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弁護士コラム

祭祀承継者の決め方とは?指定の順位や方法をわかりやすく解説

遺産分割のトラブル
投稿日:2025年01月21日 | 
最終更新日:2025年02月27日

Q
最近、父親の入院が増え、将来の祭祀承継について真剣に考えるようになりました。
子どもたちの中で誰を祭祀承継者にすべきか迷っており、家族墓の管理・維持に関する手続きや責任の所在も不明確で不安を感じています。特に兄妹間でのトラブルが心配です。

祭祀承継者の選定基準や手続きの流れについて、法的な面から基本を理解したいと考えています。また、祭祀に関する費用も事前に把握しておきたいのですが、どうすれば良いのでしょうか?
Answer
祭祀承継者は、遺言や家族間の慣習で決定されることが一般的ですが、家庭裁判所での調停や審判を通じて決定されることもあります。

祭祀承継者は祭祀財産の承継を行う法的な責任を負う人物であり、祭祀財産の管理や祭祀をどのように行うかは祭祀承継者に委ねられます。 祭祀承継者の指名に関する兄妹間のトラブルを避けるためには、被相続人が遺言などであらかじめ祭祀承継者を指定しておく ことが望ましいです。

また、祭祀承継者には、墓地の名義変更や維持費用、管理責任などの負担が発生します。例えば、お墓の維持費用には年間五千円から二万円程度かかることが一般的です。また、法要などの費用も含めた総額を知るために、事前に霊園などの管理者に確認しておくことが大切です。トラブルを避け、安心して祭祀継承を行うために、早めに専門家に相談することも一つの手段です。

この記事では、祭祀承継者の選定基準や手続きの流れ、負担や費用について詳しく解説します。

祭祀承継者とは?役割と重要性

祭祀財産は相続財産とは異なる法的な取り扱いを受ける財産で、先祖供養に必要な特別な財産として管理されます。

祭祀財産は、物理的な価値だけでなく宗教的・家族的な継承を目的としているため、相続財産とは別個に管理されます。民法第897条により、相続人とは別に祭祀承継者祭祀主宰者が指定され、その管理責任を担うことになります。祭祀承継者と祭祀主宰者は法律上別個の概念として扱われますが、この二つは分けることができない関係性にあると考えられ、祭祀承継者は祭祀主宰者の地位にあると考えられます。

祭祀財産定義具体例
系譜先祖や家族の系統を示す記録過去帳、家系図など
祭具祭祀を行うために使用される道具仏壇、位牌、神棚など
墳墓先祖や故人を祀るための墓地お墓、お墓の使用権など

このため、祭祀財産は通常の相続手続きにおける分割や相続税の課税対象にはならず、相続人による共有状態にはならないのです。そのため、祭祀財産は相続放棄の対象ともなりません。

例えば、家族墓や仏壇などは祭祀承継者が責任を持って管理し、分割や売却することはできません。祭祀承継者が指定されない場合、法的に不明確な状態になるため、トラブルの原因となることもあります。祭祀財産は相続財産とは異なり、法的に別途取り扱われるべき特別な財産であり、祭祀承継者にその管理責任が課せられます。

なお、祭祀財産については、相続人という限定はなく祭祀承継者が承継するということになっています。
(相続人以外の内縁の妻を祭祀承維者とした事例として大阪高決昭21·10·29)

コラム
祭祀財産に関連して、「遺骨」と「遺体」の所有権の帰属について、議論となることがあります。
まず、「遺体」については、速やかな処理が求められることから、祭祀財産として考えるべきではないと思われます。
次に、「遺骨」については、①相続により相続人に帰属するとの説、②慣習により定まるとの説、③喪主に帰属するとの説、④祭祀承継により決まるとの説(名古屋高決平26·6·26判時2275·46等)などがあります。
実務上は、最高裁平成元年7月18日判決(家月41・10・128)は、「原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件遺骨は慣習に従って祭祀を主宰すべき者である被上告人に帰属」と判断している点が参考になるでしょう。

祭祀承継者の決め方・順位

祭祀承継者とは、先祖供養や墓地の管理など、家族の伝統を守る重要な役割を担う人物です。では、どのように祭祀承継者を決めるのでしょうか? 民法第897条に基づいて、祭祀承継者を決定する方法には3つの順位があり、それぞれ異なるプロセスを経ます。

(祭祀に関する権利の承継)
第八百九十七条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
引用:e-GOV法令検索|民法(明治二十九年法律第八十九号)

なお、判例では、対立している当事者双方が、相手の祭祀財産の所有を争っていない場合に、その祭祀財産については当事者の主張に従って所有権の帰属を認定しているものもありますので、祭祀承継者の人数については柔軟に判断されていると考えられます(東京高決平18・4・19)。

以下に、それぞれの順位とその具体的な方法について説明します。

順位1:被相続人による指定(遺言など)

民法第897条では、被相続人が祭祀主宰者を指名できると明記されています。そのため、祭祀主宰者・祭祀承継者は、故人が遺言などで指定することが可能です。

また、祭祀承継者の指定に際して、その方式は、書面でも口頭でもよく、指定の時期も生前の意思でも、遺言による方法でもよいとされています。具体的には、遺言書に「私の祭祀主宰者は○○にする」と明記することが一般的な方法です。例えば、遺言書に以下のように記載されることが多いです。

「私の祭祀主宰者として、長男○○を指定します。」

このように明確に指定することで、遺族間での争いを防ぐことができます。法律上、被相続人が指定できるのは「祭祀を主宰する者」(祭祀主宰者)ですが、「祭祀財産を承継する者」(祭祀承継者)を指定しても問題はありません。被相続人による指定がない場合や、遺言が不明瞭な場合には、次の方法に進むことになります。

順位2:慣習による決定

次に、祭祀承継者を決定する方法として、地域や家族の慣習に基づくことがあります。例えば、ある地域では長男が祭祀承継者として指定されることが一般的な慣習となっていると仮定しましょう。この場合、特に遺言がない場合や明確な指定がない場合には、この慣習に従って祭祀承継者が決定されます(しかし、実際「慣習」が認められた判例は、ほとんどないといわれています)。

順位3:家庭裁判所による指定

被相続人による指定がなく、慣習も不明で、祭祀承継者の決定が難しく、誰が祭祀承継者となるべきか争いがある場合、第三の選択肢として、相続人又は利害関係人が家庭裁判所に申立てをして、家庭裁判所に祭祀承継者を指定してもらうことがあります。

家庭裁判所は、相続人間での話し合いがうまくいかない場合に介入し、最終的に祭祀承継者を決める役割を果たします。家庭裁判所が指定する場合、諸般の事情を総合的に考慮した上で、その判断基準につき、裁判所は「被相続人からみれば、同人が生存していたのであれば、おそらく指定したであろう者をその承継者と定めるのが相当である。」との基準を示しました(東京家裁平成18年4月19日決定(判夕1239・289))。

具体的には、どの相続人が最も適任であるか、祭祀に対する理解や意欲があるか、家庭内の事情を総合的に考慮して上記の判断基準に基づき決定されます。家庭裁判所が介入するのは、相続人間で話し合いがまとまらず、合意に至らない場合です。

家庭裁判所による指定には、調停審判という2つの方法があります。

調停による決定

調停とは、話し合いによって解決をはかる制度のことです。祭祀承継者の指定について、家庭裁判所での調停による解決も可能となっています。裁判所の調停委員が相続人同士の話し合いを促進し、最終的には双方が合意できるように進めます。
調停では、調停委員が相続人の意向を聞き取り、和解案を提示することで、祭祀承継者の決定を試みます。調停が成功すれば、合意に基づいて祭祀承継者が決定されます。調停で話し合いが決着しない場合には、審判での解決をはかることとなります。

審判による決定

祭祀承継者の決定は、家庭裁判所での審判によって行うこともできます。祭祀承継者の指定の審判は、離婚事件などとは異なり、調停前置主義(審判を申し立てる前に一度調停を申し立てなければならない)をとっていないので、初めから審判を申し立てることが可能です。
これらの判断は裁判所が行うものなので、必ずしもすべての当事者が納得できるものになるとは限りません。しかし、審判結果は裁判所の正式な命令として効力を持つため、その後の祭祀承継者の決定に関して法的に争いが起こることはありません。

祭祀承継の手続き方法

ここでは、祭祀承継として、お墓を承継する際の全体的な手続きの流れについて解説します。

① 祭祀承継者を決定する
まず、上記の流れによって、遺言、慣習または家庭裁判所による指定を経て祭祀承継者を指定します。

② 墓地の管理者やお墓のある寺院に連絡する
祭祀承継者が決まったら、祭祀承継者は承継するお墓のある墓地や霊園の管理者、寺院に連絡します。

③ 名義変更の手続きを行う
次に、名義変更の手続きを行います。必要な手続きや書類は霊園や寺院によって異なる場合があるため、必ず確認しましょう。
一般的に必要な書類は以下の通りです。

  • 名義変更申請書
  • 墓地使用許可証、永代使用許諾証など
  • 承継の理由がわかる書類
  • 承継者の戸籍謄本、住民票
  • 承継者の印鑑証明書

④ 手数料を支払う
手数料を支払います。手数料は霊園や寺院によって異なりますので、正確な金額は問い合わせて確認する必要があります。

一般的な金額は以下のようになります。

●公営霊園:公営霊園の名義変更の手数料は数百円~数千円程度です。

●民営霊園:民営霊園の名義変更の手数料は、施設ごとに異なるので注意が必要です。数千円程度で済む霊園や、一万円を超す霊園・墓地もあります。

●寺院:寺院によって異なります。寺院の墓地の場合は檀家の立場も引き継ぐことになります。そのため、手数料に加えてお布施が必要になることも多いです。

祭祀承継に関するよくある質問

祭祀承継に関して、法的な手続きや実務的な側面について多くの疑問が生じることでしょう。 ここでは、祭祀承継を放棄できるかどうか、祭祀承継者と祭祀主宰者の違いなど、よくある質問について解説していきます。

祭祀承継は拒否できる?

祭祀承継者に指定されると、祭祀承継は原則として拒否できません。また、祭祀財産は相続財産ではないため、相続放棄によって祭祀承継を回避することもできません。

実際に祭祀承継者に選ばれると、様々な負担が生じます。お墓の管理や法要には多額の費用が掛かりますし、お墓が遠方にある場合、管理することも難しくなります。祭祀財産の管理や祭祀をどのように行うかは祭祀主宰者に委ねられています。そのため、仮に祭祀を主宰しなかったとしても法律上の問題はありません。

祭祀承継を拒否することの代替策として、「墓じまい」など、祭祀財産の処分を行うこともできます。しかし、墓じまいには高額の費用が掛かることに注意が必要です。墓石の撤去だけでなく、行政手続きや遺骨を別の場所に移す費用など、百万円以上の費用を要することも珍しくありません。

また、祭祀承継者が親族に無断で墓じまいをすることについて、法律上の問題は原則として生じることは多くないものの、トラブルのもとになる可能性はあります。そのため、親族間で費用負担を相談することや、祭祀承継者にとって無理のない範囲で祭祀財産を管理することなど、入念な検討が必要になるでしょう。

祭祀承継者と祭祀主宰者の違いは?

まず、法律上の「祭祀承継者」と「祭祀主宰者」の立場を解説します。「祭祀承継者」とは、民法第897条に基づき、故人の祭祀財産(墓地、祭具、系譜など)を管理し、供養の責任を引き継ぐ者です。祭祀承継者の役割は、主に家族の祭祀に関わる実務的な部分を担い、故人を供養するために必要な儀式を執り行う責任を負います。

一方、「祭祀主宰者」は、祭祀の実際の運営を行う者です。祭祀承継者と異なる点は、法的な地位よりも実際の行動に関わる役割にあります。祭祀主宰者は、家族や親族の中で祭祀の儀式や供養を取り仕切る役割を担います。具体的には、法事や命日供養、墓地の管理、先祖の霊を祀る儀式などを行いますが、その立場は必ずしも法的に確定されたものではなく、慣習や家族内での任命によることが多いです。

このように、祭祀承継者(祭祀財産の承継者)と祭祀主宰者(祭祀を主宰すべき者)は一応別個の概念とされ、民法897条でも用語を使い分けていますが、両者は不可分の関係にあることから、祭祀承継者は祭祀主宰者の地位にあると考えられています。

したがって、民法897条1項ただし書の用語に従えば、被相続人が指定するのは「祭祀を主宰すべき者」となっており、祭祀主宰者を指定する必要がありますが、例えば、遺言書に「祭祀財産を承継する者を甲と指定する」と記載しても、同条1項ただし書の指定があったものと考えられています。

東京都千代田区の遺産相続に強い弁護士なら直法律事務所

祭祀承継は、家族間での合意や法的な手続きが必要になります。特に、祭祀承継者の選定や管理について不安がある場合は、専門家に相談することが効果的です。弁護士に相談することで、手続きがスムーズに進み、税金や相続に関する問題も解決しやすくなります。

直法律事務所は、東京都千代田区で遺産相続に強い弁護士が揃っております。過去には、祭祀承継者の選定で兄妹間の対立が生じたケースにおいて、家庭裁判所での調停を円滑に進めるためのサポートを行った実績もあり、複雑な問題にも対応可能です。専門家の視点から、最適な解決方法を提案し、円満な解決に向けてサポートいたしますので、お困りの際は、ぜひ弁護士などの専門家にご相談ください。

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