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保険金受取人の指定・変更とは?弁護士が解説!

給付金の種類、補償内容 生命保険
投稿日:2023年09月04日 | 
最終更新日:2023年09月04日

「弁護士コラム」では、生命保険・火災/地震保険に関連するさまざまな情報をUPしておりますが、直法律事務所では、「保険金の不払い」(火災保険に関しては、「火災」を原因とする事故)に限りお問い合わせをお受けしています。何卒ご了承ください。

保険金受取人の指定

Q
生命保険契約における保険金受取人について、誰でも指定することができるのでしょうか。また、契約締結後、変更することはできるのでしょうか。
Answer
生命保険契約の締結時に、保険契約者は、生命保険契約の当事者以外の第三者を保険金受取人として指定することができます。ただ、約款や契約内容により、保険金受取人が被保険者の相続人に制限されている場合などは、制限に従わなければなりません。

また、保険金受取人の変更は、保険事故発生前であれば、保険契約者は、保険者に対する意思表示によってすることができます。また、遺言によって行うことも可能です。

ただし、注意すべき点や例外的取扱いもありますので、これから詳しく説明していきましょう。

保険金受取人の指定

生命保険契約では、生命保険契約の当事者以外の第三者保険金受取人とすることができます。

保険契約の申込みに際し、通常、契約申込書に保険金受取人の氏名等を記載する欄があり、保険契約者がこれに氏名等を記載することにより保険金受取人が指定されます。これは、保険者が保険金を支払うときに、保険金受取人が誰であるかを特定できるようにするためのものです。

(なお、保険法上、契約締結時に保険金受取人が特定しているので、「指定」は不要で、その後に異なる保険金受取人にする場合は保険金受取人の「変更」になりますが、ここでは、契約締結時に保険金受取人を定めることを指定と呼びます。)

保険金受取人の権利

保険金受取人は、保険給付請求権(保険金請求権)を取得します。

保険契約にもとづくその他の権利(契約解除権保険料の返還請求権解約返戻金請求権等)は、基本的には保険契約者に帰属し、保険金受取人には帰属しません。約款上、契約者貸付請求権契約者配当請求権なども、通常は保険契約者に帰属しています。

保険金受取人に関して問題となる事例

保険金受取人を「妻〇〇」と指定した場合

では、妻を保険受取人として指定し、その後離婚したような場合、保険金受取人と認められるでしょうか。

Q
保険金受取人として、「妻 △△丸子」、と記載しましたが、その後、丸子が被保険者と離婚し、「□□丸子」となった場合、丸子は保険受取人と言えるのでしょうか。
Answer
同様の事例において、最判昭和58年9月8日は、保険金受取人の指定は、氏名により特定された者を保険金受取人として指定する趣旨であり、「妻」であることを条件に指定したという特段の趣旨があるとはいえないとしました。

そのため、丸子は離婚し□□丸子になっても、保険金受取人であると解されます。

不倫相手を指定した場合

次に、保険金受取人に不倫相手を指定した場合も、保険金受取人として認められるでしょうか。

Q
妻子ある男性が被保険者となり、自ら締結した生命保険契約の生命保険金受取人として、不倫相手を指定した場合、保険金受取人指定は有効でしょうか。
Answer
同様の事例において、東京地判平成8年7月30日は、保険金受取人の指定が不倫関係の維持・継続を目的としていたものであることが明らかであり、保険契約の締結そのものが直ちに不倫相手の生活を保全する役割を果たすものでもなく、現実にも不倫関係が解消されていて生活の保全の役割を果たすことはないと認められるなどの事情のもとでは、保険契約中の受取人指定の部分は公序良俗に反し、民法90条により無効とすべきであるとしました。

なお、このように保険金受取人の指定が公序良俗違反により無効となった場合、前述の裁判例によれば、保険金受取人は保険契約者自身であると解され、その保険契約者の死亡により、保険金請求権は保険契約者の相続人が相続分の割合に従って取得することになるとしています。

「相続人」と指定した場合及び約款で相続人と定められている場合

約款上、保険金受取人が被保険者の法定相続人と定められている場合や、保険金受取人を「被保険者が死亡の場合はその相続人」と記載した場合、被保険者死亡時の被保険者の相続人を保険金受取人に指定した、第三者のためにする生命保険契約であると解され(最判昭和40年2月2日)、保険金受取人を被保険者の相続人とする生命保険契約が成立します。


このように、相続人が保険金受取人になる場合、各相続人はどのような割合で保険金請求権を取得するのかが問題になりますが、保険契約者が「相続人」と指定したときは、各相続人は、法定相続分の割合に従って保険金請求権を取得するものと解されます(最判平成6年7月18日)。
なお、保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときはその相続人の全員が保険金受取人となるとしている保険法46条が適用される場合は、各相続人は平等の割合で保険金請求権を取得するとされている点と混同しないように注意しましょう。


では、保険金受取人を相続人としている場合で、被保険者の相続人の一人が相続放棄をしたような場合、保険金受取人の地位も相続と同様に放棄したことになるのでしょうか。

Q
保険契約者兼被保険者は、保険金受取人を「被保険者が死亡の場合はその相続人」とする生命保険契約を締結し、後に被保険者が死亡しました。その後、被保険者の相続人の一人であるXが相続放棄をしました。この場合、Xは保険金受取人ではなくなるのでしょうか。
Answer
保険金受取人として「被保険者が死亡の場合はその相続人」と記載されている場合、相続人は相続により保険金請求権を取得するのではなく、相続人であるという地位自体によって保険金請求権を取得したと考えられます。

そのため、相続人の一人であるXが相続放棄をしても、保険金受取人の地位を失うことはありません。

保険金受取人の変更

保険法上、原則として、保険契約者は、保険事故が発生するまでの間、保険者や保険金受取人の同意を得ることなく、一方的な意思表示によって保険金受取人の変更をすることができます(保険法43条1項)。約款でも、保険契約者が保険金受取人を変更できるとするのが通例です。このように、保険受取人は、保険契約者の意思によっていつでも変更可能であり、保険受取人の地位は不安定なものです。
ただし、他人を被保険者とする死亡保険契約の保険金受取人を変更する場合には、被保険者の同意が必要とされていますので注意が必要です(保険法45条、商法677条2項、同674条1項)。

平成20年改正前商法では・・・

原則として、保険契約者は保険金受取人の変更権を有しないとされ、例外的に変更権を認める別段の合意がある場合には変更権を認めるとされていました。しかし、平成20年改正前商法の下でも、実務上、保険金受取人の変更権を保険契約者に認める合意をしておくのが通例でした。

従って、平成20年改正前商法が適用される場合でも、保険契約者が保険金受取人の変更権を有していることが一般的です。

保険金受取人の変更方法

【保険金受取人の変更方法】
保険契約者が、保険事故が発生するまでに、保険者に対して保険金受取人の変更の意思表示することによってできます。

【意思表示の効力発生時期】
保険金受取人の変更をする意思表示が保険者に到達した場合、意思表示を発信したときに遡って発生します。

変更方法

保険金受取人の変更は、保険契約者が、保険者に対して意思表示することによってするものとされています(保険法43条2項)。保険金受取人変更の意思表示は、保険者の同意を要しない保険契約者の一方的意思表示ではあるのですが、相手方のある意思表示とされ、相手方は保険者に限定されています。

また、この意思表示は、保険事故が発生するまでに行われることを要します(保険法43条1項)。保険事故が発生すると、保険金請求権が保険金受取人の権利として確定してしまうからです。

変更の意思表示の効力発生時期

保険契約者が変更の意思表示をした場合、どの時点で効力が生じるのでしょうか。 この点、保険法43条3項本文は、保険金受取人を変更する意思表示の通知が保険者に到達したときは、その通知を発信したときにさかのぼって効力が生じるものとされています。

~到達することを条件にした発信主義~

保険金受取人の意思表示の効力発生時期について、保険法は、意思表示の原則である到達主義(民法97条1項)を修正し、到達することを条件にした発信主義に修正しています。

仮に到達主義の原則に従うと、保険金受取人変更の意思表示をした直後に被保険者が死亡した場合には、通知が保険者に到達しても、保険受取人変更の意思表示が保険者に到達する前に保険事故が発生してしまっているため、保険金受取人の変更が認められず、不都合です。

また、仮に発信主義をそのまま採用すると、保険者が、保険金受取人が変更されたことを知らないまま保険給付をしなければならない自体が生じかねず、問題があります。

そこで、保険者への到達を条件に発信時から効力が生じるとされました。

このように、保険契約者の意思表示が保険者に到達した場合には、意思表示の発信時に保険金受取人の変更の効力が発生します。そのため、いつ意思表示が発信されたかによって保険金受取人の変更の効力発生時期が左右されます
例えば、保険契約者が保険募集人に保険受取人の変更を記した書面を手渡しした場合については、保険募集人に手渡しした時点で発信したと言えると考えられます。
他方、保険契約者が新保険金受取人予定者に保険金受取人変更を記載した書面の発送を依頼して渡した場合には、まだ意思表示は発信されていないと解されます。そのため、保険事故発生後に新保険金受取人が保険者に当該書面を手渡しした場合には、既に保険事故発生しているため新保険金受取人は保険金受取人の地位を取得することはできません

保険金受取人変更における問題点

保険契約者の相続人による保険金受取人の変更

保険金受取人の変更は、保険事故の発生まで可能ですが、保険契約者と被保険者が別人である場合、保険事故の発生の前に保険契約者が死亡してしまう場合があります。その場合、保険契約者の相続人が保険契約者の地位を相続し、保険金受取人変更権を継承し、行使することができます

平成20年改正前商法では・・・

改正前商法675条2項では、保険契約者が保険金受取人を変更しないまま死亡した場合、保険金受取人の権利が確定し、保険契約者の相続人も保険金受取人を変更することはできないとされていました。しかし、相続人は、保険事故発生まで保険料を支払うことになり、また、解約返戻金を取得することもできる立場でもある等の事情を考えると、相続人に保険金受取人変更権を与えないことは不合理とも言えます。

そのため、約款では、保険契約者が死亡した後でも、相続人(又はその他承継人)が保険金受取人の指定変更権を行使できると定めるのが通例でした。そして、保険法は、改正前商法675条2項に替わる規程を定めていません。

利益相反

保険契約者及び保険金受取人が会社である場合、保険受取人を当該会社の取締役に変更するのは、利益相反取引に該当するため、取締役会の承認が必要と解されており、注意が必要です。

保険契約者の債権者との関係

保険契約者兼保険受取人である債務者が無資力状態に陥った後、保険金受取人を自己から他人に変更する場合、債権者による詐害行為取消権(民法424条)の行使はできるのでしょうか。


この点、裁判例や多数説は、保険金受取人変更の取消しを認めています。保険金受取人変更の取消しがされた場合、旧保険金受取人である保険契約者が保険金受取人としての地位を回復し、債権者は旧保険金受取人の保険金請求権を直接行使することになります。

保険金受取人変更権の制限・排除

保険契約者の保険金受取人変更権について、保険法43条1項は「保険契約者は、保険事故が発生するまでは、保険金受取人の変更をすることができる。」としていますが、生命保険契約の当事者間の約定により、保険金受取人変更権の制限や排除もできます


保険金受取人変更権を排除するケースとしては、保険期間が短い場合や、約款で保険金受取人を被保険者の相続人と定めているケースなどがあります。また、制限するケースとしては、保険者の同意が必要とするようなケースがあります。

遺言による保険金受取人変更

遺言による保険金受取人の変更の可否

遺言によって保険金受取人の変更をすることができます(保険法44条1項)。

遺言による変更が保険者に対する意思表示を原則とする保険法43条2項の例外として認められたのは、保険契約者が、周囲に知られないよう遺言で保険金受取人変更をしたいというような必要性が想定され、また、遺言は民法の定める方式に従うことを要件に有効性が認められるものであることから法的確実性が高いものだからです。

遺言の効力との関係

保険金受取人変更が記載された遺言が、民法の定める方式と合致せず遺言としての効力がない場合、保険金受取人変更の効力はどうなるのでしょうか。


この点、保険法44条1項は、「保険金受取人の変更は、遺言によっても、することができる」としているので、遺言の効力が認められない場合には、保険金受取人変更も認められません
なお、複数の遺言がある場合には、新たな遺言に記載された保険金受取人が保険金受取人となります(民法1022条~民法1027条)。

また、保険契約者が、保険金受取人を変更する遺言作成後、別の保険金受取人変更の通知を保険者に対してした場合には、遺言ではなく、保険者に対する保険金受取人変更の意思表示が有効となります(民法1023条2項)。

遺言による変更についての通知

遺言による保険金受取人の変更があった場合、保険契約者の相続人は、これを保険者に通知しなければ、保険金受取人の変更があったことを保険者に対抗することができません(保険法44条2項)。つまり、保険契約者の相続人は、保険者に対して、遺言による保険金受取人の変更を通知しなければ、保険者がもとの保険金受取人に対して保険金を支払っても文句を言えないのです。これは、保険者が二重払いをしなければならなくなる危険を防ぐ趣旨であるため、相続人のうちの一人からの通知で足ります。また、遺言執行者がいる場合には、遺言執行者から通知をすることも可能と考えられています(民法1010条、1012条1項)。

なお、遺言の効力や保険金受取人変更の有効性について争いがある場合、保険者は保険金を供託することもできます(民法494条2項)。

被保険者の同意

他人を被保険者とする死亡保険契約の保険金受取人を変更する場合には、被保険者の同意が必要とされていますので注意が必要です(保険法45条、商法677条2項、同674条1項)。

これは、生命保険契約を悪用されたり、濫用されることがないようにするためです。そのため、被保険者が、保険金受取人の変更に同意しない場合、保険金受取人変更は効力が生じず、もとの保険金受取人のままとなります。


このように、被保険者の同意が必要であるのは、遺言によって、他人を被保険者とする死亡保険契約の保険金受取人変更する場合も同様です。

保険事故発生前の保険金受取人の死亡

保険金受取人が、保険事故発生前に死亡した場合、その保険金受取人の相続人全員が保険金受取人になります(保険法46条)。この場合、各相続人の保険金請求権の割合は、人数に応じて平等の割合となると解されています。

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