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弁護士コラム
遺言信託とは?設定・作成法も解説
- 家族信託・遺言書作成
- 投稿日:2022年07月27日 |
最終更新日:2024年03月14日
- Q
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私は、末期癌でもう先が長くないです。預金8000万円と賃貸ししている不動産を、妻子の生活のために遺したいと思い、その旨の遺言書を作成しているところです。
ただ、妻は認知症になっており、子は知的障害を持っています。
そのため、彼らが不動産や金銭をきちんと管理しながら利益を受け取れるか不安です。
このような不安を抱くことなく遺産を妻子に遺すには、どうすればよいでしょうか。
遺言書を作成しただけでは不十分でしょうか?
- Answer
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奥様とお子様が抱える事情を考慮すると、遺言書を作成するだけでは不十分です。
遺言信託の作成をおすすめします。
目次
はじめに
はじめに、信託の仕組みを確認しましょう。
信託とは、法律上ある者(委託者)が相手(受託者)に財産権(信託財産)を帰属させつつ、同時にその財産を一定の目的(信託目的)に従って、委託者若しくは他人(受益者)又は社会のために管理処分しなければならないという拘束を加えることを指します。
この財産管理という機能が、信託の強みともいえるでしょう。
用語を簡単に説明すると、以下の通りです。
委託者 | 財産の管理処分を頼む人 |
受託者 | 財産の管理処分を頼まれる人 |
受益者 | 財産の経済的利益を受ける人 |
信託財産 | 管理処分の対象となる財産 |
信託目的 | 信託設定の目的 |
信託には、民事信託(家族信託)と、商事信託があります。
金融庁の許可を持たない受託者(個人または法人)に託す信託の形が民事信託です。主に家族・親族が受託者となります。
金融庁の許可を得た受託者(信託銀行・信託会社)に託する信託の形が、商事信託です。本記事では、民事信託(家族信託)を念頭に置いて話をすすめます。
信託には、公益信託と私益信託があります。
信託目的が、「祭祀、宗教、慈善、学術、技芸」その他の公益を目的にする場合は公益信託、それ以外の場合は、私益信託と区別されています(公益信託法1条)。
信託の設定の仕方については、契約信託(信託法3条1号)、遺言信託(信託法3条2号)、自己信託(信託法3条3号)があります。契約信託では、委託者と受託者が信託の目的、信託財産の管理処分の方法、受益者を誰にするかを決めて、合意することで、信託を設定します。
遺言信託では、遺言により、信託を設定します。
自己信託では、信託宣言により信託を設定します。自己信託では、委託者=受託者となります。
遺言信託について
遺言信託とは、委託者が、受託者に対して、財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨、並びに、受託者が一定の目的に従い、財産の管理又は処分及びその他当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法により設定する信託です(信託法2条2項2号、3条2号)。
遺言との違い
前述のように、遺言により相続財産に信託を設定することが認められており、これを遺言信託といいました。
では、遺言ではなく、遺言信託を活用することにどのような意義があるのでしょうか。
結論から申し上げますと、遺言信託は、遺産の管理処分の仕組みまで設定できるという点で遺言と異なり、これが遺言信託を活用することの意義であるといえます。
たしかに、遺言では、自己の希望する遺産分配が可能です。これにより、相続人間での遺産分割協議とそれに伴う遺産争いを避けられる点で、相続の場面では非常に有用な手段です。
しかし、遺言では、遺産の受取人側の事情は考慮されません。
例えば、遺産の受取人が、認知症になっていることや障害を有していること、浪費癖があることは、少なくありません。この場合、受取人側の財産管理能力の乏しさをカバーできるような仕組みも設定しておかなければ安心できないでしょう。遺言をしただけでは、このような受取人側の事情が考慮されず、遺産を分配するだけで終わってしまうため、十分とはいえません。
そこで、遺言信託の出番です。遺言信託を設定すれば、自己の希望する遺産分配をした上で、遺産の受取人が抱える事情に応じた財産管理の仕組みも設定することができます。
遺言信託の設定について
誰に何を渡すかについて書かれているのが、遺言です。
遺言信託は、遺言に、信託を設定する旨と信託の内容を書き入れるというイメージです。
では、遺言信託は、どのような要件を満たせば、その効果が生じるでしょうか。
まず、遺言の方式及び効力は民法の規定(民法960条~1027条)に従うことになります。
民法の規定の要式を欠いた遺言信託は、無効となります。
例えば、自筆証書遺言による場合、自分で全文を書くこと、作成日を書くこと、署名・捺印をすることが必要となります。
次に、信託開始時に(被相続人の死亡後)に、少なくとも、
- 1信託目的
- 2受益者
- 3信託財産
の三つの要件が確定している必要があります。これら①~③は、信託法の「三大確定性」と呼ばれています。
各要件を詳しく確認していきましょう。
①信託目的の確定性について
信託目的は、「一定」の目的で定められている必要があり、被相続人は、信託を委託された受託者が信託義務を遂行できる程度に行動の指針を示す必要があります。
(例)「死後妻に生活資金を支払うこと」、「子供に学費を普及すること」
もっとも、行動指針を示していればどんな目的のためにも委託できるわけではありません。というのも、訴訟を目的とする行為は許されてない(信託法10条)ので、自分の死後弁護士以外の者に訴訟の追行を委託することは不可能です。
②受益者の確定性について
受益者については、遺言書の中で、受益者を指定するか、又はこれを確定できる程度に指示を与えておく必要があります。
(例)「妻子」、「最後まで入っていた施設」
このように、受益者を特定されている必要があるので、「友人や縁者」という程度では不十分であることに注意です。また、「子」については、遺言の時に胎児である者を指定することも可能であるということも忘れないようにしましょう。
③信託財産の確定性について
信託行為の目的とされる財産は、被相続人の死亡時には確定されていなければならず、しかも金銭評価できる「財産権」でなければなりません。また、積極財産であることが必要です。消極財産(債務)自体は信託できません。
(例)不動産、現金、株式、貸付債権、売掛債権、著作権、特許権
ただし、信託の目的である財産が抵当権などの担保物権を負担していることは差し支えありません。
このように、民法規定の遺言の方式を満たしたうえで、信託目的、信託財産、受益者を確定させ、書き入れておけば遺言信託が成立します。
実際に遺言信託を設定する場合、他にも、以下のような項目を書き入れておくとよいでしょう。
- 受託者
- 信託期間
- 信託期間中の財産管理の仕方
- 信託期間中の財産の状況の報告の仕方
- 受益者に対する財産の給付の仕方
- 受益者の報酬
なお、遺言信託を設定する場合、以下の点については注意が必要です。
まず、受託者についての注意点です。
法律上、受託者とすることができないのは、未成年者だけである(信託法7条)ため、難なく受託者を見つけられそうです。
しかし、遺言信託は被相続人が亡くなっていることが前提なので、通常の信託以上に被相続人の信頼に応え管理者としての任務を遂行できる専門的能力を持つ者である必要があります。
そのような者を家族の中から選び出すのは意外に難しいかもしれません。また、遺言により受託者を指定しても、その者が受託者になることを拒絶することもあり得ます。拒絶した場合、利害関係人の申立によって裁判所が受託者を選任することになりますので(信託法6条1項)、実際の受託者が、指定していた者とは異なるという事態が起こり得ます。
【参考】
信託契約の場合、信託行為が委託者と受託者の契約によって行われることから、受託者が信託の内容を事前に承知したうえでその任務を引き受けることが前提となっています。これに対し、遺言信託の場合、信託行為が委託者の遺言という単独行為によって行われるため、受託者が指定されていない場合や、受託者が指定されているものの信託の引受けの承諾をしていない場合でもあっても、遺言の効力の発生、すなわち委託者の死亡により効力が発生することになり(信託法4条2項)、上記のような事態になります。
また、遺言信託は、遺留分侵害額請求の対象となるため、遺留分権利者から受益者に対して遺留分侵害額請求(民法1046条)がなされ得ることも念頭に置いておくべきでしょう。
たしかに、遺言信託を含む信託行為が遺留分侵害額請求の対象となるかについては、解釈次第で、否定も肯定もあり得ます。
遺留分に関する判例で、生命保険金が受取人固有の財産であることから、遺留分の対象にならないとされたものがあります(最判平成14・11・5民集第56巻8号2069頁)。そして、受益者として指定された者が、委託者の死亡時に取得する受益権は、委託者が生前有していた受益権を承継するものではなく、委託者死亡により新たに発生する受益権であるという点に主眼を置くと、生命保険金と同じく、受取人固有の財産であるとして遺留分の対象となることを否定する解釈も成り立ちます。
もっとも、遺留分侵害額請求の対象となる被相続人の行為は、遺贈や贈与です。そして、信託による受益権の取得は、遺贈や贈与に基づく承継ではありませんが、委託者から受益者への利益の移転という側面を有することは否定できません。このような側面を考慮すると、信託行為は、遺留分侵害額請求の対象となることを肯定するべきでしょう。また、被相続人の近親者の生活保障という遺留分制度の機能からも、肯定するべきだと判断できます。
このように、遺言信託により、相続人の遺留分を害することはできませんから、信託財産の価格が遺留分を侵害するときは、遺留分権利者から遺留分侵害額請求がなされ得るので、注意が必要です。遺留分侵害額請求がなされる事態を避けるために、委託者は、特定の者に承継させたい財産について遺言信託をすると同時に、それ以外の財産について、他の相続人に遺贈するなどの工夫をするとよいかもしれません。
遺言信託の活用場面
遺言信託において最も利用されることが多いのは、被相続人の死後、残された妻や子供に財産の管理能力が乏しいことを考慮して、現金や土地などの相続財産を管理能力に優れた人又は法人に委託し、財産の一部やその収益金を妻や子供に、定期的に生活費として支給してもらう場合です。
また、被相続人の死後、在学中の子どものために収益金を学費として直接学校に支払うような信託(学資金信託)や、被相続人の菩薩寺に墓地の管理費用及び法要のための供養料として毎年、収益金を支払っていくような信託(永代供養信託)もあります。
ご相談のケース
まず、奥様とお子様は、財産の管理能力が乏しいと思われます。
そのため、遺言書を作成するだけでは遺産の管理について第三者に託すことが十分にできず、不十分でしょう。
そこで、遺言信託をすることをおすすめします。
実際に、遺言信託を設定してみましょう。
提示されている事実から、遺言信託の成立要件を満たすか確認してみましょう。
まず、信託目的は、「死後の妻子の生活」のための費用支払いとなりますね。これで、行動指針が十分に示されており、目的は確定しているといえ、①は認められます。
次に、受益者は、「妻子」ですね。特定されており、受益者は確定しているといえ、②も認められます。
次に、信託財産は、「預金8000万円、賃貸している不動産」ですね。
これは金銭評価できる財産権にあたります。これらを死亡時まで消費しないのであれば、信託財産は確定しているといえ、③も認められます。
そして、民法規定の遺言の要式を守っていれば、遺言信託の成立要件を満たし、ご相談者様の死亡時に効力が発生します。
ご相談者様が、受託者、信託期間等も指定した場合、これらの項目も盛り込んだ遺言信託は以下のようなものになるでしょう。
自分の死後、妻子の生活費用を支払うため、〇〇に、自分の預金及び不動産の家賃収入から毎月、生活費を現金で手渡してほしいです。また、不動産の管理も担ってほしいです。この希望を実現するために、別紙「信託財産目録」記載の財産を、別紙「遺言信託」記載のとおり信託しました。 |
(遺言信託) 1.信託の目的 遺言者の妻子の生活費用の支払いを目的とする。 2.信託財産 信託目録記載の預金及び不動産を信託財産として管理処分を行うものとする。 3.受託者 住所 〇〇〇〇 遺言者との関係 〇〇 4.信託期間 妻子の死亡もしくは信託財産の消滅まで 5.受益者 妻子 6.管理方法 受託者は、信託財産の保存、管理処分に必要な措置を行う。 7.給付方法 受託者は、毎月、信託財産から生活費用として必要な金額の現金を受益者に手渡す。 8.信託の報酬 受託者に、報酬として月○○円を支給する。 |
まとめ
遺言信託には、遺産の管理処分の仕組みを設定するという機能がありました。
この機能により、遺言ではカバーできなかった、遺産の受取人が財産をきちんと受け取ることができるかという不安が解消されます。受取人側に、財産管理能力についての不安要素がある場合は、是非一度、遺言信託を検討してみましょう。
もっとも、受託者を誰にするかは慎重になるべきですし、指名した者が拒絶することもあり得るということを念頭に置いておきましょう。また、遺留分侵害額請求の可能性にも配慮した措置を講じたいですね。
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