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弁護士コラム
相続の3つの方法について~メリット・デメリットと、判断基準についても解説~
- 相続放棄
- 投稿日:2022年07月22日 |
最終更新日:2024年03月14日
- Q
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相続の方法には3つの選択肢があると聞いたのですが、それぞれどのような特徴があるのでしょうか?
また、3つの方法のどれを選べばよいのでしょうか?
- Answer
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相続には、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」という方法があります。
「単純承認」「限定承認」には、その効果と申請の要否に違いがあります。
また、「限定承認」と「相続放棄」には、いずれも過大な債務から相続する人を守るという観点では同じですが、完全に相続手続きから離脱するのか否かに違いが生じます。
それぞれのメリット・デメリットを考慮した上で、3つの方法のうちどれが相応しい選択肢なのか検討しましょう。
目次
相続とは
そもそも「相続」とは、ある人が亡くなった際に、その人の持つ財産(全ての権利・義務)を特定の人が引き継ぐことを指します。簡潔にまとめるならば「亡くなった人の財産(例えば自宅や現金など)を配偶者や子ども、親族などがもらうこと」を指します。
相続では、亡くなった人のことを「被相続人」、一方で財産をもらう人のことを「相続人」と言います。また、相続する亡くなった人の財産のことを「遺産」や「相続財産」と呼びます。具体的には以下のような内容が財産にあたります。
- 預貯金
- 車や骨董品などの動産
- 建物や土地などの不動産
- 株式や投資信託などの有価証券
- 金融機関からの借入などの債務
- 著作権、特許権、賃借権の権利
また、上記の財産を相続する権利をもつのは、次のどちらかの人が対象となります。
受遺者 | 遺産をゆずり受ける人として、遺言書で指定された人 |
法定相続人 | 民法で決められている相続人で、亡くなった人の配偶者や子供か親か兄弟姉妹等の親族 |
原則、これらの財産を相続する際は、遺言書がある場合はその内容に沿って相続します。
一方、遺言書がない場合、民法で「誰がどの程度相続するか」が決められているため、その内容に沿って相続します。これを「法定相続」と言います。また、相続人全員で協議した上でそれぞれの事情に応じて分割することもでき、これを「分割協議による相続」と言います。
相続の3つの方法とは?
相続手続きには、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つの方法があります。
被相続人が死亡した際に相続人は、被相続人の権利・義務で他人に移転しないものを除く、全ての権利・義務を受け継ぐことになっています。この義務・権利について、受け継ぐか受け継がないかを決めることができます。具体的に3つの方法を見ていきましょう。
単純承認とは?
単純承認とは、全ての財産を受け継ぐことを指します。こちらは最も一般的な相続方法と言えるでしょう。多くのケースがこの単純承認にあたります。
全ての財産を受け継ぐため、債務などのマイナスの財産も含んでの相続となります。相続した財産のうち、積極財産(自身にとってプラスとなる財産)よりも消極財産(自身にとってマイナスとなる財産)が多い場合は、相続人がその債務を被相続人に代わって負担する形になり、返済していく必要があります。
限定承認とは?
限定承認とは、積極財産の範囲内で債務などの消極財産を引き継ぐ方法です。
債務が積極財産を上回っている場合、多くの方は相続放棄を選択されますが、理由があり相続をしたい積極財産がある場合(自宅不動産など)や、財産の調査をしたけど、プラスになるかマイナスになるかが微妙なタイミングだった場合などに限定承認をします。
ただし被相続人の債務に関して、債務が減額されたり、過払金が戻ってきたりするケースもあるため、限定承認を選択する前に弁護士に相談するのも良いでしょう。
単純承認と限定承認の違いですが、限定承認の場合、相続人が複数いる場合にはその相続する人たちが全員共同で、家庭裁判所に対して、限定承認の申述の申立てを行わなければなりません。すなわち、相続人のうち、一人でも限定承認に納得がいっていない人がいる場合には、限定承認自体ができないことになります。
一方で単純承認の場合は、限定承認のような全員共同で行わなければならないといった手続き上の制約はなく、相続人それぞれの判断に委ねられます。また、家庭裁判所に対する申述等の手続きも特に必要ありません。
相続放棄とは?
相続する財産には、被相続人の遺した債務や借金なども当然含まれており、相続人にとって必ずしもプラスになる財産だけがあるわけではありません。その場合に法的な手続きを通じて、全ての相続を放棄することができます。
これも限定承認と同様、被相続人の債務に関して、債務が減額されたり、過払い金が戻ってきたりすることもあるため、相続放棄を選択する前に弁護士に相談をすることをおすすめします。
限定承認との違いですが、相続放棄は積極財産・消極財産を問わず、相続を全面的に拒否し、完全に相続手続きから離脱します。
一方で限定承認は、前提として相続を承認するものの、債務の支払い限度は積極財産の範囲になり、消極財産については自己の財産から弁済することまでは引き受けない点で、明確に違いがあります。
3ヶ月の熟慮期間
民法では、自分のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月間のことを「熟慮期間」と規定しています。この期間で、被相続人が遺した相続財産を3つの方法でどのように処理するかを考える必要があります。
被相続人が遺した相続財産は、積極財産や消極財産がそれぞれどの程度あるのかを、財産調査を行うことで把握する必要があります。またその後、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つの相続手続きのうちどれを選択するか決定します。
例えば負債がある場合、「何社程度にどの程度の負債があるかわからない」などの事情があるケースもあり、財産調査に時間がかかり、熟慮期間の3ヶ月を過ぎてしまうことも少なくありません。
そのような場合には、家庭裁判所に熟慮期間の延長を求めることができます。これを「熟慮期間伸長の申立て」といいます。
被相続人の遺産を相続放棄する場合には、「自分が相続人であることを知ったとき」から3ヶ月以内に家庭裁判所に申立てをします。ここで注意が必要なのは「被相続人が死亡して」からではないという点です。
ただし、熟慮期間の起算点となる「自分のために相続の開始があったことを知った時」は、解釈が分かれるときがあります。
例えば、財産の一部については認識していたが、熟慮期間が経過した後になって、予想していなかった高額の債務があることが判明したという場合には、熟慮期間の起算点を繰り下げることができるか否かという点については、裁判例でも判断は分かれています。
単純承認・限定承認・相続放棄のメリット・デメリット
単純承認
メリット
第一に、単純承認を行うと、相続財産の全てを包括的に承継することができる点がメリットとしてあげられます。また、限定承認や相続放棄の場合とは異なり、家庭裁判所への手続きが不要である点も利点といえます。
デメリット
相続する財産全てを包括的に承継する結果として、プラスの財産だけではなく、マイナスの財産も全て相続することになるので、被相続人の遺したマイナスの財産を弁済しなければなりません。したがって、想定していないマイナスの財産がないかを慎重に調査する必要があります。
限定承認
メリット
限定承認は、債務超過(プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い状態)が明らかでなく、相続財産中に先祖代々引き継がれている家宝のようなものがある場合や、「被相続人にたとえマイナスの財産があっても引き継ぎたい」という事情がある際に、選択するメリットがあります。
債務はあるものの、債務超過か否かが不明である場合、ひとまず限定承認を行っておくと良いでしょう。限定承認をすれば、相続人は遺産を調査した上で、債務超過の時は相続財産の限度で弁済し、もし余剰がでればそれを引き継ぐことが可能です。
また、先祖代々引き継がれている家宝のようなものがある時は、家庭裁判所で選任された鑑定人がその家宝の鑑定を行い、当該鑑定評価額を限定承認した相続人が弁済することで競売に代えることが認められています。
たとえ債務超過であったとしても、積極財産の限度で弁済するという責任を負うのみです。単純承認の場合とは異なり、相続人が自己の財産をもって、全ての債務を弁済する責任はありません。
デメリット
限定承認は手続きがかなり面倒であることがデメリットといえます。
具体的な手順としては、まず相続人全員により限定承認をする旨を、家庭裁判所に対して申述を行います。その後、家庭裁判所により共同相続人の中から選任された相続管財管理人によって、清算手続きが開始されることになります。
限定承認の申述後の清算手続きとしては、相続財産管理人が全ての相続債権者及び受遺者に対して公告・弁済等を行います。
弁済を行うには相続財産を換価する必要があります。
加えて、限定承認をおこなうためには、相続放棄の場合とは異なり、共同相続人全員が共同で申述する必要があることもデメリットとして挙げられます。例えば、共同相続人のうち一人でも反対する人がいる場合には、限定承認の手続きをすることができません。
相続放棄
メリット
相続放棄をすることにより、初めから相続人ではなかったとみなされることになるため、消極財産があった場合に、その債務からも解放されることはもちろん、相続手続き一切から離脱することになります。
相続放棄は、限定承認とは異なり、共同相続人全員で行う必要はなく、各相続人が単独で行うことができることから、被相続人が多額の負債を残していて債務超過が明らかな場合でも利用できる点がメリットです。
デメリット
相続放棄をすることによって初めから相続人にならなかったとみなされることになってしまうため、積極財産(例えば、先祖代々の家宝など)があった場合でも相続できなくなります。
また相続放棄をすると、負債の返済義務が自動的に次の順位の相続人に移ります。したがって、事前に相談していない場合、親族間のトラブルに発展する可能性もあります。
単純承認・限定承認・相続放棄を選ぶ際の判断基準
単純承認を選ぶべきケース
単純承認では全ての財産を引き継ぐことになるので、消極財産のマイナスよりも積極財産のプラスが多いことが明らかになっている場合は、単純承認を選択するべきです。
また、申立てなどの手続きがないため、手間も少ないことがメリットといえます。スムーズに遺産を相続したい場合は、単純承認を選択すると良いでしょう。
限定承認を選ぶべきケース
限定承認は、「相続する財産について、消極財産が積極財産より多いことが分かっている場合」「相続する財産において、マイナスが多いかプラスが多いか不明確な場合」「先祖代々の家宝などの遺産を手元に残したい場合」などに有効な手段です。
手続き自体はとても煩雑ですが、債務があってもどうしても相続したいものがある場合に有効です。
相続放棄を選ぶべきケース
明らかに相続する財産がマイナスの財産(債務超過)である場合は、相続放棄をすべきです。なぜなら、マイナスの財産を引き継ぐ場合、自身でそのマイナスの財産の弁済をしなくてはならないからです。そのため、財産を確認し、積極財産を上回って消極財産がある場合は、相続放棄をするべきといえます。
相続放棄が認められないケース
相続放棄が認められないケースがあるので、注意が必要です。
例えば、以下の場合は相続放棄が認められていません。
- 相続財産を使い込んだ
- 相続財産を捨ててしまった
- 相続財産に担保設定をした
- 借金があると嘘をつかれ、騙されて相続を放棄した
- 相続財産の名義を変更した
- 被相続人の株式の議決権を行使した
など
このようなケースでは、相続放棄が認められていません。上記のケースに該当している、該当している可能性があるときは、弁護士又は司法書士に手続きを依頼すると、解決できる場合があります。
まとめ
相続が発生した場合、単純承認、限定承認、相続放棄という3つの方法について、メリット・デメリットを比較しながら決めていく必要があります。
一般的には単純承認や相続放棄といった方法が取られることが多いですが、債務であっても相続したいものがある場合には、限定承認を活用すると良いでしょう。
それぞれの方法にメリットとデメリットがあり、選択すべきケースが異なりますので、注意しながら方法を選択していきましょう。
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