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弁護士コラム

遺言無効確認請求訴訟について弁護士が解説!費用や期間についても

遺産分割のトラブル
投稿日:2024年12月25日 | 
最終更新日:2024年12月26日
Q
先日、私Aの父Xが亡くなりました。相続人は父の子である4人(A、B、C、D)です。しかし、遺言書には、遺産をCとDに包括遺贈するとありました。父が私をないがしろにするわけがなく、この遺言書は偽造だと考えています。

そこで、私は、遺言の無効を徹底的に争うつもりです。ただ、Bは訴訟してまで争うつもりはないようです。このような場合、どのように争えばよいのでしょうか?相続人全員が参加しなくても訴訟はできるのでしょうか?また、遺言執行者がいる場合はどうでしょうか?
Answer
遺言の無効を争う場合、まず当事者同士で話し合いをします。しかし、利害の対立が激しい場合には、話し合いでの解決は困難な場合が多いです。そこで、訴訟を提起したいところですが、原則として、訴訟を提起する前提条件として、家庭裁判所に調停を申立てる必要があります(調停前置)。
調停を申立てる際、相続人全員が当事者となるのが理想ですが、難しい場合には、一部の相続人が申立人となり、包括遺贈を受ける受遺者を相手方とします。この場合、当事者とならなかった相続人には調停の効果が及びません。また、遺言執行者がいる場合、遺言執行者を相手方にして調停を申立てることもでき、調停の効果は受遺者に及びます。この調停で、遺言が無効である旨の合意ができれば調停が成立し、遺言の無効が確定します。
しかし、調停が不成立となった場合、家庭裁判所は裁判官が調停に代わる審判をして遺言が無効か否かを決します。ただ、異議があればこの審判の効力が失われるため、実際には、あまり審判はなされていません。
審判がなされない場合や、審判に異議が出て失効した場合、地方裁判所または簡易裁判所に遺言無効確認の訴訟を提起して争うことができます。誰を被告とするかについては、調停の相手方と同様です。
ただ、調停が成立する見込みがない場合、遺言無効確認の訴え等の訴訟をいきなり提起することもできます。しかし、裁判所が調停に付すという判断をすることも多いため、事情説明を記載しておくなど工夫が必要です。

このように、遺言の無効を争う場合、いきなり訴訟を提起することもできなくはありませんが、状況に応じた判断と、適切な事情説明などが必要となります。また、誰を相手に争うべきか、状況に応じて検討する必要があります。以下では、遺言の無効を争う方法や流れ、遺言執行者がいる場合の争い方などについて解説していきます。

遺言無効確認請求訴訟とは

遺言無効確認の訴えは、遺言が法律的に無効であるという裁判所の判断を求める訴訟です。

遺言は、基本的に、遺言者の一方的な意思表示のみで、死後にその効果意思どおりの効力を発生させるものです。そのため、相続人や受遺者などの当事者の間で、遺言の効力に争いがある場合、遺言が当初から効力がなかったか否かを確定することで、遺言の効力を巡る法律関係を抜本的に解決することができます。つまり、遺言無効確認訴訟は、遺言が有効であるとすれば生じているはずの特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものです。

この遺言無効確認訴訟は、権利関係の不存在を確認する消極的確認訴訟です。家庭裁判所の扱う家事審判事項ではない点、注意が必要です。

なお、遺言無効確認訴訟のほか、遺言不存在確認の訴え(遺言の存在自体がないことの確認)や遺言有効確認の訴え(遺言が有効であること、遺言から生じているはずの現在の特定の法律関係の存在の確認)のような確認訴訟も考えられますが、実務上、ほとんど例がないようです。

遺言が無効になる場合とは

遺言が無効となるのはどのような場合なのでしょうか。主な無効原因は次のようなものがあります。

遺言能力の欠如による無効

遺言をするためには、遺言の内容を理解し、遺言の結果を理解できる意思能力が必要です。

そのため、遺言能力がない者がした遺言は無効です。

なお、遺言能力は、取引上の行為能力(財産上の有利不利を理解する能力)より低い程度の能力で足り、民法はその基準を満15歳としています(民法961条)。成年後見制度の基準となる「事理弁識能力を欠く常況」の判断とは異なり、成年被後見人でも、一定の条件の者に遺言をなし得る場合があります。

遺言能力が争われる事案として多いのは、遺言者が認知症であることを理由とするケースです。認知症であっても当然に遺言能力がないわけではなく、遺言当時の診断書や長谷川式簡易知能評価スケール等の検査結果、担当医師の説明、当時の生活状況など様々な要素を考慮してケース毎に判断されます。なお、公正証書遺言でも重度の認知症だった遺言者の遺言が無効となったケースもあります。また、検認を受けていても、遺言書の有効性が確認されているわけではないので注意が必要です。

方式違背による無効(証人の欠格による無効、共同遺言による無効)

遺言を作成する際には、民法所定の方式に従う必要があります(遺言の要式性)。この方式に違反した場合、遺言は原則として無効となります。

ケース①:自筆証書遺言の日付や氏名の自署

自筆証書遺言の場合、遺言者が日付や氏名も自署する必要がありますが、日付や氏名の自書を忘れた場合。

ケース②:公正証書遺言の証人

公正証書遺言を作成する場合、証人2人以上の立会いが必要で、証人が署名押印する必要があります。しかし、未成年者、推定相続人、受遺者とその配偶者や直系血族等は証人になることができません(民法974条)。そのため、例えばその遺言の中で受遺者となっている者の親を証人としたような場合、証人2人以上という要件を満たさず、遺言は無効となります。

ケース③:共同遺言

二人以上の人が、一つの証書で遺言をすることはできません(民法975条)。夫婦で一つの紙に遺言を書いた場合、無効となってしまいます。なお、複数人の遺言書をただ合綴しただけの、容易に切り離すことができる遺言書は、共同遺言とはならず有効とした判例があります。

撤回を撤回した遺言

遺言者は、生存中、いつでも、何度でも、遺言の方式に従えば、遺言を撤回することができます(民法1022条)。遺言を撤回した場合、撤回が詐欺・錯誤・脅迫によるものだった場合以外、先にした遺言は撤回した範囲で無効となります。

では、撤回を撤回した場合はどうでしょう。遺言の効力が復活するのでしょうか。

この点、撤回したことを撤回した場合、遺言者が遺言を撤回する遺言を更に別の遺言で撤回しており、かつ、遺言者の意思が当初の遺言の復活を希望していることが明らかな場合を除き、失効した遺言は無効のままです(民法1025条本文)。この遺言者の意思を巡って遺言無効確認訴訟がなされることがあります。

錯誤・詐欺・強迫による遺言取消

遺言者が、重要な事実を誤認したまま遺言をしたような場合、その遺言は遺言者の真意を反映していないため、意思表示を取消すことができます(錯誤・民法95条)。また、他人の詐欺や強迫によって遺言をした場合も、意思表示を取消すことができます(詐欺・強迫・民法96条)。ただし、遺言中の身分上の事項には適用されず、財産上の事項にのみ適用されると考えられています。

公序良俗違反による無効

遺言の内容が、社会常識に反し、是認できないものであれば、公序良俗に反する遺言として無効です(民法90条)。遺言者が不倫関係にある者(いわゆる妾・愛人など)に遺産を遺贈する内容の遺言をした場合などに問題となることが多く、判例によれば、遺贈の目的が不倫関係の維持継続を目的とするのか、生活を保全するものかによって遺言の有効性の判断が分かれます。

遺言無効確認請求訴訟に至るまでの流れ

遺言の有効性を争う場合、どのようにすればよいのでしょう。

まず、当事者の協議、家庭裁判所での遺言無効確認調停(及び審判)を経て、遺言無効確認訴訟という流れが通常です。

しかし、遺言の有効性に争いがある場合、当事者間の意見の対立が激しいことが多く、調停での解決の見込みがないような場合、家庭裁判所での遺言無効確認調停を経ないで、遺言無効確認訴訟を提起するという流れも考えられます。この点の判断は、状況に応じ、様々なメリットデメリットを検討する必要があるので、専門家である弁護士に委ねるのがよいでしょう。

ここでは、原則に従った流れを確認していきましょう。

① 当事者間の協議
遺言の無効を争う場合、まず当事者同士で話し合いをします。
しかし、利害の対立が激しい場合には、話し合いでの解決は困難な場合が多いです。

② 遺言無効確認調停(家庭裁判所)
訴訟を提起したいところですが、訴訟を提起する前提条件として、家庭裁判所に調停を申立てるのが原則です(調停前置)。
調停を申立てる際、相続人全員が当事者となるのが理想ですが、難しい場合には、一部の相続人が申立人となり、包括遺贈を受ける受遺者を相手方とします。この場合、当事者とならなかった相続人には調停の効果が及びません。また、遺言執行者がいる場合、遺言執行者を相手方にして調停を申立てることもでき、調停の効果は受遺者に及びます。
この調停で、遺言が無効である旨の合意ができれば調停が成立し、遺言の無効が確定します。

③ 遺言無効確認の審判
調停が不成立となった場合、家庭裁判所は裁判官が調停に代わる審判をして遺言が無効か否かを決します。
ただ、異議があればこの審判の効力が失われるため、実際にはこの審判はあまりされていません。

④ 遺言無効確認訴訟(地方裁判所または簡易裁判所)
審判がなされない場合や、審判に異議が出て失効した場合、地方裁判所または簡易裁判所に遺言無効確認の訴訟を提起して争うことができます。
なお、前述のとおり、調停が成立する見込みがない場合、遺言無効確認の訴え等の訴訟をいきなり提起することもできます。しかし、裁判所が調停に付すという判断をすることも多いため、事情説明を記載しておくなど工夫が必要です。

管轄裁判所

訴状を出すべき裁判所を管轄裁判所と言います。遺言無効確認訴訟を提起する場合の管轄裁判所はどこなのか、説明します。

簡易裁判所?地方裁判所?

訴訟の目的価額(訴額)が140万円を超える場合は地方裁判所、超えない場合は簡易裁判所に提起します。なお、訴額は、遺言無効確認訴訟の場合、原告の法定相続分に見合う遺産価額を基準とすることが多いようです。

【目安(但しケースによる)】
原告の法定相続分に見合う遺産価額が140万円を超える  →地方裁判所
原告の法定相続分に見合う遺産価額が140万円を超えない →簡易裁判所

どこの裁判所?

では、どこの地方裁判所または簡易裁判所に訴訟を提起すればよいのでしょう。

それは、相手方となる被告の住所地または相続開始時における被相続人の住所地を管轄する裁判所に提起します。なお、被告が複数人いる場合はその内の一人の住所地で構いません。

訴訟当事者

原告となるのは、法定相続人か、撤回前の遺言で遺産を遺贈してもらうはずだった人などです。なお、特別縁故者に当たると主張する者は、原告になることはできません。

被告となるのは相続人あるいは受遺者です。必ずしも他の相続人全員を被告にする必要はありません。

ただ、当事者とならなかった相続人には判決の効力が及びません。後日の争いを避けるためには、遺言の無効を認めない相続人全員を被告としておきましょう。

また、遺言執行者がいる場合、遺言執行者を被告とすることもできます。この場合、判決の効力は受遺者に及びます。なお、遺言執行者の当事者適格について詳しくは別記事「訴訟の当事者となるケースを弁護士が解説!~遺言執行者の当事者適格~」をご参照ください。

訴訟の審理過程

訴訟が始まると、約1カ月毎に原告と被告が交互に主張・立証をします。そして双方の主張と立証が出揃うと、判決という流れになるのが通常です。その間に和解の提案がなされ、和解が成立することもあります。

立証責任と証拠の重要性

遺言無効確認訴訟の審理過程において、原告・被告は、何を主張し、立証すればよいのでしょうか。

遺言が有効であることは、遺言の有効性を主張する者が立証する必要があり、遺言無効確認訴訟においては被告が遺言の有効性を主張立証する必要があります(最判昭和62年10月8日)。他方、遺言の無効を主張している原告は、遺言書の存在を主張すれば足ります。 このように、遺言の有効性についての法的な主張・立証責任は被告にあります。しかし、裁判官は、遺言が存在する以上、有効な遺言だという考えに至りやすいため、実際には原告が遺言の無効を立証していく必要が生じることが多いです。立証責任にあぐらをかくことなく、遺言が無効である理由(例えば、遺言当時に遺言能力がなかったこと、遺言が偽造であること等)について積極的に立証していきましょう。

遺言能力の立証

遺言能力の判断基準は、①精神医学的観点②遺言内容③その他の事情(遺言の動機、作成経緯、遺言者と相続人・受遺者との人間関係など)の3つとされていますが、①が主になります。

精神医学的観点の立証のため、介護記録、医療記録、介護認定記録などを取り寄せ、遺言者の認識力や能力を検討します。

例えば、公正証書遺言だから有効とか、要介護だから無効などとは言い切れないため注意が必要です。

偽造の立証

遺言書が偽造かどうかは自筆証書遺言の場合に問題となります。そして、その判断基準となるのは、①筆跡②遺言者の自書能力③遺言書の体裁④遺言の動機、作成経緯、遺言者と相続人・受遺者との関係など⑤遺言書の保管状況などで、これらを総合的に判断します。

筆跡の同一性の証拠としては、私的に依頼した筆跡鑑定の結果を提出することが考えられますが、裁判所はあまり重視していないようです。そのため、遺言書自体に加え、遺言者の手紙やメモ等の筆跡鑑定の対象となる文書を提出することが多いです。

また、遺言書に添付される遺産目録は、氏名の自書と押印が必要ですが、遺産目録自体の自書は必要ないため、差し替えが問題となることもあります。この場合、氏名の筆跡や印の管理などの他、被相続人の生前の言動との適合や、遺言書の体裁、入手経緯などを積み重ねて証拠としていくことが多いと考えられます。

訴訟の判決

審理の結果、裁判所が遺言に無効原因があると判断した場合、請求が認容され、遺言の無効を確認する判決がなされます。遺言が無効であるという判決が確定した場合には、遺産分割協議が必要となる点、注意が必要です。

裁判所が遺言に無効原因がないと判断した場合、請求が棄却されます。

なお、遺言無効確認訴訟で判断されるのは、遺言の無効の確認そのものです。無効な遺言に基づき預金が払い戻されているような場合、強制執行をするためには、不当利得返還請求などの給付請求をして判決を取得する必要があります。

控訴審と上告審について

判決に不服がある場合、原告または被告は、控訴をして上級裁判所で再度の判断を求めることが可能です。控訴審の判断に不服がある場合には、さらに上告審に再度の判断を求めることもできます。

その他注意点~①保全処分(仮処分の申請)

訴訟をしている間に遺産が散逸してしまう恐れがあります。例えば、遺言書の有効性が争われているのに、他の相続人が遺言書に従って預貯金を取得してしまう場合もあります。もし、その相続人が当該金銭を費消してしまい、その他の資産もないような場合、遺言無効訴訟で勝訴しても、実際に支払ってもらえないという状況になりかねません。そのため、訴訟を提起する前や訴訟中に、当該裁判所に仮処分の申請をする等の検討も必要です。もし、調停をするのであれば、審判前の保全処分の申立を検討しましょう。(調停前の仮の措置という方法もありますが、強制力がなく、違反しても10万円以下の過料という制裁しかないため、利用するか否かは弁護士などに相談するなどして慎重に決めましょう。)

その他注意点~②遺留分侵害額の請求(消滅時効に注意)

請求が棄却された場合、遺言の無効を主張していた者は、遺留分侵害額の請求をすることが多いです。ただ、遺留分侵害額請求権は遺留分の侵害を知った日から1年を経過すると消滅時効が完成してしまいます。そのため、遺言無効を主張しつつ、予備的に遺留分侵害額請求の意思表示をしておくことを忘れないようにしましょう。

遺言無効確認請求訴訟の期間と費用について

遺言無効確認訴訟にかかる時間

遺言無効確認訴訟は過去の事実関係について立証が必要となるため、必要書類の取得のほか、事前の調査、訴訟における主張・立証などの審理に時間がかかることが多いです。そのため、第一審だけでも1年から2年はかかり、場合によってはさらに長期化することもあります。遺言の有効性を争う場合、敗訴した者は判決に不満を抱くことが多いので、控訴審、上告審と続くこともよくあり、さらに長期化します。

遺言無効確認訴訟の費用

遺言無効確認訴訟を提起する場合、一般の方が調査をして証拠収集するのは困難な場合が多く、また、時間もかかるため、弁護士に依頼することをおすすめします。

弁護士費用については、遺言が無効と判断された場合に得られる経済的利益を基準に計算することが多いのですが、管轄する裁判所の場所やどのような手続を採るかによっても異なってきます。そのため、依頼を検討している法律事務所に事前に見積を依頼し、弁護士費用や印紙代等の裁判手続の費用などを確認しておきましょう。

東京都千代田区の遺産相続に強い弁護士なら直法律事務所

遺言は、基本的に、遺言者の一方的な意思表示のみで、死後にその効果意思どおりの効力を発生させるものです。従って、共同相続人全員で合意する等の条件が満たされない限り、遺言と異なる遺産分割をすることができません。しかし、遺言が無効の場合であれば、当然、遺産分割をする必要があります。このように、遺言が有効か無効かによって、相続人や受遺者の権利関係は大きく変わるため、遺言が無効だと主張しても、遺言によって利益を受ける者は納得しないことが多いでしょう。そのため、協議により解決することは困難で、遺言無効確認訴訟も長期化することが多いです。

遺言無効確認訴訟は、過去の事実の有無を争うものなので、立証のためには十分な調査、多方面からの立証活動、遺言が有効あるいは無効となった場合も想定した対処などが必要となり、難易度が高いため、弁護士に相談して進めることをおすすめします。

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