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弁護士コラム

「公益信託」とは?遺言書の記載事項についても解説

家族信託・遺言書作成
投稿日:2022年10月13日 | 
最終更新日:2022年10月13日
Q
私は、死後、遺産5000万円を、進学することや学習環境を整えることが困難なヤングケアラーへの奨学金支給に充てたいです。
寄付も考えましたが、私の信念に合致した寄付先は見当たりませんでした。
このような場合、どうすればよいでしょうか?
Answer
はい、遺言により「公益信託」を設定するとよいでしょう。
その仕組みや遺言書の記載事項などを、本記事で詳しくみていきましょう。

信託の仕組み

はじめに、信託の仕組みを確認しましょう。

信託とは、法律上ある者(委託者)が相手(受託者)に財産権(信託財産)を帰属させつつ、同時にその財産を一定の目的(信託目的)に従って、委託者若しくは他人(受益者)又は社会のために管理処分しなければならないという拘束を加えることを指します。

この財産管理という機能が、信託の強みともいえるでしょう。

用語を簡単に説明すると、以下の通りです。

委託者  ⇒ 財産の管理処分を頼む人
受託者  ⇒ 財産の管理処分を頼まれる人
受益者  ⇒ 財産の経済的利益を受ける人
信託財産 ⇒ 管理処分の対象となる財産
信託目的 ⇒ 信託設定の目的

信託には、民事信託(家族信託)と、商事信託があります。

金融庁の許可を持たない受託者(個人または法人)に託す信託の形が民事信託です。主に家族・親族が受託者となります。

金融庁の許可を得た受託者(信託銀行・信託会社)に託する信託の形が、商事信託です。

本記事では、民事信託を念頭に置いて話をすすめます

また、信託は、契約、遺言、信託宣言により設定することが認められています(信託法3条)。遺言による信託の設定を、遺言信託といいます(詳しくは「遺言信託とは?設定・作成法も解説」をご参照ください)。

そして、信託には、公益信託私益信託があります。

信託目的が、「祭祀、宗教、慈善、学術、技芸」その他の公益を目的にする場合は公益信託、それ以外の場合は、私益信託と区別されています(公益信託法1条)。実際には、奨学金支給、医学などの研究への助成、教育、国際交流、福祉活動への助成、芸術、文化、地域活性化への助成、環境保全活動への助成などが主な公益目的とされています。

公益信託法第1条
 信託法第258条1項に規定する受益者の定めなき信託の内学術、技術、慈善、祭祀、宗教の他公益を目的とするものにして次条の許可を受けたるもの(以下公益信託と謂う)に付ては本法の定むる所に依る

公益信託は、特定公益信託、認定特定公益信託、これらに該当しない公益信託にわけられ、それぞれで税制上の措置が異なりますが、本記事では、公益信託全般を前提に話をすすめていきます

公益信託と、他の公益活動の違い

自己の財産を使って公益活動をしたい」と考えるとき、公益信託よりも先に思い浮かぶ手段として、財団法人の設立があるのではないでしょうか。

この手段と、公益信託との違いは何なのでしょうか。

たしかに、公益活動を実現しようとする点では、財団法人の設立と類似しています。しかし、財団法人を設立するという手段による場合、活動主体となる法人を作って公益活動を行います。

これに対し、公益信託では、信託財産を受託者に預けて、公益目的のために受託者の固有財産とは別に管理・運用してもらいます。そのため、財団法人を設立するという手段による場合、法人の存在自体を維持することや永続的な公益活動を行うための経費などが発生し、その分、公益活動に充てられる財産の割合も少なくなります。そのため、財団法人を設立して公益活動を続けようとすると、莫大な財産が必要となってしまいます。

したがって、公益信託の方が、経済的負担が少ないといえるでしょう。

遺言による公益信託の設定について

遺言による公益信託の要件

遺言による公益信託は、遺言書に、公益信託を設定する旨と信託の内容を書き入れるというイメージです。では、遺言による公益信託は、どのような要件を満たせば、その効果が生じるでしょうか?

 まず、遺言の方式及び効力は民法の規定(民法960条~1027条)に従うことになります。民法の規定の要式を欠いた遺言信託は、無効となります。例えば、自筆証書遺言による場合、自分で全文を書くこと、作成日を書くこと、署名・捺印をすることが必要となります。

また、遺言信託設定のためには、信託の目的・受益者・信託財産の3つの要件が信託開始時である遺言者死亡時に確定している必要があります(詳しくは「遺言信託とは?設定・作成法も解説」をご参照ください)が、公益信託の場合、特定の受益者がいるというわけではないので、

  1. 1信託の目的
  2. 2信託財産

の2つが確定していればよいです。

各要件を詳しく確認していきましょう。

信託目的の確定性について

公益信託における信託目的は、抽象的に示さていれば足ります。これは、公益信託では、主務官庁の監督(公益信託3条)のもとに適宜信託目的に従って信託財産を利用できるからです。

(例)遺産を○○研究のために役立てる

もっとも、信託目的が具体的であればあるほど、受託者の行動指針が明確になり、その結果、委託者が思い描く公益活動が実現されやすくなります。そのため、具体的に記載するのが望ましいです。

信託財産の確定性について

信託行為の目的とされる財産は、被相続人の死亡時には確定されていなければならず、しかも金銭評価できる財産権でなければなりません(信託法2条)。また、積極財産であることが必要です。消極財産(債務)自体は信託できません。

(例)不動産、現金、債権、著作権、特許権

もっとも、公益信託では、受託者が主務官庁の許可を得なければなりません。そして、信託財産が、信託目的を実現するのに不十分なものと判断された場合には許可されない可能性があります。そのため、信託目的に照らして、信託財産が十分といえる必要があります(例えば、未知の分野の医療研究などの助成金として数十万円では不十分ですよね)。

遺言書の記載事項

では、遺言による公益信託に当たり、遺言書に記載するべき事項はどのようなものでしょうか。

まず、遺言による公益信託の成立要件として前述した、

  • 信託目的
  • 信託財産

は必要的記載事項です。

次に、受託者がいなければ、信託目的が実現できません。そのため、

  • 受託者

も必要的記載事項です。

なお、遺言書の中で受託者の指定がなかった場合や、未成年者を指定していた場合、利害関係人の申立により、家庭裁判所が受託者を選任します(信託法6条)。

これに対して、私益信託では、未成年者が指定された場合、信託行為は無効となります。

このように、公益信託の遺言書では、①信託目的、②信託財産、③受託者が必要的記載事項です。

他にも、以下のような項目を書き入れておくとよいでしょう。

信託期間

(例)信託財産が消滅するまで

信託財産の処分、給付の方法

 (例)信託財産を他口座に送金することで事業を行う

信託報酬

(例)(受託者が信託銀行等の場合)主務官庁と協議の上、受託者所定の料金及び算定方法によって決定するものとする

遺言による公益信託をするうえで、注意しておきたいこと

公益信託では、引き受ける際に、受託者が主務官庁の許可を受けなければなりません(公益信託2条)。

公益信託に関する法律第2条
1項 信託目法第258条に規定する受益者の定めなき信託の内学術、芸術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他公益を目的とするものに付ては受託者に於て主務官庁の許可を受くるに非ざれば其の効力を生せず

信託目的や信託財産の状況によっては、この許可が得られません。その場合、公益活動をしたいという意思やそのための財産が生かされません。そこで、これらのリスクに備えた記載を遺言書の中でしておくとよいでしょう。具体的には、「主務官庁の許可を得られず、本件公益信託が設定不能になった場合には、遺産を類似の目的とする公益信託〇〇又は公益法人〇〇に遺贈するものとする。」などと記載しておくとよいです。

【公益信託に関する法改正】

公益信託」は、法改正が予定されています。

法改正では、まず公益信託の信託事務及び信託財産の拡大が予定されています。

また、公益信託の受託者は、これまで、ほぼ信託銀行に限られてきましたが、受託者の担い手を自然人や法人もできるようにする方向となっています。

さらには、主務官庁による許可・監督制を廃止し、認可・監督制とする改正もされる予定です。

詳しくは、法務省のホームページをご参照下さい。

ご相談のケース

まず、自分の信念に合致する公益活動をしている寄付先は見当たらないとのことですので、ご自身が財団法人を設立するか、公益信託を設立するべきでしょう。

もっとも、財団法人を設立して、思い描く公益活動を続けていくには、経済的負担がかかります。そのため、公益信託を設定するのがよいでしょう。そして、遺産を使って死後の公益活動を実現したいということですので、遺言により公益信託を設定しましょう。

実際に、遺言により公益信託を設定してみましょう。

ご提示されている事実から、遺言信託の成立要件を満たすか確認してみましょう。

まず、信託目的は、「これからの日本や地域の発展に貢献する能力がありながらも、介護のために、進学することや学習環境を整えることができない学生を支援するための費用支払い」となりますね。これで、行動指針が十分に示されており、目的は十分確定しているといえ、信託目的の確定性は認められます。

次に、信託財産は、「遺産5000万円」ですね。これは金銭評価できる財産権にあたります。これらを死亡時まで消費しないのであれば、信託財産は確定しているといえ、信託財産の確定性も認められます。

そして、民法規定の遺言の要式を守っていれば、遺言信託の成立要件を満たし、ご相談者様の死亡時に効力が発生します。

前述した必要的記載事項に加えて、信託期間などの項目も盛り込んだ遺言による公益信託は、以下のようなものになるでしょう。なお、公益信託不能の場合に備えた記載をしましたが、自分の信念に合致する公益信託や公益法人はないということなので、この記載は消去されても構いません。

自分の死後、これからの日本や地域の発展に貢献する能力がありながらも、介護のために、進学することや学習環境を整えることができない学生を支援する費用を支払うため、〇〇に、自分の預金5000万円を管理運用してもらいたいです。この希望を実現するために、別紙「信託財産目録」記載の財産を、別紙「遺言信託」記載のとおり信託しました。なお、主務官庁の許可を得られず、本件公益信託が設定不能になった場合には、遺産を類似の目的とする公益信託〇〇又は公益法人〇〇に遺贈します。
「遺言信託」
1.信託の目的
 これからの日本や地域の発展に貢献する能力がありながらも、介護のために、進学することや学習環境を整えることができない学生を支援する費用の支払い
2.信託財産
 信託目録記載の預金を信託財産として管理運用を行うものとする。
3.受託者
 〇〇
4.信託期間
信託財産の消滅まで
5.受益者
これからの日本や地域の発展に貢献する能力がありながらも、介護のために学習環境を
整えられない学生
6.管理方法
受託者は、信託財産の管理運用に必要な措置を行う。
7.給付方法
受託者は、毎年、信託財産から学業に必要な金額を受益者の各口座に送金する。
8.信託の報酬
 主務官庁と協議の上、受託者所定の料金及び算定方法によって決定するものとする。

公益信託で迷ったら、弁護士にご相談を

これまでみてきたように、公益信託には、同じ公益活動でも、財団法人の設立による方法とは異なりましたね。そして、経済的負担が少ない点が、公益信託の魅力でした。

また、遺言による私益信託の場合と比べて、成立要件や遺言書の記載事項はやや緩やかでした。ですが、理想通りの公益信託活動が実現されるためにも、詳細を示しておいて損はないでしょう。

信託でお悩みの際は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。

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