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弁護士コラム

【遺言書の効力は?】相続人の1人に有利な遺言書を作成したい時

家族信託・遺言書作成
投稿日:2022年09月02日 | 
最終更新日:2022年09月02日
Q
遺留分の割合を超えて、相続人の一人に対してだけ有利になるような遺言書を作成したいのですが、効力の面で問題はないでしょうか?
Answer
将来の相続(亡くなった方が生前に有していた財産や借金などを、相続人が一括して引き継ぐこと)に備えて、被相続人(亡くなった方)となる人が遺言書を作成することは一般的に行われています。 

妻が年金生活をしている一方で、子どもは働いており、妻の生活費のために妻により多くの財産を引き継がせたい場合など、家族ごとの事情に対処するために、夫(被相続人予定者)が相続人(死者の財産等を一括して引き継ぐ人)となる人たちの一部の人を有利に扱いたい場合もあるかと思います。

このような取り扱いを定めた遺言書が、果たして有効なのかという疑問を持つ方もいらっしゃると思います。

本記事では、夫婦(夫A、妻B)の間に2人の子(子C、子D)がおり、相続財産が2,000万円である場合を例に、この疑問についてお答えしていきます。

遺言書による相続分の指定

1人に対してだけ有利な遺言書を作成することはできるのでしょうか?

言い換えると、遺言書による、遺留分の割合を超える相続分の指定はできるのでしょうか?

以下では、遺言書による相続分の指定及び、遺留分について説明します。

遺言書による相続分の指定

まず、 遺言により、共同相続人の全部又は一部の相続分(共同相続人の相続財産に対する分け前)を法定相続分(民法上の相続分の割合)と異なった割合を定めること及びこれを定めることを第三者に委託することができ(902条1項)、これを相続分の指定といいます。

相続において、被相続人の意思を尊重する必要があるため、遺言書による相続分の指定がある場合には、法定相続分によるのではなく、遺言書による相続分の指定に従うことが原則となります。

遺言書による相続分の指定がない場合 ~法定相続分~

では、被相続人が遺言書による相続分の指定をせずに死亡した場合には、共同相続人の相続財産の分け前はどうなるのでしょうか?

この場合には、民法が定めた共同相続人の相続財産に対する分け前、すなわち法定相続分に従うことになります。

法定相続分は、以下のように算定されます。

相続人法定相続分
①配偶者と子の場合それぞれ2分の1(900条1号)
②配偶者と被相続人の直系尊属の場合配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1(2号)
③配偶者と被相続人の兄弟姉妹の場合配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1(3号)

また、子や直系尊属、兄弟姉妹が複数人いる場合には、それぞれの割合は人数に応じて等分とされています(4号)。

なお、兄弟姉妹には法定相続分が定められていますが、後述する遺留分は認められていませんので注意が必要です(1042条1項柱書)。

上記の設問例によると、被相続人Aの配偶者である妻Bと子C、Dの3人が法定相続人であるため、①相続人が配偶者と子の場合にあたります。

まず、配偶者と子全体の法定相続分はそれぞれ2分の1ずつの分け前となります。

そして、子がCとDの2人であるため、子全体の分け前を人数で等分(2名であるので2分の1)をし、子Cの取り分は4分の1(2分の1×2分の1)、子Dの分け前は4分の1(2分の1×2分の1)となります。

つまり、法定相続分は妻Bが1000万円、子Cが500万円、子Dが500万円となります。

仮に、子Cと子Dがいないかわりに、Aの父、母がいる場合には、②配偶者と被相続人の直系尊属がいる場合にあたり、かつ、直系尊属が複数いる場合にあたります。

まず、配偶者と直系尊属全体の法定相続分は、妻Bは3分の2、直系尊属全体は3分の1ですので、妻は1333万3333円、Aの父、母はそれぞれ333万3333円ずつとなります。

この相続分指定の方法については、「割合の指定」として相続財産全体に対する分数割合で示すことが一般的です。

もっとも、相続財産の種類(不動産、動産など)を指定しても、また特定の相続財産を指定しても、それが相続財産全体に対する相続すべき割合を指示している限り差し支えないと解されています。

また、相続分の指定がなされていても、共同相続人の中に、特別受益を受けた者がいるときは、その特別受益者の具体的相続分は民法903条によって算定されます(民法903条1項・2項)。

しかし、被相続人はこの特別受益の持戻しを免除する意思表示をすることができます(同条3項)。

特別受益に当たる生前贈与があるにもかかわらず、被相続人がこれにあえて言及せずに相続分の指定をしたときは、被相続人死亡時に存在する相続財産をその割合で共同相続人に取得させる意思を有しているとして、特別受益の持戻免除の意思があると解すべきことが少なくないと思われます。

そこで、特定の者に多くの財産を残すには、残す財産を具体的に指定して「相続させる」という遺言をする方法と、相続分の割合を指定する方法が考えられます。

遺言書による相続分の指定の限界 ~遺留分~

もっとも、相続分の指定をしても、法定相続人(兄弟姉妹を除く)の遺留分(1042条以下)を侵害することはできません。なお、兄弟姉妹には遺留分はありませんので、例えば妻と兄弟姉妹が相続人となる事例において、遺言で「妻に全財産を相続させる」と定めた場合、兄弟姉妹が不服を述べることはできません。

仮に被相続人が自身の財産をすべて自由に処分することができるとすると、法定相続人の生活保障や相続への期待が侵害されることになるため、これを防止するために遺留分制度が設けられています。

上記具体例において、妻としては、夫の死後の生活費に相続財産を充てようと考えていた場合に、夫がすべての財産を子どもに相続させることができるとすると、妻のその後の生活が破綻してしまうおそれがあります。

では、遺留分の割合はどのように計算されるのでしょうか。

遺留分は、相続財産の価額(被相続人が相続開始の時に有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額(1043条1項))に、直系尊属のみが相続人である場合は3分の1(1042条1項1号)、これ以外の場合には2分の1(同項2号)の割合を乗じた額と算定されます。

そして、相続人が数人ある場合には、各相続人の遺留分の割合は、民法900条及び901条の規定により算定した各自の相続分を乗じた割合となります(1042条2項)。

上記の具体例で、妻Bの法定相続分が1000万円、子C、Dの法定相続分が各500万円、遺留分は2分の1を乗じた額であるため、妻の遺留分は500万円、子の遺留分は各250万円となります。

そして、被相続人である夫Aが相続財産2,000万円を全部妻Bに相続させようとすると、子C、Dは全く相続できなくなるので、遺留分として留保されている各250万円が侵害されることになります。

遺留分の計算の際にも生前贈与の有無は考慮されます(民法1044条)。

具体的には、相続人に対する贈与については、相続開始前10年間になされた、「婚姻もしくは養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与」が考慮の対象となります。

この場合、不利に取り扱われた共同相続人としては、遺留分権利者として遺留分を侵害している受遺者又は受贈者に遺留分侵害額に相当する金銭を支払うように請求を行うことができます。ここで遺留分権利者として行使される権利を遺留分侵害額請求権(1046条1項)といいます。

遺留分の割合を超える遺言書の効力

ここまで、遺留分の割合を超えて1人にだけ多く遺産を遺贈する遺言書は、他の法定相続人の遺留分を侵害し、遺留分侵害額請求権を行使されうることをご説明しました。

もっとも、遺留分侵害額請求権は、あくまで権利にすぎないものであり、当該遺留分を侵害された法定相続人が遺留分侵害額請求権を行使しないことも考えられます。このような場合に、形式的には遺留分を侵害しているため、被相続人が作成した遺言書が有効なものといえるか疑問を持たれるかと思います。以下では、この点について説明していきます。

改正前の判例(最決平成24年1月26日)ではありますが、

  1. 1相続分の指定が、特定の財産を処分する行為ではなく、相続人の法定相続分を変更する性質の行為であること及び
  2. 2遺留分制度が、被相続人の財産処分の自由を制限し、相続人に被相続人の財産の一定割合を取得することを保障する趣旨の制度であること

に鑑み、遺留分減殺請求権(※改正後の遺留分侵害額請求権)により相続分の指定が減殺された場合には、遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が、その遺留分割合を超える部分の割合を応じて修正されるものと解するのが相当であるとされています。

すなわち、遺留分の割合を超えて1人にだけ多く遺産を遺贈した遺言書は、作成時に他の共同相続人の遺留分を侵害しているからといって、直ちに無効になるというわけではなく、遺留分侵害額請求権が行使された場合に遺留分を侵害した額を支払うということになり、実質的には遺留分を侵害しない相続分の割合に修正されるにとどまるということです。

 

なお、遺留分権利者の上記の権利は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年間行使しないとき(1048条前段)、又は相続開始の時から10年間を経過したとき(同条後段)には、時効により消滅します。

請求権が時効により消滅した場合には、修正されることがなくなるため、遺留分の割合を超えて1人だけに有利な遺言書の内容であっても、修正される余地のない内容として確定します。

相続人間のトラブルを防止するために

上記のように、遺留分の割合を超えて一人にだけ有利な遺言書であって、遺留分権利者が遺留分侵害額請求権を行使しない場合には、有効なものとして記載内容通りの相続が実現します。

もっとも、そのような場合でない限り、遺留分の割合を超えて1人にだけ有利な遺言書は、不利に取り扱われた相続人が不平等であると感じ、共同相続人間のトラブルにつながるおそれがあります。相続人間のトラブルを回避する為に作成した遺言書が、かえってトラブルを誘発する可能性があるため、遺言書の作成には注意が必要です。

例えば、遺言書で指定する遺贈の内容については、遺言書を作る時点で相続財産全てについて大まかな価値を把握した上、他相続人の遺留分を侵害しないような相続財産の分け方を定めておくことも有用でしょう。

では、その他にどのようにしたらいいのでしょうか。

遺留分を超えて1人にだけ有利な遺言書を作成することにより、共同相続人間の紛争を生じさせない手段をしては、

  1. 1付言事項の活用
  2. 2遺留分の放棄(1049条1項)

という手段があります。

付言事項の活用

遺言書には、遺言者(被相続人)の相続人に対する要望や財産の分け方について説明等を記載することができます。これを付言といいます。

付言された事項には法的拘束力が生じるわけではありませんが、遺言者の考えを相続人に伝えることができ、共同相続人や受遺者、受贈者間の紛争防止に事実上の効果があります。

上記例で、相続財産が1軒の家しかない場合において、配偶者の生活保障のために家の所有権を単独相続させる必要があり、遺留分相当額を子ども2人に支払う余裕が配偶者にないときは、遺言書において、夫Aがその旨を丁寧に説明することによりBCD間の紛争を防止することができる可能性があります。

付言事項(例)

遺言者が長年連れ添った妻の今後の生活に配慮をするため、また、遺言者の財産は妻と築いたものであり、妻にほぼすべての財産を遺す本遺言書を作成した。
遺言者の長男には、既に不動産や家財の購入援助を行っているので、本遺言の趣旨を了解して、遺言者の妻が幸福に暮らせるように協力してくれることを強く望む。
遺言者の意思を尊重し、遺留分侵害額請求などをしないように希望する。

遺留分の放棄

もっとも、付言事項には法的効力が認められないので、Aの死亡後に、遺言書作成時とは異なり子CDの経済的事情悪化等により、子CDが遺留分侵害額の請求をしたいと考え、遺言書に付言されてあったとしても、Aの意思を尊重することは難しい事態が生じる場合があります。

このような事態を事前に防止するためには、子CDに遺留分を放棄してもらう方法があります。

遺留分はあくまで相続人(遺留分権利者)の権利であり、義務ではないので、相続人が放棄することができます。

事前に被相続人である夫Aと共同相続人である妻B、子C、子Dの全員で家を妻Bに全部相続させる必要がある旨を説明し、それに子C、子Dが同意した場合には、家庭裁判所に遺留分放棄の手続きを行うことにより、上記のような事情変更があったとしても、遺言書の内容は実現でき、トラブルの発生を法的拘束力により防止することができます。

ただし、遺留分を生前に放棄する場合には、家庭裁判所の許可を受けなければ得なければなりません(相続開始後の遺留分の放棄や、個々の遺留分減殺請求権の放棄は自由ですので、家庭裁判所の許可は必要ではありません)。

家庭裁判所の審判では、その放棄が申立人の自由意思に基づくものであるか否か、放棄理由が妥当か否か、生前に放棄することの代償措置があったか否かなどが考慮されます。

共同相続人の1人が行った遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼしません。単に被相続人の処分できる財産が増加するだけです。

なお、遺留分の放棄をしても相続権を放棄したことにはなりませんので、遺産分割協議には参加する必要があります。

相続トラブルを避けるには弁護士へ相談を

なるべくスムーズに争いを少なくして遺産分割を進めるには、専門的な知識を有し、客観的かつ冷静に判断できる弁護士に対応をご依頼するのがおすすめです。

また、将来に備えて遺言書を作成したいが、「具体的に何から手を付ければよいかわからない」「書きたい方向性は決まっているが、具体的な表現方法がわからない」とお悩みを抱える場合も、ぜひ弁護士へご相談ください。

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