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【自殺免責】被保険者が自殺した場合、保険金は受け取れるの?

給付金の種類、補償内容 生命保険
投稿日:2023年06月08日 | 
最終更新日:2023年07月03日

「弁護士コラム」では、生命保険・火災/地震保険に関連するさまざまな情報をUPしておりますが、直法律事務所では、「保険金の不払い」(火災保険に関しては、「火災」を原因とする事故)に限りお問い合わせをお受けしています。何卒ご了承ください。

最近の報道で、自殺が社会問題となっていることがしばしば伝えられています。そのような中、保険に関連した質問として「被保険者が自殺した場合、保険金は受け取れるのか?」という疑問が浮上することがあります。この記事では、弁護士の視点から、この問題について分かりやすく解説します。

はじめに

自殺免責は、生命保険契約における免責事由の一最近の報道で、自殺が社会問題となっていることがしばしば伝えられています。そのような中、保険に関連した質問として「被保険者が自殺した場合、保険金は受け取れるのか?」という疑問が浮上することがあります。

この記事では、弁護士の視点から、この問題について分かりやすく解説します。

自殺免責は、生命保険契約における免責事由の一つで、被保険者が自殺した場合、保険金の支払いを免責する特約です実際の保険契約では、保険契約が成立してから一定期間(通常、1年から3年)が経過するまでの間、被保険者が自殺によって死亡した場合には、保険金が支払われないとする「自殺免責期間」が規定されています。この自殺免責期間が経過した後に被保険者が自殺した場合、保険金の支払いが認められることが一般的です。

なお、自殺免責が適用されない場合でも、他の免責事由に該当する場合は免責されることもありますので注意が必要です。

以下では、生命保険金と自殺免責に関して解説します。

自殺による保険金の支払いの基本原則

自殺免責は、生命保険契約における免責事由の一つで、被保険者が自殺した場合、保険金の支払いを免責する特約です。

免責事由とは、保険事故(死亡保険の場合には被保険者の死亡)が発生した場合に生じる保険者(保険会社)の保険金支払義務を免れることができる事由をいいます。死亡保険における被保険者が死亡した場合でも、この免責事由に該当するときには、給付金や保険金を受け取ることはできません。

自殺による保険金の支払いは、一般的には免責事由とされています。

自殺が免責事由とされている理由は、一般に、被保険者が自殺をすることにより故意に保険事故(被保険者の死亡)を発生させることは、生命保険契約上要請される信義誠実の原則に反し、また、そのような場合に保険金が支払われるとすれば、生命保険契約が不当な目的に利用される可能性が生ずるから、これを防止する必要があるという公益の見地から説明されます。

自殺免責の立証

自殺免責の適用に関しては、保険者(保険会社)が自殺であることを立証する責任があります。

自殺免責が適用されるかどうかを判断するには、被保険者の故意や認識が重要な要素であり、被保険者が死亡することを認識し、それを受け入れる意思が必要となります。単なる自傷行為の故意があったとしても、自殺免責が適用されるとは限りません。

死亡の状況によっては、自殺であったかどうかの認定が難しいこともありますが、様々な間接証拠から自殺であったことが認定されることもあります。これは、他の故意免責と同様の考え方です。

要するに、保険金請求において「自殺」とみなされるかどうかは、被保険者の故意や認識、死亡の状況や証拠、そして特段の事情があるかどうかなど、多くの要素が考慮されることになります。これらの要素によって、自殺免責が適用されるか否かが判断されることになります。

なお、嘱託殺人(他人に自分を殺してもらう行為)も一般的には自殺に当たるとされています

保険契約における「自殺免責期間」

実際の保険契約には「自殺免責期間」と呼ばれる条項が設けられていることが一般的です。

この期間は、保険契約が成立してから一定期間(通常、1年から3年)が経過するまでの間に、被保険者が自殺によって死亡した場合には、保険金が支払われないことを規定しています。

自殺免責期間経過後の保険金支払い

自殺免責期間が経過した後に被保険者が自殺した場合、通常、免責とならず、保険金の支払いが認められることが一般的です。

この点、自殺免責期間経過後の自殺であっても保険金取得を主な目的とする自殺については免責となるとする下級審裁判例も存在しましたが、最判平成16年3月25日は、自殺免責期間を経過した後の自殺について、「自殺に関し犯罪行為等が介在し、当該自殺による死亡保険金の支払を認めることが公序良俗に違反するおそれがあるなどの特段の事情がある場合は格別、そのような事情が認められない場合には、当該自殺の動機、目的が保険金の取得にあることが認められるときであっても、免責の対象とはしない旨の約定と解するのが相当である」としました。

では、「特段の事情」があるとして自殺免責期間経過後の自殺でも免責されるのは、どのような場合なのでしょうか?

前述の判例では、被保険者の自殺に関し犯罪行為等が介在し、当該自殺による死亡保険金の支払を認めることが公序良俗に違反するおそれがあるなどの場合が挙げられています。

実際の裁判例でも、犯罪行為に類するような違法性の高い行為によって被保険者の自殺を保険金受取人と密接な関係のある者が誘発させたような事例(東京高判平成17年1月31日生判17・95、原審:東京地判平成16年9月6日判タ1167・263)や、負債の弁済資金を得るために、被保険者が長男に幇助させて、無関係な第三者の運転する自動車に飛び出すという方法により自殺したような事案(京都地判平成17年7月11日生判17・579)について、「特段の事情」が認められました。

では、自殺免責期間が経過した後に嘱託殺人によって死亡した場合はどうでしょうか

通常、保険者は免責とならないとされます。ただし、嘱託殺人は他人を犯罪に巻き込む行為であり、保険給付が公益上問題ある場合、免責期間経過後の自殺については、保険者の免責が認められるとする裁判例が存在します。これは、最高裁平成16年3月25日判決で述べられた「特段の事情」に該当すると考えられます。

このように特段の事情が認められた場合、保険会社は自殺免責期間経過後であっても保険金の支払いを拒否することができます。ただし、これらの事情が認められるかどうかは個々の事案によって異なりますので、具体的な判断は専門家や保険会社と相談することが重要です

精神障害等による自殺と保険金支払い

被保険者が精神障害等により自由な意思決定をすることができない状態で自殺した場合、保険金支払いが認められることがあります。

この場合、保険者(保険会社)は自殺であることの立証責任を負い、他方で、保険金請求者が精神障害による自殺であることの立証責任を負います

近年、うつ病などの精神疾患を患った被保険者の自殺が、精神障害中の自殺として保険金の支払いが争われることが多くなっています。

このような事例において、裁判所の判断要素として以下の4つの要素を総合的に考慮して判断されることが一般的です。

  • うつ病発症前の被保険者の本来の性格・人格
  • 自殺行為に至るまでの被保険者の言動および精神状態
  • 自殺行為の態様
  • 他の動機の可能性等の事情

これらの要素を踏まえて、うつ病等の精神障害が被保険者の自由な意思決定能力を喪失または著しく減弱させた結果、自殺行為に至ったと認められるかどうかが判断されます。

また、保険金請求者側からは、労災保険における行政解釈を参照すべきと主張されることがあります。労災保険制度では、業務上の死亡等の災害に対して保険給付が行われますが、労働者が故意に死亡等を引き起こす場合は保険給付が行われません。

しかし、平成元年の行政通達により、業務上の負荷が原因でうつ病などの精神障害を発症し、その結果自殺した場合、故意による死亡とは認められず、保険給付が認められる事例が増加しているのです。しかし、これまでの裁判例によれば、生命保険契約と労災保険の判断基準や要件は異なるため、労災保険の判断基準は生命保険契約に妥当しないとしています。

まとめ

被保険者が自殺した場合に、保険金が支払われるか否かは、契約内容や経過した期間によって異なります。自殺免責期間が設けられている保険契約では、その期間が経過した後に被保険者が自殺した場合には、保険金の支払いが認められることが一般的です。

しかし、自殺に関し犯罪行為等が介在し、当該自殺による死亡保険金の支払を認めることが公序良俗に違反するおそれがあるなどの特段の事情がある場合には、保険金の支払いが認められないこともあります。

また、精神障害等により自由な意思決定ができない状態での自殺については、保険金の支払いが認められることがありますが、保険金請求者は精神障害等により自由な意思決定ができない状態であったことの立証責任を負います。

結論として、被保険者が自殺した場合の保険金の支払いがあるか否かは、保険契約の詳細や状況によって判断が異なります。保険金が支払われるのかについて懸念がある場合には、保険契約書を確認し、必要に応じて弁護士などの専門家に相談することが重要です。これにより、適切な手続きが行われ、被保険者の遺族が適切な保障を受けることができるでしょう。

【生命保険契約が失効後、復活した場合の自殺免責条項について】

生命保険契約では、保険料が猶予期間内に未払いで失効することがありますが、一定期間内(通常3年程度)に復活請求が可能です。

ただし、復活は無条件ではなく、保険者(保険会社)が、契約者の健康状態や職業などを再度評価した上で、復活を決定するため、被保険者の健康状態が悪化している場合等は復活が認められません。また、復活が認められた場合でも、自殺免責期間は再び適用されます。

復活時に自殺免責条項が適用されることについて、復活時の自殺免責の再開が保険契約者の権利を不当に制限するという批判もありますが、裁判例は、生命保険契約が不当な目的に利用されることを防止するためのものとして合理性を認めています。
以下、参考となる裁判例を挙げます。①は、復活時の自殺免責について社会的合理性があると認められた事例です。また、②は、復活時に自殺免責条項が適用されることについて説明義務を怠ったとはいえないと判示された事例です。

【参考判例】

  1. 120年間継続した生命保険契約が失効し、2か月後に復活が認められ、その半年後に自殺した事案において、復活時の自殺免責は、自殺目的による復活請求を許さないことにあり、社会的合理性があり公序良俗に反するものではないとして、自殺免責を認めた事例(東京高判平12・3・27生保判例集12・233)
  2. 2復活時にも自殺免責条項が適用されることにつき、保険契約者に対する説明義務を怠ったとはいえないとされた事例(仙台高判平18・11・17生保判例集18・756)

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