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弁護士コラム
相続税の計算まるごとガイド!【債務控除も解説】
- 相続税・事業承継対策
- 投稿日:2022年09月27日 |
最終更新日:2022年09月27日
- Q
-
被相続人の債務や葬式費用は、相続税の計算上で控除できるのでしょうか?
また、控除できる債務とはどのようなものでしょうか?「相続税の総額」の計算法も教えてください。
- Answer
-
被相続人の債務や葬儀費用は、相続税の計算時に控除できます。
債務控除について、控除できる債務は以下のようなものです。
● 借入金
● 未払家賃や通信料金などの未払い金
● 所得税や消費税、印紙税などの公租公課で納税義務が確定したものや相続開始時に現存するもの
保証債務については原則的に控除の対象になりませんが、例外的に控除が認められる場合もあります。連帯債務については負担割合が明らかな場合、負担金額を控除できます。
また控除の対象となる債務は「被相続人の債務」でなければなりません。たとえば相続財産の管理費用や遺言執行費用などは控除できません。
葬儀費用については、以下のようなものを控除できます。
● 埋葬費用
● 仮想費用
● 納骨費用
● 遺骸や遺骨の回送費用
● 死体運搬費用
● その他葬儀の前後に生じた出費で、通常の葬儀にかかると認められるもの
相続税の総額の計算方法
相続税の総額は以下のようにして計算します。
① 遺産総額にみなし相続財産を足す
② 債務控除額や葬儀費用を差し引く
③ 相続開始前3年間に行った贈与額を足す
④ 相続時精算課税制度を使って贈与した金額を足す
⑤ 基礎控除の額を引く
⑥ 法定相続分に応じて割りつけ、相続税の税率を掛け算する
⑦ 各自の相続税を合算する
相続税の総額を計算できたら、それを実際に相続する遺産割合に応じて各相続人に割り付けます。すると一人ひとりの相続人が納めるべき相続税の金額を算出できます。
本記事で、詳しく解説します。
目次
- 1 債務控除について
- 2 葬儀費用について
- 3 相続税の総額の計算方法
- 4 相続税の計算は税理士・弁護士に相談を
債務控除について
課税対象遺産からは債務を差し引ける
相続税を計算するときには、遺産総額から「被相続人が負っていた債務」を控除できます。
控除を適用すると相続税額を減らせるので、相続税を計算するとき被相続人に負債があれば忘れずに控除しましょう。
控除できる債務の種類
相続税計算時に遺産から控除できる債務には、以下のようなものがあります。
- 借入金
- 未払い家賃や通信料金などの未払金
- 未払いの買掛金やリース料金、各種ローンなど
- 所得税などの公租公課で現存するもの、確定したもの
- 連帯債務(負担部分)
負債として控除できるのは、被相続人の債務のうち「相続開始の際に現存し、支払いが確実なもの」です。保証債務や負担部分を超える連帯債務であっても、支払いが確実であれば控除できる可能性があります。
以下で、それぞれの費目について詳しくみてみましょう。
借入金や未払金
借入金や未払金については、基本的に全額控除できます。
たとえば、以下のような負債は控除できると考えましょう。
- 各種のローン
- キャッシング利用額
- クレジットカードの残債
- 個人からの借入金
- 未払い家賃
- 未払いのスマホ代やネット通信料
- 未払いの水道光熱費
- 未払いの買掛金
- 未払いの立替金
- 未払いのリース料金
なお、住宅ローンについては「団体信用生命保険」に入っているケースが多く、ほとんどの場合には死亡時に完済されます。相続後に支払いが残るケースは少数でしょう。
税金などの公租公課
税金などの公租公課も、遺産から差し引き可能です。
ただし、被相続人の死亡時(相続開始時)に支払いが確定していなければなりません。
控除できる税金には以下のようなものがあります。
- 所得税
- 相続税
- 贈与税
- 固定資産税
- 登録免許税
- 消費税
- 酒税、たばこ税
- 印紙税
- 住民税
債務の確実性と書面について
債務を差し引くには、「支払いが確実」でなければなりません。
ただし確実といえるため、必ずしも書面作成は必須ではありません。書面がない場合や支払額が確定していない場合でも、債務の存在が確実であれば控除が認められる可能性があります。
金額が確定していない場合、「相続開始時に支払いが確実になっている範囲内」で控除が認められます。
連帯債務
被相続人が連帯債務を負っていた場合、連帯債務についても控除対象になる部分があります。
各自の負担金額については控除可能
連帯債務者は、債権者に対してはそれぞれが全額の支払いをしなければなりません。
ただし、連帯債務者間では互いに負担割合や負担額があります。
負担額を超えて支払った場合には、他の連帯債務者へ「求償」できます。求償とは、自分の負担額を超えて払ったときに支払いすぎた分の返還を求めることを意味します。
このように連帯債務の負担額が明らかになっている場合、その負担金額を遺産総額から控除できます。
負担金額を超える部分について
一方で、負担金額を超える部分については、基本的に控除の対象になりません。連帯債務者は、負担割合を超える部分について最終的に支払わなくて良いからです。
ただし、連帯債務者の中に支払不能状態になっている人がいて、求償しても支払いを受けられる可能性がほとんどなく、その人の分までほぼ確実に負担しなければならない場合には、その支払不能者の負担部分についても控除可能です。
このような場合、自分の負担部分を超える金額についても最終的に支払わなければならないからです。
保証債務
保証債務については支払いが不確実なので、基本的には債務控除の対象になりません。
ただし以下のような場合、保証人の支払義務が確実になると考えられるので控除対象になります。
- 主債務者が弁済不能の状態にあって保証人がほぼ確実に支払いをしなければならない
- 保証人が支払いをした後に主債務者に求償しても、支払いを受けられる見込みがほとんどない
上記の2つの要件を満たす場合、保証人が支払わねばならない金額(主債務者が支払不能となっている金額)についての控除ができます。
保証債務における求償とは
保証債務における求償は、保証人が主債務者の代わりに支払いをした場合に主債務者へ支払いを求めることを意味します。
保証人の場合、支払いをすると主債務者に支払った全額を求償できます。
差し引きできない債務について
遺産管理にかかる費用は差し引きできない
債務控除の対象になるのは「被相続人の債務」のみです。相続財産の管理費用や遺言執行費用などの「相続財産に関する費用」は控除の対象外なので、相続税計算の際に間違えないように注意しましょう。
祭祀財産にかかる費用は差し引きできない
墓や霊廟、祭具などの祭祀財産(先祖をまつるための財産)、公益事業用財産の取得費用、維持管理に生じた費用も債務控除の対象から外れます。
葬儀費用について
相続人らが被相続人のために葬儀を行った場合、葬儀費用についても遺産からの差し引きが可能です。こちらについても相続税申告の際に忘れずに適用しましょう。
差し引きできる葬儀費用の例
差し引きできる葬儀費用の例としては以下のようなものがあります。
- 埋葬費用
- 火葬費用
- 納骨費用
- 遺骸や遺骨の回送費用
- 葬儀の際に使った金品で、被相続人の職業や財産その他の事情から相当と判断される費用
- その他上記に準じる費用
- 死体や遺骨の運搬費
相続税の総額の計算方法
相続税を計算するときには、「相続税の総額」を算出しなければなりません。
相続税の総額とはどういう意味か、計算方法と合わせて確認しましょう。
相続税の総額とは
相続の総額とは、その事例でかかる相続税全体の金額です。
相続人が1人であれば、「相続税の総額」から各種の控除を適用した残額を相続税として支払います。
相続人が複数の場合、「相続税の総額」を「各相続人が実際に相続する割合」に応じて割りつけ、控除を適用してそれぞれの支払額を算定します。
相続税の総額は、その事例において支払うべき相続税の基本となる金額なので、非常に重要です。
以下で相続税の総額の計算方法をみていきましょう。
相続税の総額の計算ステップ
相続税の総額は、以下のようなステップで計算します。
- 1遺産総額にみなし相続財産を足す
- 2債務控除額や葬儀費用を差し引く
- 3相続開始前3年間に行った贈与額を足す
- 4相続時精算課税制度を使って贈与した金額を足す
- 5基礎控除の額を引く
- 6法定相続分に応じて割りつけ、相続税の税率を掛け算する
- 7各自の相続税を合算する
以下でそれぞれのステップについてみていきましょう。
STEP1 遺産総額にみなし相続財産を足す
まずは遺産総額に「みなし相続財産」を加算します。
みなし相続財産とは、民法上は遺産の範囲に入らないけれども相続税の課税対象となるものです。
たとえば、以下のようなものがみなし相続財産となります。
- 生命保険からの受取金
- 死亡退職金
上記のようなものがあれば、遺産に加算して相続税を計算しなければならないので、漏れのないように注意しましょう。
STEP2 債務控除額や葬儀費用を差し引く
次に債務控除額や葬儀費用を差し引きます。
控除できるものとできないもの、控除できる限度などもあるので、正しく控除を適用しましょう。
STEP3 相続開始前3年間に行った贈与額を足す
相続税を計算する際には「相続開始前3年以内の贈与額」を加算しなければなりません。
相続開始前の3年に行われた贈与分に対しては相続税の課税対象となるからです。
ただしすでに支払った贈与税の金額については控除されるので、税金の二重払いにはなりません。
STEP4 相続時精算課税制度を使って贈与した金額を足す
相続時精算課税制度を適用していた場合には、制度を使って贈与した金額を遺産に加算しなければなりません。
相続時精算課税制度とは、親や祖父母が子どもや孫へ贈与するときに贈与税を軽減できる制度です。2500万円までの贈与に対する贈与税が無税となり、それを超える部分については贈与税率が一律20%となります。ただし相続時精算課税制度を適用すると、相続発生時に贈与分が遺産に繰り入れられて相続税の課税対象となります。
なお、すでに支払った贈与税がある場合、贈与税額については相続税から控除されるので税金の2重払いにはなりません。
STEP5 基礎控除の額を引く
このようにして遺産の額が確定したら、相続税の基礎控除を適用します。
相続税には、すべてのケースで適用できる「基礎控除」があります。遺産額が基礎控除を下回る場合、相続税の支払義務は発生しません。
相続税の基礎控除額は以下のとおりです。
3000万円 + 法定相続人数 × 600万円 |
このように「法定相続人が多いほど基礎控除額が高い」のが原則です。
たとえば法定相続人が2名なら基礎控除額は4200万円です。この場合、課税対象遺産額が4200万円以下の場合、相続税はかかりません。
法定相続人が4名なら基礎控除額は5400万円となります。この場合、課税対象額が5400万円まであっても相続税がかかりません。
養子縁組と基礎控除
法定相続人が多いほど基礎控除額が高いので、「養子縁組」によって相続人数を増やし、節税する方法があります。
ただし養子縁組による基礎控除枠の増額は無制限ではありません。限度については実子がいるかいないかで変わってきます。
被相続人に実子がいる場合、養子縁組によって基礎控除で増やせる枠は1名分のみです。
実子がいる場合
たとえば孫を2人養子にしたとしても、基礎控除枠として計算できるのは1名分のみとなります。
実子がいない場合
実子がいない場合、養子縁組によって増やせる基礎控除の枠は2名分です。
たとえば孫を3人養子にした場合、基礎控除枠として計算できるのは2名分までとなります。
節税対策のためにやみくもに養子縁組をすると、相続人が増えてトラブルのもとになってしまうおそれもあります。養子縁組の限界についても正しく理解した上で節税対策を進めましょう。
STEP6 法定相続分に応じて割りつけ、相続税の税率を掛け算する
以上のようにして課税対象の遺産額を算定できたら、その金額を「法定相続人の法定相続分」に対して割りつけていきます。
この段階では「法定相続分」に応じて割り付けるのであり、実際に遺産分割によって相続する割合は無視します。
法定相続分に応じて割り付けられた金額に、それぞれの相続税の税率を掛け算します。
【相続税の税率速算表】
相続税の税率は以下のとおりです。
法定相続分に応じた金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | なし |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
たとえば課税対象遺産額が4000万円で配偶者と子ども2人が相続する場合、配偶者の法定相続分は2分の1です。よって2000万円に相続税率を掛け算して相続税は250万円となります。
子どもたちについてはそれぞれ1000万円ずつになるので、相続税は100万円ずつです。
STEP7 各自の相続税を合算する
それぞれの法定相続分にかかる相続税を算定できたら、その金額を合算します。
合算した金額が「その事例でかかる相続税の総額」です。
たとえば先程の配偶者と子ども2人が相続する事例でいうと、相続税の金額は「250万円+100万円×2人分=450万円」となります。
相続税の総額が計算できた後の具体的な納付金額は?
相続税の総額を計算できたら、それぞれの相続人が実際に払うべき金額を計算しなければなりません。このときには、相続税の総額を実際に受け取る遺産の割合に応じて割り付ける必要があります。
たとえば、相続税の総額が600万円で子ども3人が相続するとしましょう。
遺産分割協議の結果、長男が2分の1、次男と三男が4分の1ずつ相続するとします。
この場合、長男は300万円の相続税を払わねばなりません。
次男と三男はそれぞれ150万円ずつの相続税を支払います。
相続税を計算する具体例
以下では相続税の総額を計算する際の具体例を示します。
【事例】
遺産額が1億円、負債と葬儀の合計額が1000万円、相続人は配偶者と子ども1人 |
遺産総額から債務控除額や葬儀費用を差し引く
まずは遺産額から負債額や葬儀費用を差し引きます。すると残りは9000万円となります。
基礎控除の額を引く
次に基礎控除の金額を引きます。
この事案では相続人数が2名なので、基礎控除額は4200万円です。課税対象遺産額は「9000万円-4200万円=4800万円」となります。
法定相続分に応じて割りつけ、相続税の税率を掛け算する
次に法定相続分に応じて課税対象遺産額を割りつけて、相続税の税率を掛け算します。
4800万円を2分の1ずつにするので、2400万円に相続税の税率を掛け算します。
すると1人につき、相続税はそれぞれ310万円となります。
各自の相続税を合算する
それぞれの相続税を合算します。すると相続税額は310万円+310万円=620万円となります。
この事例では総額として610万円の相続税がかかります。
相続税の計算は税理士・弁護士に相談を
相続税を計算する際には、債務や葬儀の費用を控除すべきです。また相続税の計算ステップは非常に複雑ですし、実際にはさまざまな控除制度を適用できるケースも多々あります。
自分で計算すると間違えて払いすぎてしまう方も多いので、自己判断はおすすめできません。
相続税の計算に自信がない場合には税理士に依頼しましょう。
遺産相続が発生すると、相続税だけではなく遺産分割や名義変更などの相続手続きへの対応も必要です。こういった法律的支援は弁護士の業務分野となります。
直法律事務所は、相続に力を入れている弁護士が在籍しており、税理士とも提携していて相続税関係についてもワンストップで解決できます。
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