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弁護士コラム
「特別受益」とは?具体的な事例とともにわかりやすく解説!
- 遺産分割のトラブル
- 投稿日:2022年07月22日 |
最終更新日:2023年12月27日
Q
私は3人兄妹で、兄、姉がいます。
兄は医学部を卒業して、学費も出してもらっていました。一方、私と姉は公立高卒です。この度父が亡くなり、兄妹で遺産分割の話し合いをしているのですが、「3人平等で遺産を分けるべきだ」という兄の主張に少し納得がいきません。この場合でも、兄の言うとおり相続するしかないのでしょうか?
解説
特別受益とは?
「特別受益」とは、「遺贈」や「生前贈与」で得た特別の利益のことです。では、より具体的には、どのような遺贈や生前贈与のことでしょうか?
それは、被相続人から共同相続人に対してなされた「遺贈」や、「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として」生前になされた「贈与」のことです(民法903条1項参照)。
例えば、相続開始時(被相続人の死亡時)より以前に、被相続人から遺贈を受けた人や生前贈与を受けた人がいるとします。そして、そうであるにもかかわらず、法定相続分や指定相続分に従った遺産分割をするとします。その場合、遺贈を受けた人と遺贈を受けていない人、あるいは、遺贈をより多く受けた人と遺贈をより少なく受けた人とで、不公平な結果になりそうですよね。
同様の不公平な結果は、生前贈与の場合にも生じ得ます。そこで、民法903条1項の規定により、遺贈や一定の生前贈与を受けた人の相続分は、原則的に減額されることになります。共同相続人間の不公平な結果を回避するためです。
特別受益の範囲
それでは、具体的にどのような財産が、「特別受益」にあたる「遺贈」や「贈与」となるのでしょうか?
これは、民法が定めています。
民法903条1項
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
まず、下線部をみてみましょう。
「遺贈」については、すべて「特別受益」にあたることになります。他方、「贈与」については、「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として」受けた贈与に限定されます。
では、より具体的には、「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本」とはどのような財産のことでしょうか?
まず、婚姻・養子縁組のための贈与には、持参金や結納金があげられます。次に、生計の資本としての贈与には、独立した子に対する不動産の贈与、営業資金の贈与などがあげられます。言い換えれば、「広く生計の基礎として役立つ財産上の給付で、扶養義務の範囲を超えるもの」(前田陽一ほか『リーガルクエスト民法Ⅳ 親族・相続』299頁)が生計の資本としての贈与にあたるといえます。
ここで、学費についてどのように考えたらよいでしょうか。
裁判例は、普通教育以上の学資は、その人にとって将来の生計の基礎か生活能力取得の基礎になるとして、生計の資本にあたると判断してきています。ただし、裁判例は、同時に、具体的な事情も考慮することが多くあります。したがって、将来の生計の基礎か生活能力取得の基礎になる場合には、直ちに生計の資本としての贈与として「特別受益」とされるとも限りません。903条1項は、共同相続人間の不公平な結果を回避するための条文でした。
そこで、親の当然になすべき範囲といえる学資の支出である場合には、特別ではないため、「特別受益」には当たらないとされる場合があるのです。
例えば、親である被相続人の社会的地位や資産に照らし、共同相続人たる子供たち全員が大学卒業までの学資を支出した場合、これが親の当然なすべき範囲の学資の支出といえる場合には、「特別受益」にはあたらないことになります。
逆に言えば、共同相続人たる子供たちのうち一人だけが特別に高額な学資の支出を受けた場合には、特別といえるため、「特別受益」にあたる場合があります。 以上をふまえて、今回問題となっている医学部進学のための学費について検討しましょう。
相談「Q」のケース
「私は3人兄妹で、兄、姉がいます。兄は医学部を卒業して、学費も出してもらっていました。一方、私と姉は公立高卒です。」
まず、医学部は6年制と在学期間が長く、学費も高額であることで有名です(国公立では6年間で約350万円、私立では最も安いとされる大学でも6年間で約2,000万円)。
ご相談では具体的に挙げられていませんが、大学受験には受験料もかかります。
他方、「私と姉は公立高卒」とのことですから、大学の学費は一切かかっていないうえ、受験自体していませんから、受験料もかかっていません。
そうだとすると、共同相続人たる子供たちのうち一人だけが特別に高額な学資の支出を受けた場合といえ、生計の資本として「特別受益」にあたるといえるでしょう。
「3人平等で遺産を分けるべきだ」という兄の主張に少し納得がいきません。この場合でも、兄の言うとおり相続するしかないのでしょうか?」
では、「特別受益」にあたる場合、どのように計算し、「遺産を分け」ればよいのでしょうか。
ここでもう一度条文を参照しましょう。
民法903条1項
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
つまり、「特別受益」にあたる場合、「その贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし」ますから、その価格を相続財産に持ち戻して計算します。
具体的には、次のような計算手順となります。
-
1
被相続人の財産の評価
(相続開始時、すなわち被相続人の死亡時を基準とした時価で計算します。)
-
2
みなし財産の評価
(相続開始時、すなわち被相続人の死亡時を基準とした時価で、「特別受益」にあたる財産を計算し、その価格を①で計算した被相続人の財産の評価額に加算します。これで、遺贈や生前贈与がなされる以前の、被相続人の財産総額、つまりみなし財産の評価がわかります。)
-
3
本来の相続分の評価
(②までに計算して判明した被相続人の財産総額、つまりみなし財産を、法定相続分で割り算をします。)
-
4
具体的相続分の評価
(③までに計算して判明した法定相続分から、その人が被相続人から受けた遺贈の額や、生前贈与の額、つまり「特別受益」を受けた額を差し引いて残った額が、なおさらに受け取ることのできる相続財産の額となります。)
具体例
【事例】
相続人としてお子様3名
死亡時の相続財産が5000万円
お子様3名のうち1名が遺贈により1000万円の遺贈を受けた場合
具体的相続分の計算方法
みなし相続財産:5000万円+1000万円
本来の相続分:6000万円×1/3=2000万円
具体的相続分:2000万円、2000万円、1000万円(遺贈を受けた方)
仮に、④で判明した具体的相続分の評価が、0やマイナスだった場合には、その人は相続分を受けることはできません(903条2項)。
民法903条1項
遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
逆に言えば、「受けることができない」だけですから、具体的相続分の評価が0はおろかマイナスであり、他の共同相続人よりも多くの受益があったといえる場合であっても、他の共同相続人にわざわざ返還する必要はないということです。
では、ここでご相談にもどりましょう。
「3人平等で遺産を分けるべきだ」という兄の主張に少し納得がいきません。この場合でも、兄の言うとおり相続するしかないのでしょうか?」
先ほどのとおり、お兄様の医学部進学は「特別受益」にあたりました(生前贈与のうちの「生計の資本」、903条1項)。
したがって、医学部進学(卒業)に必要な学資は、「特別受益」として持ち戻しの対象となります。
よって、①被相続人の財産の評価ののち、②みなし財産の評価のときに加算されます。
さらに、そこから③お兄様の本来の相続分の評価をしてから、医学部進学に必要となった学資がひかれ、④具体的相続分の評価がわかる、という手順になります。
ですから、①の被相続人の財産の評価を単純に3で割ることによる「3人平等」ではなく、「特別受益」としての医学部進学を考慮した④具体的相続分に基づく相続がなされることになります。
その意味では、まさしく「3人平等で遺産を分けるべきだ」とのお兄様のご発言の通り、共同相続人間の不公平な結果を回避した相続ができる、ということになるのです。
もっとも、もし万一お亡くなりになったお父様が、特別受益者の相続分を減らさなくてもよいという特別の意思表示をしていらっしゃる場合には、亡きお父様の意思を尊重するというのが法律の規定です(民法903条3項)。
この場合には、医学部進学(卒業)の学資を持ち戻しの対象とすることはなくなります。
具体的には、①被相続人の財産の評価ののち、②みなし財産の評価のときに加算されることはありません(このように、得た受益を差し引いて計算することを「持戻し」と表現します。)。
したがって、③お兄様の本来の相続分は①被相続人の財産の評価を単純に3で割ることになります。
このように、とりわけ、お父様、お母様がお子様に対して、遺贈や生前贈与をしたい場合には、将来、相続が発生した場合に備えて、特別受益として持ち戻しをさせたいのか、させたくないのか、しっかり検討をする必要が高いといえます。
実務上、ここまで想定して遺言や生前贈与をしている例が極めて少ないので、注意しましょう。トラブルの元になります。
ただし、このように被相続人であるお父様の特別の意思表示がある場合であっても、遺留分が害されることはありません。
903条3項
被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
まとめ
民法903条1項より、「特別受益」に配慮した相続分を計算することになります。
医学部進学(卒業)の学資は、の「特別受益」(生計の資本)にあたります。
したがって、3人のご兄妹の具体的相続分を計算するにあたっては、お兄様の医学部進学(卒業)の学資を配慮したうえで、相続分を計算します。
よって、「3人平等で遺産を分けるべきだ」というお兄の言うとおりに相続するしかない、というわけでは必ずしもないのです。
ただし、お父様の特別の意思表示がある場合には話が違ってきます。お父様の特別の意思表示がないか、確認しておくとよいでしょう。
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