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弁護士コラム

相続不動産を相続したらどうする?管理・賃貸・分配に関する完全ガイド

遺産分割のトラブル
投稿日:2025年06月27日 | 
最終更新日:2025年06月27日

Q
親の不動産を相続したのですが、他の相続人と意見が合わず、どう対応すべきか困っています。管理や賃貸、収益の分け方にルールはあるのでしょうか?
Answer
相続不動産は「資産」である一方、「管理や分配の難しさからトラブルの火種」にもなり得ます。たとえば、相続人の一部が勝手に賃貸を始めたり、賃料の分配をめぐって意見が対立したりするケースは少なくありません。

本記事では、相続人間で共有する不動産の賃貸方法、賃料の管理・分配、無断賃貸への対処、そして遺産分割が済むまでの対応など、実務で特にトラブルになりやすいポイントを、法律と判例をふまえてわかりやすく解説します。

「争いを避けながら資産を適切に活用したい」と考える相続人の方に向けて、対応の基本と注意点をまとめています。

目次

相続不動産の典型的なトラブルとは

不動産を相続した場合、「相続人全員でどう扱うか」を巡ってトラブルになるケースが非常に多く見られます。

特に次のような事例が典型的です。

  • 誰が管理するかが決まらないまま空き家状態が続く
  • 一部の相続人が他の相続人に無断で賃貸してしまい、収益を独占している
  • 賃料の分配を巡って争いが生じ、話し合いが平行線をたどる
  • 遺産分割が進まない中で物件をどう活用すべきか結論が出せない
  • 被相続人が借家に住んでいた場合、原状回復や未払賃料の処理で混乱する

これらのトラブルは、相続人間の信頼関係に亀裂を生むだけでなく、収益機会の逸失や余計なコストの発生を招くことも少なくありません。また、管理不十分な不動産は近隣住民とのトラブルの火種ともなりかねません。

相続不動産は「資産」であると同時に、「負担」になりうるものでもあるのです。

相続不動産の賃貸に関する基本知識

相続不動産は「共有状態」になる

不動産を複数の相続人が共同で相続した場合、その不動産は「遺産共有状態」にあります。これは、民法第898条に基づき、相続財産は相続人全員の共有に属するものとされるためです。

遺産分割が確定するまでの間、相続人一人ひとりが不動産全体について権利を持ちますが、それは自分の持分だけ自由に使えるという意味ではなく、「共有物」として法律上の制限を受けることになります。

このため、たとえば相続不動産を勝手に賃貸したり、売却したりすることは、他の相続人の同意なくして行うことはできません(但し、自己の共有持分権を除きます)。

賃貸に出すには相続人全員の同意が必要?

相続不動産を賃貸するには、その内容や契約期間などによって、どの程度の相続人の同意が必要かが異なります。

基本的には、以下のように区別されます。

建物を第三者に貸す場合(通常の賃貸借契約)

借地借家法の適用を受ける賃貸借契約では、賃借人の権利が強く保護されるため、一度契約を結ぶと容易に解約や更新拒絶ができません。

そのため、このような賃貸借契約の締結は「共有物の変更行為」にあたるとされ、相続人全員の同意が必要になります(民法第251条)。

一定期間内の短期契約・定期借家契約

令和3年の民法改正により、一定期間内の使用収益を目的とする賃貸借契約は「管理行為」として扱われ、共有者の持分価格の過半数の同意で契約が可能になりました(民法第252条4項)。

具体的には以下のとおりです(民法第602条)。

  • 建物の賃貸借:契約期間が3年以内であれば「管理行為」に該当
  • 一時使用目的や定期建物賃貸借契約であれば、内容に応じて過半数の同意で足りるケースもあります

ただし、契約が実質的に長期利用を認めてしまう場合には、形式上短期であっても全員の同意が必要と判断される可能性があります。

定期借家契約と普通借家契約の違いと実務上の留意点

普通借家契約とは

普通借家契約は、借地借家法に基づき、借主の保護を重視する契約です。契約期間が終了しても、借主からの更新拒絶や解約申入れがない限り、原則として契約は自動更新されます。貸主が契約を終了させるには「正当事由」が必要で、簡単には立ち退きを求められません。

このため、普通借家契約を締結する場合には相続人全員の同意が必要とされ、一度契約すると解消が非常に困難になることに留意すべきです。

定期借家契約とは

一方、定期借家契約(借地借家法第38条)は、あらかじめ定めた期間で契約が終了する借家契約です。更新はなく、期間満了により契約が確実に終了します。

ただし、定期借家契約を有効に成立させるには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 書面による契約であること(口頭不可)
  • 契約時に「更新がない旨」の説明があること
  • 説明の内容を記載した書面を交付すること

定期借家契約であれば、たとえば3年以内の期間で設定することにより、過半数の相続人の同意で契約可能となる場合があるため、遺産分割前の賃貸活用としては現実的な選択肢となります。

実務上の留意点

  • 契約内容の形式と実質が一致しているかを常に検討することが重要です。表面上短期契約であっても、更新が予定されていたり、長期使用が黙認されている場合は「変更行為」と評価され、全員の同意が必要となる可能性があります。
  • トラブル防止のため、契約前に相続人全員で方針を協議し、議事録等を残しておくことが望ましいです。
  • 相続登記を済ませていない場合には、所有者不明として契約上のリスクが生じることもあるため、登記とあわせて対応を検討すべきです。

賃貸収入(賃料)の管理と分配

相続した不動産を第三者に賃貸した場合、そこから生じる賃料収入の管理と分配は、相続人間のトラブルを避ける上で極めて重要です。

実務では、曖昧な取決めや代表者による不透明な管理が紛争の原因になることも多く、事前のルール決めと透明性の確保が求められます。

各相続人の賃料請求権とは

相続不動産を共有する相続人が第三者に賃貸した場合、その賃料債権は各相続人の法定相続分に応じて分割して帰属する単独債権とされます。これは、最高裁平成17年9月8日判決により明確に示された法理であり、相続開始後の賃料については、後の遺産分割の結果にかかわらず、それぞれの相続人に確定的に帰属するものとされます。

つまり、遺産分割協議が成立していなくても、相続人は自らの持分割合に応じた賃料を、賃借人に対して直接請求する権利を有しているのです。ただし、これを実際に複数の相続人が個別に請求することは、現実的には煩雑で非効率です。

代表者を立てるべき理由と方法

実務上は、相続人間で話し合い、代表者を1名選定して賃料を一括で受領させ、そこから各相続人に分配する方式が一般的です。これにより、賃借人にとっても支払先が一本化され、振込漏れや二重請求のトラブルを防ぐことができます。

代表者の選定は法律上の義務ではありませんが、以下のような手続きを行うことが望ましいです。

  • 相続人全員の合意により代表者を決定
  • 賃貸借契約に「代表相続人への支払いをもって全相続人への支払いとする旨」を記載
  • 代表者の口座へ入金される賃料の分配方法・時期・経費控除等について明確なルールを文書化

なお、代表者が分配を怠ったり、恣意的に使い込むなどの事態を避けるためには、記録の共有収支報告義務の設定も併せて行うとよいでしょう。

管理口座を作るメリット・注意点

相続人間で代表者を決めた場合、管理専用の銀行口座を新たに開設することで、賃料管理の透明性が格段に向上します。

この口座に賃借人から直接振込を行ってもらうことで、賃料の入出金が明確になり、経費控除や各人への分配も記録に残すことが可能です。

主なメリット

  • 入出金履歴を客観的に確認できる
  • 税務申告や会計処理が容易になる
  • 相続人間での信頼関係維持に寄与する

注意点

  • 代表者の個人口座と混同しないよう、専用の口座であることを明確にする
  • 通帳・印鑑・ネットバンキング情報の保管・共有ルールを定める
  • 分配時にトラブルが起きないよう、定期的な精算報告の義務付けも検討する

不当利得返還請求・時効のリスク

代表者が賃料を適切に分配しなかった場合、他の相続人は、未分配の賃料について不当利得返還請求をすることができます。

これは「法律上の原因なく他人の財産または利益を保持している者は、その利益を返還すべき義務がある」という民法第703条・第704条に基づくものです。

ただし、この請求には時効がある点に注意が必要です。

  • 新法(令和2年4月1日施行)適用後
    ・ 知った時から5年
    ・ 行使できる時から10年

のいずれか早い方で時効が成立します(民法第166条)

代表者が配分を怠ったまま長期間が経過すると、請求権が時効により消滅してしまうリスクがあります。少しでも不公平を感じた場合は、早めに弁護士に相談し、請求や交渉を開始することが重要です。

賃料増減額請求への対応

相続した不動産を賃貸している場合、賃借人から「賃料の減額請求」、あるいは相続人側から「賃料の増額請求」を行うケースがあります。

これらの請求については、一見すると全相続人にとって有利または不利に見える行為ですが、実務上は『管理行為』に分類されるため、対応には注意が必要です(民法252条)。

賃料増減額請求や減額請求を受けた場合の場合

経済情勢や固定資産税の上昇や下降、近隣相場との乖離があれば、賃料増減額請求は可能です。

ただし、その交渉や通知を行うには、原則として過半数の持分を有する相続人の合意が必要とされます。

実務上のポイント

相続人間で「誰が窓口として対応するか」をあらかじめ決めておくと、交渉がスムーズになります。

増額・減額請求は調停・裁判に発展することもあるため、早期に弁護士へ相談し、書面による通知や裏付け資料の整理をしておくとよいでしょう。

相続開始後の賃料収入の帰属と分配

不動産を相続した場合、亡くなった方(被相続人)名義の賃貸物件があると、相続開始後に発生する賃料収入を誰が取得するのかという問題が生じます。これは遺産分割の進行状況や相続人間の関係に大きく影響するため、実務上でも非常に争いが多い分野です。

遺産分割の遡及効と賃料の関係

民法第909条は、遺産の分割は「相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる」と定めています。これを遡及効と呼び、たとえば遺産分割協議の結果、Aさんが不動産を取得した場合、相続開始時点からその不動産はAさんのものであったと「みなされる」ことになります。

しかし、ここで注意が必要なのは、賃料収入の扱いです。最高裁平成17年9月8日判決によれば、相続開始後に発生した賃料は、たとえ後に不動産を取得する相続人が決まったとしても、すでに法定相続分に応じて各相続人に帰属しているとされています。

つまり、相続開始に発生した賃料については、遺産ではなく、各相続人の固有の財産(単独債権であるため、遡及効の対象にはならず、遺産分割の影響も受けません。

分割協議が終わるまでの賃料収入はどうなる?

遺産分割協議が成立するまでの間も、賃料は継続的に発生します。そのため、以下のような対応が必要です。

賃料は法定相続分で按分される

遺産分割前の相続人全員が、相続開始後に発生した賃料について、自らの法定相続分に応じた権利を確定的に有することになります。

誰が賃料を受け取るか

実務では、相続人のうち誰かが「代表者」として賃料を受領しているケースが多くありますが、その場合でも、他の相続人からの請求があれば、法定相続分に従って精算・分配する義務があります。

分配が滞った場合は法的請求の検討を

もし代表相続人が適正な分配を行っていない場合は、不当利得返還請求や損害賠償請求の対象となり得ます。時効(知ってから5年、または10年)の制限があるため、早期の対応が必要です。

調停・審判・訴訟での解決方法と流れ

賃料収入の帰属・分配をめぐって相続人間の合意が成立しない場合は、家庭裁判所の手続を利用することになります。

【1】遺産分割調停の利用

遺産分割調停の中で、相続不動産の処遇だけでなく、相続開始後に発生した賃料の取り扱いについても話し合うことができます。

ただし、先述のとおり賃料債権は法定相続分に応じて帰属する「個人の債権」とされているため、調停で賃料を遺産分割の対象に含めるには相続人の合意が必要です。

【2】審判では賃料の分割は扱われない場合も

遺産分割審判では、原則として相続開始時点の遺産(現存財産)のみが対象であり、相続開始後に発生した賃料は対象外とされることが多く、別途訴訟で対応することになります。

【3】訴訟での請求

調停・審判で解決しない場合は、代表相続人に対し、以下の請求を行うことが可能です。

  • 不当利得返還請求(民法703条)
  • 損害賠償請求(民法709条)
  • 賃料相当損害金の請求

訴訟では、賃料収入から管理費・修繕費・公租公課等の必要経費を控除したうえで、各相続人の取り分を計算するのが一般的です。

まとめ

ここまでの話で、注意すべきポイントは以下のとおりです。

  • 賃料の帰属については「誰が不動産を取得したか」ではなく、「相続開始後に発生したか」が基準
  • 遺産分割が済んでいなくても、賃料収入については各相続人に請求権がある
  • 不当な使い込みがあった場合は、不当利得返還請求・訴訟も視野に入れる
  • 時効管理が極めて重要(5年または10年)

一部の相続人による無断賃貸への対応

相続不動産が共有状態にあるにもかかわらず、一部の相続人が他の相続人に無断で第三者に賃貸してしまう事案は少なくありません。このような場合、「その契約は有効なのか」「明け渡しを求められるのか」「賃料はどう分配されるのか」など、複数の法律問題が同時に発生します。

ここでは、無断賃貸の法的評価と、他の相続人が取り得る手段について整理します。

無断賃貸は違法?契約の有効性

共同相続された不動産の賃貸は、契約の性質によって「管理行為」「変更行為」かに分類され、それに応じて必要な同意の範囲が異なります。

お伝えしたとおり、普通の建物賃貸借契約(借地借家法適用は、長期化・更新が前提となることから、原則として「変更行為」に該当し、相続人全員の同意が必要です(民法251条)。
一部の相続人が単独で賃貸契約を締結しても、法律上の効力は原則として認められません。

ただし、契約の内容が短期(建物で3年以内)かつ一時使用目的である場合などは、「管理行為」として持分価格の過半数の同意で有効になる例外もあります(民法252条4項)。しかし現実には、これに該当しないことが大半です。

したがって、他の相続人の同意を得ずに締結された通常の賃貸借契約は、無効である可能性が極めて高いと言えます。

明渡し請求は可能か?

無断で締結された賃貸借契約が無効である場合、その契約に基づいて物件を占有している賃借人(第三者)に対し、明渡しを請求できるかが問題となります。

従来の最高裁判例(昭和41年5月19日、昭和63年5月20日)は、占有者に明渡しを求めるには「正当な理由」が必要であるとし、単に契約が無効であることだけでは不十分とされていました。

しかし、令和3年改正民法では、共有物の管理について、共有持分価格の過半数による決定が「共有物を使用する共有者」にも効力を持つと明文化されました(民法252条1項後段)。この改正により、多数持分の相続人は、少数相続人やその賃借人に対し、共有物の利用を制限し、明渡しを請求できる根拠が強化されました。

よって、持分の過半数を有する相続人は、占有者(賃借人)に対して所有権に基づく妨害排除請求権により、明渡しを求めることが可能となっています。

不当利得返還・損害賠償請求の可否

他の相続人の同意を得ずに賃貸し、その賃料を一人で取得している相続人に対しては、次のような請求が可能です。

不当利得返還請求(民法703条)

無断賃貸を行った相続人は、法律上の原因なく他の相続人の共有財産から利益を得ているため、不当利得に該当します。したがって、他の相続人は、自身の法定相続分に応じた賃料相当額の返還を請求できます。

損害賠償請求(民法709条)

無断賃貸により、他の相続人の使用権を侵害したことは、不法行為に基づく損害賠償請求の対象となる場合があります。とくに悪意や使い込みの事実がある場合には、賃料相当損害金の請求が有効です。

償還請求(民法249条2項)

共有物を持分以上に使用した相続人に対しては、自己の持分を超える利用分について使用料相当額の償還を請求することができます。

賃借人に対する請求の可能性

無断で締結された賃貸借契約が無効である場合でも、賃借人が善意(権限がないことを知らなかった)であれば、賃料を返せと請求することは困難です。

しかし、賃借人が以下のような事情に該当する場合には、不当利得返還請求または不法行為責任を問うことも可能です。

  • 相続人の一部にしか権限がないと知りながら契約した
  • 契約時に、相続人全員の同意がないことを明示された
  • 明渡しを求められても居座り続けた

特に、相続人と賃借人が共謀して共有物の使用を妨害する目的で契約を継続していた場合には、共同不法行為とされる可能性もあります。

まとめ

ここまでの話で、注意すべきポイントは以下のとおりです。

  • 無断賃貸を防ぐためには、不動産の管理方針を相続人間で明確にしておくことが不可欠です。
  • 万一、無断で賃貸が行われてしまった場合は、明渡し請求賃料相当金の回収を早期に検討する必要があります。
  • 請求の時効(不当利得:5年または10年)にも注意が必要です。
  • 賃借人との関係次第では、交渉よりも訴訟が現実的な解決手段になることもあります。

賃借人の立場を相続した場合の注意点

相続と聞くと不動産を「所有していた」場合が想定されがちですが、実際には被相続人が「借家に住んでいた」「テナントとして事業用不動産を借りていた」というケースも多く存在します。こうした場合、相続人は不動産の「借主」としての地位を引き継ぐことになります。

このような状況では、滞納賃料の支払義務や原状回復義務といった負担が突然降りかかることもあるため、慎重な対応が求められます。

被相続人が借主だった場合の引継ぎ

民法第896条により、被相続人の賃貸借契約上の地位は包括的に相続されます。つまり、被相続人が借主として契約していた場合、その賃借権債務も原則として全ての相続人法定相続分に応じて承継します。

また、賃借権は不動産の使用収益という性質上、相続人間では「準共有」の状態になります。さらに、賃借権そのものは契約期間中であれば賃貸人の同意なくして相続されるため、退去しない限りは契約は継続中とみなされ、賃料も発生し続けることになります。

特に、被相続人が1人で居住していた賃貸物件であれば、速やかに以下の点を整理すべきです。

  • 契約の継続か解除かを判断する
  • 継続する場合は、代表相続人または誰が引き継ぐかを決める
  • 賃貸人と連絡をとり、契約変更解除の協議を行う

相続放棄・限定承認の検討ポイント

賃借物件の相続で特に注意したいのが、滞納賃料や原状回復義務など、支払い義務も相続の対象になるという点です。
とくに次のようなケースでは、相続放棄限定承認の検討が強く推奨されます。

  • 滞納賃料がある
    被相続人が生前に滞納していた賃料債務は、相続人が法定相続分に応じて分割して引き継ぐことになります(可分債務)。
  • 原状回復や損傷がある
    被相続人の退去後に賃貸人から原状回復義務や損害賠償を請求されるケースもあります。これらは賃貸借契約終了時に初めて確定する「連帯債務的」な性格を有するため、相続人が連帯して負担すべき債務と解される場合がある点に注意が必要です。

相続放棄・限定承認の手続き

  • 放棄は死亡を知ってから3か月以内に家庭裁判所に申述が必要
  • 不動産だけでなく債務も含めて整理する場合は限定承認も選択肢(相続財産の範囲内で債務を弁済)

滞納賃料・原状回復・敷金返還の処理方法

滞納賃料

被相続人が支払っていなかった分は、可分債務として相続人が法定相続分に応じて支払い義務を負います。代表して支払った相続人がいれば、他の相続人に対して立替分の償還請求が可能です。

原状回復義務

民法第621条に基づき、賃借物件は契約終了時に原状回復して返還しなければならないとされています。相続人全員が連帯して義務を負う可能性があるため、早期に業者の見積もりをとり、対応方針を協議する必要があります。

敷金返還請求権

敷金返還請求権は可分債権であるため、相続人が法定相続分に応じて取得します。もっとも、賃貸人は未払賃料や原状回復費を敷金から控除したうえでの返還となるため、相続人の間での清算が必要になります。

まとめ

ここまでの話で、注意すべきポイントは以下のとおりです。

  • 放置せず、早期に契約書と支払履歴を確認
  • 管理会社または賃貸人に速やかに連絡し、相続発生の報告と意向の伝達
  • 費用負担の合意が困難な場合は、弁護士の助力を受けて交渉や調停へ

被相続人が借家で暮らしていた場合、家財処分や原状回復など実務的な対応も含め、思った以上に手間と費用がかかります。
少しでも負担を軽減するために、早めの判断と、専門家への相談が有効です。

紛争を避けるためにできること

相続不動産の管理や賃料収入の分配をめぐるトラブルは、相続人間の信頼関係を壊し、長期化すれば家族関係にも深刻な亀裂を生じさせかねません。
こうしたトラブルの多くは、事前の話し合いや役割分担、そして専門家の関与によって未然に防ぐことが可能です。

この章では、実務的に有効な紛争予防策を解説します。

管理・賃料分配に関する協議のすすめ

相続不動産を共有する場合、特に重要なのが「誰が管理を担うのか」「賃料をどう分配するのか」について相続人間で事前に明確な合意を形成することです。

早期協議がもたらすメリット

  • 相続人間の誤解や不信感を未然に防げる
  • 賃料収入の受け取り・経費支払い・納税などが円滑に行える
  • トラブル発生時に備えた運用ルールを事前に定められる

協議事項の例

相続人間で協議するべき事項は、以下のようなものがあります。

  • 不動産の賃貸方針(貸すかどうか、売却も含めた方針)
  • 賃料の受け取り・管理方法
  • 経費(固定資産税、修繕費など)の分担
  • 代表者の選任とその権限
  • 将来的な売却や買い取りの可否・条件

協議内容は書面化(協議メモや覚書)することで、後々の誤解を防ぎやすくなります。
必ずしも公正証書である必要はありませんが、全員の署名・押印があると効果的です。

専任管理人・遺言での事前指定の意義

相続発生後ではなく、生前に対策を講じることでもトラブルを防げます。
その代表的な手段が、遺言書による専任管理人(例えば長男や信頼できる第三者)の指定や、遺産分割方法の明示です。

専任管理人を遺言で指定する利点

  • 相続発生後に「誰が管理すべきか」で揉めにくい
  • 所有者不明状態や管理責任の所在不明を避けられる
  • 相続人が遠方にいたり高齢の場合でも管理が安定する

指定の方法

  • 遺言書に「〇〇を相続不動産の管理人とする」旨を明記
  • 財産の帰属だけでなく、管理方法分配方針も併せて記載

また、信託遺言執行者の指定といった制度も活用すれば、より一層の法的安定性が確保されます。

弁護士などの専門家への早期相談の重要性

相続人間の協議が行き詰まった場合、あるいは協議が始まる前でも、「おかしい」と感じた段階で弁護士などの専門家に早期に相談することが紛争防止の鍵です。

専門家を介することで、感情的な対立が避けられ、冷静かつ実務的な解決に進みやすくなります。

弁護士に相談すべきタイミング

  • 遺言書があるが不動産の指定が曖昧
  • 相続不動産をどう活用すべきか方向性が定まらない
  • 相続不動産が複数人で共有されている
  • 賃料収入がすでに発生している
  • 一部の相続人が不透明な形で管理・賃貸を行っている
  • 賃料分配や管理負担に関して不公平感がある
  • 被相続人が借家に住んでいた
  • 相続放棄・限定承認をすべきか迷っている
  • 他の相続人から一方的に契約書や書面の提出を求められている

弁護士の関与がもたらすメリット

  • 法的根拠に基づいた公平な調整が可能
  • 書面化・合意内容の確認・不当請求の排除が可能
  • 将来的に訴訟になった場合にも証拠が整いやすい

まとめ

相続不動産は「価値ある資産」である一方で、「管理や分配が難しい共有財産」でもあります。相続人同士の信頼関係と、明確なルールがなければ、本来資産であったはずの不動産が争いの火種に転じてしまうこともあります。

だからこそ、管理と賃料の問題については「早めに話し合う」「専門家を介する」「生前から準備する」ことが、何よりも重要です。

よくある質問(Q&A)

ここでは、相続不動産の管理や賃貸に関して、相続人から実際によく寄せられる疑問について、Q&A形式で分かりやすくお答えします。

Q
相続不動産を貸すと税金はどうな?
Answer
賃貸による収入が発生すれば、相続人それぞれが「不動産所得」として所得税の課税対象になります。
相続後に不動産を第三者に賃貸し、賃料収入が生じた場合、その収入は「遺産」ではなく、各相続人に法定相続分に応じて確定的に帰属する「不動産所得」として扱われます。

具体的には、以下のような税金が関係します。

• 所得税(確定申告)
各相続人が自身の取得した賃料に応じて申告・納税

• 住民税
所得税に連動して課税

• 固定資産税・都市計画税
所有者(登記名義人)に対して課税されるため、共有者間で按分や費用清算が必要

なお、必要経費(修繕費、管理費、税金など)を差し引いた金額が課税対象になります。
Q
相続人の一人が反対していても貸せますか?
Answer
契約内容と賃貸借の形態によって異なりますが、原則として「通常の建物賃貸借契約」は全員の同意が必要です。
相続不動産は共有状態であり、賃貸という行為は「共有物の変更行為(民法251条)」に該当するため、基本的には相続人全員の同意が必要です。

ただし、次のような例外もあります。
・短期(3年以下)の定期借家契約や一時使用目的の賃貸契約は、「管理行為」に該当し、持分価格の過半数による合意で足りる場合もあります(民法252条4項)。

したがって、反対している相続人の持分割合や、契約の内容・目的によって貸せるかどうかが変わるため、事前に弁護士等に確認するのが安全です。
Q
賃料収入にかかる確定申告は誰がすればよいですか?
Answer
賃料は相続人ごとに法定相続分で分割され、それぞれが確定申告を行う必要があります。

最高裁の判例により、相続開始後の賃料は相続人に分割単独債権として確定的に帰属することが明確になっています。そのため、遺産分割が未了であっても、各相続人が自分の取り分について確定申告を行う義務があります。

たとえば、家賃月額15万円の物件で相続人が3人の場合、各人が5万円を受け取る前提で申告対象となります(受け取っていなくても所得として計上する必要があるケースも)。

注意点としては、以下の通りです。
• 共益費や管理費、修繕費、固定資産税などは必要経費として控除可能
• 家賃収入が年間20万円を超える場合は申告義務がある

収入の実態と分配方法が不明確な場合は、税務調査対象になりかねません。
代表者が受領している場合は、必ず相続人間で分配記録を残すことが大切です。
Q
裁判になったらどれくらい時間がかかりますか?
Answer
調停での解決を経て訴訟となった場合、少なくとも1年以上かかることが多いです。

東京都千代田区の相続に強い弁護士なら直法律事務所

相続不動産に関する問題は、「共有」という複雑な法制度の中で、感情や経済的利害がぶつかりやすい領域です。だからこそ、冷静かつ中立的な視点をもつ専門家の支援が、円満な相続と資産活用の鍵となります。

直法律事務所では、相続不動産の管理・賃貸・分配に関する法的サポートはもちろん、相続全般に関するご相談を随時承っております。お困りの際は、どうぞお気軽にご相談ください。

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