東京都千代田区の遺産相続に強い弁護士なら直法律事務所 相続レスキュー

columns
弁護士コラム

「遺言信託」にはどんな税金がかかる?詳しく解説!

家族信託・遺言書作成
投稿日:2022年10月06日 | 
最終更新日:2022年10月26日
Q
遺言信託には、どのような税金がかかるのでしょうか?
Answer
「遺言信託」とは、被相続人の遺言により設定される信託のことです。
遺言信託には、遺贈により信託受益権を取得したものとみなされ、相続税が課せられます。

そして、信託法の改正により、相続税法上に新たな取扱いが定められました。
それは、大きく分けて、
(1)贈与によって取得したものとみなされる場合
(2)特例その1:受益者連続型信託
(3)特例その2:受益者が存在しない信託等
の3つです。

本記事で大まかなイメージを掴めるよう、わかりやすく解説します。

遺言信託とは

遺言信託とは

遺言信託とは、被相続人の遺言により設定される信託のことです。

一般的に、信託は契約により設定するのが主流です。しかし、信託の設定を遺言により行う場合が、遺言信託です。

※遺言信託については、「遺言信託とは?設定・作成法も解説」の記事もご参照ください。

遺言信託にかかる税金

遺贈により、信託受益権を取得したものとして、相続税が課せられます。

ー少し詳しくー

平成18年の信託法の改正により、相続税法上に、信託に関する「みなす課税」の規定が、新たに定められました。それが、今から順にみていく、相続税法第九条の二以下に定められたしくみです。

贈与によって、信託に関する権利を取得したものとみなされる場合

まず、適正な対価を負担せずにその信託の受益者等となる者があるとき、贈与(ここでは、遺贈も含まれます)によって信託に関する権利を取得した、とみなされる場合があります。

具体的には、

  • その信託の効力が生じた時において、
  • その信託に関する権利を、
  • 信託の委託者から、
  • 贈与により

取得したものとみなされます。

(※その委託者の死亡を原因として信託の効力が生じた場合には、遺贈により取得したものとみなされます。相続税法第九条の二・第一項参照。)

このように、その信託に関する権利を、信託の委託者から、贈与により取得したものとみなされる(これを「みなす財産」と表現することがあります)のはどうしてなのでしょうか?

確かに、受益者が遺言者の遺言により設定された信託から生ずる利益を享受するという効果は、信託の効果として生ずるものです。したがって、遺言者から直接遺産を遺贈により取得するという効果とは、状況は異なります。

しかし、単純にその経済的効果を考えれば、遺言者の遺言により設定された信託から生ずる利益を享受するという効果と、遺言者から直接遺産を遺贈により取得するという効果は違いがありません。

言い換えれば、経済的効果を生ずる原因(遺言者の遺言により設定された信託と、遺産の遺贈による取得)が異なるため「同じ」であるとは言えませんが、経済的効果は「実質的に同じ」といえるのです。

だからこそ、信託に関する権利を、信託の委託者から、贈与により取得したものとみなすという、「みなす財産」の規定が存在するのです。

※注意点その1

遺言信託における「信託」からは、退職年金の支給を目的とする信託等は除かれます

(相続税法第九条の二・第一項かっこ書き参照)。

いかなる信託について除かれるかは、政令に定められています。

※注意点その2

遺言信託における「受益者等」とは、

  • 受益者としての権利を現に有する者 及び
  • 特定委託者

をいうとされています(相続税法第九条の二・第一項かっこ書き参照)。

上記の特定委託者とは、受益者以外で、信託の変更をする権限を現に有し、かつ、当該信託の信託財産の給付を受けることとされている者のことをいいます。

特例その1:受益者連続型信託

受益者連続型信託とは

受益者連続型信託とは、一定の信託であって、政令で定められているものをいいます。

具体的には、

  • 信託法第九十一条(受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託の特例)に規定する信託、
  • 信託法第八十九条第一項(受益者指定権等)に規定する受益者指定権等を有する者の定めのある信託、
  • その他、上記の信託に類するものとして政令で定められているもの

が受益者連続型信託です(相続税法第九条の三・第一項かっこ書き参照)。

※注意点その3

ここでの「受益者」とは、受益者としての権利を現に有する者をいいます

(相続税法第九条の三・第二項参照)。

効果

受益者が適正な対価を負担せずに、受益者連続型信託に関する権利を取得した場合、その受益者連続型信託に関する権利で一定の制約が付されているものについては、その制約が付されていないものとみなされることになります。

なお、ここでの受益者連続型信託に関する権利は、異なる受益者が性質の異なる受益者連続型信託に係る権利をそれぞれ有している場合、「収益に関する権利が含まれるもの」に限定されます。

※注意点その4

受益者連続型信託に関する権利で一定の制約が付されているものとは、

その受益者連続型信託の利益を受ける「期間」に制限が付されるなど、その受益者連続型信託に関する権利の価値に作用する要因としての制約が、付されているものをいいます

(相続税法第九条の三・第一項かっこ書き参照)。

【具体例①】

例えば、受益者連続型信託の
 ・収益受益権を個人であるX1が、
 ・元本受益権を個人であるY1が、
それぞれ有する場合を考えてみましょう(元本受益者と収益受益者が異なる信託のことを,複層化信託といいます。上記の場合、受益者連続型信託に収益受益権と元本受益権受益権がありますので、「複層化された受益者連続型信託」であるといえます)。

そして、上記の収益受益権と元本受益権について、
 ・収益受益権が個人X2に、
 ・元本受益権が個人Y2に、 
それぞれ移転した場合における、課税上の受益権の価額について検討します。

まず、複層化信託が設定された場合、収益受益権の評価額を算定し、信託財産の評価額からそれを差し引くことによって元本受益権の評価額を算出することになります。

そして、上記の場合には、その収益受益権(個人であるX1から個人であるX2に移転しました)の価額は、その受益者連続型信託の信託財産そのものの価額と等しいとして計算されます。

したがって、その元本受益権の価額は、「0」として計算される、ということになります(相続税基本通達9の3─1(2)(3)))。

この場合、価値を有しないとみなされた元本受益権は、信託期間中は贈与税や相続税の課税関係は生じませんが、信託が終了し、元本受益者が信託の残余財産の給付を受けることになる場合には、相続税法9条の2第4項の規定に基づき贈与税や相続税の課税関係が生じます。

※ただし、当該受益者連続型信託に関する権利を有する者が法人である場合は、上記のような「制約が付されていないものとみなされる」ことにはなりません(制約は付されたままのものとして扱われます)。

なお、ここでの法人には、代表者又は管理者の定めのある、法人格のない社団又は財団を含むとされます。

【具体例②】

次は、上記の例とは対比的に、
 ・収益受益権が個人であるX1から法人Zに、
 ・元本受益権が個人であるY1から個人であるY2に(こちらのみ上記の例と同じです)、
それぞれ移転した場合における、課税上の受益権の価額について検討してみましょう。

この場合には、その収益受益権(個人であるX1から法人Zに移転しました)の価額は、その受益者連続型信託の信託財産そのものの価額と等しいとして計算されることにはなりません。したがって、個人であるY2が有する元本受益権の価額は、「0」として計算されることにはならない、ということになります。

なぜなら、繰り返しになりますが、【具体例①】とは異なり、【具体例②】では、

受益者連続型信託に関する権利を取得した場合の、その受益者連続型信託に関する権利で「一定の制約が付されているもの」について、「その制約が付されていないものとみなされる」という条文の適用がないことになるからです(相続税法第九条の三・第一項ただし書き参照)。

※この場合には、財産評価基本通達202(信託受益権の評価)により評価した上で課税関係が生じることとなります。

(相続税法第九条の三・第一項)
受益者連続型信託…に関する権利を受益者…が適正な対価を負担せずに取得した場合において、当該受益者連続型信託に関する権利…で…当該受益者連続型信託に関する権利の価値に作用する要因としての制約が付されているものについては、当該制約は、付されていないものとみなす
ただし、当該受益者連続型信託に関する権利を有する者が法人(代表者又は管理者の定めのある人格のない社団又は財団を含む。以下第六十四条までにおいて同じ。)である場合は、この限りでない

以上の具体例については、国税庁ホームページ【第9条の3((受益者連続型信託の特例))関係を参照しています。

特例その2:受益者が存在しない信託等

税法上、受益者が存在しないとされる信託があります。

例えば、委託者Aが信託を設定するに当たり、自身の子供BをA死亡時の残余財産受益者とし、Aが生存中は信託法上の権利を一切有しないとする信託です。

この場合、委託者であるAは、もちろん生前には受益者にはなりません。また、残余財産受益者であるBも、A死亡時になってはじめて受益者の権利を有します。

このような、受益者が存在しない信託について、以下説明します。

受益者等がはじめから存在しない信託の効力が生ずる場合

まず、受益者等が存在しない信託の効力が生ずる場合に、

  • その信託の受益者等である者が、
  • 一定の親族であるとき、

特例が適用されることがあります。

具体的には、その信託の効力が生ずる時において、その信託の受託者は、委託者からその信託に関する権利を、贈与によって取得したものとみなされます。

(その委託者の死亡を原因としてその信託の効力が生ずる場合は、遺贈によって取得したものとみなされます。)

(相続税法第九条の四・第一項)
受益者等が存しない信託の効力が生ずる場合において、…信託の受益者等となる者が…「親族」…であるとき…は、…信託の効力が生ずる時において、…信託の受託者は、…委託者から当該信託に関する権利を贈与…により取得したものとみなす。

※注意点その5

ここでの「親族」とは、当該信託の受益者等となる者が当該信託の委託者の親族として政令で定める者をいいます(相続税法第九条の四・第一項かっこ書き参照)。

※注意点その6

なお、その信託の受益者等となる者が明らかでない場合には、その信託が終了した場合、委託者の親族がその信託の残余財産の給付を受けることとなる場合もあります(相続税法第九条の四・第一項かっこ書き参照)。

受益者等が途中から存在しなくなった信託の効力が生ずる場合

次に、受益者等が途中から存在しなくなった信託の効力が生ずる場合には、

  • その受益者等の「次に受益者等となる者」が、
  • その信託の効力が生じた時の委託者 又は「次に受益者等となる者」の前の受益者等の親族であるとき、

特例が適用されることがあります。

具体的には、その受益者等が不存在となった場合(このような場合を、「受益者等が不存在となった場合」といいます。)に該当することとなった時において、その信託の受託者は、「次に受益者等となる者」の前の受益者等から、当該信託に関する権利を贈与により取得したものとみなされます。

(その委託者の死亡を原因としてその信託の効力が生ずる場合は、遺贈によって取得したものとみなされます。)

※注意点その7

「次に受益者等となる者」が明らかでない場合は、その信託が終了した場合に、委託者又は「次に受益者等となる者」の前の受益者等の親族が、その信託の残余財産の給付を受けることとなるとき、贈与ないし遺贈により取得したものとみなされます

(相続税法第九条の四・第二項かっこ書き参照)。

(相続税法第九条の四・第二項)
受益者等の存する信託について、当該信託の受益者等が存しないこととなつた場合(以下この項において「受益者等が不存在となつた場合」という。)において、当該受益者等の次に受益者等となる者が当該信託の効力が生じた時の委託者又は当該次に受益者等となる者の前の受益者等の親族であるとき…は
当該受益者等が不存在となつた場合に該当することとなつた時において、当該信託の受託者は、当該次に受益者等となる者の前の受益者等から当該信託に関する権利を贈与(当該次に受益者等となる者の前の受益者等の死亡に基因して当該次に受益者等となる者の前の受益者等が存しないこととなつた場合にあつては、遺贈)により取得したものとみなす

受益者等が途中から存在することになった信託の効力が生ずる場合

また、受益者等が途中から存在することになった信託の効力が生ずる場合には、

  • 受益者等が存しない信託について、
  • その信託の契約が締結された時など、政令で定める時(これを「契約締結時等」といいます。)において存在しない者が、
  • その信託の受益者等となる場合に

特例が適用されることがあります。

具体的には、その信託の受益者等となる者が、信託の「契約締結時等」における、委託者の親族であるときは、その存在しない者がその信託の受益者等となる時において、信託の受益者等となる者は、その信託に関する権利を個人から贈与により取得したもの、とみなされます。

※ここでは、「その存在しない者」が存在するようになり、信託の受益者等となったわけですから、「その存在しない者」と「信託の受益者等となる者」とは、同一人物です。

(相続税法第九条の五・第一項)
受益者等が存しない信託について、当該信託の契約が締結された時その他の時として政令で定める時(以下この条において「契約締結時等」という。)において存しない者が当該信託の受益者等となる場合において、当該信託の受益者等となる者が当該信託の契約締結時等における委託者の親族であるときは、当該存しない者が当該信託の受益者等となる時において、当該信託の受益者等となる者は、当該信託に関する権利を個人から贈与により取得したものとみなす

相続税でお困りの場合は、弁護士に相談を

おさらいになりますが、信託法の改正により、相続税法上に新たな取扱いが定められました。

  1. 1贈与によって取得したものとみなされる場合
  2. 2特例その1:受益者連続型信託
  3. 3特例その2:受益者が存在しない信託等

の3つです。

本記事で大まかなイメージを掴み、従来からよく利用されている契約による信託と、遺言信託と、どちらを選ぶか検討してみるのはいかがでしょうか。

家族信託でお悩みがある場合は、お早めに当事務所の弁護士にお問い合わせください。

※相続税のご相談に関する弁護士費用は、こちらのページからご確認いただけます。

※家族信託・遺言書作成のご相談に関する弁護士費用は、こちらのページからご確認いただけます。

家族信託・遺言書作成についてお悩みの方へ

相続においては、「自分が亡くなったあと、どうしたらよいのか」とお悩みの方も多くいらっしゃると思います。当サービスでは、家族信託・遺言書の作成に関しても、ご依頼者様のニーズに沿った、適切な対策・アドバイス・サポートをプロの弁護士がおこないます。お悩みの方はお早めにご連絡ください。

Contact 初回相談は 0
相続に関わるお悩みは相続レスキューにお任せください

ご相談はお気軽に

トップへ戻る