東京都千代田区の遺産相続に強い弁護士なら直法律事務所 相続レスキュー

columns
弁護士コラム

相続した非上場株式の株主総会における少数株主の権利行使について解説

相続税・事業承継対策
投稿日:2026年04月01日 | 
最終更新日:2026年04月01日

Q
父が経営していた非上場会社A社の株式10%を相続しましたが、現在は父の弟である叔父が取締役として会社を経営しています。ところが最近、叔父が無謀な不動産投資によって会社に多額の損失を出したという噂を聞きました。また、会社財産を私的に費消している疑いもあります。

株主総会で叔父の解任を提案しましたが否決されてしまい、このまま経営を任せておくと相続した株式の価値がなくなってしまうのではないかと心配しています。少数株主として何かできることはないでしょうか。
Answer
発行済株式の10%を保有する株主であれば、会社法上、様々な権利を行使できます。

まず、取締役の解任を株主総会の議題として提案する「議題提案権」や、議案の要領を他の株主に通知させる「議案要領通知請求権」を行使できます。

また、会社が株主総会を開催しない場合は「招集請求権」により開催を求めることも可能です。

さらに、取締役の不正行為が疑われる場合には、裁判所に「検査役」の選任を申し立てて業務・財産状況を調査させることができます。株主総会で解任議案が否決されても、不正行為や重大な法令違反があれば、裁判所に「役員解任の訴え」を提起して解任を求めることが可能です。


この記事では、相続により非上場株式を取得した少数株主が、株主総会を通じて経営陣を監視・是正するために行使できる権利と、その具体的な手続について解説します。

監修:弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田 直彦

非上場会社の株式を相続したものの、経営に関与できず、取締役の不正や放漫経営に対して何もできないとお悩みの方も多いのではないでしょうか。
 
少数株主であっても、会社法上認められた権利を適切に行使することで、経営陣に対して一定の影響力を及ぼすことが可能です。
 
本記事では、株主総会への提案権・検査役選任申立て・役員解任の訴えなど、少数株主が活用できる権利と手続を詳しく解説します。経営紛争でお困りの株主の方にとって、具体的な対処法を理解する一助となれば幸いです。

目次

相続した非上場株式と株主総会での権利行使

非上場株式を相続した株主が、経営陣(多くは親族)と経営方針について対立した場合、株主総会は経営を監視・是正するための重要な法的手段となります。

株式会社では、株主総会が最高意思決定機関として位置づけられており、取締役の選任や解任・計算書類の承認・定款変更など、会社の根幹に関わる事項を決定します。少数株主であっても、法律上認められている権利を行使することで、経営陣に対して一定の影響力を行使することが可能です。

例えば、無謀な投資によって会社に損害を与えた取締役の解任を議題として提案したり(議題提案権)、取締役選任の議題において自らを取締役候補として提案したり(議案提案権)することができます。これらの権利を行使することで、株主総会を通じて会社の意思決定に積極的に関与し、不正な経営を是正することが期待できます。

また、会社が意図的に株主総会を開催しない場合には、株主から招集を請求する権利(招集請求権)も認められているため、少数株主であっても、法律上の権利を理解し、適切に行使することが重要です。

相続後に権利行使する際の注意点

相続により株式を取得した場合、株主としての権利を行使するためには、いくつかの注意点があります。

株主名簿の名義書換

会社法上、株式会社は株主名簿に記載された者を株主として取り扱うこととされています。そのため、相続により株式を取得した場合でも、株主名簿の名義書換をしなければ、会社に対して株主としての権利を主張することができません。

名義書換の請求は、相続を証明する書類(戸籍謄本・遺産分割協議書など)を会社に提出して行います。

議決権行使における株主確定日(基準日)

株主総会における議決権行使のためには、株主確定日(基準日)に株主名簿に記載されていなければなりません。多くの会社では、定時株主総会の議決権行使のための基準日を事業年度末日としています。

この基準日までに名義書換を完了していないと、株主総会で議決権を行使できない可能性があります。

保有期間要件(公開会社と非公開会社の違い)

公開会社において一定の株主権(議題提案権・株主総会招集請求権など)を行使するためには、6か月前から引き続き株式を保有していることが要件とされています。

一方、非公開会社においては、保有期間要件は不要です。

株主総会への「提案」に関する権利

株主総会が開催されない場合や、議論したい内容が議題に含まれていない場合、株主は能動的に行動するための権利を行使できます。

会社法は、株主が株主総会において意見を表明し、会社経営に関与できるよう、以下の権利を認めています。

  • 株主総会の招集請求権
  • 議題提案権
  • 議案提案権
  • 議案要領通知請求権

これらの権利行使は、実務上、後日の紛争に備えて証拠を残すために内容証明郵便で行うのが通常です。

株主総会の開催を請求する権利

株主は、会社が長期間株主総会を開催しないような場合、会社(取締役)に対して株主総会の招集を請求できます(会社法297条)。これを「招集請求権」といいます。

例えば、取締役の任期が満了しているにもかかわらず、後任の取締役を選任するための株主総会が一度も開催されていないような場合に、この権利が活用できます。

招集請求権を行使するためには、原則として総株主の議決権の3%以上(定款で引き下げ可能)を保有していなければなりません。公開会社の場合は、請求の6か月前から引き続き議決権を保有していることも要件となります。

なお、特例有限会社の場合は、定款に別段の定めがなければ、議決権の10%以上の保有が必要です。

請求の際には、株主総会の目的事項(議題)と招集の理由を明示する必要があります。請求は、取締役に対して行うものとされていますが、取締役会設置会社の場合は、特段の事情がない限り代表取締役に対して行います。

また、株主から招集請求がなされたにもかかわらず、会社が遅滞なく招集手続を行わない場合、または請求の日から8週間以内の日を会日とする株主総会の招集通知が発せられない場合には、請求した株主は裁判所の許可を得て、自ら株主総会を招集することが可能です(会社法297条4項)。

株主総会の議題を提案する権利

株主は、一定の事項を株主総会の目的事項(議題)とするよう会社に請求できます(会社法303条)。これを「議題提案権」といいます。

ここで「議題」と「議案」の違いを明確にしておく必要があります。議題とは株主総会の目的事項であり、議案とは議題に対する具体的な提案です。例えば、「取締役の選任」は議題であり、「Bを取締役の候補者とする」という具体的な提案は議案となります。

取締役会設置会社でない会社の場合、議題提案権は単独で行使できます。また、請求時期の制限もありません。株主総会の会場で新たな議題を提案することもできます。

他方、取締役会設置会社の場合、総株主の議決権の1%以上または300個以上の議決権(定款で引き下げ可能)を保有している必要があり、公開会社の場合は、6か月前から引き続き議決権を保有していることも必要とされています。

そして、議題提案権の行使期限は、株主総会の会日の8週間前までとされています(定款で短縮可能)。株主は会日がいつか正確に知らないことも多いため、十分な余裕をもって行使することが重要です。

株主総会の議案を提案する権利

株主は、株主総会において目的事項(議題)につき議案を提出できます(会社法304条)。これを「議案提案権」といいます。

例えば、取締役の選任が株主総会の議題となっている場合に、経営を適切に監視するために、自分自身を取締役に選任する旨の議案を提出できます。ただし、法令・定款に違反する議案や、過去に議決権の10分の1以上の賛成が得られなかった議案と実質的に同一であり、かつ当該賛成が得られなかった日から3年を経過していない議案については、会社はその提案を拒絶できます。

議案提案権は、株主総会の会場において直ちに行使でき、事前に会社に対してその行使を通知することは要求されていません。ただし、その場で突然議案を提出しても、他の株主は十分に検討する時間がないため、賛同を得られない可能性があります。

そこで、議案提案権を行使する場合は、次に説明する「議案要領通知請求権」を併せて行使し、事前に議案内容を他の株主に周知させることが重要です。

議案の要領を通知請求する権利

株主は、議題提案権や議案提案権を行使する際、その議案の要領を株主総会の招集通知に記載・記録するよう会社に請求できます(会社法305条)。これを「議案要領通知請求権」といいます。

この請求には、以下のメリットがあります。

  • 他の株主が事前に議案を検討できるため、賛同を得やすくなる
  • 通知は会社の費用負担で行われる
  • 提出理由の説明も含めることができる

議案要領通知請求権を行使するためには、株主総会の会日の8週間前までに、取締役(取締役会設置会社の場合は代表取締役)に対して請求する必要があります。

取締役会設置会社の場合、総株主の議決権の1%以上または300個以上の議決権を保有していることが要件となります。公開会社の場合は、6か月前から引き続き議決権を保有していることも必要です。

また、会社は以下の場合に議案の通知請求を拒絶できます。

  • 当該議案が法令・定款に違反する
  • 過去に10分の1以上の賛成が得られなかった議案と実質的に同一であって、3年を経過していない
  • 株主が提出しようとする議案の数が10を超える

なお、この議案の数について、役員等の選任・解任の議案の場合、候補者の数に関わらず一つの議案とみなされます。

提案権を行使する際の実務ポイント

議題提案権や議案要領通知請求権を行使する際には、以下のポイントに注意が必要です。

請求方法

会社法上、請求方法に特段の規定はなく、定款で請求の方式を定めていない限り、書面によらず口頭で行うことも可能です。

もっとも、後日の紛争に備え、配達証明付内容証明郵便で請求をするのが一般的です。

請求のタイミング

議案要領の通知を請求する場合には、前述のとおり会日の8週間前までに行う必要があります。

定時株主総会であれば、事業年度終了後2~3か月以内に開催されることが多いため、事業年度終了から1か月程度を目安に請求を行うとよいでしょう。

会社が無視した場合の法的リスク

会社が株主の適法な議案要領通知請求権の行使を無視して株主総会の決議を行った場合、当該議題の決議は取消しの対象となり得ます(会社法831条1項1号)。

このような場合に備え、やはり請求は配達証明付内容証明郵便で行うことが重要です。

会社の「調査」に関する権利

株主総会の運営や会社の業務執行に不正が疑われる場合、株主がとりうる手段として、検査役選任の申立てがあります。裁判所を通じて中立的な「検査役」を選任し、会社を調査させることができます。

非上場会社における不正の典型例としては、以下のようなものがあります。

  • 役員等による会社資金の横領・着服
  • 粉飾決算
  • 会社財産の私的流用
  • 利益相反取引
  • 無断借入

会社の不正などを調査する検査役には、株主総会の運営手続を調査する「総会検査役」と、会社の業務・財産状況を調査する「業務検査役」(業務執行検査役・業務財産検査役などと言うこともあります)があります。

総会検査役とは、株主総会に先立ち、株主総会に係る招集の手続及び決議の方法を調査させるため選任される検査役をいいます。

業務検査役とは、株式会社の業務の執行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときに、会社の業務及び財産の状況を調査させるために選任される検査役をいいます。

いずれも、一定数以上の議決権を有する株主は、検査役の選任申立をすることができます。

株主総会の運営手続を調査する権利

一定の議決権をもつ株主は裁判所に対して株主総会の招集手続及び決議方法を調査する検査役の選任を申し立てることができます(会社法306条1項)。

検査役選任のメリットとしては、招集手続や決議方法において違法な行為がなされることを抑止する効果が期待できます。また、実際に違法な行為がなされた場合には、検査役の報告書を総会決議取消訴訟における有力な証拠として提出できます。

そのため、過去に株主からの質問に取締役が回答せずに決議を行うなどの不適切な議事運営がなされており、次の株主総会でも不適切な議事運営がなされるおそれがある場合などに活用されます。

この申立てを行うためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 総株主の議決権の1%以上(定款で引き下げ可能)を保有していること
  • 公開会社である取締役設置会社の場合は、6か月以上株式を保有していること

申立ての時期については、調査対象となる株主総会の前に行う必要があります。総会開催後の申立ては不適法となるため注意が必要です。裁判所が議決権要件の確認や検査役候補者の選定などに要する時間を考慮し、余裕をもって申立てを行うことが重要です。

また、総会検査役の申立てには、検査役の報酬や費用に充てるための予納金の納付が必要です。小規模な会社であっても100万円程度となる可能性があり、相応の金銭的準備が不可欠です。

検査役選任の申立てがあると、裁判所は申立株主や会社代表者を呼び出して事情等の聴取を行うことが通例です。なお、検査役の選任申立ては、特例有限会社については行うことができません(会社法整備法14条5項)。

会社の業務・財産を調査する権利

取締役の横領が疑われるものの、会計帳簿の閲覧だけでは明確な証拠を得られない場合など、株主は裁判所に対して会社の業務及び財産の状況を調査する検査役の選任を申し立てることができます(会社法358条1項)。

この申立てを行うためには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。

  • 総株主の議決権の3%以上(定款で引き下げ可能)を保有していること
  • 発行済株式(自己株式を除く)の3%以上(定款で引き下げ可能)を保有していること

さらに、「会社の業務の執行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由」が必要です。

「不正の行為」とは、会社の利益を害する悪意の行為、すなわち取締役が自己又は第三者の利益を図って会社に財産的損害を生じさせる行為をいいます。例えば、代表取締役の治療費を会社資金から支出する行為などがこれに当たります。

検査役による調査は、それ自体は直接取締役等の責任追及を目的としたものではなく、株主が会社の業務や財産の状況を把握するための制度です。しかしながら、裁判所が選任した第三者機関である検査役が調査を行うことから、不正な行為等がある場合には、その報告書は株主代表訴訟や取締役の違法行為差止請求訴訟において有力な証拠となり得ます。

検査役制度の活用実例(親族経営の不正を立証)

検査役制度は、特に親族経営の非上場会社において、支配株主グループによる不正行為を立証するために活用されるケースが多くあります。

例えば、相続により株式を取得した少数株主が、経営を担う親族(例えば叔父)による会社資金の私的流用を疑っている場合を考えます。株主自身が会計帳簿等の閲覧をしても、帳簿上は形式的に適正に処理されており、不自然な金銭の動きは認められるものの、明確に横領行為があったとまでは判断できないこともあるでしょう。

このような場合、業務検査役の選任を申し立てることで、裁判所が選任した専門家(弁護士や公認会計士など)が会社の業務及び財産の状況について詳細な調査を行います。検査役は、会計帳簿だけでなく、契約書・銀行口座の入出金記録・関連取引の実態など、幅広い調査を行うことができます。

検査役の調査により不正行為が明らかになれば、その報告書を証拠として、株主代表訴訟により取締役に対する損害賠償請求を行ったり、役員解任の訴えにより取締役の解任を求めたりすることが可能です。

申立てにかかる費用と期間の目安

検査役の選任申立てには、一定の費用と期間がかかります。

費用

検査役の報酬は、法律上会社が支払うこととされています(会社法306条4項・358条3項)が、実務上は、検査役の選任決定前に報酬等に見合う予納金を申立人に納付させる扱いです。

総会検査役の選任申立てにおける予納金額は、以下の要素を総合的に考慮して決定されます。小規模の閉鎖的な同族会社であっても、100万円程度となることは十分あり得ます。

  • ビデオ撮影に要する費用
  • 株主総会に要する時間の見込み
  • 会社の規模(株主の数)
  • 株主総会が紛糾する可能性 等

また、業務検査役の選任申立てにおける予納金額は、以下の要素を総合的に考慮して決定されます。

  • 会社の規模
  • 調査の複雑性
  • 調査の困難性 等

期間の目安

総会検査役の場合、調査対象の株主総会の前に選任を受ける必要があるため、総会日の数週間前までに申立てを行う必要があります。

一方、業務検査役の場合は、申立てから選任決定まで1~2か月程度となります。

また、調査期間は事案によりますが数か月程度かかることが一般的です。

経営陣の「是正」に関する権利

取締役の不正(横領など)が明らかであるにもかかわらず、株主総会でその取締役の解任議案が否決されてしまった場合、最終的な法的措置として裁判所に解任を求めることができます。そもそも取締役の解任は、株主総会の普通決議(議決権の過半数による決議)によって行うことができます。

しかし、非上場会社では、以下のような理由により解任決議が通らないケースがあります。

  • 支配株主が不正を行った役員を庇っている
  • 家族経営で不正役員自身が議決権を保有している
  • 会社内部で不正が隠蔽されている

このような場合に備え、会社法は、裁判所に役員の解任を直接請求する「役員解任の訴え」(会社法854条)と、訴訟中にその役員の職務を停止させる「職務執行停止の仮処分」(民事保全法23条2項)の制度を設けています。

裁判所を通じた役員解任の請求

役員の職務執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、株主総会において解任議案が否決されたときは、株主は裁判所に対してその取締役の解任を請求する訴えを提起できます(会社法854条1項)。

この訴えを提起するためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 総株主の議決権の3%又は発行済株式の3%以上を保有していること(いずれも定款で引き下げ可能)
  • 公開会社の場合は、6か月前から引き続き上記の株式を保有していること
  • 株主総会において解任議案が否決されたこと(定足数不足により流会となった場合も含まれます)

「職務執行に関し」とは、職務執行そのものに限らず、職務の執行に直接又は間接に関連してなされた場合も含まれます。例えば、取締役会の認許を得ない競業行為や取締役の承認を得ないで会社と行う自己取引などが該当します。

また、「不正の行為」とは、取締役がその義務に違反して会社に損害を生じさせる故意の行為をいいます。例えば、会社財産の私消・競業避止義務違反などがこれに当たります。これに対し、「法令若しくは定款に違反する重大な事実」は、過失も含みますが、重大な違反であることが必要であり、会社成立後に一度も株主総会を招集しなかったような場合も含まれます。

提訴期限は、解任を否決した株主総会の日から30日以内です。この期限を過ぎると訴えを提起できなくなるため、厳守が必要です。訴訟の被告は、会社と当該役員の両方となります。また、訴えは会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に提起します。

なお、役員解任の訴え係属中に当該役員が任期満了により退任し、その後株主総会で再任された場合の訴えの利益については議論がありますが、裁判例としてはこれを認めない傾向にあります。

役員の責任追及訴訟(会社法423条・847条)

取締役等の役員が会社に損害を与えた場合、株主は役員に対する責任追及を行うことができます。

取締役は、その任務を怠ったときは、会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負わなければなりません(会社法423条1項)。これを「取締役の任務懈怠責任」といいます。例えば、取締役が会社資金を横領した場合、会社はその取締役に対して損害賠償を請求することができます。

しかし、不正を行った取締役が経営を支配している場合、会社が自ら責任追及を行うことは困難です。このような場合に、株主が会社に代わって責任追及を行う制度が「株主代表訴訟」です。

なお、株主自身が被った損害(配当の減少・株価の下落など)については、原則として株主代表訴訟ではなく、取締役個人に対する直接の損害賠償請求(会社法429条)が問題となりますが、このような請求が認められるケースは限定的です。

株主代表訴訟(会社法847条)

株主は、会社が取締役等に対する責任追及を行わない場合に、株主が会社に代わって責任追及訴訟を提起することができます(会社法847条)。これを「株主代表訴訟」といいます。

株主代表訴訟を提起するためには、まず会社に対して取締役の責任を追及する訴えを提起するよう請求する必要があります(提訴請求)。会社が請求から60日以内に訴えを提起しない場合、株主は会社に代わって訴えを提起することができます。

株主代表訴訟を提起するには、単独株主でも可能ですが、公開会社の場合は6か月前から引き続き株式を有している必要があります。

株主代表訴訟で勝訴した場合、損害賠償金は直接株主に支払われるのではなく、会社に帰属します。株主代表訴訟は、会社の利益を回復し、それによって株式の価値を維持・回復することを目的とする制度です。

訴訟中の役員職務の停止(職務執行停止の仮処分)

役員解任の訴え等を提起しても、判決が確定するまでは当該取締役は職務を継続することが可能ですが、その間に不正行為が継続されたり、損害が拡大したりするおそれがあります。

このような場合、株主は裁判所に対し「職務執行停止の仮処分」を申し立てることができます(民事保全法23条2項)。

仮処分が認められるためには、以下の要件を疎明する必要があります。

  • 被保全権利:役員解任の訴えを本案訴訟とする場合には、当該訴え自体として、取締役の職務の執行に関する不正行為や重大な法令・定款違反の事実が認められること
  • 保全の必要性:当該取締役が職務を継続することにより、会社に著しい損害又は急迫の危険が生じるおそれがあること

典型的な例としては、取締役が会社の重要な財産を自己の利益のために処分するおそれがある場合などが考えられます。

仮処分が認められるためには、裁判所が命じる担保金の納付が必要です。担保金額は、事案の内容・会社の規模・取締役の員数などを総合的に考慮して決定されます。

また、取締役に対する職務執行停止の仮処分が発令されると、会社の業務を執行する取締役がいなくなり会社業務に支障が生じる場合や、法令・定款所定の取締役の員数を欠く場合には、職務執行停止の仮処分と同時に「職務代行者選任の仮処分」を申し立てる必要があります。

この場合、担保金だけでなく、職務代行者の報酬に充てる予納金(報酬6か月分相当程度)も必要です。

実務で注意すべき落とし穴

役員解任の訴えや職務執行停止の仮処分を申し立てる際には、以下のような落とし穴に注意が必要です。

持株要件(3%要件)の確認漏れ

役員解任の訴えを提起するためには、総株主の議決権の3%又は発行済株式の3%以上を保有している必要があります。

相続により複数の相続人が株式を取得した場合、単独では要件を満たさないことがあります。この場合、他の相続人と共同で訴えを提起するか、遺産分割により一人に株式を集中させる必要があります。

提訴期限(30日)の徒過

役員解任の訴えは、解任議案を否決した株主総会の日から30日以内に提起しなければなりません。

この期限は厳格であり、1日でも遅れると訴えが却下されてしまいます。

疎明資料の不足

職務執行停止の仮処分の申立てに際して、疎明資料の不足は大きな問題となります。

不正行為や重大な法令違反の存在を疎明するためには、会計帳簿の謄写等によって得た資料など、具体的な証拠が必要です。疑いがあるというだけでは、裁判所は仮処分を認めてくれません。

保全の必要性の疎明不足

職務執行停止の仮処分が認められるためには、会社に「著しい損害又は急迫の危険が生じるおそれ」があることを具体的に疎明する必要があります。抽象的な主張だけでは認められません。

弁護士が関与するメリット

役員解任の訴えや職務執行停止の仮処分は、法的に複雑な手続きであり、専門的な知識と経験が必要です。

弁護士が関与することで、以下のような点で解任の実現可能性が高まります。

  • 証拠収集の適切な方法の助言
    会計帳簿閲覧請求権・検査役選任申立て・弁護士会照会など、法的な手段を活用して効果的に証拠を収集することが可能になります。

  • 要件充足の確認と戦略立案
    持株要件の充足確認・提訴期限の管理・疎明資料の準備など、訴訟提起に向けた周到な準備ができます。

  • 訴訟追行における専門性
    役員解任の訴えは、会社と役員の両方を被告とする必要があり、訴訟追行には専門的な対応が求められます。

  • 交渉による解決の可能性
    訴訟提起前に弁護士が介入することで、交渉により対象とする取締役から任意の辞任を引き出せるケースもあります。訴訟よりも迅速かつ低コストで問題を解決できる可能性が高まります。

証拠収集と調査の進め方

役員の不正行為を追及するためには、適切な証拠収集が不可欠です。

まず、不正行為の証拠となり得る資料としては、以下のようなものがあります。

  • 銀行口座の入出金データ
  • 契約書・発注書・請求書
  • 稟議書・決裁文書
  • 会計帳簿・総勘定元帳
  • 取締役会議事録・株主総会議事録
  • 社内メール・チャット記録

次に、資料を収集するために、株主としての情報開示請求権を活用することが重要です。会社法上、株主には以下の閲覧・謄写請求権が認められています。

  • 株主名簿の閲覧・謄写請求権(会社法125条)
  • 計算書類等の閲覧・謄本等交付請求権(会社法442条)
  • 会計帳簿等の閲覧・謄写請求権(会社法433条) ※議決権3%以上が必要
  • 株主総会議事録の閲覧・謄写請求権
  • 取締役会議事録の閲覧・謄写請求権

特に会計帳簿等閲覧請求は、不正行為の証拠を収集する上で非常に有効です。ただし、会社は一定の拒絶事由がある場合には請求を拒むことができます。

請求のタイミングとしては、不正の疑いが生じた段階でできるだけ早く行うことが重要です。そのほか、不動産登記簿の情報を確認することも考えられます。

また、弁護士が介入した場合には、弁護士会照会制度(弁護士法23条の2)を活用して、銀行口座の取引履歴などを取得することも可能です。

なお、会社に監査役が設置されている場合、監査役には取締役の職務執行を監査する責務があります。監査役が適切に職務を遂行していない場合には、監査役自身の責任を追及することも検討材料になるでしょう。

弁護士が実際に行うサポート例

非上場株式を相続した株主が経営陣との紛争に直面した場合、弁護士は以下のようなサポートを行います。

  • 株主総会資料の分析
  • 不正行為の法的評価
  • 解任訴訟・代表訴訟の提起
  • 会計帳簿等閲覧請求の代理
  • 臨時株主総会の招集許可申立
  • 合意形成支援(他の株主との連携)
  • 和解・合意による役員退任の交渉

相続により非上場株式を取得し、経営陣との紛争でお困りの方は、お早めに弁護士に相談することをおすすめします。

よくある質問(Q&A)

この章では、相続した非上場株式の株主総会について、よくある質問にお答えします。

Q
株主総会で問題のある取締役の解任を提案したいのですが、どうすればよいですか?
Answer
取締役会設置会社でない会社の場合、議題提案権は単独で行使できます。また、請求時期の制限もありません。株主総会の会場で新たな議題を提案することもできます。

取締役会設置会社の場合、総株主の議決権の1%以上または300個以上の議決権(定款で引き下げ可能)を保有している必要があり、公開会社の場合は、6か月前から引き続き議決権を保有していることも必要とされています。そして、これらの会社の議題提案権の行使期限は、株主総会の開催日の8週間前までとされています(定款で短縮可能)。

しかし、いずれの場合でも、株主は株主総会の開催日を正確に把握していない場合も多いため、十分な余裕をもって行使することが重要です。

また、他の株主の賛同を得るためには、議案要領通知請求権も併せて行使し、解任の理由と議案の内容を株主総会の招集通知に記載してもらうことが効果的です。

この請求は証拠を残すため、内容証明郵便で行うのが通常です。
Q
取締役の選任議案に対し、自分を候補者として提案できますか?
Answer
株主総会で「取締役の選任」が議題となっている場合、議案提案権(会社法304条)を行使して、自分自身を取締役候補者とする議案を提出できます。

この権利は株主総会の会場で行使することも可能ですが、他の株主の賛同を得るためには、事前に議案要領通知請求権を行使して、株主総会の招集通知に議案の要領を記載してもらうことが重要です。

なお、取締役の欠格事由(会社法331条1項)に該当する場合は、議案を提出することはできません。
Q
会社が株主総会をまったく開催してくれません。どうすればよいですか?
Answer
総株主の議決権の3%以上(定款で引き下げ可能)を保有していれば、株主総会の招集請求権(会社法297条)を行使できます。取締役に対し、株主総会の目的事項と招集の理由を示して招集を請求します。

取締役会設置会社の場合は代表取締役に対して請求するのが一般的です。また、権利義務取締役しか存在しない場合は、権利義務取締役に対して請求を行います。

請求にもかかわらず、会社が遅滞なく招集手続を行わない場合、または請求の日から8週間以内の日を開催日とする株主総会の招集通知が発せられない場合には、裁判所の許可を得て、自ら株主総会を招集することが可能です。
Q
取締役の横領が疑われますが、株主総会で解任案が否決されました。もう打つ手はありませんか?
Answer
役員の職務執行に関し不正行為や重大な法令・定款違反があったにもかかわらず解任議案が否決された場合、総株主の議決権または発行済株式の3%以上を保有する株主は、株主総会の日から30日以内に、裁判所に対して「役員解任の訴え」を提起できます(会社法854条)。

また、訴訟中に当該取締役がさらなる不正行為を行うおそれがある場合は、「職務執行停止の仮処分」を申し立てることで、判決確定前に職務を停止させることも可能です。

さらに、横領による会社の損害を回復するため、株主代表訴訟を提起することも検討できます。

東京都千代田区の相続に強い弁護士なら直法律事務所

少数株主には、株主総会を通じて経営陣を監視・是正するため、「議題提案権」「議案提案権」「招集請求権」「検査役選任申立て」「役員解任の訴え」など、の法的手段が認められています。

これらの権利を適切に行使するためには、持株要件の確認・期限の管理・証拠の収集など、専門的な知識と経験が不可欠です。非上場株式を相続し、経営陣の不正行為や放漫経営にお困りの場合は、証拠の収集や手続きの整理を行ったうえで、法的手段を講じることが重要となります。

非上場株式に関する対応では、会社側との対応や手続きを適切に進めることが求められます。そのため、早い段階で弁護士などの専門家に相談することで、株式の価値を守り、紛争解決につながる可能性があります。

直法律事務所では、相続した非上場株式に関するトラブルについて、経営陣との対立・不正行為への対処・株主総会での権利行使などに対応しており、議題提案権の行使から検査役選任申立て、役員解任の訴えまで、一貫してサポートいたします。まずは一度ご相談ください。

相続税・事業承継対策についてお悩みの方へ

相続税・事業承継においては、ご自身にとってどの方法が効果的な対策となるのか、見極めることがまず大事です。トラブル防止の観点からも最適な対策・進め方ができるよう、プロの弁護士が専門家とも連携して安心のサポートをいたします。お悩みの方はお早めにご連絡ください。

Contact 初回相談は 0
相続に関わるお悩みは相続レスキューにお任せください

ご相談はお気軽に

トップへ戻る