東京都千代田区の遺産相続に強い弁護士なら直法律事務所 相続レスキュー

columns
弁護士コラム

非上場株式の代償金が払えない場合は?資金調達と経営権維持の方法を解説

相続税・事業承継対策
投稿日:2026年02月10日 | 
最終更新日:2026年02月10日

Q
亡くなった父の遺産分割について協議していますが、遺産の大部分は、父と私が経営している会社の株式が占めています。私は父と一緒に会社を経営してきたため、経営権を安定させるためにも株式をすべて相続したいと考えています。

しかし、父の遺産は、預貯金や現金がわずかにあるだけで、私自身も法定相続分に相当する数千万円の代償金を母や弟へ支払う余力がありません。このまま代償金を準備できなければ、母や弟にも株式が分散してしまうため、会社の経営に口出しされないか、取締役を解任されないか、持株比率が下がって経営が不安定にならないかと不安です。

現金がなくても株式を単独で相続する方法はあるのでしょうか。
Answer
法定相続分を越える額の財産を相続するために、他の相続人に代償金を支払う形で遺産分割をする方法を代償分割と言います。遺産の大部分を占める非上場株式をすべて単独で相続する場合、他の相続人に納得してもらうためには代償金の支払いが必要となることが多いです。

相続人自身の財産から代償金を捻出できない場合、会社から代償金の原資を調達する方法も検討してみましょう。会社からの金銭の貸付けを受けること(役員貸付け)や、株式を会社に売却しその対価を代償金に回す方法を使えば、個人の預貯金だけに頼らずに代償金を支払うことが可能になります。

また、万が一株式が兄弟に分散しても、相続人間で株主間契約を締結する方法や他の株主の株式を無議決権株式にする方法により、議決権を後継者に集中させ、取締役の地位を安定させることもできます。


この記事では、代償金の資金調達の仕組みと注意点、株式が分散した場合の経営権維持の方法を、事例を交えてわかりやすく解説します。

監修:弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田 直彦

非上場株式を含む遺産を分割する場合、遺産に占める株式の割合が高いと、現物分割が困難となり、代償分割をしようとしても代償金の原資調達に悩むケースが少なくありません。
 
事業を引き継ぐ後継者にとっては、資金確保と経営権維持を両立させることが大きな課題となります。
 
本記事では、個人の資金が乏しい場合でも代償金を準備する方法や、株式が分散した際に経営を安定させるための仕組みについて、実務に基づいてわかりやすく解説します。

非上場株式の相続と代償金問題とは

代償分割とは、特定の相続人が遺産の現物(不動産や株式など)を単独で取得する代わりに、他の共同相続人に対して代償金を支払うことで、各相続人の相続分に応じた公平な清算を図る遺産分割の方法です。代償金は、原則として相続開始時における現物の評価額に基づき、取得した現物の価額と本来の相続分の差額を清算する形で算定されます。

代償分割を行う場合、贈与税や譲渡所得税が課税されないよう注意しておく必要があります。遺産分割協議書に代償分割を行う旨が明確に記載されていない場合や、代償金の金額が必要以上に大きい場合などには、贈与とみなされ贈与税がかかるリスクがあります。

また、代償金を金銭ではなく現物で払った場合、その資産の移転があったものとみなされ、譲渡所得税の課税対象になってしまう場合があります。

代償分割は、遺産分割協議では相続人の合意により自由にできます。一方、家庭裁判所の遺産分割審判などでは、現物分割が不可能などの特別な事由があること、適正な額の代償金の支払能力があることなどの要件を満たしていなければ、代償分割は認められません。

被相続人が自社の非上場株式を保有しており、遺産のほとんどが株式である場合、代償分割の必要性が高くなります。経営後継者である特定の相続人が自社株をすべて相続しなければ、経営が不安定になってしまうからです。後継者が株式を相続して他の相続人に代償金を支払えば、公平な遺産分割ができます。

しかし、非上場株式の価値が高い場合、他の相続人に支払う代償金の原資が不足しがちです。

例えば、遺産総額が1億2,000万円でその内訳が「自社株式1億円」と「預貯金2,000万円」という構成で、相続人が配偶者と子2人(長男、次男)である場合、法定相続分によれば、配偶者6,000万円、長男・次男各3,000万円が取り分となります。後継者である長男が株式をすべて取得するには、母と弟に計7,000万円を代償金として支払う必要がありますが、それだけの資力がないことも多いはずです。

このように、非上場株式の相続では、代償金の支払原資の不足・株式分散による経営権の不安定化という2つの問題に直面することが多くなります。

代償金の支払原資を確保する2つの方法

非上場株式を単独で相続したい後継者にとって最大の課題は、代償金をどう確保するかです。個人の貯蓄だけでは賄えない場合、経営する会社の資金を適法に活用して原資を調達する方法が現実的です。

代表的な方法として、以下の2つが挙げられます。

  1. 1会社から借入れ(役員貸付け)を行う方法
  2. 2会社に自己株式を取得させる方法

これらはいずれも、相続人個人ではなく会社の財産を使って代償金の支払原資を作るアプローチであり、後継者に株式を集中させ、経営権を維持するために極めて有効です。

なお、代償金額を決定する際には、非上場株式の評価方法について相続人間で争いとなることが多いため、客観的な評価手続きを踏まえることが重要です。

以下では、それぞれの方法の仕組みと法的な注意点について具体的に解説します。

方法1:会社から借入れ(役員貸付け)を行う

会社から後継者が金銭を借り入れ、その金銭を代償金の支払いに充てる方法です。後継者自身の預貯金が不足していても、会社に一定の財産があれば代償金を確保できるため、現実的な選択肢となります。返済方法としては、毎月の役員報酬の一部を返済に充てるケースが多く、長期的に無理のない設計が可能です。

しかし、会社から取締役が金銭の貸付けを受ける行為は「利益相反取引」に該当します。手続きを誤ると無効となったり、株主・他の取締役から問題視されたりするので注意が必要です。取締役会非設置会社の場合は株主総会の承認決議が、取締役会設置会社の場合は取締役会の承認決議が必要となります。

遺産分割の結果、後継者が唯一の株主となる場合には、この承認決議はスムーズに行うことができるでしょう。

会社からの借入れは即時に資金を調達できる有力な手段ですが、返済計画や会社の財務状態とのバランスを踏まえ、無理のない範囲で実施することが重要です。

方法2:会社に自己株式を取得させる

後継者が相続した株式の一部を会社に買い取らせ、その売却代金を代償金の支払いに充てる方法です。後継者の個人資金を使わずにまとまった原資を確保できるため、役員貸付けと並んで実務で多く用いられる手法です。

会社が自社株を取得する場合には、会社法上の手続きに注意が必要です。

まず、相続人株主から自己株式を取得するには、株主総会の特別決議により、取得する株式数や取得価額の総額、取得期間などを定める必要があります。

その後、取締役会設置会社であれば取締役会が、取締役会非設置会社であれば株主総会が、取得枠の範囲内で具体的な条件(取得株式数・取得価額・申込期日など)を決定し、相続人株主に通知し、当該相続人株主から株式譲渡の申込を受けます。

なお、このように特定の株主から取得する株主総会の特別決議があった場合でも、対象外の株主は自身を売主に追加するよう請求でき、この請求権が行使された結果、取得予定の株式数を超えた場合、各株主から按分して取得することになります。

さらに重要なのが財源規制です。自己株式の取得は、会社が株主に資金を払い戻す行為に当たるため、取得に充てることができる金額は会社法上の「分配可能額」の範囲に限られます。この範囲を超えて自己株式を取得することは無効となり、役員の責任問題に発展する可能性もあります。

そのため、会社の貸借対照表や利益剰余金の状況を踏まえ、無理のない金額設定が必要です。

会社資金を活用する場合のリスクと専門家関与の重要性

役員貸付けや自己株式の取得は、後継者が代償金の原資を確保するために有効な方法ですが、いずれも法律で定められたルールに従って進めなければなりません。

まず、会社からの借入れは利益相反取引に当たり、適切な承認決議がなければ無効になるだけでなく、取締役としての責任を問われるおそれがあります。

また、自己株式の取得では、株主総会の特別決議や、取得条件の決定・通知など多数の手続きが必要となります。「分配可能額」を超える取得は会社法上認められておらず、違法となれば役員個人の賠償責任に発展する場合もあります。取得価額が不当に高い・低いと判断されれば、他の株主とのトラブルの原因にもなります。

会社の資金を活用するスキームは、慎重な手続きの実践と証拠となる資料や記録の保管が必須であり、法務・税務・会計の観点からの検証が欠かせません。後継者が安全に経営を引き継ぐためにも、事前のプランニング段階から弁護士・税理士・司法書士などの専門家に相談し、適切な手続きを踏むことが重要です。

株式分散時に経営権を維持する2つの方法

代償金の支払いが難しく、やむを得ず株式が他の相続人にも分散する場合でも、後継者が経営を安定的に続けるための方法があります。

代表的な方法として、以下の2つが挙げられます。

  1. 1株主間契約を締結する方法
  2. 2無議決権株式を利用する方法

これらは、株式の財産的価値は分散させつつも、会社の意思決定権である議決権を後継者に集中させるための仕組みであり、非常に有効な手法です。

方法1:株主間契約を締結する

株主間契約とは、特定の会社の複数の株主の間で、議決権の行使方法や株式の処分ルールについて事前に取り決める契約です。相続により株式を取得した相続人同士で株主間契約を結んでおけば、分散してしまった議決権を実質的に調整できます。

典型的な合意内容としては、取締役の選任・解任などの重要議案について、「後継者の意思に従って議決権を行使する」ことを取り決める方式があります。これにより、後継者の持株比率が過半数を下回っても、他の株主による議決権行使を統一できるため、経営権を維持しやすくなります。

株主間契約にはいくつかの留意点があります。

まず、相続が発生した場合や株式の譲渡があった場合に、契約がそのままの効力を保つかどうかは契約内容によって左右されます。

また、株主間契約に反した議決権行使があったとしても、会社の決議そのものが無効になるわけではなく、株主間契約の効力は契約をした当事者間に限定されます。契約違反が起きた場合、契約違反をした当事者へ民事上の損害賠償請求や差止め請求ができますが、会社の意思決定そのものを覆すことは難しい点を理解しておく必要があります。

とはいえ、相続により株式分散が避けられない場合、株主間契約は後継者の経営権を守る実務的な手段として非常に重要です。契約内容の作成にあたっては、将来の相続・譲渡など、株主構成が変動する場面も想定しておくことが望まれます。

方法2:無議決権株式を利用する

無議決権株式とは、その名のとおり、株主が議決権を持たない種類株式の一つで、定款の定めにより発行することができます。相続により株式が分散する場合でも、後継者以外の相続人が取得する株式を無議決権株式とすることで、会社の重要な意思決定権を後継者に集中させることが可能になります。

後継者が取得する株式は議決権付きのままとし、後継者以外の相続人が取得する株式のみを無議決権株式とする設計を用いることで、持株比率が低い場合でも、議決権を後継者に集中させ、経営権を実質的に維持することができます。

定款に種類株式についての定めがない場合、議決権のある普通株式しかない会社が一部の普通株式について無議決権株式へ変更を行うためには、以下の手続きが必要です。

  • 株主総会の特別決議により無議決権株式導入のための定款変更
    • 「発行可能な議決権制限株式の総数」「株主総会において議決権を行使することができる事項」「議決権行使の条件を定めるときはその条件」を定める必要がある
  • 内容変更に応じる株主(後継者以外の相続人)と会社の間で、後継者以外の相続人が有する株式を無議決権株式に変更する旨の合意
  • 内容変更に応じる株主(後継者以外の相続人)と同一の種類に属する他の株主の全員の同意

普通株式を無議決権株式へ変更するには、既存の株主の全員から明確な同意を得る必要があり、書面での同意取得が一般的です。なお、無議決権株式の配当を優先する配当優先株式にすることで、他の相続人の納得も得やすくなる可能性があります。

これらの手続きが整えば、後継者以外の株式はすべて無議決権株式となり、事実上、後継者が会社の議決権を独占する形になります。株式の財産的価値は相続人間で公平に分配しつつ、経営のコントロールは後継者が確保できるため、親族内承継において最も安定した手法の一つといえます。

ただし、無議決権株式であっても、議決権行使の権限が完全に排除されるわけではない点に注意が必要です。

会社が当該株式を有する株主に損害を与えるおそれがある行為を行おうとする場合、当該株主で構成される種類株主総会の決議を得る必要があります。定款で「種類株主総会の決議を要しない」旨を定めることも可能ですが、株式の種類の追加・株式の内容の変更・発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加に関する事項については、「種類株主総会の決議を要しない」旨を定めることはできません。

事前対策:遺言・株主構成の整備で防げるトラブル

非上場株式の相続では、相続開始後に代償金の不足や株式分散の問題が生じやすいため、事前に対策を講じることで多くのトラブルを防ぐことができます。特に効果的なのが、遺言の作成・株主構成の整理・事業承継計画の策定です。

まず、遺言書を作成し、後継者にどの株式をどの割合で相続させるかを明確に指定しておくことで、相続手続きがスムーズに進み、株式分散のリスクを大幅に減らすことができます。また、持株会社化の検討や後継者へ段階的に株式を移転するなど、株主構成を事前に整理することも有効です。

さらに、生前贈与や家族信託を活用すれば、株式の承継時期や議決権の管理方法を柔軟に設計することができ、経営の安定につながります。近年では、事業承継計画を作成し、相続発生後の株式移転や資金調達の方針を早期に確立しておくケースも増えています。

もっとも、これらの対策を進めるにあたっては、遺留分への配慮や特別受益に該当するかといった点への配慮も必要となります。

これらの備えは、後継者の経営権を守るだけでなく、相続人間の無用な争いを避けるためにも有効です。相続開始前の段階から専門家と連携し、会社の状況に合わせた最適な事業承継方法を検討することが重要です。

よくある質問(Q&A)

ここでは、非上場株式の相続で後継者が直面しやすい疑問に回答します。

Q
株式を全部相続したいのですが、他の相続人に払うお金がない場合はどうすればよいですか?
Answer
個人で現金を準備できない場合でも、会社の資金を活用することで代償金を確保できる可能性があります。

代表的な方法として、会社から後継者が借入れを行う方法(役員貸付け)と、会社に自己株式を取得させ、その対価を原資にする方法があります。

これらの方法を利用すれば、個人の貯蓄だけに頼らずに株式を単独で相続する道が開けます。
Q
会社からお金を借りて代償金を払う場合、法的な注意点はありますか?
Answer
取締役が会社から金銭を借り入れる行為は「利益相反取引」に該当するため、承認手続きが必要です。取締役会非設置会社では株主総会、取締役会設置会社では取締役会の承認を経る必要があります。

手続きを誤ると無効となったり、後に問題が生じたりするおそれがあるため、適正な承認と記録が不可欠です。
Q
株式を会社に買い取ってもらい、そのお金で代償金を払うことはできますか?
Answer
可能です。ただし、会社が自己株式を取得する際には、株主総会の特別決議が必要となり、取得価額・期間・株式数などを決める必要があります。

また、「分配可能額」の範囲内でなければ会社は自己株式を取得できません。会社の財務状況や利益剰余金の額を踏まえ、無理のない範囲で行うことが重要です。
Q
株式が兄弟に分散しそうですが、自分が社長を続けられるか不安です。
Answer
株式が分散しても、後継者が経営権を維持する方法はあります。代表的なのが、相続人同士で議決権行使ルールを定める「株主間契約」を結ぶ方法と、後継者以外の株式を「無議決権株式」に変更する方法です。

これにより、議決権を後継者に集中させ、持株比率が過半数を下回っても安定して経営を続けることができます。

東京都千代田区の相続に強い弁護士なら直法律事務所

非上場株式の相続は、代償金の資金調達・株式評価・会社法の手続き・税務への配慮など、一般的な遺産分割とは比べものにならないほど高度な専門性を要する分野です。

特に、経営後継者が株式を単独で相続したい場合には、適切な手順を踏まなければ、代償金の不足や株式分散による経営権の不安定化など、大きな問題につながりかねません。

直法律事務所では、非上場株式の相続に関する問題について、法的・実務的な観点から総合的なサポートを行っています。代償金の支払いに不安がある方や、株式の分散による将来の経営への影響を懸念されている方は、まずは一度ご相談ください。

相続税・事業承継対策についてお悩みの方へ

相続税・事業承継においては、ご自身にとってどの方法が効果的な対策となるのか、見極めることがまず大事です。トラブル防止の観点からも最適な対策・進め方ができるよう、プロの弁護士が専門家とも連携して安心のサポートをいたします。お悩みの方はお早めにご連絡ください。

Contact 初回相談は 0
相続に関わるお悩みは相続レスキューにお任せください

ご相談はお気軽に

トップへ戻る