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弁護士コラム
相続人が行方不明で遺産分割ができないときは?~不在者財産管理人の選任と相続手続の進め方~
- 遺産分割のトラブル
- 投稿日:2025年07月18日 |
最終更新日:2025年07月18日
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相続人のひとりと連絡が取れず、遺産分割が進められません。
不在者財産管理人という制度があると聞いたのですが、どうすれば利用できるのでしょうか?
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行方不明の相続人がいる場合、そのままでは遺産分割協議を有効に進めることはできません。そのようなときに活用できるのが「不在者財産管理人」の選任制度です。
この制度では、家庭裁判所が不在者の財産を管理する人を選び、その管理人が遺産分割協議に代理人として参加することで、手続を前に進めることが可能になります。
申立には不在者の戸籍・附票や不在の事実を示す資料が必要ですが、弁護士のサポートを受けながら進めることで、スムーズに相続問題を解決できる可能性があります。
相続人の中に連絡が取れない人や、長年行方不明になっている親族がいる場合、「遺産分割をしたくてもできない」という事態に直面することがあります。兄弟姉妹のうち一人が生死不明、住所不明というだけで、不動産の売却や預金の解約が何年も進まず、相続人全員が不利益を被ってしまうことも珍しくありません。
そんなときに活用できるのが、「不在者財産管理人」の選任制度です。家庭裁判所の手続きを通じて、不在者に代わる管理人を選任し、その人が代理人として遺産分割に参加することで、法的に有効な遺産分割協議が可能になります。
本記事では、不在者財産管理人制度の概要から、申立てに必要な書類や手続の流れ、実務上の注意点まで、相続トラブルの現場で役立つ実践的な情報をわかりやすく解説します。
「不在者がいても、相続は止まらない」。そんな選択肢を知ることで、前に進める相続手続があります。どうぞ最後までご覧ください。
目次
はじめに
遺産分割を行う際には、相続人全員の参加と合意が原則として必要です。ところが、兄弟姉妹や親族のうち、音信不通となってしまった人がいる場合、「遺産分割協議を進めたくても手が出せない」という深刻な問題に直面します。
たとえば、被相続人(亡くなった方)の子である兄弟のうち、一人が長期間にわたって所在不明、連絡手段もなく、生死すら分からないという場合、その行方不明者も法定相続人である以上、勝手にその人を除外して遺産分割協議をすることはできません。
このような状況では、相続の手続が滞り、たとえ現実には他の相続人で不動産を売却したい、現金を分けたいと考えていても、何年も解決できないケースが生じます。
解決策としての「不在者財産管理人」制度
このような問題を解決する制度のひとつが「不在者財産管理人」の選任制度です。
不在者財産管理人とは、行方が分からない相続人(法律上の「不在者」)に代わって、その財産を管理する者として家庭裁判所が選任する管理人のことをいいます。この制度を活用することで、不在者財産管理人と他の相続人との間で遺産分割協議を行うことが可能になり、不動産の売却や相続税の手続などを進めることができます。
不在者財産管理人は、不在者本人の利益を守る義務を負っており、遺産分割に際しては、家庭裁判所の許可を得たうえで協議に参加する必要があります。また、不在者が将来戻ってきたときに備えて、代償金を供託するなどの措置を講じることも求められます。
行方不明の相続人がいるからといって、あきらめる必要はありません。法的な手続を通じて、相続全体を前に進めることができるのです。次章以降では、この不在者財産管理人制度の詳細について、順を追って分かりやすく解説していきます。
不在者財産管理人制度とは
制度の趣旨と法的根拠(民法25条)
不在者財産管理人制度とは、行方が分からなくなった者(不在者)に代わって、その者の財産を適切に管理・保全するために、家庭裁判所が選任する管理人を指します。
この制度は、不在者本人の財産を保全すると同時に、残された関係者が法的・実務的な手続きを進められるようにすることを目的としています。たとえば、相続の場面では、行方不明の相続人に代わって遺産分割協議に参加することが可能となります。
制度の法的根拠は、民法第25条第1項に規定されています。
「従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。」
つまり、行方不明の人が財産管理人を置いていないときは、家庭裁判所の判断で管理人が選任され、必要な処分が可能となるというものです。
不在者とは誰か? 行方不明者との違い
民法上の「不在者」とは、従来の住所や居所を去り、容易に帰ってくる見込みがない者を指します。
重要なのは、「生死不明であること」や「失踪宣告されていること」は必要ない点です。
一方、一般的な意味での「行方不明者」は、単に居場所が分からない人を指しますが、法律上は「不在者」として扱われるためには以下の要件が必要です。
- 以前の住所・居所を去っていること
- 戻ってくる見込みがないこと(たとえば数年にわたって音信不通)
- 現実にその者に連絡が取れず、居所も不明であること
なお、連絡が取れる状態(たとえば携帯電話で通話できる、SNSでやり取りできるなど)の場合には、「不在者」には該当しません。
財産管理の必要性の有無が要件となる理由
不在者財産管理人制度は、あくまで「財産を保全する必要がある」場合にのみ適用されます。つまり、単に居所が不明であるというだけでは足りず、その人が持っている財産を管理・保全する必要性があることが前提です。
たとえば、以下のような場合には財産管理の必要性があるとされます。
- 不在者が相続人の1人であり、遺産分割の協議を進める必要がある
- 不在者名義の不動産があり、賃貸収入や固定資産税などの管理を要する
- 不在者に対する債権を回収する必要がある債権者がいる
反対に、不在者が財産を何も持っていない場合や、すでに他の管理人がいる場合には、制度の利用は認められません。
財産の種類:積極財産だけでなく債務も対象
不在者の財産には、いわゆる「プラスの財産(積極財産)」だけでなく、「マイナスの財産(債務などの消極財産)」も含まれます。
つまり、不在者が借金しか持っていなかったとしても、消滅時効の管理や債務整理の必要がある場合には、不在者財産管理人を選任することが認められるのです。この点は重要で、制度の目的が「不在者の利益の保護」に加えて、「関係者(債権者など)の保護」にもあることを示しています。
たとえば、不在者に対する請求権を時効で失いたくない債権者が、選任を申し立てることも可能です。

このように、不在者財産管理人制度は、行方不明の相続人がいても遺産分割を可能にするだけでなく、その他の財産管理におけるトラブルにも対応できる法的な仕組みです。
不在者財産管理人の選任が必要となる典型的ケース
不在者財産管理人制度は、単に「行方不明者の財産を守る」ための制度ではなく、「残された関係者が適切に財産処理を行うことを可能にする」ための制度でもあります。
ここでは、特に実務上よく見られる3つの典型的なケースを紹介します。
相続人の1人が長期間連絡が取れない
相続手続で最も多いトラブルの一つが、「相続人の1人が行方不明」というケースです。
たとえば、兄弟姉妹のうち一人が海外に移住したまま音信不通となっていたり、家族と疎遠になっていた親族が数年前から居場所が分からなくなっているような場合です。
このような状況では、遺産分割協議を進めたくても全員の合意が得られず、手続は停止してしまいます。不在者がいる場合でも、法的にはその人の同意がなければ遺産分割は無効となるため、無理に押し切って協議をしてしまうと後でトラブルになる危険もあります。
このような場合に、不在者財産管理人を家庭裁判所に申し立て、選任された管理人がその不在者の代理人として遺産分割協議に参加することで、手続きを前に進めることが可能になります。
被相続人の不動産を売却・処分したいが全員の同意が得られない
被相続人が自宅などの不動産を所有していた場合、相続人間でその不動産を売却して現金で分けるという選択がよくあります。
しかし、その不動産が共有状態であり、かつ相続人の一人が不在である場合、売却や処分は事実上不可能となってしまいます。日本の不動産登記制度では、共有名義の持分権者全員の同意がなければ処分(売却・贈与・担保設定など)ができません。そのため、たとえ他の相続人が全員一致していても、不在者が一人いるだけで動かせないという状況になります。
このような場合にも、不在者財産管理人を選任し、その者との間で遺産分割協議を行ったうえで、裁判所の許可を得れば、不動産の売却を含む相続手続を進めることが可能となります。
債権者や担保権者としての対応が必要なケース
不在者財産管理人制度は、相続手続に限らず、債権者・担保権者・共有人など、不在者の財産管理に利害関係を有する者が法的に保護されるためにも用いられます。
たとえば、不在者が債務者である場合、債権者としては消滅時効の進行を防ぐためにも財産管理人の選任が必要となることがあります。
このような状況において、債権者や関係者が家庭裁判所に対して不在者財産管理人の選任を申し立てることで、不在者の財産に対する法的手続を適切に進めることができるようになります。

これらのように、不在者財産管理人の選任は、相続人や債権者が現実的に手続を進めるための有効な法的手段です。
他の制度との比較
不在者の相続対応においては、「不在者財産管理人制度」のほかにも「失踪宣告制度」や「認定死亡制度」が選択肢となり得ます。これらは、いずれも行方不明者が関係する財産処理や法的手続を進めるための制度ですが、制度の目的や効果には明確な違いがあります。
ここでは、それぞれの制度の違いと選択にあたっての注意点を整理します。
失踪宣告との違いと併用の可否
制度の趣旨と効果の違い
不在者財産管理人制度は、不在者が生存していることを前提に、その者の財産を保全・管理し、必要に応じて利害関係人が手続を進められるようにする制度です。
一方、失踪宣告制度(民法30条〜31条)は、不在者の死亡を法律上擬制する制度であり、戸籍上も「死亡」と記載されることになります。この宣告が確定すると、相続は開始し、不在者の相続人がその財産を承継することになります。
併用はできるか?
基本的に、両制度は目的が異なるため、排他的ではありません。
不在者財産管理人制度を用いて一定期間遺産分割等を行い、その後も不在が継続する場合に、失踪宣告の申立てを行うことも可能です。ただし、失踪宣告がなされると、もはや不在者ではなくなるため、財産管理人の立場も失われる点には注意が必要です。
認定死亡制度との違い
認定死亡制度(戸籍法89条)は、水難、火災、その他の事故・災害などによって死亡が確実視されるが遺体が見つからない場合に、関係官庁からの報告をもとに死亡として戸籍に記載する制度です。死亡時刻は「推定午後0時」などと記録されるのが一般的です。
これは、あくまで行政実務上の取り扱いであり、法律上の死亡の擬制(=失踪宣告)とは異なります。そのため、戸籍に死亡と記載されても、後日生存が確認されたり死亡時刻が異なると判明した場合には、訂正が行われる可能性があり、法的安定性には限界があります。
制度選択時の注意点とリスク
法的効果の違いを理解する
不在者財産管理人制度は「生きている可能性のある人の財産を、あくまで一時的・代理的に管理する制度」であり、失踪宣告は「死亡したものとみなして、法的に権利関係を清算する制度」です。
したがって、不在者財産管理人を通じて遺産分割を行う場合は、将来不在者が戻ってきたときのことを見据え、代償金の供託や契約上の条項によって不在者の権利を保全する必要があります。
失踪宣告のリスク:遡及効と法律関係の混乱
失踪宣告には、死亡の効果が過去に遡って発生するという「遡及効」があります(民法121条)。したがって、仮に相続が終了していても、その後に不在者の生存が確認された場合、一度成立した相続や遺産分割が無効となり、やり直しが求められるという重大なリスクが生じます。
特に、不動産の登記変更や相続税の申告・納付を終えた後に失踪者が戻ってきた場合、再登記や税務処理の修正が必要となるほか、紛争に発展するおそれもあります。
制度選択の判断基準
- 不在期間が比較的短く、帰来の可能性も否定できない
→ 不在者財産管理人の選任
- 不在から長期間(7年以上)経過し、生死も不明で連絡手段も尽きている
→ 失踪宣告を検討
- 災害や事故等により死亡がほぼ確実だが遺体が確認できない
→ 認定死亡制度又は特別失踪宣告を利用

このように、それぞれの制度には目的と効果に明確な違いがあります。
制度の選択にあたっては、不在者の状況、相続人や債権者の利害、将来のリスクなどを慎重に考慮したうえで、適切な手続きを選ぶ必要があります。
可能であれば、弁護士に相談のうえ、最適な法的対応を検討することをお勧めします。
不在者財産管理人の選任手続
不在者財産管理人制度を活用するには、家庭裁判所への申立てが必要です。
本章では、実際の申立手続に必要な実務的要素を、5つのステップに分けて解説します。
管轄裁判所の確認方法
不在者財産管理人選任の申立ては、不在者の「従来の住所地」または「居所地」を管轄する家庭裁判所に行います(家事事件手続法145条)。
- 従来の住所地:生活の本拠とされる場所(住民票の所在地が参考になる)
- 居所地:住所地よりは緩やかながら、継続的に居住していた場所
不在者が過去に転居を繰り返している場合など、管轄裁判所が複数該当することがありますが、その場合はいずれかを選んで申し立てることが可能です(同法5条)。
なお、正確な管轄を確認するためには、家庭裁判所のウェブサイト等を確認するようにしましょう。
(参考:裁判所|裁判所の管轄区域)
必要書類とその入手方法(戸籍、附票、財産資料など)
申立てには、多数の添付資料が必要となります。以下に代表的なものを挙げ、入手方法も併記します。
- 不在者の戸籍謄本・戸籍附票
→ 市区町村の役所で取得。附票により住所の履歴が確認できる。
- 不在の事実を証する資料
→ 郵便の返戻(「宛所不明」など)、行方不明届出受理証明書(警察)、内容証明郵便など
- 財産資料(不在者の預金通帳、不動産登記簿謄本など)
→ 金融機関や法務局で取得。遺産分割目的であれば被相続人名義の資料も必要。
- 申立人の利害関係を証する資料
→ 相続関係図、被相続人の出生から死亡までの戸籍など
- 不在者財産管理人候補者の住民票等(指定する場合)
いずれの資料も原本または原本証明付きの写しを求められることが多いため、準備には一定の時間を要します。
裁判所の書式
家庭裁判所のウェブサイトには、以下の不在者財産管理人選任申立て用の書式が公開されています。
(参考:裁判所|不在者財産管理人選任の申立書)
- 家事審判申立書
- 土地財産目録
- 建物財産目録
- 現金・預貯金・株式等財産目録
- 記入例(不在者財産管理人選任)
記入例では、「申立ての理由」に不在者との関係、行方不明の経緯、遺産分割の必要性などを具体的に説明する必要があります。
特に、不在の事実を裏付ける事情や証拠の記載が重要です。
予納金・収入印紙・切手などの費用
申立てにかかる費用は、以下のとおりです。
- 収入印紙代:800円(審判申立手数料)
- 郵便切手代:家庭裁判所ごとに異なるが、1,000円〜3,000円程度
- 予納金(財産管理人の報酬準備金):30万円〜100万円が相場(個々の事件内容により裁判所が決定)
予納金は、選任された不在者財産管理人への報酬原資として供託されるものであり、返還されないことが多いため注意が必要です。
裁判所により金額が異なるため、申立て前に照会することを推奨します。
候補者の指定と裁判所の選任判断基準
申立書では、不在者財産管理人の候補者を指定することも可能です。候補者としては、以下のような立場の者が考えられます。
- 弁護士(中立性・専門性が期待されるため最も一般的)
- 申立人本人や親族(ただし利害が対立する場合は不適)
- 司法書士などの専門職
ただし、遺産分割など相続人間で利害が衝突する可能性がある場合には、裁判所は中立的な第三者(たとえば弁護士)を選任する傾向にあります。また、候補者を指定した場合でも、家庭裁判所が職務遂行能力・利害関係の有無などを調査したうえで、必ずしも希望者が選任されるとは限りません。
以上が、不在者財産管理人選任手続の実務的な流れです。適切な準備と証拠資料の整備により、スムーズな申立てと迅速な選任決定が期待できます。
選任後の流れと遺産分割手続
不在者財産管理人が選任された後は、ただちに遺産分割協議ができるわけではありません。手続の適正性と不在者の利益保護の観点から、家庭裁判所の監督下で協議と財産処理が行われる必要があります。
本章では、選任後の流れから協議の実施、不在者帰来時の対応まで、実務のポイントを詳しく解説します。
家庭裁判所による選任審判とその効力発生日
不在者財産管理人は、家庭裁判所が「選任の審判」を行い、審判が当該管理人に告知された時点で効力が発生します(家事事件手続法74条2項)。つまり、選任審判が出た日ではなく、管理人本人が裁判所からその内容を正式に知らされた日から、管理人としての職務が開始されます。
この審判内容には、管理人の氏名、管理の対象となる財産の範囲、必要に応じて家庭裁判所の許可を要する行為の内容などが明記されます。
遺産分割協議の実施と許可申立て
選任後、不在者財産管理人は直ちに遺産分割協議に参加できるわけではなく、家庭裁判所の許可を得た上で遺産分割協議に加わる必要があります(家事事件手続法146条の2第1項)。
遺産分割協議の流れ
- 1相続人間で分割内容を事前に協議する。
- 2不在者財産管理人が、家庭裁判所に対して「遺産分割協議に参加することの許可申立て」を行う。
- 3許可が出た後、正式に協議へ参加し、遺産分割協議書を作成。さらに、この遺産分割協議書で遺産分割を行うことについては家庭裁判所の許可を得る。
- 4協議書の内容に基づき、登記や名義変更等を実施する。
なお、遺産分割協議書には、不在者財産管理人の署名・押印が必要となります。
不在者の利益確保
不在者財産管理人が遺産分割に参加する際、最も重視されるのが不在者本人の利益の保護です。そのため、以下のような具体的な対応が求められます。
代償金の供託
たとえば、不在者が相続により本来取得するべき不動産を他の相続人が取得する代わりに代償金を支払う場合、その金銭を不在者本人のために法務局に供託する方法があり得るでしょう。
供託により、将来不在者が帰来したときにその権利を確保できるため、安全な処理方法といえます。
遺産分割協議書の文言の工夫
協議書には、不在者が帰来した場合に代償金相当額を返還する義務を記載した条項や、供託の旨を明示する条項を設けておくと、より明確な法的安定性が確保されます。
不在者が帰来した場合の対応
不在者財産管理人は、あくまでも本人の代理であり、本人が帰来した時点でその職務は原則として終了します。
その場合、以下の対応が必要となります。
- 管理人の職務終了を家庭裁判所に届け出
- 必要に応じて財産目録や収支報告を作成・提出
- 不在者本人に供託金の返還請求権を通知
- 場合によっては、遺産分割協議の再協議(不在者が協議内容に異議を唱えた場合)
不在者が帰来し、すでに協議が行われた後に異議を述べるような場合には、法的な争いに発展する可能性もあります。そのため、あらかじめ家庭裁判所の許可を得て慎重に協議を進めるとともに、供託等の措置により利益を確実に保全しておくことが不可欠です。

不在者財産管理人の選任後の流れは、一般的な代理人とは異なり、家庭裁判所の管理のもとで厳格に進められます。特に遺産分割においては、「不在者の利益保護」が最優先されるため、許可申立てや供託措置など、手続面での配慮が欠かせません。
制度を適切に活用しつつ、後のトラブルを避けるためにも、専門家による助言を得ながら慎重に進めることが望まれます。
不在者の証明方法
不在者財産管理人制度を利用するうえで、最大の関門となるのが「申立てにあたり、不在者が法律上の『不在者』に該当することをどのように立証するか」という点です。
家庭裁判所は形式的な申立てだけでは選任を認めないため、不在の事実を客観的に裏付ける証拠の提出が不可欠となります。
「不在」であることをどう立証するか
民法25条にいう「不在者」とは、従来の住所または居所を去り、容易に帰来する見込みがない者です。この定義に当てはまることを立証するには、単なる行方不明という事実だけでなく、「継続的な不在」かつ「意思疎通が不可能であること」を明らかにしなければなりません。
ポイントは以下の2点です。
- 1連絡手段を尽くしても意思疎通が取れない
- 2現在の所在が分からず、帰ってくる見込みがないと合理的に判断される事情がある
裁判所は、不在者の生死を問うのではなく、「現在その人と財産管理に関する意思疎通が可能か」を重視しています。
不在の事実を示す資料
「不在」を立証するために有効とされる代表的な資料は次のとおりです。
- 内容証明郵便と返戻郵便
- 不在者の最後に判明している住所に、内容証明郵便を送付する。
- 「宛所に尋ねあたりません」「転居先不明」などの理由で返送された場合、その返戻封筒ごと提出すると有力な証拠になります。
- 行方不明者届受理証明書(警察)
- 警察署に「行方不明者届」を提出し、受理証明書を取得する。
- 「行方不明者発見活動に関する規則」に基づく正式書類として、不在状態の客観的証明となります。
- 戸籍附票の記録
- 不在者の住民票の除票や戸籍附票から、転居記録や住所の消失が確認できる。
- 「住所不定」「新住所不明」と記載されている場合も強い根拠になります。
親族・知人への照会、SNS調査など実務的な手順
裁判所からは、「申立人がどこまで不在者の所在を調査したか」が厳しく問われます。そのため、形式的な証拠だけでなく、実務的な調査努力の内容を説明する書面(事情説明書等)も重要になります。
実務で有効とされる調査例は以下のとおりです。
- 不在者の親族や知人に対して手紙・電話で照会を行った記録
→ 可能であれば返信のコピーや発信履歴を残しておく
- メール・SNS・LINEなどの連絡手段を使った履歴
→ メッセージのスクリーンショットを提出することも可
- 最後に確認された居所の近隣調査や現地訪問
→ 不在であることを裏付ける写真や訪問メモの添付
こうした努力の蓄積が、家庭裁判所に「本当に所在不明である」という納得を与え、不在者財産管理人の選任につながります。
不在期間が短い場合の対応
不在期間が比較的短い(たとえば数か月〜1年程度)場合、裁判所の判断はより慎重になります。行き違いや一時的な音信不通の可能性が排除できないからです。
このような場合は、以下の工夫が有効です。
- 「不在期間中の接触不能状態」が継続している具体的事情を詳述する
例:「数か月間、毎週複数の連絡手段を試みたがすべて未達」
- 不在者との関係性が希薄であったこと(長年連絡を取っていなかった)なども補足する
- 将来的に失踪宣告の検討を予定していることを記載しておくと裁判所が理解を示しやすい
裁判所が不在性を厳しく判断するのは、手続の濫用や恣意的な排除を防ぐためです。よって、立証努力と説明内容の丁寧さが結果に大きく影響します。

不在者財産管理人の申立てにおいては、「不在者であること」の立証が最も重要なポイントです。
返戻郵便や警察への届出、戸籍・附票による客観証拠の提出に加え、申立人自身による調査・努力の痕跡を具体的に示すことで、裁判所からの信頼性が高まり、スムーズな選任へとつながります。
まとめ
不在者がいても相続手続は前に進められる
相続人の中に行方不明者がいる場合、多くの方が「もう遺産分割はできないのではないか」「何年も手続が止まってしまうのではないか」と不安を感じます。
しかし、不在者財産管理人制度を活用することで、たとえ相続人の一人が不在であっても、法的に適正な形で遺産分割を進めることが可能です。
この制度は、単に相続手続を動かすための手段ではなく、不在者の利益を保護しつつ、他の相続人や債権者の正当な利益を実現するための法的インフラです。不在者との間で遺産分割協議ができないという障害を乗り越える唯一の制度的対応策であり、制度の正しい理解と適切な運用が相続の円滑な解決につながります。
早期対応と専門家の活用がトラブル防止の鍵
不在者財産管理人制度を利用するには、家庭裁判所への申立て、必要書類の整備、不在者の立証、供託や裁判所の許可申請など、一定の法的知識と手続的準備が求められます。これらを自己判断で進めようとすると、証拠不十分や要件未充足により却下されるおそれもあり、結果として時間とコストがかえって増大することもあります。
そこで重要なのが、早期の対応と弁護士など専門家の関与です。特に不在期間が短い場合や、親族間で利害の対立が予想される場合には、第三者の視点で適法・適正な進め方を判断できる専門家の助力が不可欠です。
また、制度の活用にあたっては、将来の不在者帰来時の対応までを見越した協議書作成や供託の実施など、慎重かつ計画的な設計が求められます。こうした点も含めて、実績のある法律事務所に相談することで、トラブルを未然に防ぎ、相続の着実な完了を実現することができます。
おわりに
相続という大切な手続において、「不在者がいるから何もできない」と立ち止まってしまうのではなく、法制度を正しく理解し、一歩踏み出すことが解決の第一歩です。
不在者財産管理人制度は、そのための力強いツールであり、正しい活用こそが相続人全員の利益を守る道です。
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