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弁護士コラム

同族会社の経営権承継における遺産分割と株式評価の実務ガイド

相続税・事業承継対策
投稿日:2025年04月15日 | 
最終更新日:2025年04月17日

Q
父から会社を引継ぎ、今は息子と一緒に経営しています。最近、学生時代・会社員時代の仲間に訃報が相次ぎ、いつでも息子に会社を譲れるようにしておかないと、と思いました。

ただ、自社株式の評価額がそれなりにあるため、かなりの相続税がかかりそうです。また、会社を継いでもらう以上、息子に多めに資産を譲りたいですが、全く違う仕事をしている娘と争いになりそうな気もしています。

息子に経営権を集中させつつ、娘からも不満が出ないようにするにはどうすれば良いですか?
Answer
同族会社の場合、経営権を後継者に集中させ、経営の安定性を確保するためにも、相続時の株式分散を防ぐことが重要になります。 しかし、共同相続人の一人だけに多額の遺産を相続させると、後継者以外の相続人と遺留分の侵害を争点としたトラブルに発展するおそれもあるため、注意が必要です。

この記事では、相続株式の議決権行使に関する実務ポイントや後継者による相続株式の取得方法と留意点など、同族会社の事業承継に伴って生じる問題点について解説します。経営権確保のための株式買取りの法的手続きや少数株主からの株式譲渡承認請求への対応など、同族会社の株式ならではの論点についても詳しく掘り下げているので、ぜひ参考にしてください。

同族会社ならではの問題の一つに、相続の発生により、会社の株式が共同相続人による準共有状態になるため、権利行使ができず、迅速な経営判断ができなくなることが挙げられます。他の相続人と後継者の意思が一致していれば問題ありませんが、実際はそうもいかないため、トラブルが起きがちです。

この記事では、同族会社の株式について、後継者が単独相続する必要性や円滑に相続するためのポイント、評価方法など重要な論点を解説します。

相続株式の議決権行使に関する実務ポイント

同族会社ならではの問題として、亡くなった人(被相続人)が所有していた会社の株式について、相続発生後に経営権を誰が引き継ぐかを巡り、争いに発展することがあります。原因の一つが、相続の発生により会社の株式が準共有状態になることです。

準共有状態とは、複数の相続人が所有権以外の権利を共有する状態を指しますが、この状態になると、議決権行使の際に問題が起きます。準共有状態にある相続人全員の意見が一致すれば問題ありませんが、対立した場合、権利行使ができません。つまり、何かを決めようとしても権利行使ができない以上、なかなか決まらないため、迅速な経営判断もできなくなります。

ここでは、相続の発生により、被相続人が有していた同族会社株式が準共有状態になった場合、問題なく議決権を行使するためには何をすべきかを解説しましょう。

権利行使者の指定手続と議決権行使の方法

相続が発生し、同族会社株式が準共有状態となった場合の議決権行使の扱いについては、会社法106条に定められています。

会社法 (共有者による権利の行使)
第百六条 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
出典:会社法(平成十七年法律第八十六号)

つまり、2名以上の相続人による準共有状態にあるときは、他の相続人とも話し合ったうえで、権利を行使するための代表者(権利行使者)を1名決め、その旨を会社に通知する必要があります。

なお、誰が権利行使者になるかの決定方法ですが、最高裁判所では持分の価格の過半数による多数決で決定できるという判断がなされました(平成9年1月28日最高裁判決)。つまり、全員の賛成は得られなくても、持分ベースで見て過半数の賛成が得られれば問題ありません。

権利行使者が未指定時の議決権行使の取扱い

権利行使者の指定・通知がされていない場合でも、会社が同意しさえすれば、相続人による議決権行使を認めることができます。ただし、その際の議決権行使は、民法の共有に関する規定に従うことになる点に注意が必要です。

民法
第二百五十一条 (共有物の変更)
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
 
第二百五十二条(共有物の管理)
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
出典:民法(明治二十九年法律第八十九号)

つまり、権利行使者の指定・通知がされていないものの、会社が同意した場合は、議決権の行使は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で行使内容を決定することになります。

持分過半数による議決権行使の問題点と対応策

ここまで触れたように、同族会社の株式が準共有状態にある場合、議決権行使は持分過半数により決定されます。しかし、これによると、持分少数派の権利・利益が軽視される点に注意が必要です。

この点に言及した判例として、大阪地裁平成9年4月30日判決が挙げられます。これは、準共有状態にある株式において、少数派の持分権者が、権利行使者の選定および通知の手続きに一切関与させられなかった事案に関する判決です。

この判決の考え方によれば、共有持分の過半数を有する準共有者は、権利行使者の指定・通知を以下の手順で進めるべきであるということになります。

  1. 他の準共有者に対し、権利行使者の指定・通知に参加するよう求める
  2. 一部の準共有者が指定・通知を拒否する場合は、その準共有者に指定・通知に参加する機会を与える
    (例:指定・通知を行う妥当な日時・場所を決め、それをすべての準共有者に伝える)
  3. 共有持分の過半数を有する準共有者で権利行使者を指定・通知する

同族会社における名義株の法的問題と実務対応

名義株とは、名義上の所有者と実際の所有者が異なる株式のことです。1990年以前の商法では、会社設立時には最低7名の発起人が必要とされていたため、発起人として親族、従業員、知人など実際に資金を払わない人の名義が使われることがありました。

このような名義株の扱いについて、最高裁は「実質上の引受人すなわち名義借用者がその株主となるもの」と解するのが相当であるという判断を示しています。つまり、株式の名義が親族のものだったとしても、名義を貸してくれるよう頼み、かつ、実際に資金を払った実質上の引受人(名義を借りた者)が株主となるのです。

なお、実質上の株主の認定は、以下の要素等を総合的に勘案して判断されることになります。

  • 株式を取得するための資金の拠出者
  • 名義貸与者と名義借用者との関係、両者の合意内容
  • 株式取得の目的
  • 株式取得後の利益配当金や株主優待特典等の受取状況
  • (発行されている場合)株券の保有状況
  • 名義貸与者及び名義借用者と会社との関係

後継者による相続株式の取得方法と留意点

同族会社において、後継者になる相続人が相続株式を取得するためには、他の相続人とのトラブルにならないよう、慎重に進めなくてはいけません。

ここでは、後継者が相続株式を取得するための基本的な方針と手続き、遺産分割における株式評価や代償金の取扱いなど実務上の留意点を説明します。

後継者が株式を単独相続する必要性と法的根拠

同族会社の株式に相続が発生した場合、遺産分割審判において裁判官は、以下の点を勘案して、取得者を決めることになります。

  • 会社経営への実質的関与の程度
  • 株式の評価額
  • 代償金の支払い能力等

これに関連し、東京高等裁判所は、平成26年3月20日に非公開会社である典型的な同族会社において、その経営規模からすれば、経営の安定のためには、株式の分散を避けることが望ましいという考え方を示しています。遺産分割調停の実務においても、同族会社の株式の単独取得を認めるかどうかは、同様の考え方に基づき判断されています。

民法では、遺産の分割の基準に関する条文が設けられています。

(遺産の分割の基準)
第九百六条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
出典:民法(明治二十九年法律第八十九号)

前記東京高裁も、非公開会社である同族会社の株式について、その会社の経営規模からすれば経営の安定のために株式分散を避けることが望ましいという事情が、民法906条の「遺産に属する物又は権利の種類及び性質」「その他一切の事情」にあたると判断し、後継者である相続人が他の相続人らに代償金を支払うことで単独取得することを認めました。

そのため、同様の事案で争いが生じそうな場合は、以下のような点を裁判所にアピールする必要があります。

  • 経営の安定の見地から、株主の分散を避けたいこと
  • 自身が後継者として株式を集中して所有すべき実態があること
  • 当該後継者たる相続人が株式を単独取得しなければ、経営が不安定になること

株式を円滑に単独相続するための実務ポイント

遺産分割協議が進まず、誰が同族会社株式を相続するのか確定しない状態が続くのは、意思決定のスピードを遅らせるため、会社経営にとって大きなマイナスです。意思決定のスピードを遅らせないためにも、できるだけ早めに後継者が相続した株式を取得できるようにする必要があります。

株式が遺産全体からみれば小さな財産価値であるような場合には、当該株式のみを先行して分割することも考えられます。しかし、遺産の大きな部分を当該株式が占めている場合に、株式のみの分割を先行させることは困難です。そこで、遺産分割を効率的に進行していくことが大切です。そのためには、遺産分割調停の手順に従い、確定すべきところを順次確定していく必要があります

遺産分割については、別記事「遺産分割の4つの方法と3つの手続きとは?メリット・デメリット・注意点を解説!」にて詳しく解説していますので、ご参照ください。

また、遺産分割審判において相続株式の評価額について争いがある場合、審判の前に裁判所による鑑定を行わなくてはいけません。ただ、当事者間で別の方式により評価する方法で合意できれば早期解決に資する場合もあります。

さらに、早期に遺産分割協議をまとめたいのなら、審理が遅れる原因になる主張で実現が難しいような場合は、適切なタイミングで外すことも検討しましょう。いずれにしても、個々のケースによってやるべきことは異なるため、早い段階で弁護士に相談し、適した対策を講じることが重要です。

保証債務の承継に関する実務上の注意点

中小企業では、金融機関からの融資を受ける際、代表取締役が保証しているのは珍しくありません。つまり、万一会社が倒産し、融資が返済できなくなった場合、経営者個人が代わりに返済することになります。

そして、被相続人が保証債務を負担していた場合は、各相続人は、保証債務を相続分に応じて分割承継することに注意が必要です。借金や保証債務のような可分債務は相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割承継されるため、遺産分割の対象とはならないとされているのです。

そのため、遺産分割協議で、単独の相続人が保証債務を承継する旨の合意をしても、債権者に対抗することはできず、債権者から請求された場合には法定相続分に応じて承継した債務を支払う必要があります。ただ、債権者が承認した場合、債権者は相続人間の合意に従った権利行使しかできないことになります。

この説明では分かりにくいかもしれませんので、具体例をみてみましょう。

<具体例>
事業を営む父親(被相続人)には財産が1億円、銀行借入が2,000万円ありました。父親が亡くなり、長男と次男が遺産分割協議をした結果、父親と事業を営み、後継者でもある長男が2,000万円の債務を引き受けることにしました。

この場合、相続人間では「長男が2,000万円を引き受ける」という話で合意していても、債権者である金融機関は長男と次男に1,000万円ずつ請求できます。もちろん、金融機関が相続人間の合意を承認した場合は、長男に対し2,000万円を請求することも可能です。

株式を単独取得したい相続人としては、このような債務の承継を理由に他の相続人と株式の分割について交渉をすることもできます。つまり、後継者以外の相続人に「保証債務は自分が全部負担し、金融機関の承認も得るので、その代わり株式を単独取得させてほしい」と交渉することが考えられます。もちろん、金融機関とも調整を進める必要があります。

経営権確保のための株式買取りの法的手続き

ある相続人が経営権を獲得できたとしても、従前から他の相続人が一部株式を保有していたような場合のように株主として残っている場合があります。このような場合、残っている株主が、従前の経営者の方針には従っていたものの、新しい経営者となった相続人には従わないなど、株主間での紛争が生じることもあります。このような場合、経営権を獲得した相続人側は、経営を安定させるために、対立する他の株主から株式買取りの法的手続きを行うことが考えられます。

状況によってふさわしい方法は異なるため、いくつか具体例を紹介します。

代表的な方法として知られるのは、全部取得条項付種類株式です。これは、経営権を有する株主(側)が議決権のある株式の総数の3分の2以上を有している場合に検討可能な手段で、会社が株主総会の特別決議により、その全部を取得する旨の定めがある株式のことで、これを使って少数株主の締め出しを行うことができます。

一般的な流れは以下の通りです。

  1. 定款を変更し、会社の株式すべてを全部取得条項付種類株式に変更する
  2. 株主総会決議によって普通株式を対価として全部取得条項付種類株式を取得する
    (少数株主に割り当てる株式が端数となるように調整する必要があります。)
  3. 残存少数株主には1株未満の端数のみを割り当て、現金で清算する

また、株式併合(会社法180条)や特別支配株主の株式等売渡請求(会社法179条)による方法も、平成26年会社法改正により認められました。
株式併合とは、3株など複数の株式を1株に統合することで、発行済みの株式総数を減らす方法です。
また、特別支配株主の株式等売渡請求とは総株主の議決権の90%以上を保有する株主(特別支配株主)が、他の株主全員に対し、保有するその会社の株式を全て売り渡すよう請求することを指します。

少数株主からの株式譲渡承認請求への対応

一般的に、同族会社など中小企業の株式については、譲渡制限が設けられています。自由に株式の売買を認めてしまうと、会社の経営上望ましくない相手に株式が渡ってしまうおそれがあるためです。

そのため、譲渡制限が設けられている株式(譲渡制限株式)を他人に譲渡したい株主は、会社に対して承認するか否かの決定をするよう請求できます(会社法136条)。また、会社が譲渡を承認しない場合は、会社または会社の指定する者(指定買取人)に対し買い取るよう請求することが可能です(会社法138条)。

この場合、会社または指定買取人は、買い取り資金として「一株当たり純資産額×株式数」により計算した金銭を供託金として差し入れなくてはいけません。

なお、株主は売買価格に関し、会社もしくは指定買取人による買取の通知があった日から20日以内に、裁判所に対し売買価格の決定の申し立てができます(会社法144条2項)。法律では下記の通りに定められています。

会社法
第百四十四条
3 裁判所は、前項の決定(※)をするには、譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない。
※売買価格の決定
出典:会社法(平成十七年法律第八十六号)

一方、株主が申し立てをしなかった場合、最終的には一株当たり純資産額に当該株式の数を乗じて得た額(供託した金額)が売買価格となる仕組みです。その後、株式を譲渡したい株主(譲渡承認請求者)は、会社や指定買取人が供託した供託金を受け取る形で、売買代金を手に入れることになります。

ここまでの話をまとめると「売買価格>一株当たり純資産額に当該株式の数を乗じて得た額(供託した金額)」となる場合は、裁判所に対して申し立てをしたほうが、株主にとっては有利でしょう。
一方、「売買価格<一株当たり純資産額に当該株式の数を乗じて得た額(供託した金額)」となる場合は、特に申し立てをせずに、供託金を受け取って終了させるのが現実的です。

同族会社株式の評価方法と価格算定の実務

同族会社の株式は、上場会社の株式とは異なり市場価格がないため、簡単に評価できないのが実情です。

しかし、相続人間の合意で評価額を確定する場合、税務上の評価基準である財産評価基本通達における同族会社の株式の評価方式や、会社法上の株式買取請求における株式価格の決定に関する裁判での価格の算定方式を参考にすることも多いです。

また、中小企業庁の「経営承継法における非情報株式等評価ガイドライン」や、日本公認会計士協会の「企業価値評価ガイドライン」(下表参照)も参考になります。

インカム・アプローチ将来、発生すると期待されるキャッシュフローに基づき、対象株式の価値を算定する手法。
具体的には、フリー・キャッシュ・フロー法、調整現在価値法、残余利益法、配当還元方式、利益還元方式など。
マーケット・アプローチ同業他社の時価総額や類似の買収事例を参考に、企業の価値を評価する手法。
類似する上場会社の市場株価と比較して非上場会社の株式を評価する類似上場会社法が代表例。
ネットアセット・アプローチ評価対象となる会社の貸借対象法上の資産・負債の差額である純資産額を元に、企業の価値を評価する手法。
簿価純資産法、時価純資産法などに細分可能。

合意により株式の評価額を確定できない場合には、裁判所によって株価が決定されますが、この場合、公認会計士等の鑑定に基づき算定されます。

より具体的な算定方法、実務上の留意点については、別記事「同族会社の株式の評価方法は?選択基準や計算方法を解説」で詳しく解説していますので、こちらもぜひご参照ください。
直法律事務所においても、ご相談は随時受けつけておりますので、お困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。

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