columns
弁護士コラム
背信的行為をすると相続放棄・限定承認ができなくなる?3つの背信的行為を徹底解説
- 相続放棄
- 投稿日:2022年07月26日 |
最終更新日:2022年07月26日
- Q
-
相続放棄や限定承認をした後にも、単純承認になってしまう配信的行為というものがあると聞きました。
具体的にどのような行為が該当するのでしょうか?
- Answer
-
民法では、相続人の以下のような背信的行為をおこなったときは、限定承認又は相続放棄をした後であっても、単純承認をしたことになると定めています(民法921条3号)。
●相続財産の全部又は一部を「隠匿」する行為
●相続財産を「私に消費」する行為
●悪意で相続財産を相続財産の目録中に記載しない行為
本記事では、それぞれの背信的行為の詳細についてご説明します。
法定単純承認とは
民法では、①相続財産の処分、②熟慮期間の徒過、または、③限定承認・相続放棄後の背信的行為といった事情があった場合には、単純承認をしたものとみなすと規定されています(民法921条)。これを「法定単純承認」といいます。
単純承認が成立した場合は、限定承認・相続放棄といった単純承認以外の相続の方法を選ぶことができません。
まず、相続手続きの3つの方法と、法定単純承認についてご紹介します。
相続手続きの3つの方法
相続手続きには、単純承認、限定承認、相続放棄の3つの方法があります。
基本的には単純承認が選択されることが多いですが、被相続人に債務がある場合は、どの方法を選ぶか変わってきます。
ここでは3つの相続手続きの方法を見ていきましょう。
単純承認
単純承認とは、積極財産(以下「プラスの財産」)も消極財産(以下「マイナスの財産」)も全て相続することを指します。
被相続人のプラスの財産が3,000万円で、債務が4,000万円ある場合、単純承認を選択した相続人は3,000万円のプラスの財産のみならず、4,000万円の債務も相続しなければなりません。
プラスの財産がマイナスの財産を上回っていれば単純承認でも問題ないでしょう。しかし、マイナスの財産がプラスの財産を上回っている場合、被相続人によほどの金銭的余裕がない限りは、単純承認はおすすめできません。
限定承認
限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ相続方法です。
被相続人のプラスの財産が3,000万円、債務が4,000万円ある場合、引き継ぐマイナスの財産は3,000万円となります。
残りの債務1,000万円については、債権者は支払いを求めることができないため、相続人が弁済する必要はありません(正確には、承継したプラスの財産を処分した範囲でマイナスの返済に充てることで、それ以上の責任を負いません)。
被相続人の債務が明らかでない場合は、限定承認を選択することで、後に債務が発覚して返済しなければならないというリスクを回避することが可能です。
相続放棄
相続放棄とは、被相続人のプラスの財産とマイナスの財産の全ての承継を拒否することです。
被相続人のプラスの財産が3,000万円、マイナスの財産が4,000万円の場合に、相続放棄を選んだとしましょう。
その場合、プラスの財産を受け取ることはできないものの、マイナスの財産も全て弁済する必要がなくなります。
相続放棄は、相続問題を回避したい方が選択することが多い相続手続きの方法です。
法定単純承認は「一定の場合に単純承認をしたものとみなす」制度
法定単純承認とは、前述した一定の場合において、相続人の意思とは関係なく、「相続人が単純承認を選択した」とみなす制度です。
先にも紹介しましたが、単純承認とは被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も全て引き継ぐ相続手続きの方法ですので、法定単純承認が成立した場合は、限定承認・相続放棄を選ぶことができなくなります。
被相続人のマイナスの財産がプラスの財産を上回っている可能性があるような場合は、誤って法定単純承認にならないように注意しましょう。
次の項目では法定単純承認となる3つのパターンについてご紹介します。
法定単純承認となる3つのパターン
冒頭でも紹介したとおり、法定単純承認となるのは、①相続財産の処分、②熟慮期間の徒過、または、③限定承認・相続放棄後の背信的行為があった場合です(民法921条)。
そして、
③限定承認・相続放棄後に配信的行為があった場合とは、
- 1相続財産の全部又は一部を「隠匿」する行為
- 2相続財産を「私に消費」する行為
- 3悪意で相続財産を相続財産の目録中に記載しない行為
をいいます。
背信的行為1:相続財産の「隠匿」
背信的行為の1つが、相続財産を「隠匿」することです。
相続財産を隠匿すると、当然相続放棄、限定承認が難しくなります。
整理のつもりで被相続人の遺産を持ち帰ったものの、場合によっては隠匿に該当してしまう場合があります。
ここでは相続財産の隠匿について見ていきましょう。
相続財産の「隠匿」とは
相続財産の隠匿とは、限定承認もしくは相続放棄後に、相続財産の一部または全てを隠す行為のことです。
限定承認・相続放棄前の行為については適用対象とはされていません(ただし、この場合、債権者は生じた損害について不法行為に基づき、損害賠償を請求することが可能です)。
隠匿をする相続人の認識については、「その行為の結果、被相続人の債権者等の利害関係人に損害を与えるおそれがあることを認識している必要があるが、必ずしも、被相続人の特定の債権者の債権回収を困難にするような意図、目的までも有している必要はない」とされています(東京地裁平成12年3月21日判決)。
とはいえ、背信的行為は、専門家でなければわからない部分も多いものです。
先ほどの裁判例は隠匿について、次のようにも判示しています。
「相続人が持ち帰った遺品の中には新品同様の服の他に3着の毛皮が含まれており、相当な量であった。このことから持ち帰った遺品は一定の財産的価値を有していたと認められる。そして相続人は、遺品のほとんどを持ち帰っていたことから、被相続人の債権者等に対し相続財産の所在を不明にし、相続財産の隠匿にあたる」
上記の事例を概要すると、相続人が被相続人の遺品を持ち帰ったところ、その遺品には一定の財産的価値があったことから、背信的行為に該当したということです。
あなたが相続人になった場合、被相続人の遺品を持ち帰る際には注意が必要です。
隠匿に該当してしまうと、相続放棄もしくは限定承認ができなくなってしまいます。
対象となる財産の経済的価値が極めて低い場合
隠匿は例外なく当てはまるものではありません。
対象となる財産の経済的価値が極めて低い場合は、隠匿には該当しないものとなっています。
そのため、写真や価値の低い服などの場合、隠匿に該当しません。
背信的行為2:相続財産を「私に消費」する
背信的行為にあたるものの2つ目として挙げられるのが、相続財産を「私に消費」することです。
ここでは「私に消費する」とはどういった意味なのかを詳しく見てみましょう。
併せて、該当しないケースについてもご紹介します。
相続財産を「私に消費」するとは
相続財産を私に消費する(民法921条3号)とは、限定承認・相続放棄を選択した後に、自分勝手に相続財産を処分したり売却したりといった行為をして、原型の価値を失わせることです。
「私に」とあるものの、公然になされたのか否かは、「私に消費」に該当するか否かを判断するにあたって決め手とはなりません。公然となされた場合であっても、自分勝手に相続財産を処分したり財産の価値を失わせた場合は私に消費したものと判断される場合があります。
また「消費」に関して、法律上の処分であるか、事実上の処分であるかは問いません。
ただし、限定承認・相続放棄前の行為については私に消費の適用対象とはされません(
その場合、債権者は「相続人が相続財産の全部または一部を処分した(民法921条1号)」の事由に該当するかを検討し、該当した場合はそれによって生じた損害について、不法行為に基づき損害賠償を請求することが出来ます)。
「私に消費」に該当しないケース
「私に消費」に該当しないケースもあります。財産の保存のためまたは他の事情により正当な理由がある場合には、私に消費する行為には該当しません。
次の裁判例は、私に消費する行為に該当しなかった事例です。
●虫害にかかった玄米を処分し、自己所有の玄米を張り替え、保管した
●被相続人が臨終の際に使用した寝具を他人にあげた、もしくは破棄した
このように財産の保存を目的とした場合や、正当な理由がある場合は、私に消費したとはいえません。
一方、被相続人が締結していた賃貸借契約が終了したことに伴い、受領した400万円の敷金の存在を明らかにせず、そのことを示す書類なども提出しなかったことを、債権を「私に消費」した、そうでなくともその所在を不明にしたと判断した事例があります。
背信的行為3:「悪意」で相続財産を「相続財産の目録中に記載しない」
悪意で相続財産を相続財産の目録中に記載しないことも、背信的行為にあたります。
悪意で相続財産を相続財産の目録中に記載しない行為が問題となるのは、限定承認をした場合のみです。なぜなら、単純承認や相続放棄の場合には、財産目録の作成は義務付けられていないからです。
より詳しく見てみましょう。
限定承認の場合にのみ問題となる背信的行為
財産目録作成が問題となるのは限定承認をした場合のみであることから、「悪意で相続財産を相続財産の目録中に記載しない」という背信的行為は、限定承認を選択した場合のみになります。
そのため、相続放棄の場合には適用されません。
「悪意」とは
悪意については、「問題の財産が相続財産であることを認識していた」という条件だけで足りるのか、それを超えて「相続債権者を詐害する意思まで有ることか」まで必要なのか、という争点があります。
そのため、判例の説明は一貫していません。
しかし正当な理由が認められる場合であれば、当該相続人には悪意がない、または当該財産目録への不記載が背信的行為ではあるとはいえず、実質的には該当する行為を行ったとは認められないため該当しないと判断されます。
債務などの消極財産を記載しないことは背信的行為か
結論から言うと、債務などのマイナスの財産を記載しなかった場合も、単純承認したとみなされます。つまりは、背信的行為となるということです。
法定単純承認を避けるためにも、債務などの消極財産も記載するようにしましょう。
以上のように、背信的行為には例外的な事項が多く、解釈が難しいため専門家以外の方が判断するのは難しいものです。
そのため、背信的行為に関しては専門家に相談するのがベストです。
相続放棄や限定承認を選択したい方は、被相続人の財産をいじったり、隠したりしないようにしましょう。
まとめ
本記事では、どのような行動が背信的行為に該当するのかをご紹介しました。背信的行為はあまり聞き馴染みのない言葉かもしれませんが、悪気なく単純承認をしたものとみなされてしまっては問題です。
曖昧な認識のまま背信的行為に及んでしまうことも多いため、不安な方は弁護士等の専門家に相談することもおすすめします。
相続放棄についてお悩みの方へ
お悩みに対するアドバイスとともに、財産調査から必要書類の取り寄せ、申立て手続きまで、プロの弁護士が一貫してサポートいたします。お悩みの方はお早めにご連絡ください。
初回相談は
0
円
相続に関わるお悩みは相続レスキューにお任せください
ご相談はお気軽に
- 初回相談は 円 お気軽にご相談ください