東京都千代田区の遺産相続に強い弁護士なら直法律事務所 相続レスキュー

columns
弁護士コラム

遺言執行者に指定されたら何をする?役割や費用負担について詳しく解説!

その他
投稿日:2022年12月20日 | 
最終更新日:2024年03月14日
Q
遺言執行者は何をどこまで対応したらよいのでしょうか?
また、その費用負担は誰が行うのでしょうか?
Answer
遺言執行者とは、遺言の内容を適正に実行させるために特に選任された者のことです。
また、遺言執行に伴う費用は相続財産の中から支払われます。

遺言には遺言執行者による執行が必須であるものとそうでないものがあります。
遺言執行者は、遺言執行者として指定・選任されてからその地位を喪失するまで、相続財産の管理・執行について一切の権利義務を負うこととなります。その内容は、相続財産目録の作成や不動産の移転登記手続請求、預金の払戻手続など多岐にわたります。

本記事では、「遺言執行者」について細かくご説明します。

遺言執行者

遺言執行者の必要性

遺言は、その内容によっては実現のために執行を必要とするものがあります。

日本では相続人により執行することが原則ですが、指定された遺言執行者が執行することもできます。また、遺言事項の中には遺言執行者による執行が必須のものもあります。

執行を要しない遺言の例

  • 未成年後見人・未成年後見監督人の指定(民法839条・848条)
  • 相続分の指定とその委託(民法902条)
  • 特別受益者の持戻しの減免(民法903条3項)
  • 遺産分割方法の指定とその委託(民法908条)
  • 遺産分割の禁止(民法908条)
  • 遺産分割の場合の担保責任の変更(民法914条)
  • 遺言執行者の指定とその委託(民法1006条1項)

執行を要する遺言のなかで、遺言執行者による執行を必要とする例

  • 認知(民法781条2項)
  • 推定相続人の廃除とその取り消し(民法893条、894条)
  • 一般社団法人の設立(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項)

遺言執行者、相続人のいずれが執行してもよい例

  • 遺贈(民法946条)
  • 信託の設定(信託法3条2項)

遺言執行者の指定・選任

遺言者は、遺言で、自ら遺言執行者を指定、あるいはその指定を第三者に委託することができます(民法1006条1項)。 相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めてその期間内に就職を承諾するか否かを確答すべき旨の催告することができ、期間内に相続人に対して確答がない場合には、就職を承諾したものとみなされます(民法1008条)。

遺言執行者の指定がない場合や指定された者が就職を拒絶した場合には、利害関係人が家庭裁判所に選任を求めることができます(民法1010条)。

遺言執行者による執行が必須である事項について、指定がなかった場合や指定された者が就職を拒絶した場合には、選任は必須となります。なお、未成年者および破産者は、遺言執行者になることができません。

また、遺言執行者は複数人であっても構いません。遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることもでき(民法1016条1項)、その選任及び監督についての責任を負うこととなります(同条2項)。

遺言執行者の権利義務

相続財産目録の作成・交付

遺言執行者は就職を承諾したときには、ただちにその任務を行う必要があります(民法1007条1項)。

就職した遺言執行者の第一の任務は、遺言内容の相続人へ遺言執行者に就職した旨及び遺言の内容について通知を行うことです(民法1007条2項)。

続いて、相続財産目録を作成し、相続人に交付を行う必要があります(民法1011条)。相続財産目録は相続財産の範囲を明らかにするために重要なものです。

遺言執行者は常にすべての相続財産を記載しなければならないわけではなく、執行の対象となる財産についての目録を作成することになります(民法1014条1項)。

遺言執行者には、遺言内容の実現のため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務が与えられており(民法1012条1項)、相続人はその範囲では、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることはできません(民法1013条1項)。

執行行為

遺言執行者は、遺言通りの内容を実現する職責を負っている者です。

相続財産の管理のその他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利を有するとともに、その義務を負担しています(民法1012条1項)。

反対に、相続人は相続財産の管理処分権を失い、相続財産の処分その他の妨害行為をすることはできません。そして、これに違反してされた相続人の処分行為は無効となります。

ここで、具体的事例を見てみましょう。

事例1 遺言執行者の権利義務

私の父は不動産を兄に取得させ、さらに遺言執行者にはAを指名するとの遺言を残して死亡しました。
父が死亡後、その不動産について、兄への移転登記がされる前に、兄を含む兄弟四人に法定相続分に応じた4分の1ずつの持分移転登記手続がなされてしまいました。

まず、遺言で遺言執行者としての指定がされていたとしても、Aが遺言執行者の就職を受諾していなければ、義務はありません。

就職を受諾したとして、遺贈ではなく「相続させる」趣旨の遺言であれば、死亡と同時にその所有権は兄に移転されるのであり、遺言執行者には兄に対する移転登記手続を経る義務はないと解されています(このあと説明しますが、詳しくは別記事「遺言書作成のとき、「相続させる」と「遺贈する」では効力が変わる?」を参照してください)。

遺言が遺贈の趣旨であれば、遺言執行者も登記手続をする義務があるとされています。この場合、遺言執行者は既になされている兄弟への相続登記を抹消する手続をしたうえで、兄に対して所有権移転登記手続をすることになります。

「相続させる」趣旨の遺言と遺言執行者

判例によると、遺言中に「遺贈」や「贈る」などといった言葉が使用されているなどの特段の事情がない限り、遺贈の趣旨ではなく、「相続させる」趣旨の遺言であると解されます。

「相続させる」型の遺言の場合、被相続人が死亡すると同時に一部または全部の遺産分割が成立したと同様の効果が生ずると解されます。

そうすると、被相続人の死亡と同時に遺言の内容通り、不動産の所有権は当然に当該相続人に移転することになります。

つまり、執行人としてはなすべきことはありません。所有権移転登記についても相続することになった当該相続人が単独でその手続ができると解されています。

したがって、本事例では遺言中に遺贈と解されるような文言がない限り、遺言執行者に対して登記手続をするように求めることはできません。また、遺言執行者としての義務不履行などを理由として、損害賠償等を求めることもできないこととなります。

遺言執行者の職務権限と遺言に反する移転登記

本件で仮に遺言の対象となった不動産だけが被相続人の遺産であるような場合は、他の相続人の持分が登記されてしまったとしても、それを取得した相続人である兄が単独で抹消登記手続を求めるなど、その登記を是正し、最終的には相続を原因とする所有権移転登記手続をすることができます。

そのため、このように兄が単独で行為可能な場合においては、遺言執行者の指定は不要ではないかとも思われます。

もっとも、遺言の対象となったのは当該不動産だけであっても、それ以外に動産等多くの遺産があり、遺言の内容だけではその処分が決まらないことや、他の相続人が遺言の内容の実現を妨げることが起こる場合があります。そのような問題に対処するために遺言執行者の指定には意味があります。そして、遺言執行者が就職した場合には、相続人は遺言の対象となった遺産について自己の持分を他へ譲渡するなどの処分行為、すなわち遺言の執行を妨げる行為をすることはできません。それに反して、相続財産の処分を行った場合には無効になると解されています。

本事例で遺言執行者が就職した場合には、兄弟の法定相続分にしたがった持分移転登記は、遺言執行者の職務を妨げる行為であり、無効になると解されます。したがって、遺言執行者は執行行為を行わなくてもよいのではないかとも思われます。

もっとも、判例は、特定の相続人に対する所有権移転登記がなされる前に他の相続人が自己名義の登記を得たため、遺言の実現が妨害された場合には、遺言執行者は遺言執行の一環として、他の相続人に対する所有権登記の抹消登記手続を求めることができるとしています。さらに、特定の相続人に対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることができると判断しています。

また、特定の相続人が自ら抹消登記手続請求と移転登記請求を請求できるとしても、遺言執行者の職務権限に影響はないとしています。

相続開始によってただちに不動産の所有権が移転しても、遺言の内容を具体的に実現するための遺言執行者の執行行為が当然に不要になるわけではありません。

不動産の場合、不動産取引における登記の重要性から、相続させる遺言による権利移転について、対抗要件を必要とするか否かを問わず、相続人にその不動産の所有権移転登記を取得させることは「遺言の執行に必要な行為」(1012条1項)にあたり、遺言執行者の職務権限に属するものとされます。

判例にしたがうと、本事例遺言執行者は、既になされている兄弟への相続登記を抹消する手続をしたうえで、兄に対して所有権移転登記手続をする必要があるということになります。

「相続させる」趣旨の遺言がされた場合、遺言執行者は遺言の法的性質(「相続させる」遺言が遺贈の趣旨でなされたものであるか、遺産分割方法指定の趣旨でなされたものであるか)にかかわらず、その不動産が被相続人名義のままか否か、特定の相続人以外の者の名義となっていないかなどを早急に確認する必要があります。

そして、被相続人または特定の相続人以外の者の所有名義になっている場合や、担保登記設定登記がなされているような場合には、特定の相続人の権利実現のために関係者と十分に協議をし、場合によっては抹消手続請求や真正な登記回復名義を原因とする所有権移転登記手続請求の訴えを提起するなどの方法をとる必要が生じます。

遺言執行者が取るべき方法を把握するためにも、遺言執行者は速やかに遺言の内容等を相続人や受遺者に通知するとともに、財産の現況や登記について十分な調査をしなければなりません。

事例2 預金の払戻し

私は故Aさんから遺言により遺言執行者に選任されました。Aさんには相続人としてAの子B、C、Dがいます。Aさんの相続財産には、銀行の定期預金2000万円があります。
私は遺言執行者として、どのような手続をして預金の払戻しを請求したらよいでしょう。

遺言により預金の帰属が定められている場合

預金をBに遺贈するといういわゆる特定遺贈の場合や、Bに相続させる遺言など、預金の帰属が遺言で定められている場合には、遺言執行者が銀行に対し、遺言執行者であることを証する書面を提出することとなります。

具体的には、自筆証書遺言であれば、遺言書の原本及び家庭裁判所が作成した遺言書の原本及び家庭裁判所が作成した遺言書の検認調書謄本、公正証書遺言であればその謄本を銀行に提出して払戻しを請求することとなります。

遺言により預金の帰属が定められていない場合

遺言中に当該預金に関しての記載があるとき

この場合でも、預金について遺言者の権限が及ぶと認められる場合には、上記と同様の手続で払戻しを請求することとなります。

遺言中に当該預金に関しての記載がないとき

遺言執行者の職務権限の規定(民法1012条1項)及び、相続人の処分権喪失の規定(民法1013条)は遺言が特定財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する(民法1014条)とされていることに鑑み、遺言に記載のない預金については遺言執行者の権限は及ばず、相続人もその処分権を失わないと考えるのが妥当です。

この場合には、全相続人の同意を得て払戻し手続を行うべきでしょう。

金融機関の取扱い

現在、金融機関は預金の払戻し手続等は、専ら遺言執行者を相手とすれば足りるとされています。

具体的には、金融機関は遺言執行者から遺言書の提出を受け、預金に関する有効な遺言がされていること、遺言により遺言執行者が選任されていることを確認し、金融機関によっては予め用意してある書式に基づき、遺言執行者からの払い戻し請求に応じているようです。

遺言執行者の解任・辞任

遺言執行者の地位の喪失原因としては、

  • 遺言執行の終了
  • 遺言執行者の死亡
  • 欠格事由の発生(民法1009条)
  • 解任・辞任

があります。

遺言執行者はいったん就任した以上、ある種の公的な性格を有するとされており、解任・辞任には正当な事由と家庭裁判所の関与が要求されています。家庭裁判所は解任については利害関係人の申立て、辞任については遺言執行者の申立てによって正当事由の有無を判断することになります。

任務懈怠、任務違背、公正を疑わせる事情、任務遂行困難といった事情がある場合に解任が認められています。

遺言執行者が執行終了以外でその地位を喪失した場合、執行本人またはその相続人・法定代理人は、遺言者の相続人・受遺者が財産を管理することができるようになるまで必要な処分をしなければなりません。遺言執行者は、これらの者に任務の終了を通知することが求められます。

そして、遺言執行者を失った利害関係人は、新たな遺言執行者の選任を家庭裁判所に請求することができます(民法1010条)。

遺言執行の費用

遺言執行に要する費用

遺言執行には様々な費用がかかります。

具体的には、検認に要した費用、相続財産目録の作成・交付に要した費用、相続財産の管理費用、登記手続費用、訴訟費用、遺言執行者やその職務代行者に対する報酬などがあります。

こうした遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担となります(民法1021条)。

また、遺言執行者が執行に必要な費用を立替えて支払った場合には、その償還を請求することができます(民法1012条3項が準用する同法650条1項)。

遺言執行の費用の負担

民法1012条は「遺言の執行に要する費用は、相続財産の負担とする」と規定しています。

この「相続財産の負担とする」とはどのような意味でしょうか。

遺言執行に必要な費用は相続財産から支出されます。

遺言執行者としては、執行終了後に相続人に引渡すべき相続財産を留置して、執行に要した費用の清算を相続人に請求できます。

もっとも、相続債務と遺言執行費用を合計すると積極財産(金銭的価値を有する財産のこと)の価額を越えてしまう場合もあります。

この場合に、遺言執行費用を相続人の固有財産の負担とすることができるかが問題となりますが、相続人は相続財産を限度として執行費用を負担するにすぎないと解されています。

相続人間の費用分担方法

複数の相続人がいる場合、各相続人の費用分担はどうなるか問題となります。

この点、裁判例(東京地裁昭和59年9月7日)は、遺言執行者が各相続人に対して支出した遺言執行のための費用の償還請求をする場合、各相続人に対して請求しうる額は、相続財産のうち当該相続人が取得する相続財産の割合に比例按分した額であり、かつ、当該相続人が取得した相続財産の額を越えない額に限るとしています。

まとめ

遺言執行者には様々な役割があります。

相続人が単独で相続財産の処分が可能であり遺言執行者を指定する実益がないと思えるような場合であっても、遺言執行者を選任することで、遺言の執行を妨げる行為を無効とすることができます。

また、遺言執行者を指定する場合には、遺言執行者から相続財産の限度での費用の請求がなされることに留意しておきましょう。

お困りの際は、当事務所の弁護士までお気軽にお問い合わせください。

相続についてお悩みの方へ

相続に関するあらゆるご相談、また、相続に関して困ったこと、わからないことがあればお気軽にご相談ください。プロの弁護士が、ご依頼者様のニーズに合ったサポートを全力でいたします。お悩みの方はお早めにご連絡ください。

Contact 初回相談は 0
相続に関わるお悩みは相続レスキューにお任せください

ご相談はお気軽に

トップへ戻る