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弁護士コラム

相続人がいないときの救済制度「特別縁故者への相続財産分与」を徹底解説

遺産分割のトラブル
投稿日:2025年09月18日 | 
最終更新日:2025年09月18日

Q
身寄りのない親族の介護を長年続けてきました。亡くなった後、相続人がいないことが分かったのですが、私に財産を分けてもらうことはできるのでしょうか?
Answer
相続人がいない場合、通常であれば相続財産は最終的に国庫に帰属しますが、生前に被相続人と深い関係があった方は「特別縁故者」として家庭裁判所に申し立てることで、財産の全部または一部を受け取ることが可能です。

ただし、この制度は法定相続とは異なり、家庭裁判所の裁量に基づいて判断されます。介護や生計の支援、精神的・生活的なつながりがどれほど深かったかを立証する必要があり、申立てや審理の手続きも専門性が求められます。

相続人が存在しない、あるいはすべての相続人が相続放棄した、そんなとき、残された財産はどうなるのでしょうか。長年被相続人と生活を共にし、介護や療養を支えてきたにもかかわらず、法律上の相続権がないからという理由で財産を一切受け取れない、そんな理不尽な事態を救済するために設けられたのが「特別縁故者に対する相続財産の分与制度」です。

この制度は、家庭裁判所に対する申立てを通じて、被相続人と特別な関係があった者に対し、清算後の残余財産を分与できる道を開くものであり、昭和37年の民法改正で導入されました。しかし、実際に分与が認められるか否かは、申立人と被相続人との関係性やその実態、証拠の有無、家庭裁判所の裁量によって大きく左右されます。

本記事では、制度の趣旨や対象となる「特別縁故者」の範囲、申立手続きの流れ、裁判所の判断基準、さらには実務で問題となるポイントや注意点まで、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
相続人のいない相続に直面している方、または内縁の配偶者・介護者として被相続人を支えてきた方にとって、知っておきたい法的手続きを網羅的にご紹介します。

目次

制度の概要と法的性格

制度の趣旨と導入背景

相続人が存在しない被相続人の財産は、最終的に国庫に帰属するのが原則です(民法959条)。しかし、実際には、被相続人にとって生前に深く関わった人物、例えば長年生活を共にしていた内縁の配偶者、身の回りの世話を続けた知人、療養看護に尽くした親戚などが存在するケースは少なくありません。

こうした者が何らの救済も受けずに、財産が無条件に国に帰属してしまうのは、被相続人の実際の意思や社会正義の観点から不合理であるとの問題意識がありました。特に、日本では遺言制度が欧米ほど一般化しておらず、遺言で生前の感謝や意思を表現できていないまま亡くなる人も多いのが実情です。

このような背景から、昭和37年の民法改正により創設されたのが、「特別縁故者に対する相続財産の分与制度」です。この制度は、形式的な法定相続制度では救済されないが、実質的・人的な関係から見て保護されるべき者に対し、清算後の残余財産を分与することを可能にする、遺言制度の補完的役割を果たす制度といえます。

民法958条の2の規定と家裁の裁量

本制度は、民法958条の2(旧958条の3)に定められています。

「前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。」

この条文からわかるとおり、本制度において重要なのは、以下の点です。

  • 「特別縁故がある」と認められること
  • 「清算後に財産が残っている」こと
  • 「家庭裁判所が相当と認めるとき」という条件

つまり、分与は当然に認められる権利ではなく、家庭裁判所の広範な裁量判断に委ねられていることが特徴です。

実務においては、申立人がどの程度の関係性を被相続人と築いていたか、その内容・期間・態様財産形成や生活支援への関与の有無などが、調査官による調査や証拠書類(手紙・写真・診療記録・陳述書など)を通じて検討され、家裁が総合的に判断します。

また、相続財産清算人からの意見も重視される傾向があります。

国家の恩恵か権利か?分与請求の法的性格

本制度の核心的な法的論点は、「特別縁故者の分与請求権」は「法的な権利」なのか、それとも「国家からの恩恵的措置」にすぎないのか、という点にあります。

民法958条の2では、「家庭裁判所は、…与えることができる」という裁量的な表現が用いられており、また対象となる人物も「その他特別の縁故のあった者」と広範に定められています。この点を踏まえ、分与請求は法的に保護された権利ではなく、国家の恩恵的措置であるとするのが、判例・通説の立場です。

最高裁平成6年10月13日判決では、自らを特別縁故者とする者が遺言無効確認訴訟を提起した事件において、「家庭裁判所における審判によって形成されるにすぎず、私法上の権利を有するものではない」と判示されました。これは、特別縁故者として相続財産を請求することは、裁判所の審判を経なければ初めて成立せず、権利の性格を有しないという判断です。
そのため、申立前に申立人が死亡した場合には、その地位は相続人に承継されず、分与を受ける道は閉ざされるとするのが原則です(もっとも、申立後の死亡であれば承継を認めた裁判例もあります)。

このように、本制度は一見、相続人がいない場合の代替的な「相続」のように見えながらも、その本質は「国家の裁量による特別措置」として設計されている点に注意が必要です。

特別縁故者とは誰か?

相続人が存在しない場合、特別縁故者は被相続人の財産を取得し得る可能性がありますが、その範囲や判断には高度な個別事情の評価が求められます。

この章では、特別縁故者の典型的な類型、判断基準、問題となりうる事例、さらには「死後縁故」と呼ばれる特殊な関係について解説します。

該当者の類型(生計同一者・療養看護者・その他特別の縁故者)

民法958条の2は、特別縁故者について次のように三つの類型を掲げています。

① 生計を同じくしていた者

被相続人と同居し、家計や生活費を共有していた人物を指します。夫婦同然の内縁関係にあった者や、長期間同居していた親族・知人などが典型です。

  • 内縁の配偶者
  • 親族で長年同居していたが相続権のない甥姪
  • 被相続人の世話をしていた知人女性

② 療養看護に努めた者

被相続人が病気や高齢である間に、実際に介護や看護にあたった人物です。単なる訪問や見舞いでは足りず、実質的に生活の援助を行っていたかが重要です。

  • 訪問介護職員やヘルパー(親族関係に準ずる関係があれば可能)
  • 家庭内で介護していた親戚や近隣住民

③ その他特別の縁故があった者

この類型が最も幅広く、事例に応じて裁判所が個別判断します。被相続人と深い人間関係・経済的関係・精神的交流があった者が該当します。

  • 被相続人の事業を支えた知人
  • 墓守を担っていた寺院や檀家

特別縁故者に該当するか否かの判断基準

家庭裁判所が判断する際は、特別縁故の「有無」と「程度」を総合的に評価します。
以下の要素が主に検討されます。

  • 関係の継続性と密接性:同居期間、頻繁な訪問・生活援助の継続年数
  • 被相続人の意思との整合性:遺言書がないか、被相続人が財産を託す意向を示していたか
  • 財産形成への寄与:家業や事業、生活費などへの金銭的・労力的貢献
  • 被相続人に対する看護・援助の内容:介護内容の具体性(通院・入院手配・身の回りの世話など)
  • 申立人の生活状況:申立人が財産を必要とする状況にあるかどうか

上記はすべてが必要というわけではありませんが、形式的な関係(例えば親族であるというだけ)だけでは足りず、実質的な関与の深さが鍵になります。

問題となる事例(相続放棄者、相続財産清算人、過去の縁故など)

特別縁故者か否かの判断において、実務上問題となりやすい類型を紹介します。

① 相続放棄をした相続人

相続放棄によって法定相続権を失った者でも、特別縁故者として申立てることは可能です。ただし、放棄の事情や被相続人との関係が慎重に審理されます。

広島高裁岡山支部平成18年7月20日決定では、長年同居していた子が負債回避のために相続放棄した事案で、葬儀や入院費の支払い、定期的な訪問などが認められ、特別縁故者として分与が認められました。

② 相続財産清算人

相続財産清算人は、原則として中立・公正であるべき職責を持つため、自ら特別縁故者として分与申立てをすることは望ましくないとされています。その場合は辞任して申立てを行うべきとされています。

③ 過去の縁故しかない者

例えば、10年以上前に被相続人と関係があったものの、それ以降は音信不通だった者などです。

東京家裁昭和41年5月13日審判では、申立人が戦前・戦中に被相続人の父の仕事を手伝い、死亡後は一部財産を管理していたが、20年の音信不通を考慮しつつも、当時の縁故の深さから分与を認めました。

ただし、現在の被相続人の生活に与えた影響が乏しいと判断されれば、分与は否定される傾向にあるように思われます。

死後縁故の可否と裁判例

被相続人の死亡後に縁故関係が生じた者(いわゆる「死後縁故者」)が特別縁故者として認められるかは、裁判例でも見解が分かれています。ただし、死後の葬儀・供養のみを理由に分与を認めるのは、法の趣旨に反するとして否定される傾向があるように思われます。

現在の実務では、死後の縁故のみで分与を認めるのは困難という傾向があり、少なくとも生前の接点が必要とされる場合が多いです。ただし、裁判例には例外もあるため、個別の事情に応じた主張構成が重要です。

特別縁故者に該当するか否かの判断は、形式ではなく実質に基づいています。
生前の生活関係、介護実績、経済的貢献、精神的支えなど、複数の要素が複雑に絡むため、裁判所の裁量判断が大きく作用します。

裁判例も多岐にわたり、慎重な立証と主張が必要となる分野です。

相続財産分与の申立手続き

相続人がいないまま死亡した人の財産について、被相続人と特別な関係にあった人(特別縁故者)は、相続財産の一部または全部の分与を家庭裁判所に申し立てることができます。しかし、この制度は形式的な相続権とは異なり、法的手続きを正確に踏まえる必要があります。

この章では、申立人の資格、期限、提出先や必要書類、実務で使われる申立書式例までを詳しく解説します。

申立人の資格と複数申立人の扱い

■ 申立人の資格

相続財産の分与を申し立てることができるのは、自らが特別縁故者であると主張する者に限られます。
家庭裁判所が職権で他者を特別縁故者として認定・分与することはできません。これは、民法958条の2があくまでも「請求によって」と明示しているためであり、実務でも厳格に運用されています。

■ 複数申立人の場合の扱い

複数人が申立てる場合、申立てはそれぞれ個別に判断されるのが原則です。
ただし、家事事件手続法204条2項により、申立事件は併合され、家庭裁判所が統一的に判断します。このため、ある申立人の即時抗告は、他の申立人にも効力を及ぼすことがあるので注意が必要です。

なお、複数の申立人を同一の弁護士が代理することは可能であり、実務上もよく見られる取扱いです。これは審判が対立構造を前提とせず、個別評価で決せられる手続きであることに起因します。

申立期限と例外的な扱い(公告前申立て、後発財産発見時等)

■ 原則的な期限

民法958条の2第2項により、申立ては相続人捜索の公告期間の満了後3か月以内に行う必要があります。これを過ぎた場合、原則として申立ては不適法として却下されます。

■ 例外的な扱い

  • 公告前にやむを得ず申立てた場合
    特別縁故者が高齢や病気で、公告期間の満了を待たずに死亡するおそれがあるとき、公告期間満了前の申立ても「形式的には不適法」であるものの、後に公告期間が満了し、相続人不存在が確定すれば、適法に治癒されるとした審判例が存在します(大阪家審昭40・11・25判夕204・192 等)。

  • 相続権の有無が争われていた場合
    相続人を名乗る者が存在したが、その相続権の有無が争われた場合、相続人不存在が確定した時点から3か月が起算されるとするのが審判例の立場です(大阪高決平成9・5・6判時1616・73 等)。

  • 後から新たな財産が発見された場合
    既に分与審判がなされていたが、その後新たな相続財産が判明したときは、前件と一体として判断できる場合に限り申立期間内の申立てと評価され、追加審判が許されるとする実務運用があります(福岡家裁行橋支審昭48・4・9家月25・12・55)。

管轄裁判所と申立費用

■ 管轄裁判所

申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です(家事事件手続法203条三)。相続財産清算人が既に選任されている場合、その選任を行った家庭裁判所が管轄します。

■ 申立費用

費用金額・内容
収入印紙申立人1人につき800円(民訴費用法3条1項・別表第1第15号)
郵便切手裁判所ごとに異なる。

必要書類と添付資料(戸籍、住民票、縁故資料など)

■ 必須の添付書類

  • 申立書(後述)
  • 申立人の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)
  • 申立人の住民票
  • 特別縁故関係を示す証拠資料(以下に例を挙げます)

■  証拠資料の例(特別縁故関係立証用)

  • 手紙やメールなどの私的通信
  • 写真(同居・介護中の様子)
  • 被相続人の医療機関の通院記録(付き添い記録)
  • 被相続人名義の家計簿・通帳への入金記録
  • 家庭裁判所調査官への陳述書・陳述録取書

裁判所は職権で調査を行うこともありますが、申立段階から具体的・継続的な縁故関係を示す証拠提出が極めて重要です。

申立書の記載例

特別縁故者に対する相続財産分与審判申立書

令和○年○月○日
○○家庭裁判所 御中

申立人
〒000-0000 東京都○○区○○町○○
氏名:○○ ○○(印)
連絡先:000-0000-0000

【第1 申立ての趣旨】
申立人に対し、被相続人○○○○の相続財産を分与するとの審判を求める。

【第2 申立ての実情】
申立人は、昭和○年から○○○○(被相続人)と同居し、事実上の夫婦関係を築いてきた。
平成○年以降、被相続人が要介護状態となってからは、申立人が日常生活の支援および療養看護に努めてきた。
令和○年○月○日に被相続人が死亡し、相続人不存在が確認され、同年○月○日付で相続財産清算人が選任された。
被相続人には、別紙財産目録の財産が残存している。
よって、申立人に対する財産の分与を求める。

【添付書類】

1.戸籍謄本

2.住民票

3.被相続人との縁故関係を示す資料

4.財産目録

申立書の「実情」欄では、被相続人との関係の実態とその社会的・経済的意味をできる限り具体的に記載することが重要です。

必要に応じて、時系列で関係性の変遷を記述し、裁判所にとって判断しやすい構成にすることが望まれます。

家庭裁判所による審理

家庭裁判所は、特別縁故者からの申立てに対して、形式審査だけでなく実質的な「縁故の有無・程度」「分与の相当性」「対象財産の性質」など、複雑な実体審理を行います。

この章では、審理の流れから最終的な分与実行に至るまでの具体的手続きと論点を解説します。

審理の流れと手続き(通知・調査・意見聴取・併合審理)

① 申立通知

申立てを受けた家庭裁判所は、速やかに相続財産清算人に対して申立てがあった旨を通知します(家事規則110条2項)。
この通知は、清算人が以後の意見聴取対象となることに鑑みてなされます。

② 事実調査

家庭裁判所は、職権で事実調査および必要な証拠調べを実施します(家事事件手続法56条1項)。
調査の方法としては以下が中心です。

  • 申立人からの陳述書提出
  • 家庭裁判所調査官による訪問・聴取(家事58条)
  • 関係者への嘱託照会や資料収集(家事62条)

調査官の報告書や陳述内容は、特別縁故関係の有無・程度を判断するうえで極めて重要な役割を果たします。

③ 清算人の意見聴取

後述のとおり、相続財産清算人からの意見聴取は法律上義務付けられており、実質審理の核心に関与します(家事205条)。

 併合審理

複数の申立人がいる場合には、審理は併合して行われることが原則とされます(家事204条2項)。
これにより、家庭裁判所は各申立人に対する判断が相互に矛盾しないよう統一的に処理します。

清算人の意見の重みとその取扱い

相続財産清算人は、相続財産の実態・債務の清算状況・申立人との関係性などを把握している唯一の利害関係人であり、家庭裁判所は分与判断に際して清算人の意見を聞かなければならないとされています(家事205条)。

清算人の意見は、以下の観点で重要な参考資料となります。

  • 財産の範囲と残余額の正確な把握
  • 申立人が被相続人とどう関わっていたかの実情報告
  • 清算済みかどうか(分与は清算後でなければ不可)
  • 分与対象財産の管理状況と処分可能性

なお、相続財産清算人が分与審判に不服がある場合は、申立人と同様に即時抗告をすることが可能です(家事206条1項一号)。

分与の審判と却下の審判、即時抗告の可否と効力

■ 審判の種類

家庭裁判所の判断は、以下のいずれかの審判として下されます。

  • 全部分与の審判:申立人に対して相続財産全体を分与
  • 一部分与の審判:一部の財産についてのみ分与
  • 却下の審判:申立人が特別縁故者でない、申立期間を経過している、分与が相当でない等の理由で却下

■ 即時抗告の可否と効力

審判に不服がある場合、申立人および相続財産清算人は即時抗告が可能です(家事206条1項)。

  • 抗告期間:審判告知日から2週間以内(家事86条)

抗告審は高等裁判所が行い、抗告裁判所は審判を取り消し、新たに分与審判をすることもできます(家事91条2項)。

また、複数の申立人がいる併合審判においては、1人の申立人または清算人による即時抗告が、全員に対して効力を及ぼすため、他の申立人の審判確定も遅延します(家事206条2項)。

分与実行の方法(現金・預貯金・不動産など)

分与審判が確定すると、相続財産清算人は遅滞なく申立人に対し、分与された財産を引き渡す義務を負います。

【分与の対象と実行方法】

財産の種類実行方法
現金指定口座へ送金または手渡しによる引渡し
預貯金解約し、現金化して送金。名義変更不可のため現金引渡しが原則。
不動産審判確定後、被分与者単独で移転登記申請が可能。(不登63条2項に準じる)
動産清算人が管理方法に従い直接引渡す。
※相続財産清算人が任意に協力しない場合、被分与者は民事訴訟による引渡請求や清算人の改任申立てを検討することになります。

審理中の死亡と特別縁故者地位の承継の可否

申立人が審理中に死亡した場合、その地位が相続人に承継されるか否かが問題となります。

■ 承継を否定する見解(旧来の多数説)

かつては、特別縁故者の地位は被相続人との個人的関係に基づく一身専属的地位と解され、相続の対象とはならないとする裁判例が主流でした(例:福島家裁郡山支審昭和43年2月26日審判)。

■ 承継を肯定する裁判例(現在の主流)

しかし、近年の裁判例では分与申立てを行った後に死亡した者の地位は、財産的性格を帯びるものとして承継可能とする傾向が明確です。

大阪高裁平成4年6月5日決定では、「申立てがあった以上、その地位は財産的性格を帯び、相続人に承継される」と判断されました。

ただし、相続人が被相続人や特別縁故関係にまったく関係がない場合などには、裁判所の裁量によって分与の相当性が否定される可能性もあります。

家庭裁判所による特別縁故者に対する相続財産分与の審理は、単なる申立てにとどまらず、縁故の実質、財産の性質、清算状況、分与の相当性といった多角的な審理を経て行われます。

特別縁故者としての地位は申立てによって初めて法的評価の対象となるため、審理中の行動・資料提出が極めて重要です。

分与の相当性と対象財産

特別縁故者であることが認定されても、直ちに財産が分与されるわけではありません。家庭裁判所はさらに「分与の相当性」や「対象となる財産の性質」を総合的に検討します。

この章では、分与判断の基準や対象財産の範囲、特殊事例における実務対応について解説します。

分与の相当性判断の基準(縁故の程度、資産形成への寄与など)

民法958条の2第1項では、家庭裁判所は「相当と認めるとき」に限り特別縁故者に相続財産を分与することができるとされており、分与の可否および割合はすべて裁判所の裁量に委ねられています。

■ 判断基準の主な要素

  • 縁故の深さと継続性
    単なる一時的な関係ではなく、生活・療養・経済的支援など、長期かつ密接な関与があったか。
  • 財産形成への寄与の有無
    被相続人の事業や不動産購入等に金銭的または労務的な貢献があった場合、寄与の程度が考慮されます。
  • 申立人の生活状況
    被分与者が高齢、無職、低収入など経済的弱者である場合、より厚い分与がなされることもあります。
  • 相続財産の性質と総額
    財産額が少額の場合、複数の申立人への配分は限られます。

高松高裁昭和48年12月18日決定では、「縁故関係の厚薄、年齢、職業、財産の種類・額等、あらゆる事情を総合考慮すべき」と判示されました。

分与対象となる財産とならない財産(共有持分、墓地、債務など)

分与の対象となるか否かは、財産の法的性質に左右されます。

■ 分与対象となる財産

  • 現金・預貯金
  • 不動産(単独所有・共有持分)
  • 動産(家財道具・車両など)
  • 著作権など一部の知的財産権
  • 国庫債券のうち譲渡可能なもの

最高裁平成元年11月24日判決では、共有持分も、分与手続きの対象となりうるが、分与されないまま残存した場合には民法255条により他の共有者に帰属すると判示されました。

■ 分与対象とならない財産

  • 墓地・仏具:祭祀承継の対象であり、財産権の対象とはならないと解される(判例・通説)
  • 特許権・商標権等:民法952条2項の期間経過で消滅(特許法76条など)
  • 債務:原則として清算済みの残余財産のみが分与対象となるため、債務は対象外

条件付き分与や債務負担付き分与の可否と問題点

■ 条件付き分与

家庭裁判所は、一定の条件(例:費用支払い・不動産の寄付など)を付して分与を認める例がありますが、法的安定性の観点から例外的措置とされています。

■ 債務負担付き分与

原則として債務の引受けを前提とする分与は認められていません。

ただし、山口家裁昭和49年12月27日審判では、申立人が相続債務を免責的に引受け、債権者もそれを了承していたため、抵当権付き不動産をそのまま分与されました。このようなケースでは債権者の同意、申立人の誓約書提出などが前提条件とされ、極めて限定的な取扱いです。

重婚的内縁関係者・遺言偽造者等への分与可否

■ 重婚的内縁関係者

法律上の婚姻関係があるにもかかわらず、被相続人と内縁関係にあった者が財産分与を求める場合、公序良俗違反(民法90条)として分与が否定されることがあります。

東京高裁昭和56年4月28日決定では、被相続人に法律上の配偶者があるにもかかわらず内縁関係を継続した申立人に対し、「法の趣旨に反する」として分与を否定されました。ただし、長期同居や生活支援の実績があれば、一部財産のみ分与が認められる可能性もあります。

■ 遺言偽造者

被相続人の遺言書を偽造した事実が判明した場合、被相続人の意思に反する不当取得の意図があったとして分与は否定されます。

東京高裁平成25年4月8日決定では、全財産遺贈を記した偽造遺言書を作成した者に対し、たとえ生前に深い関係があっても「相続財産を不法に奪取しようとした」として分与を否定されました。

特別縁故者に対する財産分与は、形式的な資格要件だけでなく、縁故の深さ、社会的正義、公序良俗との調和といった観点から高度な実体判断が求められます。

財産の性質や申立人の行為によっては、分与が否定されるリスクもあるため、申立てにあたっては十分な準備と慎重な構成が必要です。

残余財産とその処理

特別縁故者への分与がなされた後でも、すべての相続財産が処理されるとは限りません。縁故者が存在しない場合や、分与が一部に限られた場合には、残余財産の行き先を法的に定めておく必要があります。

この章では、残余財産の帰属先としての「共有者」「国庫」の法的位置づけと、相続財産清算人による換価・廃棄の実務について解説します。

共有者への帰属(民法255条)

被相続人が他者と財産を共有していた場合、その共有持分は、相続人が存在しないことが確定した後にどこへ帰属するかが問題となります。これについては、民法255条が明文で規定しています。

■ 民法255条の規定

「共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。」

ただし、この条文の適用には順序があり、以下のようなステップを踏む必要があります。

  1. 相続人が存在しないことが確定
  2. 特別縁故者への分与手続きが完了
  3. なお残余がある場合に初めて、共有者への帰属が生じる

■ 重要判例:最高裁平成元年11月24日判決

相続財産が特別縁故者への分与対象となる限りは、共有者への当然帰属は認められず、分与されずに残った場合に初めて民法255条が適用されると判断。

■ 実務上の手続き

共有持分の移転については、不動産であれば登記が必要です。相続財産清算人と共有者の共同申請により、登記権利者を共有者、義務者を清算人とした持分全部移転登記が行われます(不登60条)。

また、「特別縁故者不存在確定証明書」の提出が求められるため、家庭裁判所からの証明書取得が前提となります。

国庫への帰属とその手続き(不動産、現金、有価証券等)

分与がなされず、共有者にも帰属しなかった残余財産は、最終的に国庫に帰属します(民法959条)。

■ 帰属の要件

国庫帰属が成立するためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。

  • 相続債権者・受遺者への弁済が完了していること(民法957条)
  • 特別縁故者に対する分与の申立がなされなかった、または却下されたこと(民法958条の2)
  • 清算人が残余財産を処理する段階に至ったこと

■ 帰属の時期

最高裁昭和50年10月24日判決によれば、国庫への帰属時期は、清算人が国に対し実際に引渡しを完了した時点とされており、分与の審判や申立期限の経過時点ではないと解されています。

■ 財産の引渡先と対象区分

財産の種類引渡先関連法令
不動産・船舶・航空機・地上権等財務大臣(各財務局)国有財産法2条1項5号等
有価証券(株式、債券、出資持分等)財務大臣同上
現金・普通動産(家財など)物品管理官物品管理法2条・7条
預貯金・金銭債権等歳入徴収官債権管理法12条、会計法6条 等

手続きに際しては、相続財産清算人が家庭裁判所へ報告を行い、同裁判所が関係官庁(財務局・歳入官・物品管理官)に通知を行います。

相続人がおらず、特別縁故者への分与もなされなかった財産は、一定の法的手続きを経て共有者や国庫に帰属します。

特に不動産や動産については、形式的な名義移転のみならず、現実の管理・処理に関する負担が大きいため、相続財産清算人による柔軟な判断と家庭裁判所の許可が不可欠です。

制度を正確に理解し、適切な処分と報告を行うことが、法的安定性と公正な財産処理の両立に資することとなります。

弁護士に相談すべき理由

特別縁故者として相続財産の分与を受けるには、家庭裁判所の審理においてその「縁故性」と「分与の相当性」を的確に主張・立証する必要があります。しかしながら、この手続きは単なる書類提出にとどまらず、事実関係の法的評価や裁判例の傾向に照らした戦略的判断が求められます。

この章では、なぜこのような場面で弁護士の関与が有効なのかを、三つの観点から説明します。

法的判断の難しさと審判例の多様性

■ 特別縁故者の該当性は「個別判断」

民法958条の2は「特別縁故者」の具体的な定義を明確には定めておらず、「生計同一」「療養看護」「その他特別の縁故」の文言に該当するか否かは、家庭裁判所が事実関係を総合的に判断して決めます。
そのため、申立人自身が「当然に該当する」と思っていても、審理の結果として却下されることも少なくありません。

■ 裁判例には肯定・否定の両パターンが存在

例えば、以下のように裁判例は多様かつ評価基準も流動的です。

  • 長年の内縁関係にあっても重婚的であったことを理由に分与を否定されたケース
  • 死亡後に葬儀を執り行っただけでは縁故性が認められなかったケース
  • 過去の縁故があっても、その後の断絶期間を重視して却下されたケース

したがって、弁護士は過去の類似事例と照らし合わせて、どの程度の縁故関係が認められるか、戦略的な見通しを立てる役割を担います。

書類準備・期限管理・主張構成における専門家の役割

■ 提出書類の精緻な作成

特別縁故者として分与を受けるためには、戸籍・住民票・縁故関係を裏付ける私文書(手紙・写真・通帳・診療記録等)を揃える必要があります。弁護士は、これらの証拠資料をどのように整理・添付し、裁判所に説得力ある形で提出するかを指導・代行できます。

特に重要なのが、申立書の「実情」欄に記載する縁故の内容・経過・具体的行動の構成です。家庭裁判所はこの記載をもとに調査官の調査方針を決定するため、事実の漏れや曖昧な記述は致命的な判断ミスを招く可能性があります。

■ 申立期限の管理

相続人捜索公告期間満了から3か月以内という法定申立期限は厳格に適用されます。

弁護士はこの期限を的確に把握し、早期に資料収集・申立準備を進め、手続き遅延による却下を防ぐ役割を果たします。

複数の申立人や複雑な関係者がいる場合の対応戦略

■ 利害関係が交錯する場面での調整

特別縁故者が複数存在する場合、家庭裁判所は全員の申立事件を併合審理し、比較衡量して財産の分配を決定します。この場合、他の申立人との主張内容や縁故性の差異が審理に影響を与えるため、自分の立場を際立たせる構成力が求められます。

弁護士は、他の申立人の主張に対する反論を整理し、自らの依頼者がいかに「優先すべき縁故者」であるかを法的・感情的両面から訴える技術に長けています。

■ 清算人との連携

清算人は、財産の現状、分与の実行可否に関する裁判所の判断資料を提供する重要な関係者です。

弁護士は清算人と適切なコミュニケーションを図り、必要に応じて意見照会や情報開示の請求、協議による財産内容の把握を行うことで、主張の裏付けを強化します。

■ 抗告審対応も視野に

一審の審判結果に不満がある場合は即時抗告が可能です。複数申立人による抗告は全体に影響するため、抗告の可否や見通し、抗告戦略の組み立ても弁護士の専門領域です。

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特別縁故者による財産分与申立ては、「自分と被相続人とのつながり」を社会的・法的に証明する、非常にパーソナルかつ専門的な手続きです。感情だけでは通用せず、審判例や法令を踏まえた客観的資料と論理構成が必須です。

弁護士に相談することで、以下のような大きなメリットが得られます。

  • 縁故の主張を裁判所に通る形に整理できる
  • 必要書類を適切に揃え、期限内に申立てができる
  • 他の申立人や清算人との交渉を的確に進められる
  • 抗告審も含めたリスク管理が可能になる

不安な点があれば、早めに弁護士などの専門家に相談することを推奨します。

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