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「相続税の物納」とは?物納が可能な財産の範囲や、手続きについて解説!

相続税・事業承継対策
投稿日:2022年07月28日 | 
最終更新日:2022年07月28日
Q
相続税の物納とはどのようなものでしょうか?
Answer
相続税の物納とは、金銭に代えて、まさしく「物」で相続税を「納」める仕組みです。
以下で詳しくみていきましょう。

相続税の物納とは

相続税の物納とは、金銭に代えて、まさしく「物」で、相続税を「納」める仕組みです。

具体的には、

  1. 1物納することができる財産であることを前提として、
  2. 2相続税額を、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合において、
  3. 3納税義務者の申請により、
  4. 4その納付を困難とする金額として政令で定める額を限度として物納をすることが認められます。

このように、納付すべき相続税額を一時に納付することはもちろん、延納によっても、なお金銭で納付することが困難とする事由がある場合には、その納付を困難とする金額を限度として、物納を申請することができます。

なお、加算税、利子税、延滞税等は、物納の対象にはなりません。

少し詳しく

物納制度の趣旨

そもそも、どうして物納制度があるのでしょうか。

それは、相続税の性質から、相続税の全額を金銭で納付することが困難な場合があるため、その困難を緩和する必要性が認められるからです。

確かに、相続税をはじめとする国税は、金銭で納付することが原則です。

しかし、次のような場合に物納制度を利用したくなるような困難がある場合といえるでしょう。

まず、相続税は、相続又は遺贈によって取得した財産に対して課税されます(この性質から、実質的財産税の性質がある、と表現されます)。

そして、相続又は遺贈によって取得した財産のなかには、金銭以外の財産が多く含まれることもあります。

そのような財産に対する相続税を全て金銭で納付することが、家計の都合上、単純に困難である場合が考えられます。また、仮に相続税を全て金銭で納付する必要があるとすると、相続税を全て金銭で納付するため、金銭以外の財産を処分して換価する必要が常に生じます。こうなってしまうと、相続人において不足の不利益が生じる場合もあるでしょう。

(家具を家具として所有している場合の価値と、これを売却して現金にした場合の価値に差が生じ得ることなどを思い浮かべていただけると、イメージを持っていただきやすいかもしれません。)

そこで、相続税の全額を金銭で納付することが困難な場合の緩和措置として、物納制度があるのです。

要件

相続税の物納制度を利用するためには、次の要件を充たすことが必要です。

② 相続税額を延納によつても金銭で納付することを困難とする事由があること。

④ その納付を困難とする金額として政令で定める額を限度としていること。

① 物納することができる財産であって、その所在が日本国内にあること。

③ 物納申請に係る相続税の納期限または納付すべき日(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署長に提出すること。

(ここでの各要件の頭の付番は、上記の「Ⅰ 相続税の物納とは?」での付番と対応しています。)

(相続税法第四十一条第一項)
税務署長は、納税義務者について…納付すべき相続税額を延納によつても金銭で納付することを困難とする事由がある場合においては、納税義務者の申請により、…物納の許可をすることができる。…

物納できる財産の範囲・種類

a. 範囲

原則として、物納することができる財産は、相続税の課税価格の計算の基礎となった財産に限られます。逆に言えば、非課税財産については物納は認められません。

また、物納することができる財産の価格は、政令で定める限度に限られます。

※ただし、「物納財産」の性質や形状、その他の特徴により、税務署長においてやむを得ない事情があると認めるときは、政令で定める額を超える価額の物納財産を収納することについての許可を得られる場合があります。

物納に充てることができる財産は、以下の両方を充たすものであることが必要です。

  • 管理処分不適格財産に該当しないものであること
  • 物納劣後財産に該当する場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと

(「管理処分不適格財産」及び「物納劣後財産」については、詳しくは、それぞれ、下記の「*より詳しく① ー管理処分不適格財産とはー」及び「*より詳しく② ー物納劣後財産とはー」をご参照ください。)

b. 種類

物納することができる財産の種類は、以下の通りです。

<第1順位>

1 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式…等

(上場株式等については、特別の法律により法人の発行する債券および出資証券を含みますが、短期社債等は除かれます。)

2 不動産および上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの

<第2順位>

3 非上場株式…等

(非上場株式等については、特別の法律により法人の発行する債券および出資証券を含みますが、短期社債等は除かれます。)

4 非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの

<第3順位>

5 動産

このような順位付けがなされる理由は、財産を換金するうえで、価値の変動が生じにくく、換金しやすい財産を優先的に納付させることにあります。

【*より詳しく① ー管理処分不適格財産とはー】

次に掲げるような財産で、物納に不適格な財産を「管理処分不適格財産」といいます。

イ 担保権の設定の登記がされていることその他これに準ずる事情がある不動産

ロ 権利の帰属について争いがある不動産

ハ 質権その他の担保権の目的となっている株式…等

では、なぜ、「管理処分不適格財産」と言われるのでしょうか。

そもそも、他人の権利の対象となっている、あるいは権利の帰属に争いがあるなどして、納税義務者が処分してよい財産かどうかに疑問がある財産については、換価が単純には行い難い場合が想定できます。

そこで、そのような財産については、物納することをみとめる財産として、いわば不適格であるとされているのです。

だからこそ、「管理処分不適格財産」という言われ方をするのです。

【*より詳しく ー物納劣後財産とはー】

次に掲げるような財産で、他に物納に充てるべき適当な財産がない場合に限り、物納に充てることができる財産を、「物納劣後財産」といいます。

イ 地上権、永小作権もしくは耕作を目的とする賃借権、地役権または入会権が設定されている土地

ロ 法令の規定に違反して建築された建物およびその敷地

ハ 土地区画整理法による土地区画整理事業等の施行に係る土地につき仮換地または一時利用地の指定がされていない土地…等

では、なぜ、「物納劣後財産」と言われるのでしょうか。

そもそも、他人の権利が付着するなどして、換価が単純には行い難い財産については、財産それ自体の評価額と、換価手続きを経た現実の価格との間に大きな差があり得ます。

そこで、そのような財産については、物納することをみとめる財産としての、いわば優先順位が低く設定されているのです。

だからこそ、「物納劣後財産」という言われ方をするのです。

なお、国税庁のページでもご確認いただけます。「管理処分不適格財産」及び、「物納劣後財産」のいずれについても一覧がございますので、ご参照ください。

 

手続

物納制度を利用するために必要な手続は、まずは申請です。

a. 申請

まず、物納制度を利用しようとする人は、相続税の物納の許可を得る必要があります。

この許可を得るためには、納税地の所轄税務署長に、一定の事項を記載した書類を提出しなければなりません。

申請期限は、延納を求めようとする相続税の納期限、又は納付すべき日までです。

(相続税法第四十二条第一項)
 前条(註・第四十一条のこと)第一項の規定による物納の許可を申請しようとする者は、…申請書に…「物納手続関係書類」…を添付し、これを納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

書類に記載すべき事項は、具体的には、次のとおりです。

  • 納税義務者の氏名等
  • 納付すべき相続税額
  • 物納を求めようとする税額
  • 相続税額を延納によっても金銭で納付することを困難とする金額
  • 金銭で納付することを困難とする事由
  • 物納に充てようとする財産の種類及び価額その他の財務省令で定める事項を記載したもの(「物納手続関係書類」といいます。)

次に、申請した物納について、許可あるいは却下の回答がなされます。この回答は、原則的に、申請から三箇月以内にされることになっています。

(相続税法第四十二条第二項)
 …申請書の提出期限の翌日から起算して三月以内に当該申請に係る税額の全部又は一部について…延納の許可をし、又は当該申請の却下をする。

b. 申請を却下された場合 ーその1:延納申請ー

では、物納制度を利用するための申請を却下されてしまった場合には、どのようにしたらよいのでしょうか。

まず、延納の申請をすることができます。

具体的には、物納申請の全部又は一部について、

・金銭で納付することを困難とする事由がない

又は

・納付を困難とする金額が、申請された金額より少ない

と税務署長が認めたために、却下された場合には、

・却下の日の翌日から起算して二十日以内に延納の申請することによって

・納めるべき相続税額のうち金銭で一時に納付することを困難とする金額として政令で定める額を限度として

延納が認められる場合があります。

 税務署長は、第四十一条第一項の規定による申請があつた場合において、延納により金銭で納付することを困難とする事由がないと認めたことから…物納の申請の却下をしたとき、又は…納付を困難とする金額が当該申請に係る金額より少ないと認めたことから…当該申請に係る相続税額の一部について当該申請の却下をしたときは、…却下の日の翌日から起算して二十日以内にされた…申請により、…延納の許可をすることができる

c. 申請を却下された場合 ーその2:再申請ー

物納制度を利用するための申請を却下されてしまった場合、上記の「b. 延納申請」の次に考えられるのが、再申請です。

具体的には、物納の許可の申請に係る物納財産が

・管理処分不適格財産

又は

・物納劣後財産

に該当すると税務署長が認めたために、却下された場合に、

・却下の日の翌日から起算して二十日以内に延納の申請することによって

・納めるべき相続税額のうち金銭で一時に納付することを困難とする金額として政令で定める額を限度として

再申請により物納が認められる場合があります。

再申請することができる財産は、一度却下された財産以外の物納財産に限られるため、注意が必要です。 

(相続税法第四十五条第一項)
 税務署長は、…物納の許可の申請に係る物納財産が管理処分不適格財産又は物納劣後財産に該当することから…申請の却下をしたときは、当該却下の日の翌日から起算して二十日以内にされた…申請(当該物納財産以外の物納財産に係る申請に限る。)…により、…納付を困難とする金額として政令で定める額を限度として、物納の許可をすることができる

その他

物納財産の収納価格

原則として、物納財産の収納価額は、課税価格計算の基礎となったその財産の価額によります。

ただし、課税価格の修正又は変更によって、物納に充てた財産の価格に異動が生じた場合には、その異動後の価格が収納価格となります(相続税法第四十三条第一項参照)。

納付時期

物納財産を引渡した時

物納財産の所有権移転登記等により第三者に対抗することができる要件を充たした時に、納付があったものとされます(相続税法第四十三条第二項参照)。

還付と物納財産

相続税を物納財産により納付した場合であって、その相続税に払いすぎなどの過誤納付があったときには、その物納財産が過誤納付額についての還付に充てられることがあります。

ただし、例外的に還付に充てることができない場合についての細かい定めもあるため、注意が必要です(相続税法第四十三条第三項参照)。

撤回

物納については、一定の場合に限り、撤回を承認するよう申請することができます(相続税法第四十六条以下参照)。

具体的には、次の通りです。

撤回申請の対象となる物納財産

物納の許可をされた不動産であって、賃借権など、不動産を使用する権利の目的(対象)となつている不動産

※ただし、

・物納の許可を受けた者が

・その後物納に係る相続税を、金銭で一気に納付したとき、又は延納の許可を受けて納付するときに

・その不動産についてのみ

申請が可能です。

撤回申請の期限

撤回申請の期限は、物納の許可を受けた日の翌日から起算して一年以内

(物納財産の収納後であっても、この期間内であれば申請は可能です。)

※ただし、その不動産が既に換価されてしまったとき、又は、公用目的で用いられているか、用いられることが確実であるときは、この撤回申請は承認されません。

撤回申請の方法

撤回申請は、撤回の承認を求めようとする理由などを記載した申請書を、納税地の所轄税務署長に提出して行います。

撤回した場合の延納

上記の申請による物納の撤回の承認を受けようとする場合、撤回しようとするにともない、相続税の納付が滞ることとなりかねません。

そこで、その物納の許可を受けた者の申請により、撤回しようとする物納財産で納付する予定だった相続税の一部について、延納の許可を受けることができます(相続税法第四十七条第一項参照)。

 このときの延納の上限額は、撤回する物納財産で納付する予定だった相続税額のうち、金銭で一時に納付することを困難とする金額として政令で定められる額です。

全額ではないため、注意しましょう。

特例 ー特定物納についてー

課税財産の内容・性質に関連して、物納制度には一定の特例が設けられています。

延納の許可を受けた相続税額について、延納条件を変更してもなお延納を継続することが困難となったときには、一定の場合に限り、延納から物納への変更することができます。

(「特定物納制度」といいます。相続税法第四十八条の二以下参照))。

大変細かい要件が定められているため、詳しくは、国税庁のページもご確認ください。

まとめ

以上をまとめると、相続税の物納とは、

物納することができる財産であることを前提として、

相続税額を、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合

において、

物納を認める制度です。

その手続には、納税者の申請が必要です。

物納が認められる限度は、その納付を困難とする金額として政令で定められている額です。

細かな定めが多くあるため、本記事でおおまかなイメージを掴んだうえで、

専門家や税務署の担当者とよく相談しながら、確実に物納制度を利用しましょう。

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