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弁護士コラム

遺産分割のやり直しは可能?遺産分割協議の解除と注意点を解説

遺産分割のトラブル
投稿日:2024年08月02日 | 
最終更新日:2024年08月02日
Q
父が亡くなり、子である兄と私の二人が相続人となりました。兄と話し合って、父の介護をしていた兄がすべての遺産を相続する内容で遺産分割協議が成立しました。
しかし、遺産の一部が、私の所有している建物の敷地になっていることが発覚しました。兄に相談したところ、遺産分割協議をやり直してもいいと言ってくれています。

成立した遺産分割協議をやり直すことができるのでしょうか?
Answer
相続人全員の合意によって成立した遺産分割協議は、原則としてやり直すことができません。しかし、相続人全員の合意があるような場合には、遺産分割協議を解除してやり直すこともできます。ただし、第三者の権利を害することはできません。

また、遺産分割協議を合意解除してやり直す場合、相続税の関係では、原則として当初の遺産分割により取得した財産を再移転したものと取扱われます。そのため再度の遺産分割が贈与や譲渡とみなされ、贈与税や所得税、不動産の場合には不動産取得税が課税される可能性があります。さらに、不動産の移転を伴い、不動産登記のための登録免許税も必要となります。

このように、当初の遺産分割と異なる税金がかかることもあるため、慎重に検討する必要があります。

この記事では、どのような場合に遺産分割のやり直しができるのか、やり直しの方法ややり直した場合の税金などについて詳しく解説していきます。

遺産分割のやり直しはできるのか?

遺産分割協議は相続人全員が合意して初めて成立します。

そして、遺産分割協議が成立すると、遺産分割の効力は相続開始の時に遡って生じます(民法909条本文)。
このように、相続人全員の合意によって成立し、その効力は相続開始時に遡るという効果をもつ成立した遺産分割協議は、原則としてやり直すことはできません。
しかし、いったん成立した遺産分割協議をやり直すことができる場合もあります。

成立した遺産分割協議をやり直すことができるケースとして、遺産分割協議が無効となる場合(取消により無効となる場合も含む)と、遺産分割協議の解除が可能な場合があります。

では、どのような場合に遺産分割協議をやり直すことができるのでしょうか、無効の場合と解除による場合に分けて解説します。

遺産分割協議が無効となるケース

遺産分割協議が無効となる場合、そのままでは遺産分割をすることはできないため、遺産分割協議をやり直す必要があります。

遺産分割協議が無効となるのは次のようなケースです。

①意思表示の瑕疵等がある場合(錯誤・詐欺・脅迫などによる遺産分割協議)

まず、遺産分割協議が無効となるのは、民法総則の意思表示の瑕疵等の無効事由(無権代理人の参加による無効など)がある場合や、錯誤・詐欺・脅迫などの取消事由があり取り消された場合です。

なお、取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときまたは行為の時から20年を経過したときも、時効によって消滅します。

この期間内に取消権を行使しなかった場合、遺産分割協議のやり直しはできません。

②相続人に関する齟齬がある場合

相続人の一部を除外して行われた場合、原則として遺産分割協議は無効です(東京地判昭和39年5月7日判タ164号174頁)。
ただし、相続開始後に認知された者を除いて行われた遺産分割協議は無効とならず、その者は他の共同相続人に対して価格請求をなし得るにとどまります(民法910条)。

次に、相続人でない者が遺産分割協議に参加した場合はどうでしょう。
例えば、子として遺産分割協議に参加していた者が実際は子ではないと判明したことで子がいなくなり、親が相続人となった場合のように相続順位に変更が生じたときは遺産分割協議の全体が無効となります。

他方、相続順位に変更がなければ、相続人でない者の遺産取得に関する部分のみが無効となるのが原則です。

しかし、場合によっては全体が無効となることもあります。

③利益相反行為がある場合

親権者とその子が共同相続人である場合、親権者が子の法定代理人となって遺産分割協議に参加すると利益相反行為に該当するため、遺産分割協議が無効となります。

また、親権者が共同相続人でない場合でも、複数人の子が共同相続人でその子らの法定代理人として遺産分割協議に参加した場合も利益相反行為となるため遺産分割協議は無効となります。
ただし、未成年の子が成年に達してから追認するか、家庭裁判所で選任された特別代理人により追認した場合、遺産分割協議は遡って有効となります。

④遺産に関する齟齬がある場合

遺産分割協議の対象から重要な遺産が漏れてしまっていたような場合、遺産分割協議全体が無効となります。

しかし、重要な遺産ではない場合、その遺産をさらに分割することで足りるため、すでに成立した遺産分割協議は無効となりません。

他方、遺産ではない財産を分割の対象としてしまった場合、その遺産分割協議は、原則として遺産ではない財産の分割に関する部分だけ無効となります。

しかし、その遺産ではない財産が遺産分割内容の大部分であるような場合、分割自体を無効として遺産分割をやり直すか、担保責任の規定の準用をするという考え方があります。
なお、遺産分割した遺産の一つに問題があり、遺産分割協議の際の評価額より著しく低落し、遺産を取得した目的を達することができないような状態になった場合、遺産分割協議は無効とはなりませんが、遺産分割を解除して遺産分割協議のやり直しができます。

この点は後の「遺産分割協議を解除できるケース」で詳しく説明します。

⑤詐害行為取消し

判例によれば、遺産分割協議は詐害行為取消しの対象になりうるとされています(最判平成11年6月11日民集53巻5号898頁)。

この点、相続放棄は詐害行為として取り消すことはできないとされており、取扱いが異なる点で注意が必要です。

遺産分割協議を解除できるケース

いったん成立した遺産分割協議を解除することができるのか問題となります。
まず、共同相続人全員で合意解除することは認められています(最判平成2年9月27日民集44巻6号995頁)。

ただし、第三者の権利を害することはできません。
他方、債務不履行による遺産分割協議の解除はできないとされています(最判平成元年2月9日民集43巻2号1頁)。

例えば、共同相続人の一人が親の介護をするという約束で価値のある遺産を取得したような場合でも、遺産分割協議は基本的には財産の最終的な帰属の決定であり双務契約とは言えないため、債務不履行による解除はできません。
また、遺産分割した遺産の一つに問題があり、遺産分割協議の際の評価額より著しく低落し、遺産を取得した目的を達することができないような状態になった場合、遺産分割を解除して遺産分割協議のやり直しを求めることができます。

これは民法911条で、共同相続人同士は売主と同様の担保責任を負うとされているからです。

しかし、遺産の問題の程度が著しくない場合、遺産分割協議の解除まではできず、他の相続人に対して損害賠償請求をすることができるにとどまります。

このように、遺産分割協議を解除できる場合として、相続人全員の合意がある場合と共同相続人間の担保責任により解除できる場合があります。

遺産分割をやり直す方法

前項のように遺産分割協議が無効である場合や遺産分割協議を共同相続人全員で合意解除した場合、どのように遺産分割協議をやり直せばよいのでしょうか。

遺産分割協議が無効であることに争いがない場合や解除の場合

①再度の遺産分割協議

まず、相続人全員で再度、遺産分割協議をすることを検討しましょう。
いつまで遺産分割協議のやり直しができるのか気になる方もいらっしゃると思いますが、遺産分割協議のやり直しに時効はなく、何年後でもやり直しが可能です。

ただ、その時点で最初の遺産分割協議時にあった遺産が現存しているとは限らないため、金銭的な解決が必要となることもあります。
相続人全員で話合い、合意できたら新たに遺産分割協議書を作成します。

合意解除した遺産分割協議書との関係を明確にするために新たな遺産分割協議書に前回の遺産分割協議を解除したことを明記しておくとよいでしょう。

②遺産分割調停の申立

次に、再度の遺産分割協議がまとまらない場合や、相続人の一部でも協議に応じないような場合、遺産分割調停を申立てることを検討しましょう。

遺産分割協議が無効であることに争いがある場合

遺産分割協議が無効であること自体に争いがある場合、まずは家庭裁判所に遺産分割協議無効確認の調停を申立てることを検討しましょう。

調停は話し合いの場ですが、裁判官と調停委員で組織する調停委員会が当事者双方から言い分を聞いて調整に努めてくれます。

それでも話しがまとまらなかった場合には自動的に審判に移行し、裁判官が遺産分割方法を決定します。

なお、遺産分割協議が無効である場合とは異なり、実際には遺産分割協議がされていないのに遺産分割協議書が偽造されてしまったような場合には、遺産分割協議不存在確認の調停を申立てます。

遺産分割協議やり直しに伴う税金

遺産分割協議をやり直すに伴い生じる税金や費用は、当初の遺産分割が有効である前提でする合意解除の場合と当初の遺産分割が無効である場合で異なってきます。

それぞれどのような税金や費用が生じるのかみていきましょう。

合意解除の場合に生じる税金

既に成立している遺産分割協議を相続人全員で合意解除して再度、遺産分割をした場合、その効果は第三者の権利を害しない限り相続開始時に遡って生じます。
しかし、相続税の関係では、原則として当初の遺産分割により取得した財産を再移転したものと取扱われます(国税庁ホームページ「相続税基本通達19の2─8ただし書き」)。

そのため、再度の遺産分割が贈与や譲渡とみなされ、贈与税や所得税、不動産の場合には不動産取得税が課税される可能性があります。

また、不動産の移転を伴い、不動産登記のための登録免許税も必要となります。

無効の場合に生じる税金

既に成立したはずの遺産分割協議が無効であったために遺産分割協議をやり直す場合、合意解除の場合と異なり再移転したものと取扱われません。

そのため、通常の遺産分割と異なる贈与税や所得税、不動産取得税などが課税されることはありません。

しかし、当初の遺産分割協議に基づく不動産登記をしている場合、新たな遺産分割協議に基づく不動産登記にするための登録免許税が必要となります。

東京都千代田区の遺産相続に強い弁護士なら直法律事務所

遺産分割協議をやり直すことができる場合としては、遺産分割協議が無効の場合と解除した場合があります。解除できるのは相続人間の担保責任による場合か相続人全員の合意がある場合です。

しかし、再度の遺産分割協議の話し合いがスムーズにできない場合もあります。また、税金が余分にかかってしまうなど注意すべき点も多くあります。

そのため、弁護士などの専門家に相談するなどして慎重な検討をするようにしましょう。

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