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弁護士コラム
公正証書遺言を破って破棄するとどうなる?【遺言の撤回】
- その他
- 投稿日:2022年12月26日 |
最終更新日:2022年12月26日
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昔に作成した公正証書遺言の内容を変えたいと思い、公正証書遺言を破り捨ててしまいました。
その時から、この遺言は無効になったという理解でよいのでしょうか?
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遺言者が自ら遺言書を破棄した場合には、破棄した部分については遺言が撤回されたものとみなされます(民法1024条前段)。つまり、破棄した部分について遺言はなかったものと扱われます。
しかし、遺言書の原本が破棄されなければ、遺言書を破棄したとはいえません。
公正証書遺言の場合、遺言の原本は公証役場に保存されています。
公証役場に原本が存在する以上、 遺言者の手元に残っている遺言書を破り捨てただけでは、遺言書自体を破棄したとはいえませんので、公正証書遺言は無効になりません。
本記事で、詳しく説明していきます。
前提
まず、遺言には、自筆証書遺言(民法968条)と公正証書遺言(民法969条)、秘密証書遺言(民法970条)の三種類があります。
ここでは公正証書遺言についてみていきます(自筆証書遺言と秘密証書遺言については、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言 それぞれ詳しく解説の記事をご参照ください)。
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して公正証書による遺言書を作成する方法の遺言のことです。
そして、公正証書遺言の原本は公証人役場で保存されることになります。
※公証人…公証人法に基づき、法務局または地方法務局に所属して、公証人役場において関係人の嘱託により公正証書の作成や書類の認証を行う公務員のこと。
公正証書遺言の作成手続
公正証書遺言の作成手続は、民法969条で定められています。
具体的には、以下の流れで作成されます。
- 1証人二人以上が立ち合う
- 2遺言者が遺言の趣旨を公証人に口頭で伝える
- 3公証人が遺言者の口述を筆記する。これを遺言者及び承認に読み聞かせる又は閲覧させる
- 4遺言者及び証人が筆記の正確なことを承認して、署名・押印する
- 5公証人が方式に従って作成したことを付記し、署名・押印する
なお、公正証書の作成実務においては、遺言書を作成したい方がいきなり公証役場を訪れ、その場で直ちに公正証書を作成するというものではありません。
公証人が、遺言の作成を希望する方、又は、その依頼を受けた者(例:弁護士)から、予め遺言の内容を確認し、公正証書の原案を作成しておきます。
その上で、事前に約束していた日時に遺言の作成を希望する方と証人2人(用意できなければ、公証役場において有料で用意いただけます)が公証役場に出頭します。
そして、証人立会いの下で、遺言者から遺言の趣旨の口授を受け、その内容があらかじめ筆記したところと同一であることを確認し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、遺言者及び証人が間違いないと承認したところで、各自が署名押印し、最後に公証人が民法所定の方式に従って作成したものであることを付記して署名押印する手順で進められます。
遺言公正証書の原本は、作成した公証役場に保管され、遺言者には、その正本と謄本各1通が交付されます。
相続人又はその承継人及び代理人法律上の利害関係人は、遺言者が亡くなったのちに、公正証書遺言を保管している公証役場において、その閲覧又は謄本の交付を請求することができます。
そのほか、必要書類については、公証役場にお問い合わせください。
公正証書遺言のメリットとデメリット
公正証書遺言を作成するメリットは次の点にあります。
- 専門家である公証人が関与するため、方式・内容不備で無効とされる、もしくは争いになる可能性が低い
- 公証人が原本を保管するので、破棄・隠匿されるおそれがない。また、相続人による検索(※1)が容易である
- 家庭裁判所の検認(※2)が不要である
反対に、公正証書遺言を作成するデメリットは次の点にあります。
- 遺言書作成の費用がかかる
- 証人を確保する手間がかかる
- 遺言の存在と内容が外部に明らかになるおそれがある
※1 公正証書遺言(平成元年以降に作成されたもの)を探すには、遺言者の氏名・生年月日・本籍などが明らかになれば、どこの公証人役場に保管されているかが容易に判明するシステムが整備されています。ただし、検索内容には、遺言の内容は含まれません。
そのため、公正証書遺言の存在が分かったときは、相続人らが該当の公証役場に出向いて、その閲覧又は謄本の交付を請求することができます。なお、震災等による遺言公正証書の原本や正本・謄本の滅失に備えて、同連合会が運用する遺言公正証書原本の二重保存システムが構築されています。これまで自筆証書遺言は、紛失、隠匿及び変造のおそれがあることのほか、遺産分割が終了した後に発見することもありトラブルが発生することも少なくありませんでした。
そこで、2019年の相続法改正により自筆証書遺言の保管制度が創設され、遺言者は、法務局に民法968条に定める方式による遺言書(無封のものに限る。)の保管を申請することができることとなりました。遺言書の保管の申請がされた際には、法務局の事務官によりその遺言が自筆証書遺言としての方式に適合性しているかどうかについて外形的に確認をし、遺言書は画像情報化して保存され全ての法務大臣の指定する法務局からアクセスできるようになりました。
今後は、公正証書遺言の検索だけではなく、法務局において自筆証書遺言の保管の有無を確認することが大切になります。
※2 自筆証書遺言は家庭裁判所の検認が必要です(民法1004条1項)。ここで、具体的事例を考えます。
あなたの息子であるXは「自分の死後、財産の二分の一を妻に与える」という内容の公正証書遺言を作成していました。その後、Xと妻は不仲になり、一年前についに離婚しました。Xは離婚後その遺言書を破り捨ててしまいました。ところがその後、Xは突然事故死し、それを知った元妻は公証役場から公正証書遺言の正本を新たに持ってきて、遺言書に基づきXの財産の二分の一が自らに帰属すると主張しています。遺言者であるXが公正証書遺言の正本を破り捨てているので、遺言書は破棄・撤回されており、元妻の主張は認められないのではないのでしょうか? |
遺言書の破棄とは
遺言書を破棄するとは、遺言者が自ら焼き捨てる、切断する、一部を切り捨てる、あるいは遺言書を塗りつぶして内容を識別できなくなるようにすることなどをさします。
そして、遺言書を破棄した場合には、破棄した部分について遺言は撤回されたとみなされます。遺言の成立には遺言書が作成されることが必要であり、遺言書は遺言の証明に欠くことができないものです。それにもかかわらず、遺言者自ら遺言書を破棄するということは遺言を撤回する意思があると認められるからです。
そして、遺言書を破棄したことによって撤回したとみなされる遺言の部分については、遺言の効力は生じないことになり、遺言が初めから存在しなかったのと同じ結果になります。
公正証書遺言の破棄
遺言書を破棄したといえるためには、遺言書自体(原本)を破棄する必要があります。そして、遺言書自体を破棄すれば、遺言書の写し(コピー)が残っていても、遺言書は破棄されたこととなります。
もっとも、公正証書によって遺言をした場合には、公正証書遺言の原本は公証役場で保存されているため、遺言者が公正証書遺言の原本を破棄することは不可能です。
一般的に、遺言者の手元にある公正証書遺言の正本を破棄しても遺言書を破棄したことにはならないと考えられています。
※正本…謄本の一種で、公証権限がある者が作成した原本の写しのこと。原本と同じ効力を持つ。
公正証書遺言の正本の破棄が、遺言書の破棄にあたるかについて、裁判例はまだ存在しません。もっとも有力説は、遺言書の破棄は遺言書自体についてなされることが必要である以上、公正証書遺言の場合は公証役場に保存されている公正証書の原本が破棄される必要があるとしています。
つまり、遺言者が公正証書遺言の正本を破棄しても、公正証書の原本までは破棄されていないため、遺言書の破棄にはあたらないと考えられています。
また、公正証書の正本は原本と同一の効力を持つものの謄本にすぎず、必要があれば何通でも交付を受けることができるから、公正証書遺言の正本破棄が直ちに遺言書の破棄にあたると解することはできません。
先の事例では、Xの手元に残っていた公正証書遺言の正本を破り捨てていても、Xの公正証書遺言の原本が公証役場に保存されている以上、遺言書自体の破棄とはいえず遺言の撤回は認められません。
したがって、元妻からの請求に応じる必要があり得ます。
公正証書遺言の撤回
では、公正証書遺言を撤回するにはどうすればよいのでしょうか。
遺言の撤回は遺言の方式に従って行うとされています(民法1022条)
この撤回の方法は、遺言の方式に従っていれば、前にした遺言と同一の遺言の方式によらなくてもよいと解されています(もちろん同一の遺言の方式=設例の場合では公正証書でも構いません)。
つまり、公正証書遺言を自筆証書遺言の方式によって撤回することもできます。
そこで、「前にした公正証書遺言を撤回する」という内容の自筆証書遺言を作成することで、公正証書遺言は撤回されたものとみなされます。
先の事例では、Xが妻と離婚した段階で、「公正証書遺言を撤回する」という内容の自筆証書遺言を作成しておけば、公正証書遺言は撤回されたものとみなされるため、元妻からの請求に応じる必要はありません。
【関連】
遺言のように被相続人が自身の財産について、死亡後に遺す相手方を定める方法として、死因贈与があります。
この死因贈与について、贈与者が撤回することができるか否かというご質問を頂くことがありますが、遺言と違って、死因贈与の撤回はできません(ただし、書面によらない死因贈与は、履行の終わった部分を除き、撤回することができます〔民法550条〕。)。
まとめ
公正証書遺言が作成された場合、遺言の正本を破り捨てただけでは遺言が破棄され撤回されたとはいえません。
つまり、公正証書遺言の正本を破り捨てても、公正証書遺言は無効にはならないと考えられます。
公正証書遺言の内容を撤回する方法としては、遺言者自身が「公正証書遺言を撤回する」という内容の自筆証書遺言を作成することが考えられますので、この点よく注意をしておきましょう。
遺言の撤回の方法については、本記事で紹介した方法の他にも、「前の遺言と抵触する遺言による撤回」(たとえば、前の遺言において、「宝石をXに相続せる」としていたが、後の遺言において、「宝石をYに与える」とした場合)、抵触する行為による撤回(たとえば、前の遺言において、「宝石をXに相続させる」と書いていたが、その遺言作成の後、宝石をYに贈与したり売却した場合)等があります。
その他、遺言の撤回を撤回できるかという問題(民法1025条)等、多数の難しい問題がありますので、お悩みの場合には当事務所の弁護士までお問い合わせください。
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