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弁護士コラム
遺産はどのように評価する?【不動産は?非上場株式は?】
- 遺産分割のトラブル
- 投稿日:2022年12月13日 |
最終更新日:2022年12月13日
Q.遺産評価と遺産評価の基準時は、どのように考えるべきでしょうか? 具体的な遺産評価の方法と相続分を算定する時点での遺産評価の基準時は、相続開始のときか、それとも遺産分割のときのどちらになるか教えてください。 |
はじめに
「遺産の評価」というとあまりピンとこない方が多いかと思います。
人が亡くなると、必然的に相続が発生しますね。その時、残された財産は一体いくらなのか、知る必要があります。遺産は、遺言による相続分の指定又はその委託があるとき(民902条)を除いて、原則として相続分の割合によって分割されます。しかし、遺産の価額が分からなければ、相続分に応ずる分割ができません。したがって必ず、遺産を評価しなければなりません。
ところが、相続が開始しても、分割をするまでに相当の期間が経過してしまうことが多いため、その間に遺産が亡くなったり代償財産に化体したりして、遺産の構成自体に変化を生じ、あるいはその価額が著しく高騰したり低落したりと、変動するのが普通です。(ある土地が相続対象で、分割が決まるまでにその土地の近くに大きな駅ができたということを考えてみてください。)つまり、遺産の客観的価値は絶えず変動しているのです。
そうだとすると、遺産の評価時期の基準日をいつにするかによって、遺産の分割の方法も異なり、また相続人が複数いる場合に各相続人間に不公平な結果になってしまうおそれがあります。そこで遺産の評価時期をいつにすべきか、ということが重要となります。
基準時が問題になるのは、各相続人の法定相続分を、特別受益や寄与分によって修正して具体的相続分を算定する段階と、その具体的相続分に従って遺産を現実に分配する段階の2つの段階があります。
もっとも、遺産を構成する財産が金銭や預貯金だけの場合には、遺産の評価も評価時期もあまり重要とはいえません。
また相続分にかかわらず互いに欲しい物を取得などして自主的な分配の協議が成立する場合、全遺産を換価してその代金を分配する場合、あるいは全遺産を共同相続人の共有とする場合にも、遺産の評価などが必要となることはないでしょう。
遺産の評価の意義
評価の重要性
遺産分割は、現金・預貯金、株式、不動産、動産などの財産から構成される総遺産を、具体的相続分に応じて、相続人に公平かつ適正に分配することを目的とする手続です。前述した通り、目的達成のために、総遺産の経済価値を評価する必要があります。
ただ、預貯金や金融資産については、金額が明確なので争いになることは多くありません。遺産の評価で争いになりやすいのは、価値が変動しやすく、また評価方法も多数存在する不動産や非上場株式です。
評価と分割方法との関係
現物分割(遺産を現物で分割する方法)及び代償分割(特定の相続人が遺産を取得し、他の相続人に対し代償金を支払う方法)の場合には、他の遺産の取得や代償金の存否及び代償金額等の判断資料として、評価が必要となります。
他方、換価分割(不動産や土地などの現物として残された相続財産をお金に「換金」し、その「価値」に応じて、相続人の間で分割する方法)及び共有分割(遺産の一部又は全部を具体的相続分による物権法上の共有取得とする方法)の場合には、原則として評価は不要です。
評価の時点
特別受益や寄与分によって、各相続人の法定相続分を修正して具体的な取得割合を算定する段階では、相続開始時を基準として「みなし相続財産」を算出するのが実務の取扱いです。
※「寄与分の計算方法を理解しよう(具体例付き)」の記事もご参照ください
他方で、現実に遺産を分配する段階では、後ほど述べるように、遺産分割時を基準とするのが実務の取扱いです。
現実に遺産を分配する段階で相続開始時説をとってしまうと、分割時に価額の下落した遺産を取得する相続人と価額が維持又は上昇した遺産を取得する相続人間の公平が害されるからです。
なお、特別受益、寄与分が問題となる事案においては、相続開始時を基準として「みなし相続財産」を算出するので、遺産分割時に存在する相続財産については、分割時のほかに相続開始時の評価も必要となります。
民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時
実務においては、遺産は、遺産分割時の評価に基づいて行っています。
しかし、相続の開始後、認知によって相続人となった者が他の共同相続人に対して民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は、価額の支払を請求した時である(最二小判平成28年2月26日(民集70巻2号195頁、家判7号31頁))という判例が出ていることから、その基準時は時と場合によることが分かりますね。
遺産の評価の時期
遺産の評価時期をいつとすべきかについては、分割するまでの間に遺産の価値に変動があっても相続開始があった時点の評価によるべきであるとする相続開始時説と、現実に分割する時点の評価によるべきであるとする分割時説とが対立しています。
相続開始時説は、民法903条及び904条が特別受益者の相続分算定に関して「相続開始の時」あるいは「相続開始の当時」と規定していることからして、遺産評価も相続開始時とみるのが相当であり、また民法909条が遺産分割の効力につき「相続開始の時」にさかのぼって生ずると規定し、この点からも遺産の評価は相続開始日とすべきであるとするものです。
これに対して、分割時説は、民法903条及び904条は特別受益者の具体的相続分を算定するための規程であって、遺産分割のための評価時期を定めたものではないこと、民法909条は分割された個々の財産の法律的な移転時期が相続開始時にさかのぼると宣言したにすぎず、遺産評価の時期まで規定したものではないこと、分割手続における競売又は換価処分(家事手続194条)が命じられた場合、当然競売又は換価時における代金が分配されることなどを主な根拠として相続開始時説に反対するのです。
このように、評価の基準日をいつにするかについて考え方が分かれていますが、“遺産の具体的分配が公平になされること“が遺産分割手続の指導原理ですから、これを実現できるように評価の基準日を考えるべきといえます。
そこで実際の分割をみてみましょう。遺産の不動産と株式の価額が相続開始時に同じですが、分割時までに不動産の価額が騰貴し、逆に株式の価額が暴落したような場合、相続開始時説にたてば、共同相続人の一人に株式を分配しても、不公平とはいえませんが、それでは株式を分配された者は納得しないことは明らかでしょう。したがって、分割時における評価を基に相続分に応じて分配するのが最も公平かつ合理的だと考えられます。その上相続開始時説を裏付ける根拠も十分でないことなどを考慮しますと、分割のための遺産の評価は分割の時を基準とするのが正当です。
裁判例として相続開始時説をとるものもありますが、少数です(新潟家審昭36・12・21家月14・10・132など)。
もっとも、同じ立場によっても、相続開始時と分割時における価額に大差がない場合には、相続開始時の価額によるべきとするもの(東京家審昭44・3・27家月21・10・118)、あるいは原則的には遺産の評価の基準時は相続開始時ですが、その後に値上がりがあれば審判時の評価額に按分比例して増額させるとしたもの(神戸家尼崎支審昭38・8・22家月16・1・129)があり、どのような事情があっても、遺産の評価は相続開始時によって一律に評価すべきとまで主張しておらず、事情によっては分割時の価額によって分割することを認めています。
ほとんどの学説、裁判例は分割時説にたっています(学説として、日野原昌「遺産評価の時期」遺産分割の研究487、谷口知平「相続財産の評価」家大系Ⅵ303、中川=泉・相続263、鈴木=唄・人事93など。裁判例として、札幌高決昭39・11・21家月17・2・38、東京高決昭44・12・22家月22・6・55、福岡高決46・8・18家月24・6・47、東京家審昭46・9・7家月24・7・7など多数)。
分割時説の基準日
分割時説をとった場合、その基準日はいつになるでしょう。
遺産を現実に分割するとき、すなわち協議又は調停成立若しくは審判確定の日の時価を基準とするのが最も望ましいわけですが、鑑定をする場合、協議等の成立や審判確定の日の時価を算定することは実質不可能です。そこで、これらの日に最も近い一定の時点を基準日とせざると得ません。
調停中に鑑定がなされ、その後調停が不成立になって審判に移行したような場合など、遺産を鑑定後審判に至るまでに相当な期間が経過し、その間に価額の変動があれば、鑑定価額によって分割することは不当となり、これを修正したり、改めて遺産を鑑定評価し直したりということが必要になります。
抗告審が原審判を取り消して家庭裁判所に差し戻したり、あるいは自ら審判に代わる裁判をしたりするような場合にも、同様の取り扱いがなされることになります。
裁判例として、土地及び建物につき、原審判時より約1年前になされた鑑定評価額を基準とした遺産分割審判を、鑑定時と原審判時の間に少なからぬ価額の変動があったものと認められるとして取り消し、宅地につき10パーセントの増額、建物につき残存耐用年数一年減、減価率2パーセント増の修正を加えた上自判したもの(東京高決昭44・12・24家月22・6・55)、鑑定評価額が審判時までに変動したとして、これを修正して分割したもの(神戸家姫路支審昭46・2・12家月23・11-12・98、大阪家審昭47・8・14家月25・7・55)があります。
原則は、分割の対象となる遺産の評価は、各相続人に公平・平等に分配するため、これを分割する時点における実際の取引価額(時価)によるのが正しい評価の方法です。
遺産の評価の方法
前述のとおり、遺産の評価で問題となるのは、不動産や非上場株式です。
簡単にこれらの評価基準について説明します。
不動産
不動産の評価方法はたくさんあり、それぞれの方法によって評価額に大きな差が生じることがあります。遺産分割の調停では、どのように残された不動産を評価するか、相続人間で合意形成を試みます。
不動産の代表的な評価基準は以下のとおりです。
- 1固定資産税評価額
- 2相続税評価額(路線価、倍率評価)
- 3公示地価
- 4都道府県内地価調査価格(基準値標準価格)
なお、不動産の評価方法として、土地については
路線価 × 1.25(÷ 0.8) |
か、
固定資産税評価額 ÷ 0.7 |
で評価し、建物は固定資産税評価額で評価するのが簡明で客観的であるとされる場合があります。
業者の無料査定は、全相続人がバイアスをかけなければ客観的な評価が出ますが、バイアスをかける当事者がいるので注意が必要です。
不動産の利用権(土地賃借権、使用貸借権等)
簡単な方法として活用されるのが更地価格に対して借地権割合を乗じて算出する方法です。借地権割合は、税務署が相続税の算出のために定めたものです。更地価格の約50~90%です。
上記の方法で合意が得られなかった場合には、鑑定を行うこともあります。
また、賃貸人と賃借人が親族関係にある場合等については個別に評価をすることが必要です。
非上場株式
個人会社や中小企業の株式を非上場株式といい、その評価の方法はいくつか種類があります。
①純資産方式
会社の総資産価額から負債等を控除した純資産価額を発行済株式数で割る方法。
②配当還元方式
会社の配当金額を基準とし、発行済株式数で割る方法。
③類似業種批准方式
類似の業種の事業を営む会社群の株式に基準した評価方法。
④混合方式
①②③を組み合わせた評価方法。
配偶者居住権
配偶者が配偶者居住権を取得する場合、配偶者はその財産的価値に相当する価額を取得することになるため、遅くとも具体的な分割方法を決める段階までには配偶者居住権の評価額を確定しておく必要があります。
① 評価合意の方法
~配偶者居住権の簡易な評価方法~
簡易な評価方法によって配偶者居住権の評価額を算出する場合には、建物敷地の相続開始時における評価額が合意できれば、配偶者居住権を取り出して相続開始時における評価額を決める必要はありません。
配偶者居住権の評価額は、
建物敷地の現在価額 - 配偶者居住権付所有権の価額 |
という計算式で算出され、配偶者居住権と配偶者居住権付所有権の各価額を合計した建物敷地の相続開始時における評価額があれば、みなし相続財産を算出することが可能であるからです。
ア 配偶者居住権の取得希望があり、存続期間も確定している場合
存続期間を前提にした配偶者居住権の評価額と、配偶者居住権付所有権の評価額を合意することになります。
イ 配偶者居住権の取得を希望するか否かが未定であり、存続期間も定まらない場合
遺産の評価段階においては、建物敷地の評価額を合意しておけば足りると考えられます。
そして、具体的な分割方法の検討に入った段階で配偶者居住権の評価を確定させる方法によることも調停等の運営の視点からみても合理的であると思われます。
② 評価合意の基準時
評価合意の際、相続開始日を始期とすること、同日からの期間や終期を明らかにしておくことが、後のトラブルを防ぎ、当事者間で認識を共有するためにも有用です。
評価に関する合意
遺産の評価方法について当事者間で合意できないときは、遺産分割調停においては鑑定になります。鑑定の場合は、実務上、事前に「鑑定結果を尊重する」という合意をし、中間調書を作成することになります。
また、遺産分割調停では、遺産の範囲確定や評価など、段階ごとに合意事項を中間調書に記録しています(中間合意書)。
この合意書は、審判に移行しても、審判期日で中間合意事項を維持する旨を合意し、それが中間調書化されているときは、この合意を前提として審判がなされます。
なお、この中間調書には法的な拘束力はありませんが、調停・審判が、その合意を前提として運営されているため、その撤回が大きな問題になることあります。
その他
現金・預貯金は通帳や残高証明書等で金額は明らかですので、評価は不要です。
また、上場している会社の株式や投資信託は、遺産分割時の取引価格を評価額とすることが多いです。
動産、例えば有名な先生が書いた書画やお皿、着物などは、その真贋を含め、専門家の意見を聞き、相続人間の合意で決することが多いです。
遺産の評価方法で困ったら、弁護士に相談を
相続が発生したら、まず、亡くなった方が残した財産を調査する必要があります。
そして、その財産の価格が一体いくらだと評価できるのかを調べます。
相続財産をどのように評価するのかについては、前述のとおり評価基準が複数考えられるので、人によって妥当だとする価格が異なりやすくなり、ときには相続人間での争い・トラブルが生じやすくなってしまいます。
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