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知的財産権(著作権や特許権)は相続できる?著作者人格権についても

遺産分割のトラブル
投稿日:2024年02月09日 | 
最終更新日:2024年09月27日
Q
先日亡くなった父は、以前、新しい技術を開発したので特許権や実用新案権を持っています。また、技術に関する書籍も執筆していたので、著作権もあります。

父の特許権、実用新案権や著作権を、遺族の私たちは、相続できるのでしょうか?
もし手続きが必要でしたら教えてください。
Answer
特許権や実用新案権、著作権のような権利をまとめて知的財産権といいます。

この知的財産権のうち、著作者の一身に専属する著作者人格権のような人格的権利は相続できませんが、そのほかの財産的権利は、相続の対象となります。
したがって、亡くなったお父様の特許権や実用新案権と財産権としての著作権は相続できます。

遺言で特許権等を引き継ぐ人が指定されていない場合、一旦、相続人全員の共有となります。その後、遺産分割協議等を行い、引き継ぐ人が決まれば、自動的にその方が権利を取得することになります。相続をするために必要な手続きは原則としてありませんが、特許権や実用新案権等の産業財産権については、引き継ぐ人が決まった場合には、遅滞なく特許庁長官に届け出ることになっています。

また、第三者に対して誰が引き継いだのか明確にするために、遺産分割協議書などに明記しておくようにしましょう。

なお、知的財産を相続した場合には相続税が課される場合もあります。そのため、相続税に関して、知的財産権の評価方法についても留意しましょう。

以下では、知的財産権の種類や相続の可否、相続方法や相続評価の方法について説明していきます。

特許権や著作権等の知的財産権と相続

知的財産権の定義と種類

特許権や著作権など、知的な創作活動によって何かを作り出したときに、その創作者に与えられる、創作したものを「勝手に利用されない」権利知的財産権といいます。動産や不動産などの有体物と異なり、「無体物」であり、知的財産権は無体財産権と呼ばれることもあります。

知的財産権には次の表のように、様々な権利があります。その中でも精神文化的なものを「著作権」、物質文化的なものを「工業所有権」あるいは「産業財産権」と呼んでいます。

知的財産権著作権著作者の権利
著作隣接権
産業財産権
(工業所有権)
特許権(特許法)
実用新案権(実用新案法)
意匠権(意匠法)
商標権(商標法)
その他回路配置利用権
育成者権(種苗法)
営業秘密等(不正競争防止法)

知的財産権は、権利者のみが他人の干渉されることなく、独占的に支配し、利用することができます。また、他人に譲渡したり実施権を許諾したり質権の設定ができます。

そのため、知的財産権は所有権に似た性質があると言われています。しかし、存続期間の定めがある点や、利用上の制限が設けられている場合がある点で所有権と異なります。

知的財産権は相続できるのか

このような知的財産権のうち、著作者の一身に専属する著作者人格権のような人格的権利を除く財産的権利については、相続の対象となります。

知的財産権
  人格的権利 ➡ 相続できない
  財産的権利 ➡ 相続の対象

各種知的財産権の相続の可否について、別個で確認していきましょう。

知的財産権の価格

相続対象となる知的財産権については、相続税が課される可能性があります。そのため、その評価額はいくらなのか、評価方法についても別個に確認していきましょう。

著作権・著作者人格権

著作権と著作者人格権

小説や音楽でも、よく著作権に関するニュースなどを見る機会があると思います。この著作権というのは、人間の知的活動から生み出される無形の価値ある財産に対する権利をいい、著作権法によって保護されています。

著作権法で保護されるのは、「著作物」です。著作物というのは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいいます。現在では、コンピューターのプログラムや、ソースコード、データベースのようなものも、保護の対象となっています。しかし、単なるデータや事実、ありふれた表現や、表現とはいえないアイディア、作風や画風などは保護の対象ではありません

そして、著作権には、財産権としての著作権著作者人格権の二つの性格があります。

財産権としての著作権は、移転したり譲渡したりすることができます。他方、著作者人格権は、著作者固有のものなので、譲渡などができません。

また、俳優、歌手、演奏家などの実演家にも、著作隣接権が認められており、著作隣接権にも財産権としての著作人格権実演家人格権というものがあります。なお、財産権としての著作人格権は相続の対象となりますが、実演家人格権は相続の対象となりません。

著作権著作者の権利(財産権としての)
 著作権

例) 複製権・上映権・演奏権・上演権・公衆送信権・公の伝達権・口述権・展示権・頒布権・譲渡権・貸与権・翻訳権・翻案権・二次著作物の利用権
相続の対象になる
 著作者人格権
例) 公表権・氏名表示権・同一性保持権
相続の対象にならない
実演家等の権利(財産権としての)
 著作隣接権
相続の対象になる
 実演家人格権相続の対象にならない

著作権の相続

(財産権としての)著作権の相続

著作権のうち、財産権としての著作権は相続対象になります。

本問の場合、作家である父が出版社などから受け取る印税は、著作権使用料として受け取っているものなので、父が亡くなった場合、印税を受け取る権利は相続の対象となります。

(財産権としての)著作権には様々な権利が含まれています。
具体的には、複製権、上演権・演奏権、上映権、公衆送信権・伝達権、口述権、展示兼、頒布権、貸与権、翻訳権・翻案権、二次的著作物の利用権等があり、すべて相続の対象になります。

ただし、著作物等が保護される期間は原則として著作者の死後70年です。そのため、複数回の相続となる場合、著作権が残存しているのか注意しましょう。

なお、著作権者が亡くなった際に相続人がいない場合、保護される期間内であっても著作権は消滅します。

相続の方法

著作権を相続する場合、特別な手続きは不要です。

著作権を相続する人が複数人いる場合、引き継ぐ人を決めるまで、相続人全員で共有している状態となります。そして、相続する人が決まった時点で、自動的に引き継いでいることになります。なお、複数の相続人で引き継ぐことも可能です。

しかし、通常、誰が著作権を引き継ぐことになったのかを証明できなければ、印税を払う出版社などの第三者は特定の相続人のみに支払ってはくれません。そのため、遺産分割協議書などで、誰が著作権を引き継ぐことになったのかを明らかにしておく必要があります。

ただ、遺言書で著作権を引き継ぐ人が決まっている場合は遺言書で足り、遺言がない場合で相続人が一人である場合などは戸籍等で相続人が一人である旨を明らかにすれば足ります。

なお、著作権を引き継ぐ相続人を複数人と決めた場合、権利が移転した旨を文化庁の著作権登録制度を利用して登録しておいたほうが、権利関係が明確になり、トラブルの予防に資すると考えられます。

著作権の評価

著作権を相続する場合、著作権の価値によっては、相続税を収める必要があります。では、著作権の価値は、どのように評価するのでしょうか。

国税庁の相続税財産評価に関する基本通達148によれば、著作権の評価方法は次のとおりです。

著作権の価額は、著作者の別に一括して次の算式によって計算した金額によって評価する。ただし、個々の著作物に係る著作権について評価する場合には、その著作権ごとに次の算式によって計算した金額によって評価する。(昭47直資3-16・平11課評2-12外改正)

年平均印税収入の額 × 0.5 × 評価倍率

上の算式中の「年平均印税収入の額」等は、次による。

(1)年平均印税収入の額
課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額の年平均額とする。ただし、個々の著作物に係る著作権について評価する場合には、その著作物に係る課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額の年平均額とする。

(2)評価倍率
課税時期後における各年の印税収入の額が「年平均印税収入の額」であるものとして、著作物に関し精通している者の意見等を基として推算したその印税収入期間に応ずる基準年利率による複利年金現価率とする。
国税庁HP/法令等/法令解釈通達/第1節 特許権及びその実施権より

著作者人格権

著作者人格権とは

著作者人格権は、公表権(著作権法18条)、氏名表示権(著作権法19条)や同一性保持権(著作権法20条)といった著作物に関する著作者の人格的利益を保護する性質の権利です。

公表権無断で公表されない権利、すなわち未だ公表されていない自分の著作物について、公表するかどうか、いつ、どういう方法及び条件で公表するかを決定する権利
氏名表示権自分の著作物を公表する際に、著作者名を表示するかどうか、どのように表示するか(実名で表示するのか、ペンネームなどの変名で表示するのか)を決定できる権利
同一権保持権自分の著作物の内容、題号を著作者の意に反して無断で改変させない権利

著作者の人格は「その人固有のもの」であり、当該著作者が一身専属的に有し、譲渡できません。これを、著作者人格権の一身専属性といいます。

著作者人格権の相続

著作者人格権は、前述のとおり著作者の一身に専属します。そのため、相続の対象になりません(著作権法59条)。

しかし、著作者の死亡後も著作者の人格的な利益は一定の範囲で保護されます。

著作権法60条は、ある著作物の著作者が死亡した後も、当該著作物を公衆に提供し、または提示しようとする場合には、当該著作者が生存していた場合に、著作者人格権の侵害となる行為を禁止しています。たとえば、著作物の内容を改ざんすることや生前に公表を拒絶していた著作物を公表することを禁止することができます。

著作者死亡後の人格的利益を保護される権利は、原則として遺族が行使します。

行使できる遺族の順位は、死亡した著作者が遺言で順位を指定していた場合、その順位に従います(著作権法116条2項)。また、遺族以外の者を遺言で指定することもできます(同条3項)。指定がない場合は、配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹の順です(同条1項)。

これは相続ではなく、著作権法に従うことになる点、注意が必要です。

産業財産権(特許権等)

産業財産権の種類

産業財産権(工業所有権)には、特許権、実用新案権、意匠権、商標権があります。

特許権は、発明※発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、高度なものをいいます。について、特許庁の特許を受けて登録した場合に発生する権利です。存続期間は、特許出願の日から20年ですが、毎年納付すべき特許料を納付しない場合には消滅します。

実用新案権は、考案※考案とは、自然法則を利用した技術的思想の創作で高度でないものをいいます。について、特許庁の登録を受けた場合に発生する権利です。存続期間は、実用新案登録出願の日から10年ですが、特許権同様、毎年の登録料を納付しない場合には消滅します。

意匠権は、物や建築物などのデザインについて、特許庁の登録を受けた場合に発生する権利です。存続期間は、設定登録の日か25年(関連意匠の意匠権は本意匠の意匠権の設定登録の日から25年)ですが、こちらも毎年の登録料を納付しない場合には消滅します。

商標権は、マークと、そのマークを使用する商品やサービスの組み合わせについて、特許庁の登録を受けた場合に発生する権利です。存続期間は、設定登録の日から10年ですが、更新が可能です。なお、設定又は更新時に登録料を納付することが効力要件となっています。

なお、これらの産業財産権は、相続人がいない場合にも消滅します。

産業財産権の種類保護の対象権利消滅の原因
特許権発明特許出願の日から20年毎年の特許料を納付しない場合相続人がいない場合
実用新案権考案実用新案登録出願の日から10年毎年の登録料を納付しない場合
意匠権デザイン設定登録の日から25年毎年の登録料を納付しない場合
商標権マーク
マーク+商品orサービス
設定登録の日から10年
ただし、更新した場合は消滅しない

産業財産権の相続

特許権等の産業財産権は、人格的権利は認められていないため、すべて相続の対象になります。ただし、産業財産権が消滅している場合には相続の対象とならないため、注意が必要です。

なお、これらの権利の専用実施権や通常実施権も、相続の対象となります。

【専用実施権・通常実施権とは?】

通常実施権は、産業財産権で保護された発明等を実施することができる権利をいいます。産業財産権者と契約により独占的又は非独占的に「許諾」を受けることで権利を取得します。

専用実施権は、産業財産権者と同等の独占的かつ排他的な権利です。そのため、専用実施権者は、自己の名で差止請求や損害賠償請求をすることができます。

このような実施権を「ライセンス」と呼ぶこともあります。

これらの産業財産権や専用実施権を相続した場合、遅滞なく、特許庁長官に届け出る必要があります。ただし、その届出は単に行政上の便宜からの要請にとどまり、効力の発生や第三者への対抗要件でもありません。

産業財産権の評価

産業財産権を相続する場合、相続税の関係では、産業財産権の価値はどのように評価されるのでしょうか。

特許権の評価

特許権からみていきましょう。

特許権の評価方法は、特許発明を特許権者が自ら実施している場合と、他人に実施させている場合で異なります。

①特許権者が自ら実施している場合

特許権者が自ら特許発明を実施している場合、事業者とみなされます。そのため、特許権の評価額は個別に算定せず、営業権に含めて一括で評価します

②他人に実施させている場合

他人に特許発明の実施を許諾している場合、通常、その許諾の対価を受け取ります。そのため、特許権の相続税評価額は、その権利に基づき将来受ける補償金の額の基準年利率による複利現価の額の合計額です。簡単にいうと、将来、特許権が存続する期間に受けとる予定の金額を現在受け取ったものとして調整した額です。

また、補償金の額が確定していない場合の相続税評価額は、相続税課税前に取得した補償金額を参考に、特許権による経常収入をもとに将来の補償金を推算して算出します。

③特許権の評価額が50万円未満

将来受け取る特許権の実施許諾の対価が合計して50万円に満たない場合には、評価しないものとされており、相続税の課税対象となりません。

特許権以外の産業財産権の評価

実用新案権、意匠権、商標権は、特許権の評価方法に準じて評価するとされていますので、上記をご参照ください。

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このように、知的財産権については、人格的権利以外は相続の対象となります。相続人間で引き継ぐ人を話し合っている間に権利が消滅してしまわないよう、存続期間や登録料等の納付に注意しましょう。

また、故人がどのような知的財産権を持っているのかわからない、価値がいくらくらいなのかわからないというような場合には、弁護士などの専門家に相談しながら相続手続きをすすめましょう。

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