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契約書の通知条項とは?通知義務・みなし到達条項・電子メール対応など実務ポイントを解説

Q
契約書に「通知は書面で行い、到達した時に効力が生じる」とありますが、通知が相手に届かなかった場合でも効力が生じることがあるのですか?電子メールでの通知は有効でしょうか?

A
契約条項で「みなし到達」条項を設けている場合には、相手が通知先の変更を怠ったなどの事情により通知が実際には届かなかったとしても、通常到達すべき時に到達したものとみなされ、通知の効力が生じるとされることがあります。
ただし、債権譲渡など一部の法定通知では、実際の到達が必要とされるケースもあるため、通知の対象や手段に応じた慎重な設計が求められます。

なお、電子メールは近年一般化しつつあるものの、到達確認の難しさやサーバートラブル等のリスクがあるため、契約実務では他の手段と併用するか、通知方法から除外するケースもあります。

契約書における「通知条項」は、契約当事者間の連絡を円滑かつ確実に行うために極めて重要な一般条項です。通知方法や宛先が明確でないと、意思表示や通知の効力発生時期をめぐる紛争が生じやすく、場合によっては解除通知やクレーム対応の正当性が争われる恐れもあります。


本記事では、通知条項を「通知方法・通知先・効力発生時期の定め(形式面)」と、「一定の事由が発生した際の通知義務の定め(実質面)」に分けて整理し、実務上の典型例、みなし到達規定の有効性と限界、電子メールによる通知の扱いなど、法務担当者が契約リスクを防ぐために押さえておくべきポイントを解説します。


澤田直彦

監修弁護士 : 澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、「契約書の通知条項とは?通知義務・みなし到達条項・電子メール対応など実務ポイント」について、詳しくご説明します。

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はじめに

通知条項とは何か

契約書における「通知条項」とは、契約当事者間で交わされる通知や意思表示について、その方法や手段・通知先・通知の効力が発生するタイミング等を定めた条項の総称です。通知条項の目的は、当事者間での情報伝達を円滑にし、通知の有効性や到達の有無をめぐるトラブルを予防することにあります。

通知は、契約の解除・変更・更新・違反の是正要請、その他の重大な契約上の措置を講じる場面で不可欠な行為です。しかし、通知方法や送付先が契約書に明記されていないと、そもそも通知が有効に成立したのかについて紛争となる可能性があります。このような事態を防ぐために、通知条項は契約書において重要な役割を果たします。

契約実務における通知条項の重要性

契約実務の現場において、通知条項の有無や設計の巧拙は、契約履行や終了の場面でのリスク管理に直結します。例えば、相手方に債務不履行が生じた場合に契約を解除するには「通知による催告」が必要なことがありますが、その通知が適切に到達していないと、解除の効力が発生しない恐れがあります。

また、継続的な取引関係において、相手方の経営状況や組織変更、信用不安などの事由を早期に把握することは、債権保全や契約の見直しを検討するうえで極めて重要です。そのため、一定の事由が発生した際に、相手方に通知義務を課す条項(通知義務条項)も、実務上は多用されています。

さらに、通知が到達しなかった場合に「みなし到達」とする条項を設けておけば、故意や過失による不達・延着を防ぎ、当事者の権利義務を確定させやすくなります。このように通知条項は、契約の安定的な運用とリスクマネジメントの観点から、不可欠な条項の一つといえます。

通知条項の分類 (通知方法条項 vs 通知義務条項)

契約書における通知条項は、大きく次の2つに分類されます。

  1. 通知方法条項
    「通知の手段」や「通知先」「到達時期」等を定める条項であり、例えば「書面による通知」「配達証明付き郵便または電子メールによって通知を行う」「通知は送付後●日をもって到達したものとみなす」といった規定が典型例です。
    主に通知の有効性の判断基準を事前に明確化し、紛争を防止する目的があります。
  2. 通知義務条項
    一定の事由が発生した場合に、当事者が相手方に通知しなければならない義務を課す条項であり、例えば「代表者、本店所在地、株主構成、支配権の変更が生じた場合には、●日以内に通知するものとする」といった規定が代表的です。
    これは契約期間中の信用状態の監視や契約関係の見直し機会の確保を目的とします。

これらの通知条項は、契約の性質や取引のリスク特性に応じて適切に設計される必要があり、契約書のレビュー・ドラフト段階で見落としてはならない重要ポイントです。

通知方法条項の基本構造とドラフトのポイント

契約書において「通知方法条項」は、当事者間の通知・連絡が確実かつ適法に行われることを担保し、後日の紛争を予防する上で極めて重要な役割を果たします。

本章では、通知方法条項の基本的な構成要素と、条項設計における実務上の留意点について解説します。

通知手段の明示

通知方法条項では、通知の手段をあらかじめ明確にしておくことが不可欠です。民法上、意思表示の通知方法は特段の制限がないため口頭も理論上は可能ですが、後日紛争となった際に「通知がなされたか否か」が争点になりやすいため、書面等の客観的手段が原則とされます。

実務上多く用いられる手段は以下のとおりです。

  • 書面による手交
  • 配達証明付き郵便または内容証明郵便
  • ファクシミリ送信
  • 電子メール送信

これらの手段を明示し、「いずれかの方法により通知を行う」としておくことで、一定の柔軟性を保ちつつも、確実性の高い手段に限定できます。

到達時点の定義とその法的意義 (到達主義 vs 到達みなし条項)

日本法(民法97条1項)は「到達主義」を原則とし、通知等の意思表示は相手方に到達した時点で効力を生じるとされています。ただし、契約実務では、相手方が故意に受領を拒んだり、住所変更の届け出を怠った結果として通知が不達となるなど、到達の証明が困難となるリスクがあります。

そこで活用されるのが「みなし到達条項」です。これは、通知が通常到達すべきタイミングを過ぎれば「到達したものとみなす」と定める条項で、以下のような記載が典型です。

【記載例】
「通知は、配達証明付き郵便の場合には発送日の翌々日、電子メールによる場合には送信日の翌日をもって到達したものとみなす。」

このような条項を設けることで、意思表示の到達をめぐる不確実性を減らし、契約当事者間の権利義務の発生を明確化できます。

ただし、みなし到達の有効性が第三者(例:債権譲渡通知の債務者)には及ばないことや、民法上の強行規定との関係には留意が必要です 。

通知先の指定と変更義務

通知方法条項には、通知を送付すべき住所・宛名等の「通知先」を明記するのが原則です。企業間契約では、法人名、部署名、担当者名まで特定することで、通知の誤送・遅延を防ぐ効果があります。

また、通知先が変更された場合には、変更後の通知先を相手方に書面で通知する義務を課す文言も重要です。これにより、旧住所宛の通知が延着・不達となった際のリスクを、変更通知を怠った側に帰属させることができます。

【記載例】
「当事者は、通知先に変更が生じた場合、遅滞なく書面により相手方に通知しなければならない。かかる通知を怠った結果、通知が延着または到達しなかった場合でも、通常到達すべき時に到達したものとみなす。」

電子メール通知の可否とそのリスク

昨今では電子メールを通知手段に含めるケースも増えていますが、一方でリスクもあるため対応策を検討すべきです。

▸ リスク : 誤送信 ・ スパムフォルダ入り ・ サーバーダウン等による不達
▸ 対策 : メールアドレスの指定 ・ 送信ログや開封確認の保存 ・ 受領確認義務条項の追加など

また、M&A契約等の重要契約においては、確実性の観点から電子メールを通知方法に含めないケースも多く存在します。通知手段に電子メールを採用するかどうかは、契約の重要性と相手方との信頼関係を踏まえて判断する必要があります。

実務上の文例と文言例

以下に、通知方法条項の実務的な文例を示します。

【記載例】
(通知方法)
第〇条 本契約に基づきまたは本契約に関連してなされる通知その他の連絡(以下「通知等」という)は、書面により、以下のいずれかの方法により行うものとし、その効力は、通知が相手方に到達した時点で発生する。
① 手交による送付
② 配達証明付き郵便または内容証明郵便による送付
③ 事前に合意されたメールアドレス宛の電子メール送信
ただし、通知が上記①〜③のいずれかの方法により送付され、かつ通常到達すべき時に到達しなかったときでも、当該方法に従って通知が行われたときは、当該通知は通常到達すべき時に到達したものとみなす。

(通知先の指定および変更)
第〇条 当事者は、以下の通知先に通知を行うものとし、通知先に変更が生じた場合には、遅滞なく書面により相手方に通知しなければならない。

このように、通知方法条項はシンプルながらも、リスクの所在を明確にし、契約の実効性を高めるための設計が求められます。

通知義務条項の意義と実務例

通知義務を定める目的

契約当事者の一方に、一定の重要な事由が発生した場合に、他方当事者への通知義務を課す条項が「通知義務条項」です。

これを設ける主な目的は、以下のとおりです。

  1. 信用状態の変化の早期把握
    債務超過 ・ 倒産 ・ 訴訟提起など信用に関わる事由が発生した場合に、相手方としては取引の継続 ・ 変更 ・ 終了の判断を早期に行う必要があります。
  2. 契約関係継続の可否判断
    例えば、相手方が競合企業の傘下に入ったり、経営権が第三者に移転した場合、契約を継続することが経済的 ・ 戦略的に妥当であるかを再検討する必要があります。
  3. トラブルの予防と事後対処の迅速化
    重大事由を早期に把握していれば、契約の解除 ・ 債権保全 ・ 代替調達などの対応を迅速に進めることができます。

通知義務の対象事由

通知義務条項では、どのような事由が発生した場合に通知義務が生じるか(=通知事由)を具体的に明記する必要があります。

典型的な例は以下のとおりです。

  • 会社の基本情報の変更
    ・ 本店所在地 ・ 商号 ・ 代表者の変更
    ・ 資本金の減少
  • 組織再編・資本構成の変化
    ・ 合併 ・ 会社分割 ・ 株式交換や株式移転
    ・ 事業譲渡 (全部または重要な一部)
    ・ 株主構成の変更 (議決権の3分の1または過半数の取得・喪失など)
  • 信用に関わる事由
    ・ 破産 ・ 民事再生 ・ 会社更生 ・ 特別清算などの申立て
    ・ 主要な事業許認可の取消 ・ 停止
    ・ 訴訟の提起や行政処分
  • バスケット条項
    「その他、本契約の履行に重大な影響を及ぼす恐れのある事由が生じたとき」など、包括的にカバーする文言も併せて定められることがあります。

Change of Control (COC) 条項との関係

通知義務条項と密接に関係するものに、「Change of Control(COC)条項」があります。これは、契約当事者の経営支配権(コントロール)が第三者に移転した場合に、契約解除権を発動できる旨を定める条項です。

COC条項を有効に機能させるには、支配権の変更に関する通知義務を併せて定めることが前提となります。通知がなければ、相手方は支配権の変動を把握できず、解除のタイミングを逸してしまう恐れがあるためです。

例えば、以下のように通知義務条項の一部に含めることがあります。

【記載例】
「会社の支配権の変更(例:議決権の過半数を占める株主の交代)があった場合には、事前に書面にて通知しなければならない。」

一方義務型と双方義務型の比較

通知義務条項には、主に以下の2類型があります。

  1. 一方義務型 : 一方当事者のみに通知義務を課すもの
    取引基本契約やOEM契約などで、買主や発注者が自らドラフトする場合に多く見られる形式です。
  2. 双方義務型 : 両当事者に同様の通知義務を課すもの
    業務提携契約やM&Aに関連する契約など、対等な立場での取引契約で多用されます。

実務上は、契約の力関係やリスク配分のバランスを踏まえて、どちらの型を採用するかを決定します。
特に上場会社などが通知義務を課される場合、インサイダー取引規制との関係に注意を要するため、通知のタイミング(事前/事後)や方法に配慮が求められます。

実務で使える通知義務条項のサンプル

以下は実務でよく使用される通知義務条項の例です。

【記載例】
(通知義務条項)
第○条 甲および乙は、次の各号のいずれかに該当する事由が発生した場合には、遅滞なく相手方に対して書面で通知しなければならない。
1 商号、本店所在地または代表者の変更
2 合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡その他の組織再編行為
3 株主構成の変更により議決権の過半数が新たな株主に移転する場合
4 民事再生手続、破産手続、会社更生手続、特別清算手続の申立て
5 その他、本契約の履行に重大な影響を及ぼす事由

この条項は必要に応じて一方当事者のみに限定したり、通知時期を「発生後すみやかに」「事前に」などと調整することも可能です。

澤田直彦

通知義務条項は、契約当事者間の信頼関係を維持し、リスクの早期察知と対応を実現するための基本ツールです。

通知事由の選定や文言の精緻化は、契約の性質や取引リスクに応じて慎重に設計することが求められます。

通知条項に関連するリスクとトラブル事例

通知条項は契約の安定的履行や紛争予防に資する一方で、条項の設計や運用次第では重大なリスクを生じさせることもあります。

本章では、通知条項に関連する代表的なトラブル事例と、そこから得られる実務上の教訓を紹介します。

通知義務違反と解除条項 ・ 損害賠償との関係

通知義務条項に違反した場合、それが契約解除や損害賠償請求の根拠となりうるかは、契約条項の文言や通知義務違反の性質・重大性によって判断されます。

例えば、支配権の移転や破産申立て等の重大事由について通知がなされず、これにより他方当事者が契約解除の機会を逸した場合には、信義則違反や不法行為に基づく損害賠償が認められる可能性があります。

さらに、通知義務違反を「解除事由」として明示した条項がある場合には、通知しなかったこと自体が解除権の発動原因となるため、契約者側にとっては重大な契約違反に該当します。

通知先未変更による延着 ・ 不達のリスク

通知方法条項には、通常「通知先の変更があった場合には、相手方に対して書面で通知すること」といった規定が置かれます。

しかし、当事者がこの義務を履行しなかった場合、通知が旧住所などへ送付され、延着・不達となる事例が散見されます。このようなケースでは、義務を履行しなかった当事者側に過失が認められ、「通常到達すべき時に到達したものとみなす」とする「みなし到達条項」が有効に機能する余地があります。

実際に、東京高判昭和60年8月28日では、通知先の変更義務を怠った当事者に対して、みなし到達条項が適用され、通知の効力が認められました。

とはいえ、実務では通知先が頻繁に変わるベンチャー企業や海外拠点との契約において、通知先変更の実務的運用が滞る例も多いため、通知先変更の具体的手続(例:○日以内に変更届を出す等)を契約書に明示することが重要です。

「みなし到達条項」の有効性

「みなし到達条項」は、通知が実際には到達していなくとも、一定の条件下で到達したものとみなすとする定めであり、特に債権者側に有利に働きます。判例上も一定の範囲で有効性が認められています(東京地判平成15年2月18日など)。しかし、すべての通知に対してみなし到達が認められるわけではなく、限界があることにも注意が必要です。

また、条項が曖昧で「通常到達すべき時」が明確でない場合、運用が難航することもあります。そのため、通知手段ごとに「到達したとみなす具体的日数(例:郵送なら発送の2日後)」を明示することが実務上有効です。

したがって、これらの通知については「みなし到達条項」の適用範囲外と認識しておく必要があり、必ず到達を立証できる手段(配達証明付き郵便・内容証明郵便など)を用いるべきです。

まとめ

通知条項は、契約の安定運用に資する一方、条項設計や運用次第ではトラブルの原因ともなり得ます。

特に以下の点は、実務上のチェックポイントとして押さえるべきです。

  • 通知義務違反と解除 ・ 損害賠償との関係性の明示
  • 通知先の明確化と変更義務の明文化
  • みなし到達条項の効果範囲の正確な理解
  • 債権譲渡や相殺等の特殊通知との切り分け
  • 消費者契約や約款での規制リスクの考慮

通知条項は「軽視されがちな条項」ではありますが、実際には紛争の発火点になりやすい項目でもあるため、他条項と整合性のある精緻な設計が求められます。

裁判例に見る通知条項の効力判断

通知条項は契約書上の形式的な条項に見えることもありますが、実際の紛争においてはその効力の有無や到達の認定が重要な争点となることが少なくありません。

本章では、通知条項の有効性・限界に関する主要裁判例を紹介し、実務上のリスクと対応策を考察します。

有効性を肯定した判例の整理 (例:東京高判昭和60年8月28日)

通知条項の有効性を肯定した代表的な判例として、東京高等裁判所昭和60年8月28日判決(東高民時報36巻8・9号158頁)が挙げられます。

本件では、信用金庫との取引約定書に「住所等に変更があった場合は速やかに書面で届け出ること」「変更通知を怠ったために通知が延着または不達となった場合には、通常到達すべき時に到達したものとみなす」とする条項がありました。信用金庫がこのみなし到達規定に基づき手続きを進めたことについて、裁判所は「当事者間の合意による到達時点の明確化は有効である」と判断し、通知条項の効力を認めました。

この判決は、以下の実務的な教訓を示します。

  • 民法97条は任意規定であり、当事者間での到達の定めは合意により変更可能である。
  • 到達時点の認定に関する不確実性を回避するため、みなし到達条項は法的にも有効な手段となり得る。

到達が争点となった事例と裁判所の判断 (例:東京高判平成27年3月24日)

通知の「到達」が争点となった代表例が、東京高等裁判所平成27年3月24日判決(判時2298号47頁)です。

本件は、金銭消費貸借契約における債権譲渡通知について、通知条項で「変更届出を怠った場合でも通常到達すべき時に到達したものとみなす」とされていたにもかかわらず、裁判所は通知の到達を否定し、債権譲渡の対抗要件を満たさないと判断しました。

裁判所の論理は次のとおりです。

  1. 債権譲渡に関する民法467条1項は、債務者に対する通知の「実際の到達」を対抗要件として要求する。
  2. よって、たとえ当事者間でみなし到達を定めていても、債務者が通知を現実に受け取っていない以上、第三者に対する対抗要件を満たすとはいえない。

この判決は、通知条項の効力には通知の目的に応じた限界があることを明確に示しています。特に第三者対抗要件が関わる通知(債権譲渡・相殺通知など)については、実際の到達を立証できる手段(配達証明付き郵便・内容証明郵便など)を選択する必要があります。

信義則違反 ・ 権利濫用と評価されたケースの紹介

通知の形式的欠落を理由として契約上の権利を行使することが、信義則違反または権利濫用と評価された事例も存在します。

例えば、契約当事者が実際には通知内容を知っていたにもかかわらず、通知方法や宛先が形式的に契約上の定めと異なることのみを理由に通知の効力を否定しようとした場合、裁判所は次のように判断する傾向があります。

  • 「通知が契約に定められた方法ではなかったとしても、実際に内容を認識していたならば、その通知の効力を一律に否定するのは信義則に反する」(東京地判平成15年2月18日ほか)。
  • 形式的な欠陥を理由に通知を無効とする主張が、「形式に乗じた逃れの主張」と評価されれば、権利濫用として排斥される可能性がある。

このような判断は、通知条項の設計が厳格であることと、実際の運用に柔軟性が求められることの両面を併せ持つことを示しています。

裁判例を踏まえた実務上の教訓

通知条項の有効性と限界は、裁判例に照らして以下のように整理できます。

裁判例 概要 実務上の教訓
東京高判昭和60年8月28日 通知先未変更による延着でもみなし到達を有効と判断 みなし到達条項は当事者間で有効に働く
東京高判平成27年3月24日 債権譲渡通知は実際の到達が必要と判断 第三者対抗要件にはみなし到達は通用しない
複数の下級審判例
(例:東京地判平成15年2月18日)
通知方法の瑕疵があっても内容を知っていれば通知の効力を肯定 実態優先・形式主義の濫用排除の傾向

通知条項は、単なる事務的記載ではなく、紛争時の立証構造に深く関わる重要条項です。実務では、「到達の確実性」「条項の明確性」「リスクの所在」を意識して設計・運用することが不可欠です。

おわりに

通知条項は、契約の安定的履行とトラブル防止のために欠かせない基本条項の一つです。しかし、条項の不備や想定不足により、実際の通知が無効と判断されたり、リスクが顕在化する事例も多くあります。

本章では、契約書レビューの際に押さえておくべきチェックポイントや法務担当者へのアドバイスを整理します。

通知方法・通知先・通知時期ごとのチェックポイント

通知条項をレビュー・起案する際は、以下の観点から優先順位をつけて確認することが実務的です。

通知方法

▸ 書面・郵送・配達証明付き郵便・電子メール・FAXなどが明示されているか
▸ 到達の立証が可能な手段に限定されているか
▸ 電子メール使用を許容する場合、誤送信・未読リスクへの配慮 (送信記録・送信先限定・既読ログなど)

通知先

▸ 各当事者の通知先が「住所」「部署名」「担当者名」まで明記されているか
▸ 通知先変更時の義務が明文化されているか

(記載例 : 「変更があった場合、遅滞なく書面で通知する」)
▸ 通知先未変更による不達に関するリスク分配
(記載例 : 「変更通知がなされなかった場合でも、従前の通知先に送付された通知は有効とみなす」)

通知時期

▸ 通知の時点が「事前」「遅滞なく」「●日以内」等で具体的に定められているか
▸ 通知義務条項では、通知事由ごとに時期を区分する必要がないか

(記載例 : 「会社分割は事前、破産申立ては事後すみやかに」)

トラブルを避けるための文言上の工夫

通知条項は、形式的な定型句に見えながらも、言い回しひとつで実務リスクが変わります。

以下の工夫を意識しましょう。

  • 「到達したものとみなす」条項は具体的に通知手段と日数を明記する
    (記載例 : 「電子メールによる通知は、送信日の翌日に到達したものとみなす」)
  • 通知義務条項では「その他本契約の履行に重大な影響を与える事由」などのバスケット条項も併記して網羅性を確保
  • 形式的な瑕疵を理由に通知が無効とされないよう、「合理的に到達したと認められる場合」や「やむを得ない事情により通知手段を変更する場合」等の柔軟性を持たせる文言も有効
  • 通知と意思表示 (解除通知と催告通知) の法的性質の違いに配慮した用語の選別 (「通知」「通告」「請求」「催告」など)

条項全体としての整合性

通知条項は単独で存在するものではなく、他の条項と有機的に関連しています。

特に注意すべきなのは以下の連携関係です。通知条項が単に「定型的に置かれる」だけでなく、契約全体の論理構成と整合しているかを必ず検証しましょう。

解除条項との関係

・ 「解除する場合には事前に書面で通知すること」とされているか
・ 通知義務条項で定められた事由 (経営支配の変更等) と解除事由の内容が整合しているか

期限の利益喪失条項との関係

・ 債務者の一定の行為により通知によって期限の利益を喪失させる構成 (請求失期型) と、当然失期とする構成 (当然失期型) とで、通知条項との文言が矛盾していないか

損害賠償条項との関係

・ 通知義務違反が損害賠償請求のトリガーになる構成であれば、そのリンク条項を明確化しておく

法務担当者へのアドバイス

法務担当者が通知条項を適切に管理するためには、契約書上の条項整理だけでなく、社内実務体制との連携も不可欠です。

  • 契約締結時、通知先情報 (住所・部署・メールアドレスなど) を契約管理台帳に登録し、変更時の社内通知フローを整備する
  • 契約期間中も、相手方の通知義務違反がないか定期的なチェック (反社チェック ・ 登記変更など) を行う
  • 契約更新 ・ 解除 ・ 請求などの通知に関する社内手続チェックリストを整備する
  • 通知手段別のテンプレート ・ 配達証明郵便の保存要領 ・ 電子通知のログ管理などの通知手続マニュアルを整備する
  • 電子契約ツールを活用し、電子署名サービスや既読確認機能を備えた通知手段を採用する
  • 契約管理システム上で「通知義務あり」の契約をアラート表示するメタデータを整備する

契約書レビューに関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで

通知条項は「定型だから後回し」で済ませるにはあまりにも重要なリスク管理ポイントです。通知の有効性は契約の履行・解除・損害賠償といった重大な局面に直結し、その設計と運用が契約の成否を分けることもあります。

契約レビュー時には、通知手段・通知義務の明確性・みなし到達の有効性・関連条項との整合性を必ず確認し、さらに社内体制とも連動させて、契約の実効性とトラブル耐性を高めることが法務担当者に求められます。

直法律事務所においても、ご相談は随時受けつけておりますので、お困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。

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