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弁護士コラム

遺言で「遺言執行者」の指定はできる?

その他
投稿日:2023年05月24日 | 
最終更新日:2024年02月09日
Q
遺言書に遺産分割方法を指定し、執行者も指名することはできるのでしょうか?
Answer
相続が開始しても、一般的に遺言書が作成されていないために、遺産の分割をめぐって相続人間で争いが生じることがあります。相続紛争を未然に防ぐために、遺言書を作成しておくのが良い方法です。
民法908条前段は、遺言で遺産をどのように分割するかというその方法の指定をすることができるとしています。
また、民法1006条1項は、遺言の内容を実行してもらうために遺言の執行にあたる遺言執行者の指定をすることができるとしています。
 
遺言で定めるべき内容と遺言執行者を指定すべき場合について、これから詳しく説明します。

遺言事項

法定遺言事項

民法は、遺言の明確性を確保するとともに、後の紛争を予防するために遺言することができる事項を以下ものに限定しています(これを法定遺言事項といいます)。

  1. 1身分関係に関する事項(遺言認知、未成年後見人の指定など)
  2. 2相続の法定原則の修正(推定相続人の廃除、相続分の指定、分割方法の指定など)
  3. 3遺産の処分に関する事項(遺贈など)
  4. 4遺言の執行に関する事項(遺言執行者の指定など)

そのほかの遺言事項

民法に定めはないものの、解釈により遺言によってできるとされている事項として、

  • 祭祀主催者の指定
  • 特別受益の持戻し免除
  • 信託の設定
  • 生命保険金受取人指定・変更

などがあります。

このケースでは、遺産分割方法の指定の前提として、債務の弁済を命じる遺言内容をすることとなります。

遺言の内容を実行してもらうため、遺言の執行にあたってくれる遺言執行者を遺言の中で指定(1006条1項)することができます。執行を必要とするのに、遺言執行者の指定をされてなければ、後に遺言執行者の選任を家庭裁判所に求める必要があります。

事例

ここで、具体的事例をみてみましょう。

私には、4人の子どもがいます。
債務はありますが債務を弁済しても残る財産があります。子供たちは仲が悪く、私の死後、遺産分割をめぐって争いとなるのではないか心配です。
争いを未然に防ぐために、遺言書の中で債務を払った残りの遺産の分け方を指示しておきたいと思っています。また、信頼できる友人を、遺言の執行者に指名しておきたいと思います。
遺言でこれらのことを決めておくことはできるでしょうか?

本事例では、

  1. 1遺産債務の弁済
  2. 2弁済後の残余財産についての分割方法の指定
  3. 3遺言執行者の指定

を遺言で指定することができるかが問題となります。

検討

遺産財産の弁済

民法は、債務の弁済を法定遺言事項としていません。

判例は、遺言執行者に遺産を売却し売却金で遺産債務の弁済を命じただけの事案で、遺贈には当たらず、遺言は無意味としています。

この判例に従うと、本事例の遺産財産の弁済の遺言も無意味になるとも思えます。

もっとも、遺言執行者に遺産を売却し売却金で遺産債務の弁済を命じ、残余金を子供たちに分配するように命じた事案で、遺贈として遺言を有効とした判例があります。

この判例では、遺贈の前提としての遺産債務弁済の部分につき遺言としての効力を否定することなく遺言全体を有効としています。

この2つの判例の相違点は、前者が遺産債務の弁済のみを命じているのに対し、後者は遺産債務の弁済に加え、さらに弁済後の残余の遺産について分配方法を指定している点にあります。

つまり、単に遺産債務の弁済のみを内容とする遺言ではなく、弁済に加え遺産分割方法の指定がある(遺贈あるいは遺産分割方法の指定の前提として遺産債務の弁済を命じる)遺言は許されるとするのが一般的です。

本事例も、遺産債務の弁済に加えて遺産分割方法の指定を行う遺言を作成しようとしているため、有効となります。

弁済後の残余財産についての分割方法の指定

遺産分割方法の指定は、法定遺言事項に該当します(民法908条前段)。

また、遺言にのみによってなしうる行為であるので、必ず遺言で定めておかなければなりません。

遺言で遺産分割方法の指定がされていない場合、遺産は共同相続人間の協議によって分割することになります。このとき、相続人間の仲が悪ければ協議が整わず、結局調停・審判という手続きを踏むこととなるでしょう。

遺言によって遺産分割方法の指定がされていると、各相続人は遺言通りに遺産を分割することになるため、争いを避けることができます。

もっとも、相続人の一部あるいは遺産の一部についてのみにしか分割方法の指定がされていないと、相続人間で指定されていない部分について改めて分割協議、調停、審判といった手続が必要になるため注意が必要です。

また、遺留分を侵害するような分割方法の指定をした場合には、相続人が遺留分減殺請求をするなどの争いが生じることもあるので、遺留分への配慮も忘れないようにしましょう

遺言執行者の指定

遺言の効力が発生した後は、遺言の内容を実現させることになります。もっとも、遺言者はすでに死亡しているため、遺言者に代わって遺言を執行させる者が必要になります。

遺言執行者とは、遺言の内容を適正に実行させるために特に選任させた者のことです。

そして、遺言執行者は遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他の遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(詳しくは遺言執行者の記事をご参照ください)。

相続人が手続に関与することが可能であっても、遺言の内容によっては相続人の利益に反するため、相続人以外の者に遺言を執行させた方がよい場合があります。

遺言執行者の指定は、遺言の執行、すなわち遺言実現のために格別の事務を行う必要がある場合に指定するものです。

執行を必要としない事項のみが遺言されている場合には、遺言執行者の指定は無効になります。

では遺言執行者が必要となるのはどのような事項でしょうか

ア 執行を要しない遺言事項

  • 未成年後見人・未成年後見監督人の指定(民法839条・848条)
  • 相続分の指定とその委託(民法902条)
  • 特別受益者の持戻しの減免(民法903条3項)
  • 遺産分割方法の指定とその委託(民法908条)

    ※但し、相続分の指定や遺産分割方法の指定については、分割の実行を委託している場合には執行の問題が生じます。

  • 遺産分割の禁止(民法908条)
  • 遺産分割の場合の担保責任の変更(民法914条)
  • 遺言執行者の指定とその委託(民法1006条1項)

イ 執行を要する遺言のなかで、遺言執行者による執行を必要とする事項

  • 認知(民法781条2項)
  • 推定相続人の廃除とその取り消し(民法893条、894条)
  • 一般社団法人の設立(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項)

ウ 遺言執行者、相続人のいずれが執行してもよい事項

  • 遺贈(民法946条)
  • 信託の設定(信託法3条2号)

本件事例ではまず、遺産債務の弁済のために、債権者への遺産による代物弁済をする場合もあるでしょうが、通常は遺産を換価したうえでの弁済をすることになると考えられます。そのため、遺産を換価する場合には、預金債権の取立てや、不動産売却処分(不動産仲介業者への売却斡旋依頼、売買契約締結、売却代金の授受、登記手続など)を行う必要があると考えられます。

こうした手続きを踏んだうえで遺産債務の弁済をし、残余の遺産を各相続人に分配することとなります。

このように、本件事例は遺産分配に至るまでに様々な手続きを行う必要があるため、遺言執行者の指定は有効であると考えられます

相続の悩みは、弁護士に相談を

遺言による遺産分割の指定は後の相続人の対立を防止するために有効な手段であると言えます。

遺言内容によっては相続人間の利害が対立し、適正迅速な遺言内容の実現が期待できない場合が多いと思われますから、遺言執行者を指定しておくことが望ましいです。

遺言内容ごとに、法定遺言事項にあたるかどうかや遺言執行者の指定が必要となるかといった判断が必要となるので、弁護士に相談するのもよいでしょう。

判断に悩んだりした際は、直法律事務所の弁護士までお気軽にお問い合わせください。

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