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弁護士コラム

賃貸マンションの貸主が亡くなったら?賃貸人の地位は?相続と所有権移転登記について解説

遺産分割のトラブル
投稿日:2024年10月28日 | 
最終更新日:2024年10月28日
Q
賃貸マンションを保有していた父が亡くなり、私と弟の二人が相続人となりました。弟と話し合って長男である私が当該賃貸マンションを相続することになりました。
この場合、私は現在の入居者に対して家賃支払いを請求できるのでしょうか?
Answer
賃貸マンションの相続人はあなたと次男の二人なので、法定相続分で相続した場合は2分の1ずつで所有権を取得します。しかし、ご質問のケースでは、長男が単独で相続することを弟と話し合って決めているので、遺産分割協議が成立していると考えられます。

このように、遺産分割協議によりあなたが単独で物件を相続した場合、賃貸マンションについて単独の賃貸人たる地位は自動的にあなたに継承されます。しかし、借家人からみれば、あなたが単独で賃貸人になったのか明らかではなく、間違った人に賃料を支払えば真の賃貸人からさらに賃料を請求されてしまう恐れがあります。そこで、単独で賃貸人の地位を取得したことを借家人に対抗するためには所有権移転登記が必要になります。

そのため、家賃支払いを請求する前に登記手続きをしておくと良いでしょう。

なお、不動産を所有していた被相続人から相続人へ名義変更を行う手続きを「相続登記」といいます。相続登記は、2024年4月から義務化されましたので注意が必要です。

本記事では賃貸物件の貸主が亡くなった場合の相続や、貸主の相続人が複数いるケース、相続登記の手続き方法についても解説していきます。

賃貸借契約中の貸主の相続について

賃貸借契約の期間中に貸主が亡くなった場合、その地位や債権債務関係は貸主の相続人に引き継がれることになります。当該ケースでの相続では、主に下記のようなポイントがありますので確認しておきましょう。

賃貸人の地位の相続

不動産の賃貸人が亡くなった場合、貸主と借主の賃貸借契約は終了せず、賃貸人の地位は貸主の相続人が引き継ぐ形で存続します。契約内容等もそのままになりますので、賃料・債権債務関係・契約期間なども相続前と変わりません。

法定相続であっても遺産分割協議の成立による相続であっても、賃貸人の地位の承継は相続により自動的に行われるため、特別な手続は要しません。しかし、借家人からみれば、だれが賃貸人の地位を承継したのか明らかではないため、賃料を間違った人に支払ってしまう恐れがあります。そこで、取引の安全を守るため、少なくとも法定相続分を超える賃貸人の地位の承継を借家人に対抗するためには所有権移転登記が必要になります。なお、法定相続分を超えない賃貸人の地位の承継であれば、戸籍謄本等によって相続を証明すれば足りるとする考え方もありますが、可能であれば家賃支払いを請求する前に登記手続きをしておくと良いでしょう。

敷金返還債務の承継

不動産を賃貸する際に、多くの場合、借主から敷金を受け取ります。そして預かった敷金は、賃貸借賃借人の未履行債務に充当していない限り、契約終了の際に借主に返還することになります。

この賃貸人の敷金返還債務も、賃貸人の地位を承継した相続人に承継されます。不動産や賃貸人の地位だけでなく、こういった賃貸借契約に伴う債務も引き継がれる点に注意が必要です。

賃貸借契約の解除条件

不動産の管理や債権債務関係の把握は面倒・煩雑であるため、賃貸人の地位を引き継ぎたくない相続人が出てくる可能性もあります。そのような時、賃貸借契約の解除を検討するケースもあるでしょう。

しかし、建物所有目的の土地賃貸借契約や建物賃貸借契約など借地借家法が適用される不動産の賃貸借については、貸主側から不動産の賃貸借契約の解除を行うには正当事由が必要となります。これは借地借家法によって、立場の弱い借主が保護されているためです。

基本的には、借主側によほど重大な契約違反や長期間の滞納がない限りは、一方的に賃貸借契約の解除はできないため注意しましょう。

相続人が複数いる場合

貸主に相続人が複数いる場合、相続発生時に遺言での指定や遺産分割協議による合意がなければ、法定相続分で相続することになるため、不動産を相続人全員で共有することになります。なお、相続不動産を複数人で共有する際には、次の点について把握しておきましょう。

賃貸人の地位の共同承継

遺産分割協議が未了もしくは行わない場合、または遺言がなかった場合等では、相続財産は共同相続人全員の共有となります。したがって、賃貸不動産の賃貸人の地位も、相続人が共同で承継します。

なお、遺産分割協議によって賃貸不動産の所有者(新しい賃貸人)を決定するまで、時間が掛かってしまうケースもあるでしょう。そのような場合、相続発生後、遺産分割協議が成立して賃貸人が決定するまでの間の賃料債権は、各共同相続人の相続分に応じて「分割単独債権」として扱われます。

そのため、遺産分割協議成立前に発生した賃料は、新しく賃貸人となった者が全て受け取るわけではありませんので注意しましょう。

遺産分割協議の必要性

不動産は複数人で共有できますので、仮に遺産分割協議で意見がまとまらなかった場合、とりあえず相続人が法定相続分で共同相続することも不可能ではありません。しかし、不動産の共有状態には様々なリスクがあるため、遺産分割協議で単独所有にしておく方が良いでしょう。

遺産分割協議では、財産の配分方法や割合等を相続人全員が合意することで自由に決定できます。各相続人の状況や不動産に対するニーズ等も考慮し、新しい賃貸人となる所有者を決めるのがおすすめです。

ちなみに、遺言で不動産を承継する相続人が指定されていた場合には、原則として当該相続人が賃貸人の地位を承継します。ただし、例外として遺産分割協議で相続人全員が合意すれば、遺言の指定とは異なる遺産分割が可能なので、遺産分割協議によって遺言が指定する相続人とは異なる相続人が当該賃貸不動産を承継することも可能です。

承継後の対抗要件

賃貸人の地位を承継する際、賃借人から承諾を得る必要はありません。民法605条の2第1項において、借家人や借地人などの賃借権者が対抗要件を備えている賃借権が設定されている不動産が譲渡された場合、その不動産の賃貸人の地位は譲受人に移転するという規定があるためです。

※賃借人が賃借権の対抗要件を得るためには、借家人であれば建物の引渡しを受けること、借地人であれば借地上に登記済みの建物を所有していること、また、賃貸借の登記を受けることなどが必要です。

しかし、賃貸人の地位を相続した者は、所有権移転登記をしなければ、賃借人に対して自分が賃貸人の地位を取得したことを主張(対抗)できず、賃料を請求しても拒まれる可能性があります。

なお、法定相続分を超えない賃貸人の地位の承継であれば、戸籍謄本等によって相続を証明すれば足りるとする考え方もありますが、可能であれば家賃支払いを請求する前に登記手続きをしておくと良いでしょう。

新しい賃貸人が行うべき手続き

不動産の相続による賃貸人の地位は、相続の開始や遺産分割の完了により、自動的に移転します。ただし、後々のトラブル等を避けるためにも、新しい賃貸人が行うべき対応として次の手続きは行っておきましょう。

賃料の支払い方法の変更

まずは賃借人が支払う賃料の振込先を変更するなど、支払い方法の変更をすることが必要です。亡くなった貸主(被相続人)の口座は凍結されますので、これまで通りの口座に賃料が振り込まれると、相続人は賃料を受け取ることができません。したがって、新しく賃貸人になった相続人は、賃貸借契約の定めに従って、賃借人に賃料の支払い方法の変更(振込先口座の変更等)をします。この点、通知によって支払い方法を変更できるとする賃貸借契約が多いようです。

なお、遺産分割協議に時間がかかることが予想されるような場合、とりあえず賃料の支払い方法の変更の通知だけをしておくことも検討しましょう。

仮に故人の口座に賃料が振り込まれてしまった場合、払い戻しは可能ですが、受け取るまでには時間が掛かる場合が多いため注意しましょう。

新賃貸人の通知

新しい賃貸人が決定した後は、その旨を知らせる通知を賃借人に出すことで、新賃貸人の連絡先を知らせ、連絡困難により生じるトラブルなどを防止しましょう。

具体的には、賃貸人が変更したこと、新賃貸人の氏名・住所・連絡先などを記載するとよいでしょう。なお、前述の振込先変更のお知らせの時に新しい賃貸人が決まっているのであれば、あわせて通知してもよいでしょう。
ただ、新賃貸人であると賃借人に主張するためには、前述のとおり所有権移転登記をしておく必要があります。そのため、通知を出す前には対抗要件となる所有権移転登記を備えるようにしてください。

賃貸人変更に関する覚書の締結

相続により賃貸人が変更した後でも、基本的には賃貸借契約の内容は従前と変わりません。したがって、契約書を書き直す等の必要はありません。しかし、できれば賃貸人の変更があった旨を明示する覚書(おぼえがき)を締結しておくと安心でしょう。

なお、覚書には

  • 前の賃貸人が亡くなったことに伴い賃貸人の地位が移転した旨
  • 変更前・変更後それぞれの賃貸人の氏名・住所
  • 合意内容や新賃貸人と賃借人双方の署名捺印

などを記載しておきます。

相続登記の手続き

相続により不動産の登記名義を変える手続きは「相続登記」と呼ばれますが、その主なポイントは次のとおりです。不動産を相続することになった場合には、必ずチェックしておきましょう。

相続登記の義務化と名義変更

相続登記のポイントの一つ目が、2024年4月より手続きが義務化された点です。これまでは、相続した不動産を登記せずに放置していた方も多くいましたが、昨今の空き家問題や所有者不明土地の増加を背景に、相続登記が義務化される流れとなりました。

仮に相続した不動産を登記しないままにしてしまうと、10万円以下の過料を科せられる可能性があります。相続登記は早めに行っておきましょう

必要書類の準備

相続登記で必要になる書類は、どのように相続が行われるかによって異なります。そのため、本項では「遺産分割協議により相続登記する場合」に必要となる書類の一例をご紹介します。具体的には下記のような書類を準備しなければいけません。

・被相続人の住民票の除票
・被相続人の出生から死亡時までの戸籍謄本(戸籍事項証明書・除籍謄本・改製原戸籍)
・相続人の住民票
・相続人の戸籍謄本
・遺産分割協議書
・相続人の印鑑証明書
・固定資産税評価証明書

なお、手続きや必要書類の準備は煩雑ですので、可能であれば弁護士などの専門家に相談して登記は進めた方が良いでしょう。

登記申請書の作成方法

必要書類が揃った後は、相続登記の申請書を作成し管轄の法務局に提出します。なお、登記申請書の作成も、相続の内容次第で書き方や添付すべき書類が変わります。こちらも弁護士などに確認しながら進めるとスムーズでしょう。

なお、主に記載する内容としては次のような事項があります。

1.登記の目的
2.相続の原因および日付
3.被相続人の氏名や相続人の名前・住所・持分など
4.添付書類の内容
5.申請年月日と管轄の法務局名
6.課税価格及び登録免許税
7.相続する不動産の内容表示

相続した賃貸物件を保有し続ける利点は?

賃貸マンションや賃貸アパートなどを相続した場合、そのまま新しい賃貸人になるか、もしくは物件を売却するか検討することもあるでしょう。そこで、本項では賃貸物件を相続した後に賃貸し続けるメリットについて解説します。

継続した家賃収入で不労所得を得られる

相続した賃貸物件をそのまま保有し続けるメリットとして、継続的に家賃収入を得られる利点があります。賃貸人となれば一定の収入を得られますので、賃貸経営を続ける魅力は大きいと言えるでしょう。

ただし、一方で賃貸経営は空室のリスクや管理の手間等のデメリットも存在します。したがって、効率的に運用するのであれば、信頼できる管理会社等に不動産管理を任せるのも一つの方法でしょう。

また、長期に渡り賃貸物件として保有し続ける必要性はありませんので、賃貸した後に空室となったタイミングで物件を高値で売却するのも効果的と言えます。

相続財産や節税対策としての活用

物件は売却してしまうと、売却時に得られる金額しかメリットはありません。しかし、アパートやマンションは賃貸によって家賃収入を得られるだけでなく、自身の家族や後の世代の方に相続財産として遺しておける利点があるのです。必要であれば自分自身が住むことや、家族に住んでもらうことも可能ですので検討してみてください。

また、賃貸マンション・アパートの経営は税金対策としても活用できるメリットがあります。具体的には、条件を満たせば相続税や固定資産税等の減税効果を得られるでしょう。

よくある質問と賃貸借に対する手続き

賃貸物件の相続でよくある質問と、賃借人に対して必要となる手続きについても確認しておきましょう。

ローンが残っている場合は?

原則として、相続が発生した場合には、被相続人の債権だけでなく債務も相続人に引き継がれます。したがって、相続した賃貸物件を建設した際のローンが残っている場合には、相続人が債務を負うことになります。なお、遺産分割協議や遺言によって不動産を相続することになった者が、当然にローンも負担するわけではありません。

相続人が複数いる場合は各相続人が持分に応じてローンを負担します。遺産分割協議等でローンを1人に承継させて返済することも可能ですが、その場合は金融機関からの承諾を得なければならないため注意しましょう。

賃借人に対して必要な手続き

新たな賃貸人として賃借人への対応を行う際に、しておくとよい手続をまとめると以下のとおりです。

  1. 1賃料支払い方法の変更の通知
  2. 2賃借人に対する対抗要件の具備(相続登記)
  3. 3新たな賃借人になった旨の通知
  4. 4賃貸人変更についての覚書の締結

特に①から③は、賃料受取のためにも早めに行っておくと安心です。不動産の相続が発生した場合には、まずこれらの手続きから進めていきましょう。

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賃貸物件の貸主が亡くなった場合の相続、新しい賃貸人が行うべき手続きや相続登記の方法についても確認しました。これらの手続きは相続人のみで進められますが、書類の準備や記載には手間が掛かり、専門的な知識も必須となります。

また、相続した不動産をどのように扱うかは、相続人の経済状況や今後のライフプランも考慮して決める必要があります。そのため、法律に詳しい弁護士等の専門家の手も借りながら、賃貸物件の相続手続きを進めていきましょう。

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