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弁護士コラム
遺言執行者の報酬はいくら?決め方は?誰が払う?専門家に依頼した時の相場を弁護士が解説!
- 家族信託・遺言書作成
- 投稿日:2024年07月22日 |
最終更新日:2024年07月24日
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先日他界した父の遺言書を確認したところ、知人のAさんに遺言執行者を頼む旨の記載があったのですが、その報酬額については記載がありませんでした。
私たち遺族としては、Aさんにはお世話になっているため、報酬を渡したいと思っています。
この場合、遺言執行者の報酬額はどのように決定されるのでしょうか?また、報酬額に相場はありますか?
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遺言執行者の報酬が遺言で定められていない場合であっても、原則として遺言執行者は報酬の請求が可能です。遺言執行者は法律的・経済的な専門知識が必要であり、遺言執行に関する労力や日数が費やされるため、有償が妥当とされているためです。
一般的には遺言書に報酬額の記載があればそれに従うことになりますが、記載されていなければ遺言執行者と相続人の間で報酬額について合意を整える必要があります。
合意が整えばそれに従って報酬額が支払われることになりますが、合意にいたらなかった場合には家庭裁判所による報酬付与の審判によって報酬額が定められることになります。まずは報酬額について、遺言執行者であるAさんと話し合いをしてみるとよいでしょう。
もしAさんと合意にいたらなかった場合には、遺言執行者であるAさんから家庭裁判所に対して報酬付与の審判を申立てる必要があります。遺言執行者からの申立てを受けた家庭裁判所は、相続財産の価額やその状態、執行行為の難易などの事情を考慮した上で、その裁量にて報酬額の決定を行います。
報酬額の相場については遺言執行者が弁護士であるのか、遺言執行が困難であるのかなどで大きく変動するため、確たる回答は難しくなっています。
ここでは、遺言執行者の役割や報酬の決め方、支払いの方法、専門家に依頼した場合の相場などについて解説していきます。
目次
遺言執行者とは?
まずは遺言執行者について詳しく解説します。基本的な役割や具体的な業務内容などについて見てみましょう。
遺言執行者の基本的な役割
遺言執行者は、遺言者の最後の意思を確実に実行するために選ばれる人物であり、その役割は重要です。遺言者が自らの死後に財産をどのように分配するか、特定の遺産を誰にどのように渡すかなど、さまざまな項目を明確に指示した遺言書がその通りに実行されるよう、責任をもって実行し監督する役割を担っています。
遺言執行者の基本的な役割として、遺言書に記載された内容を忠実に実行することが挙げられます。財産目録の作成や預貯金の管理、不動産の登記名義に関する変更手続き、相続人への遺産分配などがその代表例です。
また、遺言執行者は遺産分割の調整役としての役割も担っています。遺言書に記載された内容に基づいて遺産を適切に分配し、遺言者の意思を実現する努力が必要です。この場合、相続人や受遺者(遺言によって財産を受け取る人々)との間で調整を行い、遺産分割に関するトラブルを未然に防ぐ役割も期待されます。
遺言執行者の具体的な業務内容
遺言執行者の業務内容は多岐にわたり、その範囲は遺言書の内容や遺産の種類・規模によって異なります。以下に、遺言執行者が通常行う具体的な業務について解説します。
就任通知書の作成・交付
遺言執行者に指定された場合、まずその任を引き受けるか否かを決定します。承諾する場合、就任通知書を作成して相続人に送付する必要があります。
相続財産の調査
次に必要になることは、被相続人の財産の詳細な調査です。相続財産には、預貯金や不動産などのプラスの財産だけではなく、負債や売掛金などのマイナスの財産も含まれます。相続が発生した場合、遺産の全容を明らかにすることは非常に重要であるため、徹底的な調査が必要です。
相続人の調査
財産の調査と並行して、誰が相続人となるのかを調査・確認します。相続人の確定が完了したら、その戸籍などの書類による確認も必要です。相続人の確認は遺産分配の基盤となるため、正確で詳細な調査が望まれます。
財産目録の作成と交付
財産と相続人の調査が完了した後、財産目録を作成します。財産目録とは被相続人の財産をリスト化したものであり、相続人に財産の内容を明示するために必要です。財産目録は遺言書の写しと共に相続人に交付されます。
遺言内容の実行
遺言書に記載された内容に従い、財産を相続人に引き渡します。これは遺言執行者のもっとも重要な役割のひとつであり、遺言者の意思を忠実に実現することが求められます。
業務完了後の報告
遺言書に記載されたすべての内容を実行し終えたら、遺言執行者はその任務の完了を相続人に報告します。この報告は文書でおこなわれ、全ての手続きが完了したことを正式に通知します。
遺言執行者の報酬の決め方
遺言執行者の報酬は、遺言執行者を引き受ける人が一般人であるか専門家であるかで違いが生じます。法的な基準や一般人・専門家それぞれの基準を見てみましょう。
法定の報酬基準
遺言執行者の報酬は、基本的には遺言書に記載されているか、相続人や受遺者との協議、または家庭裁判所による報酬付与の審判に基づいて決定されます。
法律上、遺言執行者の報酬は具体的な金額が明示されていません。これにより、遺言執行者と相続人との間で報酬の額を協議する必要が生じるケースもあります。
法律上の基準が明確でないため、実際には相続財産の規模や複雑さ、遺言執行者の役割の重要性などを考慮して報酬が決定されることがほとんどです。
ただし一般人が遺言執行者を引き受ける場合、専門家への依頼で必要な最低報酬額に準じて、約20~30万円が報酬として支払われるケースが見受けられるところです。
遺言書に記載されている場合
民法1018条1項は、遺言執行者の報酬に関し、「家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。」と規定しています。
そのため、遺言者がその遺言で遺言執行者の報酬を明記しておけば、遺言執行者が家庭裁判所に報酬付与の申立てをする必要も通常ありませんし、相続人・受遺者と遺言執行者との間で報酬をめぐっての争いが発生することを防止することができます。
ただし、遺言書に記載されている報酬の額が、実際の事務量と予想されていた事務量との相違が大きくなる等して、相場よりも大幅に高い場合や低い場合、相続人と遺言執行者の間で調整・合意が必要になることもなくもありません。しかし、一般的には遺言執行者に対する生前の恩顧に応えるために遺贈の趣旨で高額の報酬額を定めている場合もあるかと思われますので、減額請求が簡単に認められるわけではありません。
遺産の総額に基づく報酬の決定方法
遺言執行者が専門家だった場合の報酬は、遺産の総額に基づいて決定されることもあります。遺産の規模に応じて報酬を設定するため、公平で透明性が高く、合理的な方法です。
一般的には遺産の総額に対して一定の割合(パーセンテージ)を報酬として設定することが多く、約1~3%が相場となっているように思われます。
遺産の総額に基づく報酬の決定方法は、公平で透明性が高い一面がありますが、実際の報酬額は個別のケースによって異なるため、具体的な額を事前に確認することが重要です。
また、遺言執行者と相続人との間で合意が必要な場合もあるため、事前に十分な話し合いの機会を持つことも重要になるでしょう。
遺言執行者の報酬は誰が払うのか?
遺言執行者の報酬は遺産からの支払いが一般的です。ただし、遺言書に指定がある場合にはその限りではありません。ここでは、遺言執行者の報酬の支払い方について見てみましょう。
遺産からの支払い
遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とされており(民法1021条)、遺言執行に関する費用には遺言執行者の報酬も含まれますので、報酬は相続財産から支払われることになります。
そのため、遺言執行者はまず遺産の中から自らの報酬を差し引いておき、その残りの遺産を相続人に分配するのが一般的な流れです。また、差し引いた時点で報酬を受け取るのではなく、すべての業務が完了してから受け取ることになります。
遺産からの支払いの場合、遺言執行者の報酬について相続人全員の合意が得られていることがトラブル防止に役立つでしょう。遺産分割協議書などの書面を通じて明確にしておくことも重要です。
遺言書に指定がある場合
遺言書に遺言執行者の報酬についての具体的な指示がある場合、その内容に従って報酬が支払われます。報酬の額や支払い方法が明記されていれば、相続人はその指示に従って遺言執行者に報酬を支払わなくてはいけません。
たとえば、遺言書に「遺言執行者には遺産のうち○○万円を報酬として支払う」と明記されていたのであれば、その金額が優先される必要があります。また、「遺言執行者の報酬は遺産の5%とする」といった割合で示されている場合もあります。
専門家に依頼する場合の遺言執行者の報酬相場
遺言執行者として専門家に依頼する際の費用は、依頼する専門家の種類により異なります。ここでは、弁護士、司法書士、税理士、行政書士、金融機関などに遺言執行者を依頼した際の報酬相場について詳しく説明します。
弁護士に依頼する場合の相場
弁護士に遺言執行者を依頼する場合、その費用は比較的高額になります。弁護士の報酬は、相続財産の総額や業務の複雑さに応じて決定されるため、具体的な金額はケースバイケースですが、一般的には以下が相場(報酬として設定されることが多い)のように思われます。
【報酬】 相続財産の1~3% 【追加費用】 交通費など必要経費、戸籍謄本などの証明書手数料、その他の手続きに関する手数料、日当 |
遺言執行者を引き受ける専門家のうち、弁護士のみが家庭裁判所での調停や審判で代理人として相続人のサポートが可能になっています。他の士業よりも少々金額が高くなりますが、相続トラブルが予測できるのであれば、最初から弁護士へ依頼すると安心です。
司法書士に依頼する場合の相場
司法書士に依頼する場合、弁護士よりも報酬が低めになることが多いように思われます。一例として、司法書士の報酬は以下のように掲載されているものがあります。
【基本料金】 20万円~35万円程度 【報酬】 相続財産の1~2% 【追加費用】 交通費など必要経費、戸籍謄本などの証明書手数料、その他の手続きに関する手数料、日当 |
司法書士は不動産の登記など相続財産に関する手続きに精通しており、遺産に不動産が多く含まれる場合には特に頼れる存在になります。また、裁判所に提出する書類の作成サポートも可能です。
税理士に依頼する場合の相場
税理士に遺言執行者を依頼する場合も、司法書士と同様に、報酬は弁護士よりも比較的低めになることが多いように思われます。一例として、以下のように税理士に依頼する場合の費用が掲載されているものがあります。
【基本料金】 20万円~30万円程度 【報酬】 相続財産の1~2% 【追加費用】 交通費など必要経費、戸籍謄本などの証明書手数料、その他の手続きに関する手数料、日当 |
税理士は、相続税の申告が必要な場合にとくに強力なサポーターになります。遺産相続で相続税の発生が予測できるのであれば税理士に遺言執行者を依頼し、専門知識を活用することで適切な申告と納税が可能になります。
ただし、相続税の申告は遺言執行業務とは異なる取扱いとなることが多いので、遺言執行者となった税理士に相続税申告業務も依頼する場合には、別途の費用が発生することが多いです。
行政書士に依頼する場合の相場
行政書士に依頼する場合の報酬は、一例として以下のように掲載されているものがあります。
【基本料金】 10万円~20万円程度 【報酬】 相続財産の1% 【追加費用】 交通費など必要経費、戸籍謄本などの証明書手数料、その他の手続きに関する手数料、日当 |
行政書士は、車両登録やその他の財産に関する手続きが必要な場合に有用です。煩雑な手続きが多いと予想できるのであれば、行政書士に遺言執行者を依頼するのもよい方法でしょう。
金融機関に依頼する場合の相場
士業ではありませんが、信託銀行などの金融機関も遺言執行者としての業務が可能です。金融機関は遺言書の作成、保管、遺言執行など、包括的なサービスを提供しています。一例として、以下のように信託銀行などの金融機関の報酬が掲載されているものがあります。
【報酬相場】 相続財産の1~3% 【最低報酬額】 多くの金融機関では100万円以上 |
個人の専門家と異なり、金融機関には(法的に破産等のリスクはあるとしても)寿命はないので、金融機関に依頼することで、遺言者や相続人にとって安心できるサービスが受けられますが、報酬は士業へ依頼するよりも高額になることもあります。
遺産総額が大きい場合には金融機関への依頼も有益ですが、事前に保有資産や負債をよく確認しておくことをおすすめします。
報酬に関するトラブルを避けるためのポイント
報酬をめぐり、遺言執行者とトラブルになる可能性は残念ながら否定できません。ここでは、トラブルを避けるためには何に気をつけるべきか、実際にトラブルになった場合にはどうするべきかなどについて解説します。
明確な報酬基準の設定
遺言執行者の報酬に関するトラブルを避けるためには、最初に明確な報酬基準を設定すると効果的です。以下のポイントを考慮して報酬基準を設定しましょう。
具体的な金額の設定
遺言執行者の報酬額を具体的に定めておくことで、後々のトラブルを防ぐことができます。たとえば、遺産総額の何パーセントといった形で明示すると分かりやすく、透明性が確保されるでしょう。
追加費用の詳細
基本報酬以外に発生する可能性のある追加費用についても、詳細に記載しておきます。たとえば交通費や書類取得費用などが該当し、具体的な費目とその見積もりを示すことが重要です。
なお、法律上、遺言執行者が執行において必要な費用を立て替えた場合には償還請求をすることができます(民法1012③、650①)。
費用の前払い請求権はありませんが(民法1012③は民法649を準用していないため)、実務上は、相続人等から費用を預かり後に清算することが多いです。
透明性の確保
報酬基準を設定する際には、相続人全員に対して透明性を持って説明し、納得してもらうことが大切です。全員の同意を得てから執行に移るようにします。
専門家への依頼時の契約内容の確認
専門家に遺言執行者を依頼する場合、契約内容の確認は何よりも重要です。契約書には以下の内容を含めるようにしましょう。
報酬の内訳
基本報酬、追加費用、諸経費など、報酬の内訳を明確に記載します。どの業務に対してどの程度の報酬が発生するのかを具体的に示し、不透明な項目が出ないように注意しましょう。
支払い条件
報酬の支払い時期や方法を明示します。たとえば、業務完了後に一括払いなのか、業務進行に応じて分割払いなのかなどを確実に決めておきましょう。
なお、原則としては、遺言執行者に対する報酬は、遺言執行者としての事務が終了した後に請求されることになります(民法1018条2項,648条2項)。
契約解除条件
場合によっては遺言執行が遂行できない状況が生まれ、契約解除の事態になる可能性があります。契約を解除する際の条件や手続きを明記しておくと安心です。
追加業務の取り扱い
当初の契約に含まれていない追加業務が発生した場合の対応方法を記載します。想定外の費用の発生を防ぎやすくなるでしょう。
トラブルが発生した場合の対処法
報酬に関するトラブルが発生した場合には迅速な対応が必要です。
問題の明確化
まず、トラブルの原因を明確にします。報酬の内訳や支払い条件に関する誤解や不明点を整理し、関係者全員で正確な情報を共有しましょう。
話し合いによる解決
関係者全員で話し合いを行い、問題解決のための合意を目指します。この際、建設的な議論を心がけ、感情的にならないよう注意しましょう。
第三者の介入
話し合いで解決できない場合は、弁護士のような第三者への介入依頼を検討しましょう。専門家の意見を参考にすることにより、公平で適切な解決策を見出す可能性が高まります。
調停や仲裁
さらに解決が難航する場合には、家庭裁判所での調停や仲裁を利用することも視野に入れましょう。裁判所の仲裁により、公平な判断が下されることでトラブルを終結させやすくなりますが、関係者の金銭的・心理的な負担が大きくなる点には注意が必要です。
東京都千代田区の遺産相続に強い弁護士なら直法律事務所
遺言執行者は遺言での指定がなくても報酬を受け取れる立場ですが、その報酬額は法的に決められているわけではありません。遺言執行の内容や難易度などで異なるため、事前に明示しておく必要があります。
また、遺産相続におけるトラブル防止が心配な場合には、弁護士や司法書士をはじめ、専門家へ遺言執行を依頼することもよい選択です。トラブル防止だけではなく、スムーズな手続きや想定外の事態の解決にも役立ちます。
遺言執行者の報酬に迷いがある、方法や相場が分からないなどの不安も専門家なら解決しやすく、煩雑な遺産相続におけるストレスを軽減しやすくなるでしょう。
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