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弁護士コラム

不動産の遺留分とは?生前放棄の手順や遺言無効時の対応を解説

遺産分割のトラブル
投稿日:2026年07月28日 | 
最終更新日:2026年07月28日

Q
先祖代々の土地で賃貸経営をしています。家業を支えてくれている長男に賃貸用不動産をすべて相続させたいのですが、長女や次男から遺留分侵害額請求を受けると経営に支障が出ないか心配です。

生前に現金を渡すなどして、将来の遺留分を放棄してもらうことは可能でしょうか。その場合の手続きや注意点も教えてください。
Answer
長男に賃貸用不動産を相続させるためには、遺言書を作成することが重要です。

ただし、他の相続人の遺留分を侵害すると、長男が金銭の支払いを求められる可能性があります。そのため、遺留分権利者が家庭裁判所の許可を得て、遺留分を放棄する方法を検討する必要があります。

もっとも、相手方が手続を行う負担があるため、実際には生前贈与など放棄に見合う対価を用意することが多いでしょう。

監修:弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田 直彦

2009年 弁護士登録
2018年 弁護士法人直法律事務所 開業

相続・不動産・企業法務を中心に取り扱い、相続に関する相談を年間100件以上対応。
遺産分割・遺留分・相続登記・生前対策など、幅広い相続問題の解決に取り組んでいます。

不動産相続で特定の相続人に資産を集中させる方法

特定の相続人に不動産を集中して相続させるには、遺言書を作成するだけでなく、他の相続人の遺留分への配慮が重要です。

遺留分対策を講じないまま相続が発生すると、遺留分侵害額請求を受け、結果として資金調達や不動産の売却が必要になる可能性があります。

この章では、不動産を特定の相続人へ承継させる際に検討したい遺留分対策について解説します。

遺留分に配慮した遺言書による財産配分

特定の相続人に不動産を集中して相続させる場合は、遺言書で他の相続人の遺留分に配慮した財産配分を行うことが重要です。

例えば、事前に他の相続人の遺留分を計算し、それを侵害しない範囲で預貯金や有価証券などを承継させる内容とするのも1つの方法です。

もっとも、遺言書を作成してから相続が発生するまでの間に、不動産価格が上昇したり、他の相続人に渡す予定だった預貯金が減少したりすることがあります。このような資産価値の変動により、相続開始時点において遺留分を侵害する結果となり、「遺留分侵害額請求」を受ける可能性もあります。

このように「すべての不動産を特定の相続人に渡したい」という希望と、「他の相続人の遺留分を配慮すること」を遺言書だけで完全に両立させることは難しい場合があります。

家庭裁判所の許可が必要な遺留分の生前放棄

将来相続人となる予定の人(推定相続人)は、被相続人が亡くなる前であっても、家庭裁判所の許可を受けることで遺留分を放棄することができます。

一方、被相続人が亡くなった後は、遺留分権利者は家庭裁判所の許可を受けることな自由に遺留分を放棄できます。生前に放棄する場合のみ、家庭裁判所の許可が必要となります。

主な違いは以下のとおりです。

項目生前の遺留分放棄死後の遺留分放棄
実施時期被相続人の生前相続開始後(被相続人の死後)
家庭裁判所の許可必要(民法1049条1項)不要(自由に放棄可能)
放棄の要件放棄が権利者の自由意思によるものであること、放棄理由の合理性・必要性、放棄と引換えの代償の有無などを考慮して許否を判断し、相当と認めるときは許可の審判をする。特になし
目的・メリット生前に遺産承継の方針を確定させ、将来の紛争を防ぐ自身の遺留分権を行使しない意思表示

家庭裁判所は、遺留分放棄が「本人の自由意思によるものか」「放棄する合理的な理由があるか」「見返りとなる利益があるか」などを総合的に判断し考慮し、許可するかどうかを判断します。これは、被相続人や他の親族から不当に放棄を強いられることを防ぐためです。

法律上、許可要件が明確に定められているわけではありませんが、一般的には以下のような事情が考慮されます。

  • 遺留分放棄が権利者の自由意思によるものであること
  • 遺留分放棄に合理的な理由や必要性があること
  • 遺留分放棄に対応する利益供与(贈与や譲渡など)があること

この利益供与は、遺留分放棄の合理的を裏付ける重要な事情となります。一般的には、遺留分放棄に近い時期に行われた贈与であることなどが望ましいとされています。

例えば、「遺留分を放棄する代わりに住宅購入資金として多額の生前贈与を受けた」といった事情があれば、家庭裁判所の許可を得られる可能性が高まります。

不動産を集中させる場合の評価方法と遺留分計算

不動産を特定の相続人に集中させる場合は、遺留分の計算方法を理解しておくことが重要です。

各相続人の遺留分割合は、相続財産の2分の1(相続人が直系尊属のみの場合は、3分の1)に法定相続分を乗じて算定します。なお、兄弟姉妹には遺留分はありません。

「遺留分」は、以下の計算式で算出します。

遺留分 = 基礎財産 × 遺留分割合

「基礎財産」は、以下の計算式で算出します。

基礎財産 = 相続開始時の積極財産の額 + 贈与財産の額 − 債務の全額

このうち、遺留分算定の対象となる贈与は以下のとおりです。

  • 原則:相続開始前1年間にされた贈与
  • 例外①:当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って行った贈与は、相続開始の1年より前であっても対象となる。
  • 例外②:共同相続人への婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与は、相続開始前10年間が対象となる。(ただし、一定の場合は10年を超えても対象となる)

また、贈与された不動産は、贈与時ではなく、相続開始時(被相続人の死亡時)の価格で評価します。そのため、不動産価格が上昇していると基礎財産が増え、遺留分侵害額も大きくなる可能性があります。

「遺留分侵害額」は、以下の計算式で算定します。

遺留分侵害額
= 遺留分 - 遺留分権利者が受けた遺贈や贈与(特別受益)の額 - (遺産分割の対象財産がある場合)遺留分権利者が取得すべき遺産の額 + 遺留分権利者が承継する債務の額

つまり、不動産を一人の相続人に集中させた結果、他の相続人が受け取る財産が遺留分額に満たない場合、その不足分が遺留分侵害額となります。

不動産の賃料収入・事業価値を考慮した遺留分対策

不動産を事業承継する場合は、遺留分侵害額請求に備えた資金対策も重要です。

2019年7月の民法改正により、遺留分侵害額請求権は「金銭請求権」となりました。そのため、遺留分を侵害した場合でも、以前のように不動産の共有持分を取得されたり、不動産自体の返還を求められることはありません。

もっとも、遺留分侵害額を請求されても支払いができない場合には、請求した側は裁判所を通じて不動産や株式などを差し押さえ、競売により回収を図ることができます。その結果、事業の基盤となる不動産を失い、賃貸経営などに大きな支障が生じる可能性があります。

そのため、遺留分を侵害する可能性がある遺言書を作成する場合は、不動産を取得する相続人が、遺留分侵害額請求に対応できるだけの財産を用意することが望ましいでしょう。

遺留分侵害額を請求された時点で資金が不足している場合には、裁判所に支払期限の猶予を求め、その間に金融機関から融資を受けるなどして資金を調達する方法も考えられます。

遺留分の生前放棄を実現するための手順と注意点

特定の相続人に財産を確実に相続させるには、遺留分の生前放棄だけでなく、遺言書の作成も重要です。

遺留分の生前放棄は、家庭裁判所の許可が必要であり、相続放棄のように相続開始前に自由に行うことはできません。また、遺留分を放棄しても相続人としての地位は残るため、遺言書による財産の指定も必要です。

この章では、遺留分の生前放棄の手順や家庭裁判所の判断基準、また、遺言書作成の必要性や税務上の注意点について解説します。

放棄の対価として行う生前贈与の活用

遺留分の生前放棄では、生前贈与などの利益供与が家庭裁判所の許可を得るうえで重要な事情となります。

遺留分権利者は、被相続人が亡くなる前に家庭裁判所へ申立てを行い、許可を受けることで遺留分を放棄することができます。しかし、家庭裁判所の許可を得るためには、放棄する合理的な理由があることを求められます。

一般的には、遺留分に見合う財産を生前贈与している場合には、家庭裁判所による許可が得やすいとされています。

もっとも、生前贈与の金額が相続発生時に想定される遺留分額と完全に一致している必要はありません。家庭裁判所が最も重視するのは、放棄する本人が十分に納得したうえで、自らの意思で放棄していることです。

例えば、住宅ローンの返済資金や子どもの教育資金など、遺留分を放棄する人が現在必要としている金銭を援助することで本人の納得を得やすくなり、家庭裁判所も真意による放棄であると判断する可能性が高まります。

遺留分の生前放棄の一般的な手順

  • 対価の供与(生前贈与)
    ・必須ではありませんが、多くの場合に必要となります。
    ・放棄する推定相続人(例:次男、長女)に対し、納得してもらうための現金などを贈与する。
  • 家庭裁判所への申立て
    ・推定相続人自身が家庭裁判所に「遺留分放棄の許可」を申し立てる。
    ・裁判所での審問で「真意であるか」「贈与等の理由があるか」などが確認される。
  • 遺留分放棄の許可
    ・家庭裁判所から許可審判を得る。

生前放棄が認められないケースと家庭裁判所の判断傾向

家庭裁判所は、遺留分の放棄が本人の自由な意思によるものかを最も重視します。

そのため、裁判所は申立人本人に対して放棄する理由を確認し、真意による申立てかどうかを確認します。この審問において、本人が「親から放棄を強制された」「本当は放棄したくない」などと説明した場合には、原則として許可されません。

また、生前贈与などの放棄に見合うだけの対価がない場合や放棄する合理的な理由も認められない場合には、家庭裁判所から許可を得られない可能性があります。

遺留分の生前放棄とともに遺言書を作成する重要性

遺留分を生前放棄しても、希望どおりの相続を実現するには遺言書の作成が欠かせません。

遺留分の放棄は、あくまで「遺留分侵害額請求をしない」という意思表示であり、相続人としての地位まで失うものではありません。そのため、遺留分の放棄が認められても、特定の相続人に財産を承継できることが確定するわけではありません。

もし、遺言書を作成しないまま被相続人が亡くなると、通常の相続と同じように遺産分割協議を行うことになります。遺留分を放棄した相続人も遺産分割協議に参加し、遺産を相続する権利を主張することができます。

このような事態を避けるためには、「不動産をすべて長男に相続させる」など、財産の承継先を明確に定めた遺言書を作成しておくことが重要です。

生前贈与と相続税・贈与税の注意点

遺留分放棄のために生前贈与を行う場合、相続税や贈与税への影響も確認しておく必要があります。

例えば、1年間に数百万円や数千万円などのまとまった財産を贈与すると、贈与税の基礎控除額110万円を超えるため、受贈者に贈与税が課される可能性があります。

また、相続開始前の一定期間に相続人へ行われた贈与は、相続税の計算上、相続財産に持ち戻して計算する「生前贈与加算」の対象となる場合があります。

以前は、相続開始前3年以内の贈与が対象でしたが、法改正により2024年1月1日以降の贈与については、この対象期間が7年へ段階的に延長されています。

一方で、相続税や贈与税には各種特例制度が設けられています。要件を満たせば税負担を抑えられるケースもあるため、遺留分放棄を前提とした生前贈与を検討する際は、税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。

遺言が無効だと考える場合の遺留分侵害額請求

遺言の有効性に疑いがある場合でも、「遺言無効確認請求」だけでなく、「遺留分侵害額請求」もあわせて検討することが重要です。

遺言が無効であると考えていても、裁判で有効と判断される可能性は否定できません。また、遺留分侵害額請求には時効があるため、遺言の有効性を争っている間に請求権を失うおそれもあります。

そのため、実務では遺言無効確認請求と遺留分侵害額請求を併せて検討するケースが少なくありません。

「遺言無効確認請求」と「遺留分侵害額請求」の違いは、以下のとおりです。

項目遺言無効確認請求遺留分侵害額請求
主張の内容遺言書自体が無効である(偽造、能力欠如など)遺言は有効だが、遺留分が侵害されている
目的遺言を無効にし、遺産分割協議を行う最低限の取り分(金銭)を請求する
期間制限(時効)特になし(確認の利益がある限り)相続開始・侵害を知ってから1年
併用時の注意点訴訟が長引くと(1年以上)、判決が出る頃には遺留分侵害額請求権が時効にかかるリスクがある。無効確認訴訟の中で「予備的」に請求する、または配達証明付き内容証明郵便等で意思表示をしておく必要がある。

遺言無効確認請求訴訟と遺留分請求の時効の関係

遺言無効確認請求訴訟を提起しても、遺留分侵害額請求権の時効は止まりません。

遺留分侵害額請求権は、「相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時」から1年で時効により消滅します。

一方、遺言無効確認請求訴訟は、判決まで1年以上かかることも珍しくありません。そのため、遺言書は無効であると考えて訴訟を提起していても、その間に遺留分侵害額請求権が時効により消滅してしまう可能性があります。

このような事態を避けるためにも、実務上は時効完成前に遺留分侵害額請求も行う必要があります。

矛盾挙動にならないための予備的な権利行使の方法

遺言の無効を主張しながら遺留分侵害額請求を行う場合は、「予備的主張」であることを明確にする必要があります。

遺留分侵害額請求は、遺言が有効であることを前提とする請求です。そのため、何の留保もなく請求すると、「遺言の有効性を認めた」と受け取られ、遺言無効の主張との整合性が問題となる可能性があります。

そのため、「本件遺言は無効であると考えるが、仮に有効と判断された場合に備えて遺留分侵害額請求をする」という主旨を明確にしたうえで請求することが重要です。

例えば、配達証明付き内容証明郵便でその旨を明記して送付する方法や、すでに遺言無効確認請求訴訟を提起している場合には、訴訟の請求の趣旨に予備的請求として遺留分侵害額請求を追加することも考えられます。

不動産を巡る遺留分請求のよくある紛争パターン

不動産が相続財産に含まれる場合は、不動産の評価額を巡って争いになるケースが多くみられます。

遺言が有効と判断されると、次の手段として遺留分侵害額請求を行うことになります。しかし、遺言無効確認請求訴訟まで発展しているケースでは、親族間の対立が深刻化していることも多く、遺留分侵害額請求でも争いが続く傾向があります。

特に問題となりやすいのが、遺留分侵害額を算定する前提となる「不動産の評価額」です。

不動産には、時価(実勢価格)・路線価・固定資産税評価額など複数の評価方法があり、採用する基準によって遺留分侵害額が大きく変わります。そのため。当事者双方が自らに有利な評価方法を主張し、対立するケースが少なくありません。

代表的な主張は以下のとおりです。

  • 遺留分権利者:受取額を増やすため、高額になりやすい時価(実勢価格)を主張する
  • 受遺者:支払額を抑えるため、安価になりやすい路線価や固定資産税評価額を主張する

当事者間で合意できない場合には、不動産鑑定士による鑑定を行い、その結果を踏まえて家庭裁判所での調停や訴訟により解決を図ることになります。

よくある質問(Q&A)

不動産を相続した人が特に悩みやすいポイントをQ&A形式で整理して解説します。

遺留分侵害額請求をすると不動産の共有持分を取得することになりますか?

2019(令和元)年7月1日以降に開始した相続については、遺留分侵害額請求によって不動産の共有持分を取得することはありません。

2019年7月の法改正により、遺留分侵害額請求権は金銭債権となったため、原則として金銭の支払いによって解決します。

相続財産が不動産しかない場合、遺留分はどのように支払うのですか?

遺留分侵害額請求は金銭債権であるため、請求を受けた受遺者は原則として現金で支払う必要があります。手元に十分な資金がない場合は、不動産の一部を売却したり、不動産を担保に金融機関から融資を受けたりして資金を調達することになります。

すぐに支払いができない場合には、裁判所に支払期限の猶予を求めることができる場合もあります。

自宅を長男だけに相続させる方法はありますか?

特定の相続人に不動産を相続させたい場合は、他の推定相続人の遺留分について生前放棄を検討するとともに、自宅を承継させる内容の遺言書を作成することが重要です。

被相続人の意思どおりに承継させるためにも、遺言書を併せて作成しておきましょう。

東京都千代田区の相続に強い弁護士なら直法律事務所

遺言書で特定の相続人に不動産を相続させると、他の相続人の遺留分を侵害して相続トラブルになる恐れがあります。紛争を防ぐためには、不動産を渡さない相続人に対して生前贈与を行い、家庭裁判所で遺留分を放棄する手続きをしてもらうとともに遺言書を作成するという方法があります。

ただ、全てのケースに有効というわけではなく、遺留分の侵害による相続トラブルを防ぐためには、家族構成や保有する財産などを踏まえて状況に応じた対策方法を検討する必要があります。遺産相続に関する専門的な知識が求められるため、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

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