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弁護士コラム

介護や同居で相続分はどう変わる?寄与分・特別受益の仕組みを解説

遺産分割のトラブル
投稿日:2025年09月26日 | 
最終更新日:2025年09月26日

Q
長年母の介護をしてきました。他の兄弟と同じ相続分では納得できません。

何か考慮される制度はありますか?
Answer
介護によって被相続人の財産の維持に特別な貢献をした場合、「寄与分」が認められ、相続分が増える可能性があります。

はじめに

相続トラブルで多い「介護」と「同居」の問題

相続の場面では、遺産の金額や分け方そのものだけでなく、「生前に誰がどれだけ介護をしてきたのか」「誰が親と同居して住んでいたのか」といった事情が、大きな争点となることが少なくありません。

特に、長年にわたり親の介護を担った子どもや、親の持ち家に同居していた子どもが「自分は特別に貢献したのだから、相続で考慮されるべきだ」と感じる一方、他の兄弟姉妹が「それは当然のこと」「同居していたのだから恩恵を受けていたはず」と反論するケースは非常に多く見られます。

なぜ寄与分・特別受益が争点になるのか

このような不公平感を調整するために、民法には「寄与分」「特別受益」という仕組みがあります。

まず、寄与分とは、介護や生前の経済的支援などによって被相続人(亡くなった方)の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人に、その分を相続で上乗せする制度です。

他方で、特別受益とは、被相続人から生前に大きな贈与や利益(例えば結婚資金や不動産の無償利用)を受けていた相続人の取り分を、その分減らす制度です。

つまり、「介護」は寄与分の問題として、「同居」は特別受益の問題として、それぞれ相続分を修正する根拠になり得るのです。逆に言えば、介護や同居の実態をどう評価するかが、遺産分割協議や家庭裁判所の手続で激しく争われやすいといえます。

寄与分とは

寄与分制度の基本(民法904条の2)

相続が始まると、原則として遺産は法定相続分どおりに分けられます。しかし、すべての相続人を同じ基準で扱うと、不公平が生じるケースがあります。

例えば、ある相続人が長年にわたり介護を担い、施設費用や看護師への報酬がかからずに済んだ場合、その貢献を無視して他の相続人と同じ割合で分けるのは不公平です。

こうした不均衡を是正するために設けられているのが寄与分制度です。民法904条の2は「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした共同相続人には、寄与分を認める」と定めています。つまり、寄与分は「特別な貢献をした相続人の取り分を増やすための制度」です。

「療養看護型寄与分」(介護)が問題となる典型例

寄与分には「事業従事型」「財産給付型」「扶養型」など複数のタイプがありますが、介護に関する争点で最も多いのが「療養看護型寄与分」です。これは、相続人が被相続人の病気や老後の生活を支え、施設やヘルパーを利用せずに済んだことで財産の減少を免れたケースを指します。

例えば、以下のような場合に、療養看護型の寄与分が認められる余地があります。

  • 母親の食事・入浴・排泄を長年介助していた
  • 通院や入院の付き添いを続けていた
  • 在宅介護を担い、外部サービスの利用を抑えた

寄与分が認められるための5つの要件

療養看護型寄与分を主張する際には、裁判所が次のような要件を満たしているかを厳格に判断します。

  • 必要性
    • 介護を要する病状であったこと。
    • 単なる高齢ではなく、要介護認定や疾病の証拠が必要です。
  • 特別性
    • 親子間に当然期待される扶養や同居を超える特別な寄与であること。
    • 単なる同居や家事手伝いでは足りません。
  • 無償性
    • 基本的に無報酬、あるいは報酬が著しく少額であったこと。
    • 介護報酬を十分に受け取っていた場合は寄与分にはなりません。
  • 継続性
    • 一定期間継続して介護を行ったこと。
    • 少なくとも1年以上続いている必要があるとされるのが一般的です。
  • 専従性
    • 片手間ではなく、介護に専念していたこと。
    • 他の仕事をしながら断続的に介助しただけでは、特別な寄与とは認められにくいです。

寄与分の評価方法と算定例

寄与分が認められる場合、遺産全体の評価額から寄与分を控除した上で、残額を法定相続分で分け、最後に寄与分を加算します。

【具体例】
例えば、母の財産が1億円、3人の子どもが相続人で法定相続分は各1/3の場合を考えます。

まず、あなたが母を介護し、寄与分が1,000万円と認められたとすると、遺産総額1億円から寄与分を引いた9,000万円を基準に分けます。

次に、兄と弟は各3,000万円、あなたは3,000万円+寄与分1,000万円=4,000万円を取得。

最後に、以上の結果として、相続割合はあなたが40%、兄弟がそれぞれ30%となります。

遺産を分割する際には、遺産分割時点の財産の価額に具体的相続分割合をあてはめて算出された価額に従って分割します。

遺産分割までに相続財産の価額が変動し、遺産分割時点で2億円になっていた場合には、あなたが相続する遺産の価額は分割時点の遺産の価額2億円に具体的相続分割合10分の4を乗じて算出された8000万円、兄と弟は10分の3を乗じて算出された6000万円になります。

実際の寄与分額は、介護により節約できた施設費・介護サービス費を基準に、裁判所が「公平の観点」から修正して決めます。裁判所は後見的観点から「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して」(民904条の2第2項)、実質的公平を実現するために金額を決定することができることとされています。
判例では、介護労働を具体的金額で評価したり、遺産総額の数%と認定したりするなど多様な方法が採られています。

寄与分を主張するための手続き(協議・調停・審判)

寄与分を確定する方法は段階的に用意されています。

① 相続人間の協議

まずは、兄弟姉妹間で寄与分の金額を話し合います(民法904条の2第1項)。合意できれば、その内容に基づき遺産分割協議書を作成します。

② 家庭裁判所の調停

話し合いで解決しない場合、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。寄与分のみを定める調停、あるいは遺産分割調停の中で寄与分を主張することが可能です。

③ 家庭裁判所の審判

調停が不成立となった場合、裁判所が証拠や事情を考慮して寄与分を審判で決定します(民法904条の2第2項)。
ただし、寄与分を定める処分審判は、遺産分割の審判の申立てがあった場合にのみすることができますので(民904条の2第4項、907条2項、910条)、遺産の分割の審判が申し立てられていない場合には、遺産の分割の審判を併せて申し立てる必要があります。
遺産の分割の審判事件と寄与分を定める処分の審判事件の手続及び審判は併合されます(家事192条)。

✅ 介護による貢献は「療養看護型寄与分」として相続分に反映され得る。
✅ ただし、単なる同居や家族の扶養義務の範囲内では認められない。
✅ 認定のためには「必要性・特別性・無償性・継続性・専従性」の5要件がカギ。
✅ 評価方法は多様で、調停や審判で裁判所が裁量的に決定する。

特別受益とは

特別受益制度の基本(民法903条)

相続の基本ルールは、相続人が法定相続分に従って遺産を分け合うことです。しかし、ある相続人が被相続人(亡くなった方)から生前に大きな利益(贈与・遺贈)を受けていた場合、それを考慮せずに分割すると他の相続人に不公平が生じます。

この不公平を調整するために設けられているのが「特別受益制度」です。民法903条1項は「遺贈を受け、婚姻・養子縁組のための贈与を受け、生計の資本として贈与を受けた相続人」については、その受けた利益を遺産に持ち戻して相続分を計算する、と定めています。

「無償居住」「土地利用」のケースで争点になる場面

特別受益は現金や不動産の贈与に限らず、不動産の無償使用も対象になり得ます。

典型例として次のようなケースがあります。

  • 親の持ち家に家賃を払わず同居していた
  • 親の所有する土地に無償で建物を建てて住んでいた
  • 親が所有する不動産を独立して使用・占有していた

これらのケースでは「実質的に親から利益を受けていたのではないか」として、他の兄弟姉妹との間で遺産分割時に争いになることが多いのです。

同居していた場合は特別受益になるのか?

被相続人(親)と同居して、その持ち家に無償で住んでいた場合、原則として特別受益にはあたりません。

なぜなら、同居している以上、独立した占有権を与えられていたわけではなく、親族間の扶養義務や生活上の協力の一環と考えられるからです。判例でも「単なる同居は特別受益に該当しない」とする傾向が強く見られます。

被相続人の不動産に同居せず住んでいた場合の扱い

一方、被相続人が所有する建物に、独立して居住していた場合は事情が異なります。

この場合、使用貸借契約(民法593条)が成立していたとみなされ、その使用借権に財産的価値があるとして特別受益にあたると解される場合があります。

もっとも、裁判所は「親族間の建物に関する無償使用は恩恵的性格が強い」として、特別受益性を否定する判例も多くあります。したがって、ケースごとに判断が分かれるのが実情です。

被相続人の土地に建物を建てて住んでいた場合の扱い

さらに複雑なのが、被相続人が所有する土地に、相続人が建物を建て無償で住んでいた場合です。

この場合は、土地の使用貸借契約が成立しており、その使用借権の評価額が生計の資本としての贈与にあたるとされ、特別受益に該当する可能性が高いと考えられます。

ただし、以下のような事情があれば、特別受益とならない、または考慮されない余地もあります。

  • 親が「子どもに建物を建てさせて介護や生活のサポートを受けるため」であった
  • 親が「持ち戻し免除(民法903条3項)の意思」を有していたと認められる

判例・実務の傾向(不利にならない場合もある)

ここまで述べたように、判例・実務上は、「不動産の無償使用=必ず特別受益」とはされていません。

まとめると、以下の通りです。

  • 同居型:原則として特別受益にあたらない(親との共同生活の一部とみなされる)。
  • 建物の独立占有型:特別受益と評価されることもあるが、判例では否定する傾向が強い。
  • 土地利用型(建物を建築):特別受益にあたる可能性が比較的高いが、介護や親の意思によって免除される場合もある。

したがって、同居や土地利用を理由に「必ず相続で不利になる」とは限りません。個別の事情を丁寧に検討し、裁判所の判断を見極めることが重要です。

✅ 特別受益は「生前に利益を受けた分を相続で調整する制度」。
✅ 無償居住や土地利用は争点になりやすいが、被相続人と同居していた場合には基本的に特別受益ではない。
✅ 独立占有や土地利用は特別受益とされる可能性がある。
✅ 判例は一律ではなく、親の介護をしていた場合など、親の意思によって不利にならない場合もある。

実務対応のポイント

家族内での話し合いで確認すべきこと

相続において「寄与分」や「特別受益」が問題となる場合、まずは相続人間で冷静に事実を確認することが重要です。

  • 誰がどの程度の介護を担ったのか
  • 介護にかかった期間や負担の内容はどうか
  • 被相続人から生前に経済的な利益(無償居住や資金援助)を受けていた相続人はいるか
  • 被相続人本人の意思(持ち戻し免除など)は明確だったか

話し合いの場では「感情論」に流れがちですが、法的には事実と証拠が重視されます。兄弟姉妹間で事実を共有し、客観的な資料に基づいて協議することが円満解決への第一歩です。

裁判所での主張・立証に必要な証拠

もし話し合いで合意できなければ、家庭裁判所での調停や審判に進みます。このとき、寄与分や特別受益を主張する側は証拠の提出が重要です。

代表的なものとして以下が挙げられます。

  • 介護日誌・介護記録:介護の頻度・内容・期間を示す資料。
  • 医療記録・診断書:被相続人の病状や要介護度を証明。
  • 介護保険サービスの利用状況:利用していなかった場合、相続人による介護の必要性を補強。
  • 生活費の収支記録:同居していた相続人が生活費を負担していたか否かを示す。
  • 写真・証言:介護の様子や同居実態を裏付ける補助資料。

これらを体系的に揃えることで、裁判所に「特別な寄与」「具体的な利益」を認めてもらえる可能性が高まります。

弁護士に相談すべきタイミング

相続人間での話し合いが難航している場合や、証拠の集め方・主張の組み立てに不安がある場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

特に以下のような場面では専門家の関与が有効です。

  • 介護をしてきた事実を他の兄弟が認めない
  • 同居が特別受益にあたるのか判断に迷う
  • 調停・審判を視野に入れている
  • 裁判所に提出する書面の作成が必要

弁護士は法的な主張の整理だけでなく、証拠収集のアドバイスや裁判所の運用傾向に即した戦略立案も行います。

裁判所の判断基準と実務の運用

実務において裁判所は、次のような観点から寄与分・特別受益を判断しています。

  • 寄与分
    介護の必要性、特別性、無償性、継続性、専従性を満たすか。介護により節約できた費用を基準としつつ、公平の観点から修正する。
  • 特別受益
    形式的な贈与・遺贈に限らず、不動産の無償使用や土地利用も対象となり得る。ただし、親族間の扶養義務や被相続人の意思が強く影響し、特別受益性が否定されるケースも多い。

裁判所は画一的に判断するのではなく、具体的な事案の事情に即して柔軟に評価します。
したがって、「必ず不利になる」「必ず認められる」とは言えず、証拠と主張の積み上げが決定的に重要です。

✅ 家族内では「感情」ではなく「事実と証拠」を共有することが大切。
✅ 裁判所で有効なのは介護日誌・医療記録・収支データなどの客観的証拠。
✅ 弁護士への相談は早ければ早いほど有利に進めやすい。
✅ 裁判所は公平性を重視し、事案ごとの事情に応じて寄与分や特別受益を判断している。

よくある質問(Q&A)

Q
同居していただけで特別受益になりますか?
Answer
原則として同居は特別受益にはなりません。

被相続人(親)と同じ建物に同居していた場合、独立した占有権を与えられていたわけではなく、生活上の扶養や親族間の協力の範囲と考えられます。そのため、遺産分割の場面で「同居していたから不利になる」ということは基本的にありません。

ただし、親と別に暮らしながら無償で親の不動産を使っていた場合や、土地を借りて建物を建てていた場合は、特別受益が問題となる可能性があります。
Q
介護をしていた証拠はどの程度必要ですか?
Answer
具体的かつ客観的に裏付けられる証拠が必要です。裁判所で寄与分を認めてもらうには、介護の実態を裏付ける資料が重要です。

例えば、以下のような資料が必要となります。
・ 介護日誌やスケジュール表
・ 医療記録、要介護認定書類
・ 通院・入院の付き添い記録
・ 介護サービスを利用せずに済んだことを示す資料

これらの積み重ねが「療養看護型寄与分」の要件(必要性・特別性・無償性・継続性・専従性)を満たしていたことを証明する根拠となります。単なる口頭の主張だけでは必ずしも認められるとは限らないのが実務の現実です。
Q
他の兄弟が納得しない場合、どうすればよいですか?
Answer
まずは協議、それでも難しければ家庭裁判所に調停を申立てます。

寄与分や特別受益は、相続人全員の協議で定めることができます。しかし、往々にして兄弟間で意見が対立しがちです。話し合いで合意できない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停や寄与分を定める調停を申立てることになります。

調停で合意できなければ、最終的には審判により裁判所が判断を下します。証拠を整理し、弁護士とともに主張を構築することで、公平な結論を得やすくなります。
Q
被相続人が持戻免除の意思を示していた場合、どうなりますか?
Answer
特別受益の調整をしない扱いとなる可能性があります。

民法903条3項は、被相続人が「持戻しを免除する意思」を表示していた場合には、特別受益による調整をしないと定めています。

例えば、以下のような場合には、遺産分割において不利な修正はされません。
・ 遺言で「長男に与えた自宅については持戻しを免除する」と記載されていた場合
・ 生前の言動や経緯から黙示的に免除意思が認められる場合

したがって、同居や土地利用などが特別受益と評価され得る事例であっても、被相続人の意思が明確に示されていれば、不利な扱いを回避できる可能性があります。

✅ 同居=特別受益とはならず、むしろ原則は不利にならない。
✅ 介護の証拠は日誌や医療記録など客観的資料が必須。
✅ 兄弟間の対立は家庭裁判所の調停・審判で解決を図れる。
✅ 持戻免除の意思があれば、特別受益の調整を免れることができる。

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介護や同居は相続分に影響することがある

相続においては、単に法定相続分どおりに分ければよいというものではありません。長年にわたる親の介護や、親の不動産への同居・無償利用といった事情は、寄与分や特別受益として考慮されることがあります。

特に「自分だけが負担した」「同居して得をしたと思われている」など、兄弟姉妹間で不公平感が生まれやすい領域だからこそ、適切な法的評価が不可欠です。

ただし、「介護をすれば必ず寄与分が認められる」「同居すれば必ず特別受益になる」といった単純な話ではありません。

裁判所は、介護の必要性や継続性、同居の実態や親の意思など、具体的事情を総合的に判断します。場合によっては寄与分や特別受益が否定されることもあれば、逆に予想以上に評価されることもあります。つまり、ケースごとの個別判断がすべてなのです。

専門家に早めに相談することが解決の近道

介護や同居が相続分に影響するかどうかは、証拠の有無や主張の仕方で大きく結果が変わります。兄弟姉妹との話し合いが難航しそうなときや、証拠の整理に不安があるときは、早めに弁護士に相談することが解決への近道です。

弁護士は、調停・審判における主張の構築や証拠収集の戦略立案をサポートし、公平な遺産分割の実現を目指します。

介護や同居に関する相続トラブルは、感情の対立が深まりやすく、長期化しがちです。しかし、法律の仕組みを理解し、適切に準備すれば、公平な解決を得ることが可能です。

「自分の努力や負担が正しく評価されるのか不安」「同居で不利になるのでは」と悩んでいる方は、是非専門家にご相談ください。

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