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弁護士コラム

【相続人・賃貸人どちらも必見!】賃借権の相続について徹底解説

遺産分割のトラブル
投稿日:2022年08月30日 | 
最終更新日:2022年08月30日
Q
賃借権は、遺産の範囲に含まれるのでしょうか?
詳しく教えてください。
Answer
賃借権も遺産の範囲に含まれます。
相続が発生したからといって、賃貸人から相続人へ退去請求できません。一方で、相続開始後は、法定相続人が賃料を支払う義務も引き継ぎます。賃料を払わない場合、賃貸人から賃貸借契約を解除されて退去を求められる可能性はあります。

遺産分割協議によって特定の相続人が賃借権を引き継ぐことが決まったら、その後は引き継いだ相続人が単独で全額の賃料を支払う義務を負います。

賃借権を引き継ぎたくない場合、相続人の方から賃貸人へ契約の解約や解除を申し出ることも可能です。その場合の原状回復義務も相続人全員が負担しなければなりません。返ってきた敷金は相続人全員が法定相続分に応じて取得します。

また公営住宅の場合、賃借人が死亡したからといって賃借権は相続人に当然には引き継がれません。公営住宅の目的は低所得者に安価な賃料で家を提供することであり、現在の賃借人が死亡したらあらためて公正な方法で入居者を決定する必要があるためです。

遺された親族が内縁の配偶者の場合、内縁の配偶者は賃借権を相続できません。ただし他に相続人がある場合、内縁の配偶者は相続人の賃借権を援用して家に住み続けることができると考えられています。相続人による内縁の配偶者への明渡し請求が認められる可能性はありますが、権利の濫用として認められない可能性もあります。

本記事でさらに詳しく解説していきます。

賃貸借契約は相続の対象になる

亡くなった方(被相続人)が賃貸住宅に居住していた場合、賃貸借契約上の賃借人の地位は「法定相続人」へ引き継がれます

賃借権も「財産権」という権利の一種だからです。

法定相続人が複数いる場合には、相続人全員が割合的に賃貸借契約を引き継ぎます。この場合の権利関係は法律上「準共有」となると考えられています。

また対象物件が居住用か事業用かも問題にならず、どちらであっても賃借権は相続の対象になります。相続人は、賃貸人の同意を得なくても賃貸人に対して賃借権を主張できます。

まとめると、相続によって賃借権が承継されるのは法律上当然のことであり、特段の手続きや対応は不要という意味です。

大家からの退去請求や承諾料の請求はできない

ときどき、相続が発生すると、賃貸人側から相続人へ土地建物からの退去請求が行われるケースがあります。

しかし賃借権は相続人へと当然に承継されるので、大家からの退去請求は認められません。

また大家から「名義変更の承諾料」を請求されるケースもみられます。

しかし賃借権が相続人へ承継されるのに大家の承諾は不要ですので、承諾料の請求も認められません。相続人の立場として退去や承諾料の支払いを求められても応じる必要はないといえるでしょう。

賃料支払義務について

相続人が賃借権を承継する以上、相続人は「賃料」の支払義務も承継します

相続人が1人であれば問題になりませんが、複数いる場合、誰がどれだけの賃料を払うかが問題になるケースもあります。

基本的には相続人は賃料支払義務も分割承継します。

各法定相続人が法定相続分に応じて賃料を払わねばなりません。

ただし現実に賃料を払う際には、代表者がまとめて払い、相続人の内部で清算するのが簡便でしょう。

賃料を払わなければ契約を解除される

相続が発生しただけでは相続人は賃貸人へ物件を明け渡す必要はありませんが、賃料を払わなければ、賃貸人から契約を解除されるリスクが発生します。

1か月分だけの滞納では契約解除が認められませんが、おおむね3か月分程度の賃料を滞納すると、契約を解除されるリスクが高まると考えましょう。

相続人が賃借権を承継して引き続き物件を使いたいなら、賃料は必ず払わねばなりません

賃貸人が賃料請求や解除の意思表示を行う相手について

相続人がきちんと賃料を払わない場合、賃貸人は不払い賃料を請求できます

相続人が複数いる場合、請求の相手先が誰になるのかみてみましょう。

基本的には全員に賃料支払の催告と解除の意思表示をしなければならない

賃借権の相続が発生したとき、賃料支払義務を引き継ぐのは「相続人全員」です。

よって賃貸人としては、相続人全員に法定相続分に応じて賃料の支払いを請求しなければなりません。1人に全額の請求をするのは認められないと考えましょう。

契約を解除する場合にも、1人に解除の意思表示をしただけでは足りません。全員が賃貸借契約の当事者となるので、相続人全員にそれぞれ解除の意思表示をする必要があります。

つまり賃借人となった相続人が賃料を滞納した場合、賃貸人としては相続人全員に賃料を請求し、払われない場合には全員に解除の意思表示をしなければならないのです。

例外的に1人に請求すれば良いケース

相続人が賃料を払わない場合、賃貸人としては基本的に相続人全員に賃料の催告を行った上で全員に契約解除の意思表示を行わねばならないのが原則です。

ただしこのルールには一定の例外があります。

たとえば特定の相続人のみが賃借物を使用して賃料を単独で払っている場合、他の相続人が賃貸借に関する代理権をその相続人に与えたとも考えられます。

そういった特殊事情があれば、単独で物件を使用して賃料を払っている相続人に対してのみ、賃料支払の催告や契約解除の意思表示をすれば足りると考えられています。

たとえば以下のような場合、賃貸人としては1人の相続人にのみ賃料催告と解除の意思表示をすれば良いでしょう

  • 相続人のうち1人が、他の相続人全員から賃借権に関する代理交渉や処理を一任されている
  • 他の相続人が賃借権を放棄している
  • 実質的に見て遺産分割が終了し、特定の相続人が賃借権を引き継いでいるとみられる

更新拒絶について

賃貸借契約では、期間が満了するタイミングで双方から更新拒絶できる可能性があります。

賃貸人からの更新拒絶も、一定の要件を満たせば認められます。

ただし賃貸人側からの更新拒絶には非常に厳しい条件が課されるので、簡単には認められません。賃貸人が更新拒絶するには「正当事由」が必要だからです。

正当事由とは、賃貸人が賃貸借契約の更新を行わないための正当な事情です。

たとえば以下のような事情があれば正当事由が認められやすいでしょう。

  • 物件が倒壊しかかっていて建て替えの必要性が極めて高い
  • 賃借人がほとんど物件を利用していない
  • 賃貸人側には物件を利用すべき高い必要性がある

なお、更新拒絶の正当事由が認められるとしても、大家側が事由を補完するために立退料を払うケースが多数です。立退料が払われた場合にも、法定相続人が受け取る権利があるので法定相続分に応じて清算する必要があります。

更新拒絶の意思表示の相手先について

賃貸人が契約の更新拒絶をしたいとき、その意思表示はやはり賃借人全員に対して行わねばなりません。

ただし相続人の代表者が決まっている場合や、実質的にみて他の相続人が特定の相続人へ代理権を与えているとみられる場合などには、特定の相続人に通知すれば足りると考えられます。

遺産分割後の賃借権について

以上のように、賃借権が「準共有」となって相続人全員が賃貸借契約の当事者になるのは、遺産分割前の期間です。

遺産分割によって賃借権の相続人が決まったら、以後はその相続人が賃借人としての地位を単独で引き継ぎます。

賃料支払もその相続人が1人で行わねばなりませんし、賃貸人による賃料請求や解除の意思表示、更新拒絶の意思表示などもその1人の相続人に行えば足ります。

なお遺産分割によって特定の相続人が賃借権を承継すると決まっても、相続開始から遺産分割までの間の賃料は法定相続人全員が法定相続分に応じて負担すべきです

他の相続人から賃借権を相続した相続人に対し、これまで支払った賃料の清算を求めることはできないので、間違った対応をしないように注意しましょう。

相続人からの解除について

賃借権が相続されると、相続人らは法定相続分に応じて賃貸人に対し、賃料を払わねばなりません。

物件を継続利用する予定がない場合「契約を解除したい」と考えるケースも多いでしょう。

相続人の立場から賃貸借契約の解除を行うことも、もちろん可能です。

ただし遺産分割前には権利が準共有となっているので、契約を解除する場合には他の相続人の承諾が必要です。

法定相続人間で賃貸借契約を解除すべきかどうか意見が割れてしまったら、その状態のまま契約を解除することができません。

まずは他の相続人と話し合い、賃貸借契約解除についての合意をしましょう。

遺産分割によって自分1人が単独で賃借権を相続すれば、自分だけの判断で契約を解除できます。

原状回復義務と敷金返還請求権について

賃貸借契約を解除する際には、賃借権は物件を元の状態に戻して返還しなければなりません。これを「原状回復義務」といいます。ただし完全に借りたときの状態に戻さねばならないわけではなく、自然的な経年劣化分についての処置は不要です。

年数の経過による自然損耗をのぞいた傷や傷みがあれば、相続人らは原状に戻してから賃貸人へ返還しなければなりません。原状回復義務についても法定相続人が全員で引き継ぐので、かかった費用については法定相続分に応じて負担すべきといえるでしょう。

賃貸借契約が解除されると、賃貸人は賃借人へ敷金を返還しなければなりません。

敷金返還請求権も相続人全員に引き継がれます。よって敷金の返還を受ければ、相続人は法定相続分に応じて敷金を分配する必要があります。

公営住宅の賃借権は引き継がれない

以上のように、被相続人が賃貸物件を使用していた場合、賃借権は法定相続人へ引き継がれるのが原則です。

ただし、物件が公営住宅の場合には事情が変わってきます。

最高裁平成2年10月18日の判決によると「公営住宅法」にもとづく公営住宅の入居者が死亡した場合、公営住宅に居住する権利は相続人に承継されないと判断されています。 

公営住宅法は、困窮状態にあって居住場所を取得できない低所得者に対し、安価な家賃で住宅を賃貸するためにもうけられた法律です。「低所得者層の保護」「国民生活の安定」という目的を果たさねばならないので、入居者については一定条件を満たす人に限定し政令の定める選考基準に従って公正な方法で入居者を選考しなければなりません。

以前の入居者が要件を満たしていても、相続人が要件を満たすとは限りません。そこで以前の入居者が死亡したからといって、相続人が当然にその使用する権利を承継することができないのです。相続が発生したら相続人は公営住宅から退去しなければなりません

内縁の配偶者や事実上の養子の場合

物件の賃借人が死亡したとき、遺された家族が「内縁の配偶者」や「事実上の養子」であれば、どのように理解すれば良いのでしょうか?

内縁の配偶者とは、婚姻届を提出せずに事実上の夫婦として同居している配偶者です。

婚姻届を提出していないのでお互い名字や戸籍は異なりますし、法律上も完全な夫婦としては取り扱われません。

事実上の養子とは、縁組届を提出せずに事実上の親子として同居している子どもです。やはりお互いに戸籍や名字が異なりますし、法律上は親子でない扱いとなるケースが多々あります。

内縁の配偶者や事実上の養子には相続権がない

法律上、内縁の配偶者や事実上の養子には遺産相続権が認められません

不動産や預貯金、株式などは一切相続できませんし、賃借権などの権利も相続できません。

よって遺された家族が内縁の配偶者や事実上の養子の場合、これらの家族は賃借権を引き継げないのです。

相続人の権利を援用できる

内縁の配偶者や事実上の養子は「相続人」ではないので、賃貸人に主張すべき権利を持ちません。そうだとすると、賃貸人からこれらの遺された家族に対し、物件からの退去請求ができるように思えます。

しかし、居住用の家についてまで退去請求を認めると、家族は被相続人の死亡とともに家を追い出されて生活拠点を失ってしまいます。

このような結論は不当と考えられるので、法律の世界では内縁の配偶者などの家族を保護する考え方が用意されています

具体的には、内縁の配偶者や事実上の養子は、自分の賃借権が認められなくても「相続人の賃借権を援用できる」と考えられています。被相続人が死亡したとき、子どもなどの相続人がいる場合もよくあります。そういったケースでは、内縁の配偶者は子どもなどの相続人の権利を主張することで、賃貸人からの退去請求を拒めるのです。

相続人がいない場合

そうなると問題になるのは、相続人がいないケースです。

相続人がいなければ、内縁の配偶者が援用すべき相続人の権利も発生しません。

こういった状況では、賃貸人から内縁の配偶者などへの退去請求が「権利の濫用」として認められない可能性があります。ただし実際に権利濫用になるかどうかについては、個別具体的な事情に応じて判断されるでしょう。

いずれにしても、賃貸人からの退去請求が当然に認められるものではありません。

困ったときには弁護士へ相談してください。

相続人が退去請求してきた場合

内縁の配偶者や事実上の養子がいる場合、相続人との関係がうまくいかず、トラブルに発展するケースも少なくありません。

そういったケースでは、相続人が内縁の配偶者や事実上の養子に対し、物件の明渡し請求をしたり権利を放棄して嫌がらせをしたりする可能性もあります。

ただ相続人による嫌がらせの退去請求を認めると、内縁の配偶者や事実上の養子が保護されなくなってしまいます。そこで相続人による請求が「権利濫用」として制限される可能性があります。

たとえば以下のような場合、相続人による退去請求は認められない可能性が高いでしょう。

  • 内縁の配偶者と被相続人の同居期間が長かった
  • 相続人は生前の被相続人とほとんどかかわっていなかった
  • 相続人が賃借権を引き継いでも特段の不利益がない
  • 内縁の配偶者が賃料を滞り無く支払っている

賃料支払方法について

内縁の配偶者などの家族が相続人の賃借権を援用する場合でも、賃借人はあくまで相続人です。よって賃貸人は相続人へ賃料を請求することになります。

ただ現実に居住しているのは内縁の配偶者などですから、最終的には内縁の配偶者などが賃料を払うべきといえるでしょう。

そこで相続人は「不当利得返還請求」として、内縁の配偶者へ賃料の支払いを求められます。

内縁の配偶者としては、賃料を支払わない限り物件に居住し続けるのが難しくなると考えるべきです。

内縁の配偶者が物件に居住すると、契約者と居住者が異なるのでさまざまな問題・トラブルが発生する可能性があります。内縁の配偶者と相続人との間でもめごとが起こるケースも少なくありません。適正な方法で解決するには法律の正確な知識が必要ですし、場合によっては代理交渉を依頼する必要もあるでしょう。

相続トラブルを避けるには弁護士へ相談を

以上、賃借権が法定相続人へと引き継がれることについて詳しく説明しましたが、実際当事者になってみると、相続人ー賃貸人、または相続人同士、内縁の配偶者ー相続人など、トラブルが発生することも少なくありません。

弁護士であれば正確な法律知識をもっていますし、ご本人の代理で交渉や訴訟などにも対応できます。賃借権の相続について迷ったときには、不動産関係や賃貸借契約の専門知識を備えた当事務所の弁護士に、お問い合わせください。

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