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弁護士コラム

不当利得の時効は5年?相続財産の使い込みと返還請求の事例を解説

遺産分割のトラブル
投稿日:2025年12月03日 | 
最終更新日:2025年12月03日

Q
最近母が亡くなり、遺産整理を進めていたところ、生前に妹が管理していた母の預金口座から多額の引き出しがありましたが、その使途がわかりません。妹に問い詰めても「母の生活費や介護費に使った」「母の許可は得ていた」と曖昧な説明をするばかりで、個人的な支出に流用していたのではないかと疑っています。

妹が使い込んだお金を法的に取り戻す方法として不当利得返還請求があると聞きましたが、請求できる期限はあるのでしょうか?
また、どのような支出が不当な使い込みといえ、裁判になった場合に何を証明すればよいのか、具体的に知りたいです。
Answer
親である被相続人の生前にその財産を管理していた相続人が預金を引き出して使用した場合、その支出が被相続人の意思に基づかないものであれば、不当利得返還請求または不法行為に基づく損害賠償請求等により返還を求めることができます。

ただし、不当利得返還請求権には消滅時効があり、原則として「権利を行使できることを知った時から5年」または「権利を行使できる時から10年」で時効が完成します。被相続人の生前に着服していたような場合、相続発生時点で時効完成間近ということもあります。また、相続手続きに時間がかかっている間に期限が迫ってしまうこともあります。

また、請求する側は、使い込みの事実や支出の不当性について立証責任があるため、証拠収集が重要になります。

監修:弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田 直彦

相続財産の使い込みがあった場合、不当利得返還請求により法的に取り戻すことができますが、時効や立証責任など注意すべき点が多くあります。
 
この記事では、不当利得返還請求の時効(5年・10年)の起算点、どのような支出が不当とみなされるのか、裁判における立証のポイント、手続きの流れなどを具体的な事例を交えて解説します。

不当利得返還請求の時効とは?

親の預金について兄弟による使い込みが相続発生後に発覚した際、どのように法的に財産を取り戻せるのでしょうか。ここでは、使途不明金の返還を求める手段として多く用いられる不当利得返還請求の基本的な考え方を解説します。

また、財産管理者(受任者)が負う善管注意義務違反による損害賠償請求や、不法行為に基づく損害賠償請求との違い、そして不当利得返還請求権の消滅時効についても解説します。

不当利得返還請求の基本的な考え方

親の財産を管理していた者が、被相続人(親)の意思に基づかずに親の預金を引き出して支出した場合、当該金銭を引き出して使用した行為は不法行為となる可能性があり、また、不当利得が生じています。そのため、当該金銭について、不法行為に基づく損害賠償義務や不当利得返還義務が生じる可能性があります。

被相続人である親から財産管理を任されていた場合、具体的な指示があるケースもありますが、多くは包括的に管理を委任されているケースが一般的です。

このように、包括的に管理を委任されている場合、受任者には一定の裁量が認められますが「委任者の利益を図る」という「委任の本旨」に従い、その達成のために善良な管理者として合理的に要請されるすべての義務を負います。したがって、被相続人の財産からの払戻しや支出が不当か否かは、受任者である相続人が「委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務」(民法644条|善管注意義務)に違反したか否かによって決まります。

たとえ、財産管理を委任された者が他の親族に相談していたとしても、その使途が被相続人の意思に反し、社会通念上不相当な内容であれば、善管注意義務違反として「損害賠償義務」を負います。また、当該支出により受任者が利得を得ていれば「不当利得返還義務」、当該支出が不法行為を構成する場合は「不法行為による損害賠償義務」が生じます。

例えば、被相続人の意思に反して独立した子らへ金銭を交付したケースや、被相続人が孫に対して継続的に非課税限度額の範囲で贈与をしていたことから被相続人からの具体的な指示がないまま贈与を継続したケースなどは、合理性を欠く支出が不法行為にあたるとされた裁判例があります。このような場合、不当利得の成立を問題とすることもあります。

以上から、単に形式的に「財産管理を任されていた」だけでは足りず、支出の内容そのものの正当性が極めて重要であることがわかります。

不当利得返還請求権の消滅時効と起算日

不当利得返還請求権には消滅時効が存在し、これを超えると原則として権利を行使できなくなりますが、その時効期間は次の二つの起算点により決定されます。

  • 主観的起算点:権利を行使できることを知った時から5年
  • 客観的起算点:権利を行使できる時(不当利得返還請求では、利得が受益者に帰属した時)から10年

被相続人(親)から財産管理を委任されていた者の善管注意義務違反による損害賠償請求も検討できるケースの場合、消滅時効の完成時期の相違が問題となり得ます。委任契約に基づく善管注意義務違反による損害賠償請求も、権利行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年、損害が発生した時点(客観的起算点)から10年で消滅時効が完成します。

客観的起算点については、裁判例によれば、「被相続人が死亡し、委任契約が終了した時点」とされています。

このように、不当利得返還請求権と委任契約に基づく善管注意義務違反による損害賠償請求権では、客観的起算点が異なるため、状況により主張する法的構成を検討する必要があります。

不法行為に基づく損害賠償請求との違い

相続財産の使い込みに対しては、不当利得返還請求と不法行為に基づく損害賠償請求のいずれか、または両方を選択的に請求することができます。

  • 不当利得返還請求
    法律上の原因なく他人の財産や労務によって利益を受け、その結果他人に損失を与えた場合に、その利益の返還を求めるものです。
    被相続人の財産の使途が、被相続人のための使途とは考えられない場合に検討する請求です。被告に利得があることや、その利得が本来原告に帰属すべきものであったことを主張します。

  • 不法行為に基づく損害賠償請求
    故意または過失によって他人の権利を侵害し、損害を与えた場合に、その損害の賠償を求めるものです。
    例えば、被相続人の口座から勝手に預金を引き出し、自己のために使用していたとみられる場合に検討する請求です。被告が原告の権利や利益の侵害をしたことについて、故意または過失の主張・立証が必要になります。

不当利得は、不法行為のような故意または過失の立証が不要なため、使い込みの使途に合理性がない場合に広く適用される可能性があります。

時効が完成した場合の扱いと注意すべきポイント

不当利得返還請求の時効が完成すると、請求権は消滅し、原則として返還を求めることができなくなります。

ただし、時効完成により義務が消滅することで生じる利益を受ける当事者が、時効の利益を受ける旨の意思表示である「時効の援用」をしない場合、義務は消滅しません。そのため、時効が完成しても、時効の援用がされない限り、不当利得返還請求を行うことが可能です。

時効期間は、前述のとおり「権利を行使できることを知った時から5年」、または「権利を行使できる時から10年」です。

しかし、時効の完成は、時効の更新(旧:中断)や時効の完成猶予(旧:停止)といった手続きによって阻止される可能性があります。例えば、請求権者が相手方に対し裁判上の請求を行う、催告を行う、協議を行う旨の合意をする、あるいは相手方が債務を承認する(一部返済など)といった行為により、時効が更新または時効の完成が猶予されます。

時効完成が迫っている場合は時効の完成猶予を得るために、迅速に催告(内容証明郵便の送付)や訴訟提起(裁判上の請求)を行うことが重要です。なお、確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定した場合、時効の更新が生じます。

親の預金引き出しで不当利得が問題となるケース

被相続人の財産からどのような支出をすると、後に不当利得として返還を求められるリスクがあるのでしょうか?

ここでは、支出が「被相続人のため」であったかどうかの法的判断基準と、その境界線を裁判例を交えて示し、後の法的問題へと発展させないために注意すべき点を解説します。

包括的な財産管理の委任と授権の範囲

被相続人から財産管理を包括的に一任されていたとしても、その権限の範囲(授権の範囲)は無制限ではありません。例えば、「金銭管理・使用について一任する」といった包括的な内容の書面があったとしても、裁判所はその作成経緯や文言を検討し、授権の範囲を限定的に解釈する傾向にあります。

実際に、包括的委任の書面があっても、財産管理者自身の自動車購入費に充てた場合など私的流用については授権の範囲を超えたものとされ、不当利得の返還が命じられた裁判例があります。

一方、授権の範囲は、被相続人の生活状況や介護の必要性、管理者との関係性などを総合的に考慮して判断されます。例えば、被相続人が高齢であっても体調を崩す前の住居のリフォーム費用などは、包括的委任の範囲内と認められたケースがあります。

単なる文言ではなく、支出が被相続人自身の利益に資するかどうかがポイントです。

被相続人のための支出として認められやすい使途

被相続人のための支出として法的に問題ないと判断されやすい費用としては、以下のようなものが挙げられます。

費用の種類具体例
生活費電話代・光熱費・衣服代・食費・日用品購入費
医療費・介護費医療費・入院費用・介護サービス費・介護用品費
住居関連費固定資産税・火災保険料・空き家の維持管理費

これらの生活に必須の費用については、たとえ領収書などの直接的な証拠がない場合でも、使途が特定され、社会通念上常識の範囲内であれば支出が認められる可能性があります。例えば、被相続人が施設に入所し、空き家となった実家の維持管理費についても、包括的委任の範囲内と判断されたケースがあります。

不当と判断されやすい使途

一方、被相続人の承諾なく支出した場合に、不当利得と判断されるリスクが高い費用としては、次のようなものがあります。

費用の種類具体例注意点
管理者やその家族のための支出・管理者名義の金融資産購入
・孫への家賃補助
外形上、管理者の利益となるため被相続人の明確な承諾が必要
謝礼・香典など・医師への個人的な謝礼
・見舞いの交通費や差入費
被相続人の義務ではないため、原則として認められない
不合理な贈与・独立した子への高額なお年玉
・将来の祝い金の前払い
他の相続人との公平性を欠き、合理的な説明が困難

不合理な贈与については、実際の裁判例では、独立して家庭を持った子らへのお年玉(年5万円ずつ)や、まだ発生していない孫の成人や就職などの祝い金(総額160万円)としての支出が「合理性を欠く」として不法行為と認定されています。不当利得返還請求の場合も、不当利得に該当すると判断される可能性が高いといえます。金額の多寡だけでなく、独立した子への定期的な支出や、まだ起きていない祝い事への前払いといった支出の性質そのものが問題視された点に注意が必要です。

このように、他の相続人との公平性を欠く不合理な支出は、被相続人の意思に反する財産管理とみなされ、不当利得や不法行為の対象となります。

また、相続税対策と称して一部の相続人に金銭を分配するような行為も、他の相続人の了解がなければ不当利得となる可能性があります。

裁判例から見る相続財産の使い込み立証ポイント

実際に裁判になった場合、請求する側と請求される側は、それぞれ何を主張し、どのような証拠でそれを裏付ける必要があるのでしょうか。

裁判例を基に、双方の立証のポイントと、裁判所がどのように事実を認定していくのかについて解説します。領収書や帳簿だけでなく、被相続人の心身の状態を示す記録や通帳の管理状況なども、重要な判断材料となります。

使い込みを主張する側が求められる立証

不当利得返還請求を行う側の主張としては、単に使途不明金があることを指摘するだけでは不十分です。財産管理委託契約が存在する場合、裁判所は払戻し行為自体が直ちに不法行為や不当利得に該当するとは判断しません(東京地判平成25年2月4日)。

請求側は、管理者による個別の払戻行為について、私的費消、被相続人の損失や管理者の利得を具体的に主張・立証する必要があります。

裁判所は、財産管理を委任された者が払戻した金銭から使途の明確な部分を控除した残金が、すべて権限を逸脱する払戻しとして不法行為責任を負うべきものと推認するのは相当でないとし、個別の払戻金の使途及び金額の説明について合理性を検討し、合理性を欠くものについてのみ不法行為の成立を認めています(東京地判平成29年9月28日)。

この点、不当利得についても同様の判断がなされるものと解されます。

財産管理者側が主張すべき正当性の立証

財産管理者が「引き出した金銭を被相続人に交付した」と主張する場合(本人交付型)、被相続人への金銭交付は原告の知り得ない事情であることから、実務上は被告側が立証すべきとされます。直接的な証拠がなくても、間接事実から交付の事実が矛盾なく推認されれば不法行為も不当利得も成立しません。

立証のポイントは、以下のとおりです。

  • 被相続人の財産管理能力:意思能力がしっかりしており、自身で財産管理が可能だったことを示す診療記録や介護記録・外出の頻度
  • 通帳等の管理状況:通帳やキャッシュカード・実印を被相続人自身が所持または管理していた事実
  • 被相続人の関与:被相続人からの指示の有無・管理者から被相続人への報告状況等
  • 相続人等による財産管理状況:払戻頻度・管理期間の長短・使途(領収書や帳簿等の有無)

東京地判令和4年9月28日では、被告が使途について全く説明できなかったものの、被相続人が財産管理能力を失っておらず通帳を自ら管理していたことから、不当利得は認められませんでした。

一方、東京地判令和4年4月12日では、被告が被相続人に交付したと説明したものの、被相続人の認知症が進行し日常生活一般に介助が必要な状況で被相続人が自ら費消することは考えられず、使途の具体的説明をできなかったとして不当利得が認められています。

日常生活費の推計方法と統計データの活用

領収書がない場合でも、日常的な生活費・医療費・介護費・公租公課などは、社会通念上常識の範囲内であれば認められます。一方、医者への個人的な謝礼・見舞費・被相続人のためにした立替金の清算に充てた場合などは客観的証拠が必要です。

生活費の推計方法は、以下のとおりです。

  1. 過去の家計簿から従前の生活費を推計する
  2. 年金額や資産額の増減から推計する
  3. 総務省統計局の家計調査等の公的統計データを参考にする

東京地判令和3年4月22日では、統計データ(平均月額14万円超)を基礎に、被相続人の個別事情(同居で住居費負担なし、年金月20万円受給等)を考慮して月額12万円を超えていなかったと推計しました。

時効を踏まえた不当利得返還請求の実務対応

相続財産の使い込みが疑われる場合、なぜ早期の相談が重要なのか、具体的なリスクと専門家に相談すべきタイミングを解説します。

請求書送付から訴訟提起までの流れ

不当利得返還請求の手続きは、通常、以下の流れで進めていきます。

① 請求書送付

まず、預貯金通帳等の入出金の調査を行う必要があります。

預貯金通帳が入手できない場合は、金融機関への取引履歴開示請求などで使い込みの証拠を収集します。使途不明の出金があれば、通帳等の保管者に使途を尋ねるなどして確認し、その回答により理由のない出金と判明した場合や疑わしい場合には、相手方に当該金銭の返還を求める文書を送付します。

具体的には請求の根拠、使い込みの具体的金額、返還を求める金額、支払期限などを明記します。ただし、話し合いによる交渉(③)を先行させるべき状況や内容証明郵便での請求(②)を直ちに行うべき状況などがあり、状況に応じた判断が必要となります。

② 内容証明

請求(①)に応じない場合や時効完成が迫っている場合は、内容証明郵便で催告を行います。

内容証明郵便には時効の完成猶予効果(6ヶ月間)があり、請求内容と到達日時が記録に残ります。

③ 交渉

証拠に基づき具体的な金額を示して交渉を進めます。

合意に至った場合は必ず合意書を作成し、分割払いの場合は強制執行認諾条項付き公正証書の作成も検討します。

④ 訴訟提起

交渉が決裂した場合や交渉が困難な場合は、裁判所に不当利得返還請求訴訟を提起します。

訴訟では時効の完成が猶予され、判決確定により強制執行も可能になり、また、時効の更新が行われます。ただし、請求側に立証責任があるため、十分な証拠準備が必要です。

時効進行・証拠散逸・親族間対立のリスク

不当利得返還請求を先延ばしにすると、時効進行・証拠散逸・親族間対立という3つのリスクが同時進行します。

時効進行のリスク

時効の起算点は、選択する請求の法的構成や財産管理の状況によって異なります。

東京地判平成28年7月19日では、被告が被相続人の預金等を払い戻してから10年が経過していたため、当該金銭の返還請求権について消滅時効が完成しているか否かが争点となりましたが、包括的委任契約に基づく返還請求義務の消滅時効の起算日は被相続人が死亡し任務が終了した日とし、消滅時効は完成していないとしました。

この事例では消滅時効は未完成と判断されましたが、委任契約が認められない場合には払い戻しの時点が客観的起算点となり、時効が完成してしまう恐れもあります。時効が完成していれば、基本的には使途不明金の返還請求ができなくなってしまいます。

証拠散逸のリスク

また、請求を先延ばしにすることで、証拠が散逸してしまうリスクが深刻化します。時間の経過により、通帳・領収書などの証拠が失われ、立証が困難になるためです。

親族間対立のリスク

さらに、親族間の感情悪化も深刻な問題です。疑念を抱いたまま時間が経過すると不信感が増幅し、「なぜ説明してくれないのか」という思いと「疑われている」という防衛的態度が対立を深め、本来話し合いで解決できた問題も訴訟に至らざるを得なくなります。

弁護士に依頼するメリットと相談すべきタイミング

弁護士が介入するメリット

不当利得返還請求において、弁護士に依頼することには大きなメリットがあります。

証拠整理の面では、弁護士は「弁護士会照会制度」を利用することで、金融機関から個人では取得困難な情報を効率的に収集できる場合があります。また、数年分の取引明細など膨大な資料から法的に重要な証拠を見極め、不当利得の成立要件と結びつけて主張を組み立てることが可能です。

法的主張の面では、不当利得返還請求と不法行為に基づく損害賠償請求のどちらが有利か判断し、複数の法的構成を組み合わせることで請求が認められる可能性を高めます。適切な時効管理により権利を確実に守ることもできます。

さらに、弁護士が代理人となることで法的根拠に基づいた説得力のある交渉が可能になり、感情的対立を避けながら有利な和解条件を引き出せることが期待できます。

専門家に相談すべきタイミング

不当利得返還請求の消滅時効は、不法行為の場合は「損害及び加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年」であり、不当利得の場合は「権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年」です。

被相続人の死亡前が時効の起算点となっている場合もあります。そのため、相続手続きに時間がかかっている間に時効の完成が近づいてしまうケースもあります。

預金口座から多額の払戻しがあり使途が不明、財産管理を任せていた相続人が明細提出を拒む、認知症進行時期に多額の出金があるなどの状況に気づいたら、できる限り早期に弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

専門家に相談することで、時効期間の正確な把握・証拠収集の方針の明確化・親族間の冷静な仲介・訴訟の見通しや準備の方法など、適切な解決への道筋が見えてきます。

よくある質問(Q&A)

相続財産の管理において、どのような支出が認められ、どのような支出が不当利得となるのでしょうか。

ここでは、実務上よく問題となる具体的な支出項目について、裁判例を交えながらQ&A形式で解説します。

Q
葬儀費用を相続財産から支払ったのですが、不当利得になることはありますか?
Answer
多くの裁判例は、葬儀費用等について、原則として喪主(主宰者)が負担するものとしています。

東京地判令和4年4月21日も、「葬儀の主催者である喪主が負担すべき性質のものであるから、遺産に当たる現金からこれを支出した場合、特段の事情のない限り、自己の法定相続分を超える部分については法律上の原因を欠き不当利得が成立するというべきである。すなわち、喪主は、主催する葬儀の内容に応じて葬儀費用の金額を調整することが可能であり、香典を受領し得る地位にあるから、葬儀費用を共同相続人が負担すべき性質のものと解することはできない」としています。

従って、喪主である相続人が葬儀費用を遺産から支出した場合、自己の法定相続分を超える部分については不当利得となり得ます。

ただし、次の場合には相続財産から葬儀費用を支出しても不当利得となりません。

▸ 相続人全員の合意がある
▸ 被相続人が生前に葬儀に関する契約を締結していた
▸ 被相続人が特定の相続人等に対して一定額を葬儀費用に充てる委任をしていた
Q
医師への謝礼を親のお金で払ったのですが、不当利得とみなされますか?
Answer
医師への謝礼を被相続人の預貯金から支払うことは、原則として認められないといえます。被相続人の意思が明示的に認められる場合であっても、社会通念上常識的な範囲に限られます。

名古屋地判平成24年1月13日では、被相続人の財産を管理していた被告がその財産から支出した金銭を医療関係者への謝礼や差し入れの購入費用に充てたと主張したことについて、「被相続人の義務に属する支出ではない上、その額も相当に多額であって、被相続人の個別具体的な同意なしに本件預貯金からの支出が許される性質のものとは認め難い」として、被告による不法行為を認めました。

医療費や介護費は被相続人の治療によって生じた債務として支払義務がありますが、医師への謝礼はそのような債務ではありません。また、近時は謝礼の金品を受けない医療機関も多く、国公立病院では謝礼の受領が違法とされています。

そのため、医師への謝礼を支払う場合には、被相続人の了承を得ていることを示す客観的証拠を用意しておく必要があります。証拠がない場合や、金額が常識的な範囲を超える場合には、不当利得と判断されるリスクが高いといえるでしょう。
Q
親のお金で生活費を払っていましたが、証拠が少ない場合でも正当な支出として認められますか?
Answer
領収書などの直接的な証拠がない場合でも、日常的な生活費・医療費・介護費・公租公課などは、社会通念上常識の範囲内であれば支出が認められる可能性があります。

東京地判令和3年4月22日では、生活費について裏付けとなる的確な証拠はなかったものの、統計データ(総務省統計局の家計調査等で平均月額14万円超)を基礎に、被相続人の個別事情(同居で住居費負担なし、年金月20万円受給等)を考慮して、月額12万円を超えていなかったと推計しました。

領収書がない場合でも、以下の方法で生活費を推計できます。

▸ 過去の家計簿から従前の生活費を推計する
▸ 年金額や資産額の増減から推計する
▸ 総務省統計局の家計調査等の公的統計データを参考にする

ただし、医師への個人的な謝礼・見舞費・被相続人のためにした立替金の清算に充てた場合などについては、被相続人の意思を示す客観的証拠が必要です。また、財産管理者が払い戻した金銭を本人に渡したと主張するような場合、被相続人の財産管理能力・通帳等の管理状況・被相続人の関与の有無や程度・払戻しの頻度や金額などを総合的に立証することが求められます。

証拠の有無だけでなく、支出の性質や金額の相当性が重要な判断要素となるため、社会通念上常識の範囲で支出をするよう心がけ、日頃から詳細な記録を残しておくことが望ましいでしょう。

東京都千代田区の相続に強い弁護士なら直法律事務所

相続財産の使い込みに対する不当利得返還請求には、「権利を行使できることを知った時から5年」または「権利を行使できる時から10年」という時効が定められており、相続手続きに時間がかかっている間に期限が迫ってしまうケースもあります。

不当利得が認められるかどうかは、支出が被相続人のためのものであったか、財産管理を任された範囲内であったかが重要な判断基準です。しかし、時効期間の管理や証拠収集、法的主張の組み立ては専門的な知識が必要であり、時間の経過により消滅時効の完成だけではなく、証拠散逸や親族間の感情悪化といったリスクも高まります。

使途不明金の発覚や財産管理に疑念を抱いた際は、できるだけ早期に弁護士などの専門家に相談し、適切な解決策を検討することが重要です。

また、使途不明金の証拠収集が困難であったり、財産管理者が説明を拒否したりするなど、相続財産の不当利得返還請求にはさまざまな問題が生じます。直法律事務所では、内容証明郵便の送付・交渉・訴訟提起に至るまで、相続に精通した弁護士が丁寧にサポートいたします。

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