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弁護士コラム

相続した家を売却した場合の譲渡所得課税とは?

相続税・事業承継対策
投稿日:2022年07月22日 | 
最終更新日:2022年08月01日
Q
父が住んでいた家を相続し、売却した場合は、譲渡所得の課税はどうなるのでしょうか?
Answer
不動産を売却すると、値上がり益(購入価額-売却価格)に対し、譲渡所得税と住民税が課税されます。
長期譲渡であれば税率が軽減されますし、不動産が相続人にとっての居住用資産といえるときは3000万円の特別控除が効きますし、被相続人にとっての居住用資産といえるときは取り壊して売却するなどすれば3000万円の特別控除が効きます。
これらを有効活用することで、大きな節税につながります。

不動産を売却した際の課税について

個人が土地や建物売却したときは、譲渡益(値上がり益)に対して譲渡所得税と住民税が課税されます。ここで「譲渡益」は、「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)」で計算されます。

取得費は不動産の購入価格のことですが、売却した不動産が相続財産のときは被相続人の取得費を引き継ぐことになります(例えば、曾祖父が購入し、祖父、父という順番で相続した不動産を売却するときは、曾祖父の購入代金が取得費となります)。余りに昔過ぎて資料がなく取得費が不明なケースも珍しくないことから、実際の購入価格ではなく、収入金額の5%を概算取得費として控除することが認められています(租税特別措置法関連通達31の4-1)。

なお、実際の取得費が判明しているものの、収入金額の5%を下回っているときは、収入金額×5%の概算取得費のほうを取得費に計上することができます。

また、特別控除を適用できるときは、税額は、譲渡益から特別控除額を差し引いた残額に税率(譲渡所得税と住民税)をかけた金額になります。不動産の譲渡による所得は、分離課税(他の所得とは合算せず、不動産の譲渡による所得だけを分離して課税するもの)です。

不動産の譲渡による所得には、長期譲渡所得と短期譲渡所得があります。不動産を売った年の1月1日の時点で、所有期間が5年を超える譲渡を長期譲渡、5年未満での譲渡を短期譲渡といいます(不動産が相続財産のときは、被相続人の所有期間を引き継ぎます)。

不動産の譲渡による所得には譲渡所得税と住民税が課税されますが、長期譲渡のときはこれらの税率が軽減されるほか、居住用資産に該当すると優遇措置があります。

税率

長期譲渡の税率は20%(所得税15%、住民税5%)であり、短期譲渡の税率は39%(所得税30%、住民税9%)です。

なお、復興特別所得税として2.1%の附加税が上乗せされます。

居住用資産の優遇措置

譲渡する不動産が居住用資産のときは、居住者の生活基盤を維持する見地から、3000万円の特別控除額(租税特別措置法35条)が設けられています。そのため、譲渡益から3000万円の特別控除額を差し引いた残額について、所有期間に応じて次の税率がかかります。

なお、不動産が相続財産のときは、被相続人の所有期間を引き継ぎます(所得税法60条1項)。

①所有期間が10年超(租税特別措置法31条の3第1項)

 譲渡益6000万円以下 14%(所得税10%、住民税4%)

 譲渡益6000万円超の部分 20%(所得税15%、住民税5%)

②所有期間が5年超10年以下(通常の長期譲渡の税率) 

20%(所得税15%、住民税5%)

③所有期間5年以下(通常の短期譲渡の税率)

 39%(所得税30%、住民税9%)

 このように、所有期間が10年を超える居住用資産の場合には、特別控除額3000万円を考慮すると、売却価格のうち、3000万円までの部分が無税、3000万円超9000万円以下の部分の税率が本来の20%から14%に軽減されることになり、絶大な節税効果が期待できます(短期譲渡の場合であっても、居住用資産であれば3000万円の特別控除が効くため、3000万円×39%=1170万円の税金を支払わずに済むことになります)。

 また、買換え特例というものもあります。これは、居住用資産を売った年の前年から翌年までの3年間に別の居住用資産を購入したとき(マイホームを買い換えたとき)、一定の要件(譲渡価額1億円以下、売った年の1月1日現在で所有期間10年超、居住期間10年以上など)に該当する場合には、その譲渡益の課税を繰り延べることができるというものです。

ただし、3000万円の特別控除額や軽減税率と併用することはできません。

 これらの優遇措置を利用するためには、売却する不動産が居住用資産でなければなりません。逆に言えば、売却する不動産が居住用資産と言えれば絶大な効果をもたらす優遇措置を受けることができます。

 そこで、次のケースで考えてみましょう。

事例

 兄夫婦が父名義の土地建物に両親と同居していたところ、父が死亡した。父には、母、兄、相談者(父の娘)の3人の相続人がいる。相談者は既に結婚して家を出ている。自宅を除き、めぼしい相続財産はない。

 このようなケースで、兄が自宅(まだ父名義)を売却してお金で分けようと言い出し、母も賛成しているとき、相談者としてはどうすべきかについて考えてみましょう。

 父名義の自宅は、父の死亡によって相続人全員の共有物になっています。これをお金に換える方法としては、そのまま売却して代金を相続人で分けるという方法(換価分割)と、兄や母に相続させて、相続した兄や母から代償金をもらうという方法(代償分割)があります。

 ここで気を付けなければならないのは、兄と母から見れば父名義の自宅は居住用資産になりますが、相談者から見れば居住用資産にはならないということです。

すなわち、換価分割をすると、それぞれの相続人がそれぞれの相続分に応じて不動産の持分を取得し、その持分を売却したものと評価されるため、それぞれの相続人に分配された売却代金に対して譲渡所得税が課税されることになりますが、兄と母は居住用資産の優遇措置を受けることができるのに対し、相談者は受けることができないため、相談者の税負担だけが極めて重くなってしまうのです。

 換価分割ではなく代償分割(父名義の自宅を兄と母の共有名義にしてから売却し、相談者はお金だけをもらうこと)を選択すると、相談者には譲渡所得税は課税されません。

なぜなら、代償金は、譲渡によって取得されたものではなく、相続によって取得されたものといえるからです(最高裁判所平成6年9月13日判決)。

そのため、相談者には、相続税のみが課税され、譲渡所得税は課税されません。

また、相談者に代償金を支払って父名義の自宅を相続した兄と母は、被相続人の取得費を引き継ぐため(所得税法60条1項)、相談者に支払った代償金を譲渡所得税の取得費に計上することはできません。

しかし、相談者に支払った代償金は相続税の課税対象となる評価額から差し引くことができますし(その分だけ相続税が安くなります)、居住用資産の3000万円の特別控除は居住者1人につき3000万円であるため、父名義の自宅を兄と母の共有名義にしてから売却すると、売却代金6000万円(特別控除3000万円×兄と母の2人分)まで無税になるという絶大な節税効果が期待できます。

このように、相続人の中に居住者と非居住者がいるとき、換価分割なのか代償分割なのかで譲渡所得税の負担額が大きく異なる結果になるため、遺産分割の方法によっては税務当局に否認されることがあります。

例えば、遺産分割協議書で代償分割であることが明記されていたとしても、遺産分割協議成立直後に売却したことから税務署長に否認され、裁判所も税務署長の判断を支持したケースがあるため、注意が必要です。

被相続人の居住用資産の空き家特例

 被相続人の居住用資産(空き家)を平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に売却したときは、3000万円の特別控除が適用できます。

 特別控除所の対象になるのは、「被相続人居住用家屋」と「被相続人居住用家屋の敷地等」について、一定の耐震基準を満たす建物を売るか、取り壊して敷地だけを売る場合になります。

ここで「被相続人居住用家屋」とは、相続の開始の直前(被相続人が要介護認定等を受けて老人ホームに入所していたときは、入所の直前)において被相続人の居住の用に供されていた家屋であり、次の3つの要件全てに該当するものをいいます。

  1. 1昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
  2. 2区分所有建物登記がされている建物でないこと。
  3. 3相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。

 つぎに、「被相続人居住用家屋の敷地等」とは、相続の開始の直前(被相続人が要介護認定等を受けて老人ホームに入所していたときは、入所の直前)において被相続人居住用家屋の敷地として利用されていた土地やその土地の上に存在する権利をいいます。

 なお、一筆の土地の上に母屋と離れの2軒の建物があるときは、母屋と離れが一体のものとして利用されていたとしても、本特例が適用されるのは母屋部分のみです(敷地についても、母屋と離れの床面積割合で敷地面積を按分することになります)。

まとめ

このように、当該不動産が居住用資産(被相続人にとっての居住用資産と相続人にとっての居住用資産の2種類のものがあります)と言えるかどうか、長期譲渡と言えるかどうかによって、譲渡所得税や住民税の金額が大きく増減することになりますので、遺産分割協議の段階から注意しておくことが極めて重要であると言えるでしょう。

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