求原因として以下の事実を記載する必要があります。

 1)原告が、3)の当時、保険目的物を所有していた等、被保険利益を有すること

 2)被告が損害保険を業とする株式会社であること

 3)原告と被告が、保険目的物について、保険金額を具体的な額として、特定の保険期間を定め、保険料を具体的な額とする火災保険契約を締結したこと

 4)火災保険期間中、保険目的物が火災により焼失したこと

 5)上記3)の当時、保険目的物の価額が請求額であること

※ 訴状を提出する裁判所の場所は、約款で特別の定めがない限り、被告である保険会社の本店所在地、事務所及び営業所並びに原告である請求者の住所又は営業所を管轄する地方(簡易)裁判所となります。

②口頭弁論

口頭弁論では当事者双方が主張や意見を述べあう手続きです。ただし、通常は第一回口頭弁論では、被告は答弁書の提出のみで行い、原告も代理人の弁護士のみが出席する場合が多く見られます。なお、第一回口頭弁論に被告が答弁書も提出せず出席もしないときは、原告の主張が認められて裁判は終了します。

③証拠調べ、審問

口頭弁論で主張や意見の提出がなされると次にその主張を裏付ける証拠について証拠調べが行われます。なお、当事者への審問もここで行われるため、原告や被告はここから出席するケースが多いです。

④判決

証拠調べや証人調べなどが終わると判決が出されます。なお、判決に至る前に裁判所から買いを勧告する場合もあります。判決以外にも裁判が終わる場合がありますので覚えておきましょう。

以上が、かなり大まかですが、民事訴訟の手続きになります。判決が出た場合でもその判決に不服がある場合には上訴して判決を争う方法もあります。こうした上訴を行うべきかは事前に弁護士とよく相談したうえで進める方が良いでしょう。

また、訴訟は、必ずしも弁護士に代理人を委任しないで行うことも可能です。原告本人だけで行う本人訴訟という制度もあります。しかし、手続きの内容を理解するのが難しい事や、保険金請求事件では過失の程度や、第三者との関与の有無など法的な争点が生じる事が多く、こうした点について保険会社と争うためには高度な専門的な知識や経験が必要となります。

そのため、ご自身で訴訟手続きを行うのではなく、弁護士へ相談を行い代理人として活動してもらう方が良いでしょう。

まとめ

保険金が支払われないというケースは決して珍しい事ではなく、ご自身は正当なものとして保険金請求を行ったにもかかわらず保険会社から保険金不払いを告げられるということは誰にでも起こりうることです。保険会社の主張する理由にもよりますが、こうしたケースでの保険会社との交渉は最終的には訴訟になることも視野に入れた上で行動する必要があります。

そのため、保険金不払いの連絡を受けたときは本記事を参考に保険金支払いが受けられない場合に該当しないかを確認したうえで、早期に弁護士などに相談を行いましょう。

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