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弁護士コラム
株式相続後の株主総会訴訟とは?不存在・取消し・代表訴訟について解説
- 相続税・事業承継対策
- 投稿日:2026年04月17日 |
最終更新日:2026年04月17日

- Q
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父が亡くなり、非上場株式の15%を相続しました。しかし、会社を経営する兄がやりたい放題の状況です。株主総会を開催していないにもかかわらず、親族を取締役として登記したり、私にだけ招集通知を送らずに決議を行ったりしています。
さらに、会社の不動産を安値で自分に売却しており、明らかに会社に損害が出ているのに、他の取締役は誰も責任を追及しようとしません。株主として、どのように対抗すればよいのでしょうか。
- Answer
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株主総会が開催されていないのに虚偽の役員選任登記がなされた場合は「株主総会決議不存在確認の訴え」(会社法830条1項)、特定の株主を排除してなされた決議には「株主総会決議取消しの訴え」(会社法831条1項)の提起を検討します。また、取締役の不正行為による会社の損害には「株主代表訴訟」(会社法847条)の提起を検討することになります。
株主総会決議不存在確認の訴えには提訴期限がありませんが、株主総会決議取消しの訴えは決議の日から3か月以内に提起する必要があります。この訴訟で勝訴すれば、不当な決議が取り消され、虚偽の登記が抹消されます。
また、株主代表訴訟は、会社に対して提訴請求をし、60日以内に会社が訴えを提起しない場合に提起できます。この訴訟で勝訴すれば会社は任務懈怠等をした役員に対して損害賠償請求をすることが認められます。
株主の権利を守るためには、証拠収集と適切な訴訟の選択が重要です。この記事では、各訴訟の要件・手続き・注意点について、具体的な事例と判例を交えて詳しく解説します。
監修:弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田 直彦
相続によって非上場株式を取得した方が、経営陣の不正や不適切な会社運営に直面した場合、適切な権利行使をするためには法的対抗手段を理解しておくことが大切です。
特に、株主総会決議取消しの訴えには3か月という厳格な提訴期限があるため、迅速な判断と行動が求められます。
本記事では、株主総会決議に瑕疵がある場合や取締役の不正行為に対して法的措置を検討している株主の方に向けて、対応方法を紹介します。
目次
経営陣の不正・瑕疵に対抗する3つの株主訴訟
相続によって非上場株式を取得した株主が、経営陣による不適切な会社運営に直面した場合、法的に対抗する手段として主に以下の訴訟があります。
- 株主総会決議不存在確認の訴え
- 株主総会が実際には開催されていないにもかかわらず、虚偽の議事録により取締役選任等の登記がなされたケースに対応します。
- 株主総会決議取消しの訴え
- 株主総会の招集手続や決議方法に法令・定款違反がある又は著しく不公正な場合等に、決議の取消しを求めます。
- 株主総会決議無効確認の訴え
- 株主総会決議の内容は法令に違反する場合に、決議の無効の確認を求めます。
- 株主代表訴訟
- 取締役が会社に損害を与えたにもかかわらず、会社が責任追及をしない場合に、株主が会社に代わって取締役を訴えます。
この章では、「株主総会決議不存在確認の訴え」「株主総会決議取消しの訴え」「株主代表訴訟」について解説していきます。
株主総会決議不存在確認 vs 取消し vs 株主代表訴訟の違い
これらの訴訟は、それぞれ異なる状況で使い分ける必要があります。
まず、株主総会決議不存在確認の訴えは、決議自体が法的に「存在しない」状態を確認するもので、提訴期限がありません(会社法830条1項)。
次に、株主総会決議取消しの訴えは、決議に手続上の瑕疵がある場合等に用いられ、決議の日から3か月以内という厳格な提訴期限があります(会社法831条1項)。
そして、株主代表訴訟は、取締役の任務懈怠等による会社の損害を回復するための手段です(会社法847条)。
株主総会決議不存在確認・株主総会決議取消し・株主代表訴訟の違いを以下の表で比較してみましょう。
| 株主総会決議不存在確認 | 株主総会決議取消し | 株主代表訴訟 | |
| 要件 | 決議が存在しないこと (株主総会が開催されていない、または手続的瑕疵が著しい) | ・招集手続、決議方法の法令/定款違反、著しい不公正 ・決議内容の定款違反 ・特別利害関係株主の議決権行使による著しく不当な決議 | ・取締役等の任務懈怠等により会社が損害を被ったこと ・会社への提訴請求をしたにも関わらず会社が訴訟提起しないこと |
| 提訴期限 | なし | 決議の日から3か月以内 | 提訴請求を受けた日から60日以内 (会社が訴訟提起しない場合) |
| 被告 | 株式会社 | 株式会社 | 取締役等 |
| 効果 | ・対第三者効(会社法838条) ・登記抹消 | ・対第三者効(会社法838条) ・登記抹消 | 会社への損害賠償 |
「決議不存在確認の訴え」と「決議取消しの訴え」は、いずれも被告を株式会社とし、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に提起します(会社法834条10号、835条)。訴額は、一つの決議ごとに160万円として算定されます。
一方、「株主代表訴訟」は取締役個人を被告とし、株主が会社に代わって損害賠償を請求する点で大きく異なります。
訴訟の選定基準
訴訟を選択する際は、まず争いたい事項の性質を見極めることが重要です。
株主総会決議に関する問題
株主総会が開催されていない場合には、株主総会決議不存在確認の訴えを検討します。
株主総会は一応開催されているものの、手続き的な瑕疵が著しい場合には、株主総会決議不存在確認の訴えを検討することもありますが、まずは提訴期限のある決議取消しの訴え(3か月以内)を検討するのが一般的です。
この提訴期限を過ぎてしまった場合には、株主総会決議不存在確認の訴えを検討します。
取締役の不正行為に関する問題
取締役の不正行為による損害がある場合は、株主代表訴訟の提起を検討すべきでしょう。
複数の問題が併存する場合
複数の問題が同時に存在する場合は、訴訟を併合して審理することで、訴訟経済の観点からも効率的な解決が図れます。
例えば、株主総会を開催せずに取締役が選任され、当該取締役によって招集された株主総会で重任した場合、先行する取締役選任決議の不存在確認の訴えと、その後の重任決議の不存在確認の訴えを併合審理することで、先行決議の訴えの利益が維持されます(最判平成11年3月25日)。
提訴の前に確認すべきこと(株主名名簿・証拠・持株比率)
訴訟を提起する前に、以下の3点を必ず確認しておく必要があります。
株主名簿の確認
株主名簿に自分の名前が正確に記載されているかを確認します。
相続により株式を取得した場合、相続手続が完了し、株主名簿の名義書換がなされていることが訴訟提起の前提となります。
証拠の収集
訴訟において主張する事実を裏付ける証拠を事前に収集します。具体的には、株主総会議事録、取締役会議事録、会計帳簿、登記事項証明書、契約書類などです。
会社法433条に基づく会計帳簿閲覧請求権や、会社法318条・322条に基づく議事録閲覧権を活用することができます。
持株比率と株式保有期間の確認
自分の持株比率を正確に把握します。株主代表訴訟の提訴請求には非公開会社の場合、株式の継続保有は要件になりません(会社法847条2項)が、公開会社の場合は6か月以上の継続保有が要件となります(会社法847条1項)。
また、持株比率によっては、決議取消しの訴えが裁量棄却される可能性も考慮する必要があります。
訴訟前に検討すべき他の手段(検査役・仮処分)
株主の目的を実現するために、これらの訴訟以外になすべき適切な手段がないか検討することも大切です。
株主総会決議の無効確認の訴え
株主総会決議の内容が法令に違反する場合であれば、株主総会決議の無効の確認を求める訴えをします。
例えば、財源規制に反する余剰金配当決議や、自己株式取得決議などがされた場合です。
検査役の選任申立て
会社の業務および財産の状況を調査するべき場合には、裁判所に検査役の選任を申し立てることができます(会社法358条)。
検査役の調査により、会社の不正行為や取締役の任務懈怠の事実を客観的に明らかにすることができるため、株主代表訴訟の前の証拠収集手段ともなり得ます。
仮処分(株主総会開催禁止・職務執行停止)
株主総会が開催される前であれば株主総会開催禁止の仮処分、権限のない取締役等による職務執行を停止したい場合には職務執行停止の仮処分を申し立てることも検討します。
ただし、株主総会開催禁止仮処分に違反して開催された株主総会における決議の効力については、裁判例で見解が分かれています(浦和地裁平成11年8月6日判決は不存在と判示、大阪高裁昭和58年6月14日判決は不存在を認めず)。
訴訟①:株主総会決議不存在確認の訴え
株主総会決議不存在確認の訴えは、株主総会決議が法的に「存在しない」ことの確認を裁判所に求める訴えです(会社法830条1項)。
実際には株主総会が開催されていないにもかかわらず、虚偽の株主総会議事録によって取締役選任等の登記がなされたケースが典型例です。この訴えは、決議取消しの訴えと異なり、提訴期間(出訴期間)の制限がないため、決議から長期間経過した後でも提起することができます。
決議不存在が認められるケース
決議不存在が法的に認められるのは、主に2つのパターンがあります。
株主総会が実際には開催されていない場合
株主総会が実際には開催されていないにもかかわらず、決議がなされたかのような外観(議事録作成・登記)が存在する場合です。
中小企業においては、株主総会が開催されていないにもかかわらず、虚偽の株主総会議事録を作成して、取締役の就任登記を行い、取締役としての業務執行を行っていることがあります。
このような場合、株主は訴えをもって、決議が存在しないことの確認を請求することができます(会社法830条1項)。
手続的瑕疵が著しく決議の存在が否定される場合
株主総会らしきものはあるものの、その決議に至るまでの手続的な瑕疵が著しく、法的に決議が存在すると評価できない場合には、決議不存在として扱われます。
判例・裁判例において決議不存在が認められた事情としては、以下のようなものがあります。
- 代表取締役でない者が株主総会を招集した事案(札幌高判昭和55年9月30日、最判45年8月20日
- 議長の資格のない者によって採決が行われた事案(東京地判平成23年1月26日)
- 継続会の会場が変更された後、当初の会場に一部株主が集合して決議した事案(東京地判昭和30年7月8日)
- 約47%の株式を保有する株主が会場の変更を拒む中、総会の会場を直前に変更し、当該株主の出席なく決議がなされた事案(大阪高判昭和58年6月14日)
訴訟手続の概要と被告
株主総会決議不存在確認の訴えは、被告を当該株式会社とし(会社法834条10号)、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に提起する必要があります(会社法835条)。
訴額は、一つの決議ごとに160万円として算定され、同一の決議で数名の役員が選任されたことになっている場合については、1個の決議と数えます。
代表取締役の取締役選任決議の不存在が主張されている場合、訴訟において誰が株式会社を代表すべきかが問題となります。その場合は、代表取締役として登記されている者を代表者とすべきと解されています(大阪高決昭和49年9月10日)。
株主総会決議不存在確認の訴えにおける請求認容判決が確定した場合、第三者に対しても効力が及びます(会社法838条)。また、不存在が確認された決議事項について登記があれば、裁判所書記官は、株式会社の本店所在地の登記所にその登記の抹消等を嘱託することになります(会社法937条1項1号)。
訴訟中に新たな決議がされた場合の注意点
取締役の選任決議が不存在である場合、同決議により選任された取締役が招集手続に関与して行われた取締役の重任についての株主総会決議も、原則として不存在となります(最判平成2年4月17日)。
ただし、重任を認める株主総会に、株主全員が出席していた場合など特段の事情がある場合は株主総会招集手続の瑕疵が治癒される可能性があります(最判昭和60年12月20日)。
そのため、取締役重任決議の不存在確認の訴えに、先行する当該取締役の選任決議の不存在確認請求の訴えが併合されている場合、後行の株主総会決議が全員出席総会であるなどの特段の事情がない限りは、先行する取締役の選任決議の不存在確認の訴えの利益は、認められることになります(最判平成11年3月25日、最判令和2年9月3日参照)。
したがって、訴訟係属中に重任決議がなされたとしても、当該取締役重任決議の不存在確認の訴えを提起するとともに、先行する取締役選任決議の不存在確認の訴えとの併合を求め、両訴訟を併合させておけば、特段の事情がない限り訴えの利益は否定されないといえるでしょう。
不存在確認訴訟のメリット・デメリット
不存在確認訴訟には、提訴期限がないという大きなメリットがあります。株主総会決議取消しの訴えのような出訴期間の制限がないため、決議から長期間経過した後でも提起が可能です。
また、請求認容判決が確定した場合、第三者に対しても効力を有し(会社法838条)、虚偽の登記が抹消されます。
一方、デメリットは、株主総会が開催されていないことや手続的瑕疵が著しいことを立証する必要があり、証拠収集の負担が大きくなる点です。また、適用範囲が限定的であり、単なる手続上の瑕疵では不存在とは認められず、著しい瑕疵がある場合に限定されます。
訴訟②:株主総会決議取消しの訴え
株主総会決議取消しの訴えは、株主総会の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき、株主総会の決議の内容が定款に違反するとき、株主総会の決議について特別な利害関係を有する株主が議決権を行使したことによって、署しく不当な決議がされたとき、その決議の取消しを求める訴えです(会社法831条1項)。
特定の株主に意図的に招集通知を送らず、その株主を排除して行われた決議が典型例です。この訴えは、決議の日から3か月以内に提起しなければならないという、厳格な出訴期間の定めがあります。
決議取消事由となる3つのケース
株主総会決議の取消事由として、会社法831条1項に定められる3つの類型があります。
① 招集手続または決議方法の法令・定款違反、著しい不公正
【招集手続の法令違反の例】
- 代表取締役による有効な取締役会決議に基づかない株主総会の招集
- 株主に対する招集通知漏れ
- 招集の通知期間の不足
【決議の方法の法令違反の例】
- 株主総会における説明義務違反
- 議決権行使の妨害
- 取締役設置会社における招集通知に記載のない事項の決議
【決議の方法の著しい不公正の例】
- 出席困難な時刻や場所での株主総会の招集
② 決議内容の定款違反
株主総会の決議内容が定款に違反する場合も、取消事由となります。
なお、決議内容の法令違反は、株主総会決議無効確認の訴えの対象となります。
③ 特別利害関係株主の議決権行使による著しく不当な決議
株主総会の決議について、特別な利害関係を有する株主が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされた場合も取消事由となります。
例えば、責任を追及されている取締役が株主として議決権行使して行われた責任の一部免除決議(会社法425条1項)の成立などがあります。
訴えが棄却される可能性(裁量棄却)
株主総会取消しの訴えが提起され、株主総会の招集手続または決議の方法が法令または定款に違反している場合であっても、裁判所が請求を棄却できる「裁量棄却」の制度があります(会社法831条2項)。裁量棄却が認められるためには、「違反する事実が重大でなく」かつ「決議に影響を及ぼさない」と、裁判所が認める場合であることが必要です。
裁量棄却についての判例としては、招集通知の欠陥等があった株式数が1%に満たない事案で、決議に影響を及ぼさないとして裁量棄却を認めたものがあります(最判昭和37年8月30日)。他方、招集通知の欠陥等があった株式数が5分の1弱で、かつ決議が僅差でなされた事案について、裁量棄却は認められませんでした(京都地判平成元年4月20日)。
仮に招集通知の欠陥があった株式数が5%の事例では、違反する事実が重大とはいえず、かつその株主が出席しても(残り95%が賛成しているため)決議結果に影響しないと判断され、裁量棄却となる可能性があります。
なお、招集通知の欠陥等があった株式数の割合が高い場合、株主総会決議不存在確認の訴えを提起すべきケースがあります。一般的には、招集通知の欠陥があった株式数が2割に満たないような場合は決議取消事由があるにすぎず、4割を超えるような場合は決議自体が不存在になると解されています。
また、欠陥のあった株式数のみでは判別しがたいような場合、会社側の主観的意図も考慮し、その瑕疵が著しいといえる場合には決議不存在といえる場合もあります。
提訴できる者と提訴期限(3か月)の起算点と注意点
株主総会決議取消しの訴えを提起できるのは、(監査役設置会社の場合)株主・取締役・監査役(監査の範囲が会計に関するものに限定された者は除く)です。株式の継続保有の要件は設けられておらず、株主になればすぐにでも訴えを提起することが可能です。
また、平成26年改正会社法により決議の取消しにより、株主となる者(キャッシュアウトで株主でなくなった者)並びに取締役、監査役及び清算人となる者にも原告適格が認められました(831条1項)。
株主総会決議取消しの訴えは、株主総会の決議の日から3か月以内に提起する必要があります(会社法831条1項)。この3か月は、株主総会が開催された日を起算点とします。
株主が決議の存在を知らなかった場合でも、この期間制限は適用されます。つまり、決議の日から3か月が経過すれば、たとえ株主が決議の存在を知らなかったとしても、取消しの訴えを提起することはできなくなります。
取消訴訟の準備手順
株主総会決議取消しの訴えを準備する際は、以下の手順で進めます。
- 議事録の入手
まず、株主総会議事録の閲覧・謄写請求を行います(会社法318条)。議事録により、決議の内容、出席者、議事の経過などを確認します。 - 内容証明郵便による通知
訴訟提起前に、会社に対して内容証明郵便で決議の瑕疵を指摘し、是正を求めることも検討します。これにより、訴訟前の交渉による解決の可能性を探ります。 - 証拠の収集
招集通知の有無、通知の到達日、決議方法の違法性などを立証するための証拠を収集します。会計帳簿の閲覧請求(会社法433条)や取締役会議事録の閲覧請求(会社法371条)も活用します。 - 提訴
決議の日から3か月以内に、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に訴えを提起します。訴額は一つの決議ごとに160万円です。
訴訟③:株主代表訴訟
株主代表訴訟は、取締役等が会社に損害を与えたにもかかわらず、会社(他の取締役や監査役)がその責任を追及しない場合に、株主が会社に代わってその取締役等を訴える訴訟です(会社法847条)。
取締役の任務懈怠責任を追及するケースが典型です。例えば、代表取締役が会社の不動産を時価より安価で当該代表取締役自身に売却するという利益相反行為により、会社に損害を与えた場合などが該当します。
株主代表訴訟の提訴要件と手続き
株主代表訴訟を提起するための前提条件として、まず会社に対し、責任追及の訴えを提起するよう書面または電磁的方法により請求(提訴請求)しなければなりません(会社法847条1項、会社法規則217条)。この請求を「提訴請求」といいます。
公開会社の場合、提訴請求を行うには6か月前から引き続き株式を有している株主でなければできません(会社法847条1項)。
一方、非公開会社についてはこのような株式保有要件は要求されず、株主になればすぐに提訴請求を行うことができます(会社法847条2項)。
提訴請求では、書面等において、誰に対し、どのような事実・事項についての責任追及が求めているのか、会社が判断できる程度に記載しておく必要がありますが(会社法規則217条)、請求原因事実を漏らさず記載することまでは求められていません。
会社が提訴請求を受けた日から60日以内に訴えを提起しなければ、株主は株主代表訴訟を提起することができます(会社法847条3項)。訴えの提起については、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に行います(会社法848条)。
必要となる印紙代は、一律13,000円です(会社法847条4項、民事訴訟費用等に関する法律別表第1)。
提訴請求の名宛人(請求先)
提訴請求書の送付先は会社の組織構造によって異なります。
監査役設置会社(会社法2条9号)であれば監査役に対して行います。それ以外の会社であれば代表取締役又は取締役・会社間訴訟で会社を代表する権限を有する者(会社法353条、364条)に対して行います。
ただし、監査役が置かれていても監査役の権限が会計監査に限定されている場合は、監査役設置会社に該当せず、代表取締役等に対して提訴請求を行います。
なお、公開会社・監査役会設置会社・会計監査人設置会社では監査役の権限を会計監査に限定できません。そのため、提訴請求は監査役に対して行います。また、特例有限会社の監査役は常に会計監査限定のため代表取締役等に対して提訴請求をします。
非公開会社で監査役が置かれている場合、平成27年5月1日以降に監査役が就任又は再任していれば監査役の権限が会計監査に限定されているか否かを登記簿で確認できます。しかし、それ以前の就任等の場合は定款を確認する必要があります。
名宛人を誤った場合、原則として有効な提訴請求とは認められませんが、本来の提訴請求を受けるべき者が内容を認識し判断機会があった場合は、例外的に適法と認められる可能性があります(最高裁平成21年3月31日判決)。
会社(被告取締役)から予想される反論
株主代表訴訟が提起された場合、被告側から主張される可能性のある主な反論が3つあります。
提訴権の濫用の主張
訴訟提起が訴訟を提起した株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は会社に損害を加えることを目的とする場合、権利濫用として不適法となり訴えが却下されます(会社法847条1項ただし書)。
しかし、内紛・売名等の動機による提起でも直ちに権利濫用とはいえず(東京高裁平成元年7月3日判決)、金銭喝取等の不当な個人的利益獲得の意図がある場合(長崎地裁平成3年2月19日判決)など限定的な場合でない限り、却下されることはありません。
担保提供の申立て(立担保の申立)
取締役等が悪意による訴え提起として会社法847条の4第2項に基づき担保提供を申し立てることがありますが、裁判所が担保を命ずるには、取締役等の側で悪意を疎明(証明より低いレベルの立証)する必要があります(会社法847条の4第3項)。
悪意とは、株主の請求に理由がなくそれを知って提訴する場合や、不法不当な利益獲得を目的とする場合など限定的に解されており、単に株主間の対立があるだけでは担保提供は命じられません。
会社による被告側へ訴訟参加
株主が会社のために提起するのが株主代表訴訟ですが、少数株主が、多くの株式を有する取締役に代表訴訟を提起したようなケースでは、会社が被告である取締役側に補助参加することが考えられます。
このような場合、株主の訴訟遂行に会社が協力してくれることは考えが難いので、自ら証拠収集していく必要があります。
代表訴訟で請求できる損害賠償の範囲
株主代表訴訟において請求できるのは、取締役の任務懈怠等により会社が被った損害の賠償です。
損害賠償金は会社に支払われるため、株主が直接金銭を受け取ることはできません。ただし、会社の損害が回復されることで、会社の財産状態が改善され、結果的に株主の利益にも反映されます。
取締役の利益相反行為による損害の典型例としては、例えば、会社の不動産を市場価格1億円のところ、取締役に3,000万円で売却し、差額の7,000万円が会社の損害となったようなケースです。この場合、株主代表訴訟により、取締役に対して会社への7,000万円の損害賠償を請求できます。
弁護士に依頼するメリット(証拠収集・訴訟遂行)
株主代表訴訟は法的に複雑な手続きを要するため、弁護士に依頼することで大きなメリットがあります。
証拠収集のサポート
弁護士に依頼することで、以下のような証拠を法的権利を適切に行使して収集することができます。
- 会社法に基づく会計帳簿の閲覧請求
- 株主総会議事録や取締役会議事録の閲覧請求
また、提訴請求に対して会社が不提訴通知を行った場合、その理由を分析して訴訟戦略を立てることができます。
訴訟遂行の専門性
訴訟の遂行にあたっては、にあたっては、専門的な法的知識と経験に基づく対応が求められますが、弁護士に依頼することで以下のような法的主張を適切に行うことができます。
- 取締役の任務懈怠の立証
- 因果関係の証明
- 損害額の算定 など
また、被告側からの提訴権濫用の主張や立担保の申立てに対して、適切に反論することができます。
和解交渉への活用
弁護士に依頼することで、株主代表訴訟を通じて、株式の買取りや経営権の移譲などを含む和解交渉を有利に進めることができます。訴訟は最終的な解決手段ですが、和解による円満な解決も視野に入れた戦略的な対応が可能です。
不正を追及する前に行うべき調査・証拠収集
訴訟を提起する前に、十分な証拠を収集しておくことが訴訟の成否を左右するため、以下の調査・証拠収集を行うべきです。
会計帳簿閲覧請求(会社法433条)
株主は、総株主の議決権の3%以上の議決権を有する株主または発行済株式の分の3%以上の株式を有する株主は、会社の営業時間内はいつでも、会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧または謄写の請求をすることができます(会社法433条1項)。
会計帳簿の閲覧または謄写により、会社の取引詳細・資金の流れ・不自然な支出などを確認できます。
取締役会議事録・株主総会議事録の確認
株主は、株主総会議事録の閲覧または謄写を請求できます(会社法318条)。
また、取締役会議事録についても、株主は閲覧又は謄写を請求できます(会社法371条)。ただし、監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社については、裁判所の許可が必要です。
これら議事録の閲覧や謄写により、決議の内容・手続きの瑕疵・利益相反取引の承認の有無などを確認できます。
登記事項証明書の取得
法務局で会社の登記事項証明書を取得し、取締役等の登記内容・資本金の変動・本店所在地の変更などを確認します。
虚偽の登記がないか、登記と実態が一致しているかを検証します。
不動産売買契約書の収集
会社の不動産が取締役に売却された場合、売買契約書を入手します。なお、会計帳簿の元となる書類であれば、契約書が会計帳簿閲覧謄写権の対象となります。
契約書には、売買価格・取引日・当事者などが記載されており、市場価格との比較により不当な価格での取引を立証できます。
取締役等と会社間の資金動向の確認
冒頭のQのように代表取締役である兄が会社を経営している場合、会計帳簿や銀行の取引明細から、兄と会社の間の資金移動を追跡します。「兄への不当な役員報酬の支払い」「兄が関連する取引での会社資金の流出」「兄への貸付金や立替金の不自然な増加」「会社の不動産を安値で兄に売却した取引」などがあれば、任務懈怠の証拠となります。
特に、会社資金が兄個人や兄の関係先に不当に流れていないか、詳細な確認が必要です。
解決例(会社資産を取締役が安値で購入していた場合)
冒頭の相談事例のように、代表取締役が会社の不動産を市場価格よりも著しく安い価格で自分に売却した場合、取締役の任務懈怠責任(会社法423条)に基づき、株主代表訴訟で追及できる可能性があります。
事例の整理
会社所有の不動産の市場価格が1億円であるにもかかわらず、代表取締役である兄が3,000万円で自分に売却した場合、差額の7,000万円が会社の損害となります。
取締役の法的責任(違反の内容)
このような事案では、取締役に次のような違反が生じている可能性があります。
- 任務懈怠責任(会社法423条)
取締役は、会社に対して善管注意義務を負っています(会社法330条、民法644条)。会社の不動産を市場価格より著しく安い価格で自分に売却する行為は、会社の利益を犠牲にして自己の利益を図るものと解されます。
そのため、善管注意義務に違反し、任務懈怠に該当する可能性があります。
- 特別利害関係人取引の違法性
取締役が会社との間で取引を行う場合(利益相反取引)、取締役会の承認を得る必要があります(会社法356条1項2号、365条)。
取締役会の承認を得ずに利益相反取引を行った場合、その取引は無効となり、取締役は会社に対して損害賠償責任を負います(会社法423条)。
株主による解決手段
このような取締役の違反に対して、株主は次のような方策で解決を図ることが考えられます。
- 株主代表訴訟の活用
会社が取締役の責任を追及しない場合、株主は会社に対して提訴請求を行い、会社が60日以内に訴訟を提起しなければ、株主代表訴訟を提起できます(会社法847条)。
- 取締役への損害賠償請求
株主代表訴訟で勝訴した場合、取締役は会社に対して差額の7,000万円を損害賠償として支払う義務を負います。
損害賠償金は会社に支払われ、会社の財産状態が改善されることで、結果的に株主の利益にも反映されます。
- 会社が動かない場合の株主の権限
会社が取締役の不正行為を放置している場合でも、株主は自ら訴訟を提起することで、会社の利益を守ることができます。
また、訴訟を通じて株式の買取交渉や経営権の移譲などを、有利に進めることも可能です。
よくある質問(Q&A)

株主総会の訴訟に関するよくある質問と回答をまとめました。
- Q
- 開催されていないはずの株主総会決議で選任されたという取締役が登記されています。どうすればよいですか?
- Answer
-
株主総会が実際には開催されていないにもかかわらず、虚偽の議事録により取締役選任等の登記がなされた場合、株主総会決議不存在確認の訴えを提起できます(会社法830条1項)。
この訴えには提訴期限がないため、登記から長期間経過した後でも提起が可能です。請求が認容されれば、裁判所書記官の嘱託により虚偽の登記が抹消されます(会社法937条1項1号)。
- Q
- 私だけ株主総会に呼ばれませんでした。この決議は無効にできますか?
- Answer
-
特定の株主に招集通知を送らずに行われた決議は、決議の日から3か月以内であれば、招集手続の法令違反として株主総会決議取消しの訴えを提起できます(会社法831条1項)。
しかし、招集されなかった株主の持株比率が低く、その株主が出席しても決議結果に影響しない場合は、裁量棄却される可能性もあります(会社法831条2項)。
他方、排除された株式数が多い場合(4割超)は、決議不存在確認の訴えも検討できます。
- Q
- 決議取消しの訴えには期限があると聞きましたが、いつまでですか?
- Answer
-
株主総会決議取消しの訴えは、決議の日から3か月以内に提起する必要があります(会社法831条1項)。この期間を過ぎると、たとえ決議に瑕疵があったとしても、取消しの訴えを提起することはできなくなります。
株主が決議の存在を知らなかった場合でも、この期間制限は適用され、期限が過ぎている場合は、決議不存在確認の訴えが提起できないか検討が必要です。
- Q
- 取締役が会社に損害を与えているのに、誰も責任を追及しません。株主として何ができますか?
- Answer
-
会社が取締役の責任を追及しない場合、株主代表訴訟を提起できます(会社法847条)。
まず、会社に対して書面等で責任追及の訴えを提起するよう請求し(提訴請求)、会社が60日以内に訴訟を提起しなければ、株主自ら取締役を訴えることができます。
非公開会社の場合、6か月の株式保有要件は不要です(会社法847条2項)。勝訴すれば、取締役は会社に損害賠償を支払う義務を負い、会社の財産状態が改善されます。
東京都千代田区の相続に強い弁護士なら直法律事務所
相続により非上場株式を取得した株主が経営陣の不正に直面した場合には、「株主総会決議不存在確認の訴え」「株主総会決議取消しの訴え」「株主総会決議無効確認の訴え」「株主代表訴訟」などの法的手段が認められています。
不存在確認の訴えは提訴期限がなく虚偽の登記などに有効であり、無効確認の訴えは決議内容が法令違反の場合に対応し、取消しの訴えは決議の日から3か月以内の期限のもと手続的瑕疵などに対応します。また、株主代表訴訟は取締役の任務懈怠等による会社の損害回復を目的とする制度です。
これらの手段を適切に行使するためには、会計帳簿や株主総会議事録・取締役会議事録の閲覧・謄写、登記事項証明書の取得などを通じて、事前に十分な証拠を収集することが重要です。特に、資金の流れを把握し、不正行為や決議の瑕疵を立証する証拠を確保することが勝訴につながるポイントです。
株主総会訴訟や株主代表訴訟は法的に複雑な手続きを伴うため、弁護士などの専門家に相談することで、証拠収集や訴訟戦略の立案、反論対応を含めた適切な対応が可能となります。
直法律事務所では、証拠収集から訴訟戦略の立案、決議不存在確認の訴え・決議取消しの訴え・株主代表訴訟の提起まで、一貫してサポートいたします。まずは一度ご相談ください。
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