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弁護士コラム
遺留分の特例とは?中小企業における経営の承継円滑化に関する法律を解説
- 相続税・事業承継対策
- 投稿日:2022年07月22日 |
最終更新日:2022年07月22日
- Q
-
中小企業における経営の承継円滑化に関する法律の遺留分の特例とは何ですか?
また、特例の適用を受ける場合の手続き方法も教えてください
- Answer
- 中小企業における経営の承継円滑化に関する法律の遺留分の特例とは、中小企業で事業承継を行う際に株式や事業用財産を遺留分の対象から外したり、遺留分の評価方法についてあらかじめ合意したりして、将来の遺留分トラブルを防ぐための規定です。
事業承継の場面では、後継者に遺産が集中するために遺留分に関するトラブルが生じがちです。すると、後継者による円滑な事業承継が難しくなり経営に困難が生じたり、会社が傾いたりするリスクも発生します。
そこで遺留分トラブルを防いでスムーズに事業承継を進められるように、遺留分の特例がもうけられました。
遺留分の特例を適用すると、会社株式や事業用財産などを遺留分の対象から外せるので、後継者へ資産を集中させても遺留分トラブルが起こりません。
また遺留分の評価方法を固定しておけば、将来遺留分侵害額請求に備えるための資金の準備も進めやすいでしょう。
ただし遺留分に関する特例を適用するには、複雑な手続きを経る必要があります。まずは経済産業省へ申請をして確認してもらった上で、家庭裁判所で許可を受けなければなりません。
専門家へ相談しないとスムーズに進めにくいので、適用を検討するなら弁護士に相談するようおすすめします。
目次
中小企業における経営の承継円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)とは
今回ご質問のあった遺留分に関する民法特例は、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」において定められている制度です。
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下では「経営承継円滑化法」)といいます)は、日本の中小企業がスムーズに事業承継を行えるようさまざまな規定を定める法律です。
日本では経営者の高齢化や少子化などの影響により、事業承継がスムーズに進まない中小企業が増加しています。優良企業であっても廃業を余儀なくされる事例もあり、経済的な損失も指摘されていました。
そこで税制面や法律面で中小企業の事業承継を支援する必要性が認識され、経営承継円滑化法が制定されたのです。
民法の遺留分に関する特例も経営承継円滑化法において策定された制度の一つであり、その目的は中小企業の事業承継の円滑化となります。
遺留分による事業承継へのリスク
経営承継円滑化法が民法における遺留分の特例を定めたのは、遺留分制度が中小企業の事業承継にとって大きなリスクとなるためです。
遺留分や遺留分侵害額請求がなぜ中小企業の事業承継にとって危険なのか、理由をみてみましょう。
遺留分と遺留分侵害額請求
民法は一定範囲の相続人に「遺留分侵害額請求」を認めています。これが事業承継にとって大きな脅威となるので、まずは遺留分侵害額請求とはなにか、確認しましょう。
遺留分とは
遺留分侵害額請求は、権利者が遺留分侵害者に対して遺留分についての金銭補償を求めることです。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる最低限度の遺産取得割合をいいます。
民法は、人が死亡したときの遺産の承継先について、一定の被相続人に近しい親族とすべく定めを置いています。これらの相続人を「法定相続人」といいます。それぞれの法定相続人には民法の定める法定相続割合(法定相続分)が認められます。
一方で被相続人自身が遺贈や生前贈与によって法定相続分以外の方法で遺産を受け継がせることは可能です。また法定相続人以外の人へ財産を遺贈してもかまいません。法律の規定よりも財産の所有者の意思を優先すべきだからです。
ただしそうなると、もともと法定相続人だった人も遺産を受け取れなくなったり、受け取れる遺産が少なくなってしまったりする可能性があります。「遺産を受け取れるだろう」と期待していた相続人の利益が害されてしまうでしょう。
そこで民法は遺産の最低限の取得分である「遺留分」を一定範囲の相続人に認めました。
遺留分侵害額請求とは
相続人が遺留分を侵害された場合には、侵害者へ「遺留分侵害額請求」ができます。
つまり、侵害された遺留分について「お金」による取り戻しが認められるのです。
遺贈や贈与によって相続人の遺留分を侵害した人は、遺留分侵害額請求に応じて遺留分権利者へ金銭を払わねばなりません。
遺留分が認められる相続人
遺留分が認められるのは、兄弟姉妹以外の法定相続人です。
具体的には以下のような人が遺産相続する際に遺留分が認められます。
- 配偶者
- 子どもや孫などの直系卑属
- 親や祖父母などの直系尊属
兄弟姉妹や甥姪が相続する際には遺留分が認められません。
兄弟姉妹や甥姪に遺産を相続させない場合には遺言書でその旨記載しておけば、遺産の受け継ぎを防げます。
事業承継と遺留分
遺留分制度は法定相続人の権利を守るための制度ですが、事業承継の場面では大きな障害となるリスクをはらんでいます。
なぜなら事業承継時には、後継者への財産承継が必須となるためです。
多くの事案において、先代社長から後継者へ会社株式や事業用資産を受け継がせなければなりません。
ところが中小企業の株式や事業用資産を評価すると、高額になってしまう例が多々あります。すると、他の相続人の遺留分を侵害してしまい、他の相続人から遺留分侵害額請求が行われてしまうのです。
後継者がせっかく会社株式や事業用資産を受け継いでも、高額な遺留分侵害額を請求されたら経営が困難となってしまうリスクが発生します。
また他の相続人との遺留分トラブルに対応する労力や時間もかかってしまうでしょう。ときには遺留分侵害額請求が原因で会社が廃業に追い込まれる可能性もあるので、遺留分対策については慎重に検討しておくべきといえます。
遺留分の事前放棄による対策方法
従来の制度を利用した遺留分対策として「遺留分の生前放棄」があります。
遺留分の生前放棄とは、被相続人が生きている間に遺留分権利者が家庭裁判所の許可を受けて遺留分を放棄する手続きです。遺留分の生前放棄をしておけば、法定相続人は遺留分を失うので、被相続人の死後に遺留分侵害額請求ができません。
ただし遺留分の生前放棄は、簡単には認められません。そもそも家庭裁判所へ申請しなければならず手間がかかります。
また以下のような要件を満たす必要もあります。
- 申請者(遺留分権利者)の自由意思にもとづく
遺留分の生前放棄は、遺留分権利者が自らの意思で家庭裁判所へ申請しなければなりません。被相続人や他の相続人が強要しても無効となってしまいます。
ただ遺留分を放棄するのは権利者にとって不利なので、協力を求めるのは簡単ではありません。
- 生前の遺留分放棄を認めるべき合理的な事情がある
生前の遺留分放棄を認めるべき合理的な事情が必要です。たとえば事業承継を行うなどは合理的な事情の1つといえるでしょう。
- 遺留分を放棄するに足りる十分な代償が行われている
生前の遺留分放棄が認められるには、遺留分を放棄させるだけの十分な代償が行われていなければなりません。たとえばすでに法定相続分に応じた財産を贈与したなどです。
このような要件をすべて満たして遺留分権利者が自ら放棄を申請しなければ生前の遺留分放棄は認められません。現実的に生前の遺留分放棄を適用するのは相当困難といえるでしょう。
経営承継円滑化法による遺留分の特例とは
遺留分侵害額請求が中小企業における事業承継の妨げとなっている現状を改善するため、経営承継円滑化法は「遺留分の特例」をもうけました。これは、被相続人や遺留分権利者が任意に合意しておくことで、後に相続が発生したときに遺留分権利者が遺留分侵害額請求できなくなったり、遺留分の基礎となる資産の評価方法を固定したりできるものです。
株式会社などの会社組織の場合でも個人事業の場合でも民法の遺留分特例は適用できる可能性があります。
遺留分特例にもとづく合意には以下の2種類があります。
除外合意
民法に関する遺留分の特例には「除外合意」と「固定合意」の2種類があります。
除外合意とは、一定の財産(株式や事業用資産)について遺留分の対象から外す合意です。
除外合意をしておけば、その財産は遺留分の対象ではなくなるので、遺贈や贈与をしても遺留分侵害額請求が起こりません。
後継者へ集中させても他の相続人が後継者へ遺留分侵害額請求をしないので、安全に事業承継を進めやすくなります。
固定合意
固定合意は、遺留分侵害額を行う場合の財産評価額を固定する合意です。
遺留分侵害額請求が起こると、対象となる資産を評価してその分のお金の支払いを進めなければなりません。評価額が予想外に高額になると、後継者にとっては大きな負担となります。特に、贈与時よりも株価が上昇して遺産分割時に高額になると、後継者が遺留分侵害額を払うのが困難となるでしょう。
そこであらかじめ遺留分算定の基礎となる評価額を贈与時に固定して、将来の遺留分侵害額請求に備えられるようにします。これが固定合意の目的です。
ただし固定合意をしても遺留分侵害額請求を封じられるわけではありません。その意味で固定合意の効力は除外合意よりも小さいといえるでしょう。
ただ遺留分権利者が除外合意に納得しなくても、評価額の固定であれば受け入れる可能性があります。
遺留分に関する民法の特例を適用する場合、除外合意とすべきか固定合意を選択すべきかについては事案によって適切に選択する必要があります。
困ったときには弁護士などの専門家へ相談してみてください。
遺留分に関する民法の特例が適用される要件
次に、遺留分に関する民法の特例がどういったケースで適用されるのか、要件をみていきましょう。
特例中小会社
遺留分に関する民法の特例が適用されるのは「特例中小会社」の株式や事業用財産などです。 「特例中小会社」とは、中小企業のうち3年以上継続して事業を行っている会社です。ただし上場している株式、店頭売買有価証券登録原簿に登録されている株式を発行している株式会社は除かれます(経営承継円滑化法2条1項、円滑化法施行令2条1項)。
また「中小企業者」の範囲は以下のとおりです。
- 製造業その他の場合…資本金3億円以下又は従業員数が300人以下 (ただし、ゴム製品製造業(自動車又は航空機用タイヤ及びチューブ製造業並びに工業用ベルト製造業は除く)
- 卸売業…資本金1億円以下又は従業員数が100人以下
- 小売業…資本金5000万円以下又は従業員50人以下
- サービス業…資本金5000万円以下又は従業員100人以下 (ただしソフトウェア・情報処理サービス業の場合には資本金3億円以下又は従業員数300人以下、旅館業の場合は資本金5000万円以下又は従業員数200人以下)
なお医療法人や社会福祉法人、外国会社は中小企業者に該当しないので、遺留分の特例を適用できません。
旧代表者の要件
遺留分に関する民法特例には、旧代表者(先代経営者)}の要件も定めています。
先代経営者とは、特例中小企業者の代表者であった者です。ただし後継者とともに共同代表者となっている場合も含まれます。
また後継者へその特例中小企業者の株式や事業用財産(完全無議決権株式等を除きます)を贈与した人という要件もあります。
後継者の要件
遺留分に関する民法特例を受けるには、後継者の要件も満たさねばなりません。
後継者は「旧代表者(先代経営者)からその特例中小企業者の株式等の贈与を受けた者です。
またその特例中小企業者の総株主(完全無議決権株式のみを有する株主を除く)又は総社員の議決権の過半数を保有しており、かつ遺留分の算定に係る合意をする時点において特例中小企業者の代表者であるものをいいます。
推定相続人の要件
遺留分に関する民法特例の適用を受けられるのは「推定相続人」です。
「推定相続人」とは、相続開始時に相続人となるべき人のうち、兄弟姉妹や甥姪以外の人をいいます。
つまり「遺留分が認められる可能性のある相続人」が推定相続人です。
当事者間の合意
遺留分に関する民法特例を適用するには、当事者が合意をしなければなりません。
先代や後継者が希望しても、推定相続人が納得しなければ遺留分特例を適用できないので注意が必要です。
また合意後も、後継者が株式などを処分したり、特例中小企業者の 代表者を退任したりすると合意は本来の趣旨に沿わなくなるでしょう。
そこで除外合意や固定合意をする際、全員が合意すれば書面によって後継者が合意の対象とした株式等を処分する行為をした場合や先代の生存中に代表者を辞任した場合、推定相続人ができる対抗策についての定めをしなければなりません。
遺留分に関する民法の特例を適用する手続き
以下では遺留分に関する民法の特例を適用するための手続きの流れをご説明します。
当事者間で話し合って合意する
まずは当事者間で遺留分特例の適用について合意しなければなりません。
除外合意とするのか固定合意とするのか、後継者が株式を処分してしまった場合の対応なども含めてしっかり話し合いましょう。合意ができなければ、そもそも遺留分に関する特例を適用できません。
経済産業大臣の確認
遺留分の算定に係る合意ができたら、経済産業大臣の確認を受ける必要があります。
そのためには、後継者が「合意をした日から1か月以内」に、所定の申請書に必要書類を添付して、経済産業大臣に提出しなければなりません。
確認申請できる人は後継者です。
経済産業大臣が書類を確認し、不備がなければ申請者へ確認書を交付します。
家庭裁判所の許可
経済産業大臣による確認を受けたら、その日から1か月以内に後継者は家庭裁判所へ「合意の許可の申立て」をしなければなりません。
単に経済産業大臣の確認を受けただけでは特例の効果が発動しないので、間違えないように注意しましょう。
許可の申立人となれるのは後継者です。
申立があると、家庭裁判所は合意が本当に当事者全員の真意によるものであるかどうかを審理します。真意でないと判断されると許可されないので、必ずしも許可が降りるとは限りません。
家庭裁判所において許可が認められ、審判が確定したら合意の効力が発生します。
遺留分に関する民法特例、事業承継は弁護士へ相談を
遺留分に関する民法の特例を適用できると、遺留分トラブルを防ぎやすくなって円滑な事業承継に役立ちます。ただし一定の要件を満たす必要があり、必ずしもすべての事案で特例を適用できるわけではありません。また手続き的にも複雑なので、ご自身たちだけで進めるのは難しいでしょう。
事業承継は、弁護士などの専門家へ相談しながら進めるのが得策です。推定相続人による合意の取り付けや書面作成、経済産業大臣での確認や家庭裁判所の許可手続きもスムーズに進められるものです。
事業承継を検討されているなら、お早めに相続や企業法務、事業承継対策に力を入れている弁護士へ相談してみてください。
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