columns
弁護士コラム
不動産相続における家賃収入の分配法と遺産分割の手順・注意点を解説
- 遺産分割のトラブル
- 投稿日:2026年05月14日 |
最終更新日:2026年05月14日

- Q
-
父が亡くなり、兄2人と私の計3人で遺産分割の話合いをしています。遺産は実家の土地建物と、父が経営していた賃貸アパートがあり、父の死後は長兄がアパートを管理している状況です。
「遺産分割協議が終わるまで家賃は分けられない」と言われ、1年以上経っても家賃を受け取れていません。子供の教育費もあり、少しでも早くお金を受け取りたいのですが、兄の主張は正しいのでしょうか。また、不動産を公平に分ける方法も知りたいです。
- Answer
-
相続開始後、遺産分割協議の成立前に遺産の賃貸アパートから発生する家賃収入は、相続分に応じて各相続人が受け取る権利を有します。最判平成17年9月8日によれば、相続開始から遺産分割までの間に生じた賃料債権は遺産とは別個の財産であり、各相続人が法定相続分に応じて確定的に取得するものとされています。
したがって、あなたは、遺産分割協議が成立するまで相続開始後に発生した家賃の3分の1を受け取る権利があります。兄が相続開始後に発生した家賃を独占している場合、不当利得として返還請求も可能です。
不動産の分割方法については、代償分割(特定の相続人が不動産を取得し、代償金を支払う)や換価分割(売却して現金を分配する)などがあり、話合いがまとまらない場合は家庭裁判所の遺産分割調停を利用できます。
この記事では、不動産相続における具体的な分割方法と、家賃収入の請求手続きについて解説していきます。
監修:弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田 直彦
相続財産に賃貸不動産が含まれる場合、遺産分割協議成立前の家賃収入を誰が受け取るか、不動産をどのように分けるかが問題となることがあります。
この記事では、代償分割・換価分割などの遺産の分割方法、遺産分割調停の手順、そして家賃収入の請求方法について解説しています。不動産相続でトラブルを抱えている方や家賃を受け取れずに困っている方にとって、具体的な解決策を知る手がかりとなる内容です。
目次
不動産の遺産分割における3つの手法
遺産分割において不動産を分ける際には、主に「代償分割」「換価分割」「共有(共有物分割)」の3つの方法が用いられます。それぞれの方法には特徴があり、相続人の状況や希望に応じて適切な方法を選択しなければなりません。
不動産は預貯金のように単純に分割できないため、相続人全員が納得できる分割方法を見つけることが重要です。各方法のメリット・デメリットを理解した上で、話合いを進めましょう。
代償分割:特定の相続人が不動産を取得する方法
代償分割とは、特定の相続人(例えば長男)が不動産を現物で取得し、その代わりとして他の相続人に対して法定相続分に相当する金銭(代償金)を支払う方法です。
この方法のメリットは、実家などの不動産をそのまま残せる点にあります。思い入れのある実家を売却せずに済むため、相続人の心情面での負担が軽減されるでしょう。一方、取得する相続人には代償金を支払うだけの資金力が求められます。
例えば、実家の評価額が4,500万円で相続人が3人の場合、取得者は他の2人にそれぞれ1,500万円を支払う必要があるため、十分な現金を用意できるかが重要なポイントです。特定の相続人が引き続きその家に住むことを希望しており、かつ代償金を支払う資金力がある場合に適した方法といえるでしょう。
換価分割:不動産を売却して現金を分ける方法
換価分割とは、不動産を売却して現金化し、その売却代金から諸経費を差し引いた残金を相続人の相続分に応じて分配する方法です。
金銭で分けるため、1円単位まで公平に分配できる点がメリットといえます。相続人間で不公平感が生じにくく、明確な基準で遺産を分けられるでしょう。ただし、生まれ育った実家を手放さなければならないというデメリットもあります。
相続人の誰も不動産の取得を望んでおらず、不公平感なく遺産を分けたい場合に適した方法です。売却を進める際は、複数の不動産会社から査定を取ることをおすすめします。
共有(共有物分割):権利を複数の相続人で共有する方法
共有物分割とは、不動産を特定の誰かのものにせず、法定相続分に応じた持分で共有名義にする方法です。
遺産分割の合意が整わない場合に、一時的に問題を先送りできるという側面があります。しかし、使用料の支払いや固定資産税の負担(共有者全員に支払義務があります)の分担、将来的に共有者に相続が発生した際に権利者が増えて収拾がつかなくなるリスクに注意が必要です。
共有者間で問題が解決できない場合は「共有物分割」の手続きに発展する恐れがあり、結局、代償分割か換価分割をすることになって、同じ問題が再発しかねません。後日紛争となる可能性があるため、基本的に避けるべき方法といえます。
不動産の評価方法と遺産分割調停の手順
当事者間で話合いがまとまらない場合は、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てることができます。
遺産分割調停は、以下のステップで進行するのが一般的です。
- 1相続人の確定:戸籍謄本等を調査し、誰が相続人であるかを確定する
- 2遺言書の確認:遺言書の有無や、その効力について確認を行う
- 3遺産の範囲の確定:不動産や預貯金など、分割の対象となる遺産を確定させる
- 4遺産の評価:不動産などの評価額を決定する(※ここで評価方法が争点となりやすい)
- 5寄与分・特別受益の確認:生前贈与や介護による貢献など、各相続人の事情を考慮する
- 6分割方法の決定:各相続人の具体的な取得額を算出し、現物の分配方法を決める
不動産の評価額を決定する際の実務的な合意方法としては、以下の方法などがあります。
- 相続税評価額(路線価)や固定資産税評価額を基準とする
- 時価に近づけるため一定の倍率で割り戻す(路線価÷0.8、固定資産税評価額÷0.7など)
- 各相続人が提出した不動産業者の査定額の中間値を取る
場合によっては、各相続人が不動産鑑定士に不動産鑑定を依頼し、その評価額を提出することもあります。
当事者間で評価方法の合意ができない場合には、裁判所が選任した鑑定人による鑑定が行われます。ただし、鑑定による場合は費用(1か所につき約50万円程度)がかかり、その費用は相続人間で折半となる点に注意が必要です。
遺産分割協議中における家賃収入の取り扱い
遺産分割協議が成立するまでの間に賃貸アパートなどから発生する家賃収入は、遺産そのものとは別の財産として扱われます。最高裁判所の判例(最判平成17年9月8日)では、相続開始から遺産分割までの間に生じた家賃は、各相続人がそれぞれの相続分に応じて受け取る権利があると判断されました。
遺産分割が成立すると、その効果は相続開始時まで遡るのが原則です(民法909条)。しかし、この遡及効は家賃収入には及ばないとされています。つまり、後から遺産分割でアパートを誰が取得することになっても、分割前に発生した家賃を受け取る権利には影響しません。
しかし、家賃を受け取る権利がある一方で、アパートの管理にかかる経費(固定資産税や修繕費など)についても、法定相続分に応じて負担する義務が生じます。権利と義務はセットであることを認識しておくとよいでしょう。
なお、可分債権は各共同相続人に当然に分割されて相続されるため遺産分割の対象とならないとされていましたが、預貯金については最高裁判所の決定(最決平成28年12月19日)により、遺産分割の対象となることが明確にされました。そのため、相続開始後の賃料が被相続人の銀行口座に振り込まれていた場合、預金として遺産分割の対象となるか問題となります。前出の平成28年最決は、この点について判示するものではなく、争いの余地があります。
しかし、相続開始後に入金された賃料も預金として遺産分割の対象となるのが自然と解されます。この場合の管理費用については、遺産分割協議で賃料と精算することも可能になると考えられます。
家賃を独占されている場合の請求方法
特定の相続人(長兄など)がアパートを管理し、家賃収入を全額受け取っている場合でも、他の相続人は自分の法定相続分に応じた額を請求できます。
法的には、各相続人は賃借人に対して直接家賃を請求することも可能です。しかし実務上は、家賃を管理している相続人に対して請求する形が一般的です。例えば、相続人が3人で家賃総額が月額120万円の場合、各相続人は40万円ずつ受け取る権利があります。
すでに他の相続人が受け取ってしまった家賃については、「不当利得」として返還請求を行うことが可能です。自分の相続分に相当する金額を正当な法的根拠なく取得している状態にあたるため、その返還を求めることができます。
ただし、被相続人の銀行口座に振り込まれて滞留している家賃については、前述のとおり預金債権として遺産分割の対象となる場合がある点も押さえておきましょう。
話合いで解決しない場合は、弁護士に相談して内容証明郵便の送付や民事訴訟を検討することになります。
家賃収入の清算方法と計算例
家賃収入の清算にあたっては、収入から必要経費を差し引いた金額を相続分に応じて分配します。
■計算例
| 相続人:3人(法定相続分は各3分の1) 相続開始から1年間の家賃収入:1,200万円 同期間の管理経費(固定資産税・修繕費等):180万円 分配対象額:1,200万円 ー 180万円 = 1,020万円 各相続人の取得額:1,020万円 × 1/3 = 340万円 |
経費の内訳や金額について争いがある場合は、領収書等の資料を確認しながら協議を進める必要があります。話合いがまとまらない場合は、「不当利得返還請求訴訟」を提起することも選択肢となるでしょう。
不動産相続で弁護士に依頼するメリット
不動産相続のトラブルでは、弁護士の法的知識と交渉力が求められる場面が多くあります。
この章では、弁護士に依頼するメリットを紹介します。
家賃の不当利得返還請求のサポート
弁護士は、相続分に応じた家賃の請求額を正確に算定し、請求書面の作成から交渉ないし訴訟対応まで一貫したサポートが可能です。内容証明郵便による請求や応じない場合の訴訟提起など、状況に応じた適切な手続きの選択をサポートしてもらえます。
また、相手方との直接交渉によるストレスを軽減し、法的に正当な権利を行使するための支援を受けられます。
不動産評価・調停対応の実務支援
不動産の評価額をめぐる紛争では、適切な評価方法の選択・査定書の取得・鑑定申立ての判断など、専門的な知識が必要となります。弁護士は、依頼者に有利な評価方法を検討し、必要な資料収集をサポートします。
また、遺産分割調停では、裁判所への書類提出・期日への出席・調停委員への説明など、かなりの労力と時間が必要となりますが、弁護士が代理人として対応することで、ご本人の負担を軽減することができます。
不動産相続のトラブルを回避する生前対策
換価困難な不動産が遺産の中心である場合、分割方法が決まらずトラブルになることがしばしば起きます。事前に対策を講じておくことで、紛争を予防することが可能です。
代表的な生前対策として、以下の2つがあります。
- 遺言書を作成する
- 生前贈与を活用する
遺言書を作成する
遺言書の作成は、有効な生前対策の一つです。特定の相続人に不動産を相続させる旨の遺言を作成しておけば、遺産分割協議を経ずに不動産を承継させることができます。
ただし、他の相続人には遺留分(民法が保障する最低限の取り分)があるため、遺留分に配慮した内容にしなければ、争いの元になりかねません。
改正相続法により遺留分は金銭請求となったため、不動産に対する権利の主張はなくなりましたが、不動産を相続する相続人に資金がない場合は困難に直面してしまいます。そのため、遺言書を作成する際には、この点にも配慮しましょう。
生前贈与を活用する
生前贈与の活用も、有効な生前対策の一つです。
例えば、暦年贈与により、贈与税がかからない範囲で少しずつ名義を変更していく方法があります。ただし、相続法改正により、遺留分算定の基礎となる贈与は原則として相続開始前10年間に限定されました(民法1044条)。
そのため、特定の相続人に多くの財産を承継させたい場合、相続開始の10年以上前から暦年贈与を活用すれば、贈与税の負担を抑えつつ、遺留分算定の基礎財産からも除外されるため、遺留分侵害額請求のリスクの軽減にもつながります。
よくある質問(Q&A)

不動産の分割方法や賃貸物件の収益分配に関して、相続人が抱きやすい疑問をQ&A形式でまとめました。
- Q
- 遺産分割協議が終わるまで家賃はもらえないのですか?
- Answer
-
いいえ、相続人は、遺産分割協議の成立前でも相続開始後に発生した家賃を受け取る権利があります。
最高裁判所の判例により、相続開始後に発生した賃料債権は遺産とは別個の財産とされ、各相続人が法定相続分に応じて確定的に取得するものとされています。
したがって、遺産分割協議中であっても、相続分に応じた家賃の支払いを他の相続人に求めることが可能です。
- Q
- 長男が「家を継ぐから不動産は全て自分のものだ」と主張していますが正しいですか?
- Answer
-
その主張は正しくありません。民法上、子どもだけが相続人の場合には、子どもの間では平等に親の財産を相続する権利があります(民法900条)。
長男であることを理由に不動産を単独で相続できる法的根拠はありません。長男が不動産の取得を希望する場合は、代償分割により他の相続人に相続分に応じた金銭を支払うか、話合いで合意を得る必要があります。
- Q
- アパートの修繕費や税金は誰が払うべきですか?
- Answer
-
相続開始後、遺産分割前のアパートの管理に要する経費(固定資産税・修繕費など)は、法定相続分に従って各相続人が負担する義務があります。
家賃収入を受け取る権利と同様に、経費負担の義務も相続分に応じて分担されます。特定の相続人が経費を立て替えて支払っている場合は、家賃の分配時に精算するのが一般的です。
東京都千代田区の相続に強い弁護士なら直法律事務所
不動産相続においては、分割方法の選択から家賃収入の請求、また遺産分割調停の対応まで、様々な法的課題が生じます。特に、相続人の一人が家賃収入を独占している場合の不当利得返還請求や不動産評価をめぐる争いでは、専門的な知識と交渉力が必要となります。
相続に関するお悩みは、早期に弁護士などの専門家に相談することで、適切な解決策を見つけやすくなります。この問題には、正門的な知識が必要となりますので、不動産相続についてお悩みの方は、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
直法律事務所では、家賃収入をめぐる紛争対応や不動産評価に関する交渉、また遺産分割調停への対応まで不動産相続案件の経験が豊富な弁護士が丁寧にサポートいたします。お悩みの方は、まずは一度ご相談ください。
遺産分割についてお悩みの方へ
協議が円滑に進まない、お話し合いがまとまらない等、遺産分割にはさまざまなトラブルが生じがちです。遺産分割協議書の作成から、分割協議の交渉、調停申立て等、プロの弁護士が丁寧にサポートいたします。お悩みの方はお早めにご連絡ください。
初回相談は
0
円
相続に関わるお悩みは相続レスキューにお任せください
ご相談はお気軽に
- 初回相談は 円 お気軽にご相談ください




