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弁護士コラム

葬儀費用は誰が負担する?相続財産から葬儀代の支払いはできる?

遺産分割のトラブル
投稿日:2025年01月16日 | 
最終更新日:2025年01月16日

Q
父が亡くなり、約250万円の葬儀費用を一旦私の預貯金から支払いました。
葬儀費用の負担について母や姉と意見が分かれており、今後の遺産分割が心配です。
私はパート勤務で資産が少なく、預貯金の大半を葬儀費用に使ってしまったので、相続財産から精算したいと考えています。

一般的な葬儀費用の負担者や相続財産からの支払い方法が知りたいです。
また、支払い済みの葬儀費用の領収書を一部紛失してしまいましたが、相続税の控除を受けられるのでしょうか。教えてください。
Answer
葬儀費用の負担者や支払い方法について、法律上規定はありません。
親族の話し合いで自由に決めることができ、多くは慣習に従って、故人の配偶者や長男・長女が優先的に喪主となり、葬儀費用を負担しています。

支払方法としては、香典で充当する方法相続財産や死亡保険金などで精算する方法が挙げられます。また、領収書を紛失しても、代わりとなる書類を用意することで相続税の控除を受けられる可能性があります。

この記事では、葬儀費用の負担者や支払い方法、相続税の控除の受け方と注意点について解説します。また、死亡保険金の活用方法、葬儀費用のトラブル回避のための事前対策などについても詳しく見ていきましょう。

葬儀費用の負担者は誰か

葬儀費用の負担者は法律上規定がありません。

喪主が負担すべきとする裁判例もあれば、相続人全員が相続分に応じて負担するべきという裁判例もあり、事案によって結論が大きく異なります。

一般的な慣習では、葬儀費用は葬儀の主宰者である喪主が主体となって負担するのが一般的です。また、話し合いで自由に負担者を決めることもできます。

葬儀費用の内容

一般的に、葬儀費用とは死者を悼む儀式及び埋葬等の行為に関する費用を指し、大きく分けて以下の5つの費用が該当します。

  1. 1葬儀業者に対し支払う費用(遺体搬送、棺柩その他祭具、通夜・告別式の会場賃借など)
  2. 2僧侶又は寺院に対するお布施
  3. 3会葬者への食事接待、礼品
  4. 4火葬費用
  5. 5納骨堂関連費用

葬儀費用を支払った者は、民法の先取特権という法律により、優先的に支払いを受けることができます(民法309条1項、2項)。

どのような故人であっても、身の丈に合った葬儀を受けられるようにという社会的配慮に基づく趣旨で定められているのですが、それぞれ、「債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額」「債務者がその扶養すべき親族のためにした葬式の費用のうち相当な額」と一般的な規定が設けられているだけであり、具体的な内容が定められているわけではありません。そのため、葬儀費用の種類や内訳をしっかりと確認する必要があります。

なお、香典については香典返しの費用を除いた後の部分が、葬儀費用として充当されます。葬儀費用との差額で香典が残った場合は、喪主が受け取ります。法的な根拠はありませんが、香典は故人の供養や遺族の慰謝だけでなく、葬儀の主宰者として負担を背負った喪主への贈与と考えられてきたためです。

反対に、香典で充当しきれず葬儀費用が不足する場合には、喪主または相続人が負担することが多いです。また、香典返しによる費用が発生するため、受け取った金額の半分ほどの金額が葬儀費用に充当されると考えたほうがよいでしょう。

慣習的に喪主が負担するケースが多い

一般的な慣習に従う場合は、葬儀費用は葬儀の主催者となる喪主が負担します。

喪主には、故人の配偶者や子ども、きょうだいなど相続人となる遺族が選ばれる傾向にあります。子どもが複数人いる場合には、長男や長女、特に男性が優先的に喪主に選任されるなど、家庭の状況によってさまざまです。

喪主が負担するケースが多い理由は、喪主が葬儀の主宰者として、全責任を負う立場にあることが挙げられます。判例でも、喪主が自己の責任や計算において、葬儀の内容や形式を決めて葬儀を執り行った以上、喪主に支払い義務が発生するのが相当であると判断されています。

なお、何らかの理由で喪主以外の親族が葬儀費用を負担する場合があります。その場合には「施主」と呼ばれる役職を担い、喪主とほぼ同等の役割を果たします。例えば、故人の配偶者が既に亡くなっていて、故人の長男が学生など喪主として費用を負担するのが難しい場合には、形式上は長男に喪主を任せるものの、故人のきょうだいや両親などその他の親族が施主となって、実際に葬儀費用を負担し、主宰するケースがあります。

相続財産からの支払いも可能

葬儀費用は、故人の相続財産から支払うことも可能です。

相続財産とは、資産と負債を含めた故人の生前に有していた財産を指します。故人となってから発生する葬儀費用という負債は、相続財産に含まれません。したがって、相続人が負担する費用ではないといえます。

一方、故人が生前のうちから葬儀費用を相続財産で支払うことを指定し相続人全員が合意していた場合には、相続財産からの支払いが適切なケースといえます。なお、葬儀費用が大きくなるほど相続できる財産が減ってしまい、そこで更にトラブルになる可能性があります。また、不用意に自分の口座に大金を移してしまうと相続放棄ができなくなったり、他の相続人から横領や私的に使用した使途不明金であると疑いをかけられたりするリスクがあるので注意が必要です。

葬儀費用を相続財産から支払う方法

葬儀費用は下記の3つの方法により支払い、既に支払い済みの場合は精算することが一般的です。

  1. 1遺産分割協議による合意
  2. 2預貯金の仮払い制度の利用
  3. 3死亡保険金からの支払い

それぞれの支払いまでの手順や注意点をそれぞれ解説していきます。

遺産分割協議による合意

遺産分割協議により、相続財産から葬儀費用を支払う方法があります。

葬儀費用は遺産分割の対象ではなく、作成は任意ですが、証拠として残りますし、後述する相続税申告の際に提出が必要になるケースがあるので、遺産分割協議書作成しておくと便利です。

遺産分割協議書に葬儀費用について、誰がそれぞれいくら取得して負担するのかについて合意した旨を記載しておきましょう。また、端数の少額の費用が出てきた場合や振込手数料が発生した場合は誰が負担するか、銀行の支店名や口座番号と共に明記しておくと、よりスムーズな遺産分割が期待できます。

預貯金の仮払い制度の利用

金融機関は、故人の死亡を確認した場合、故人の口座を凍結します。本人が亡くなったことで預貯金は相続人全員の共有の財産と判断されるからです。

しかし、2019年7月の相続法改正により、相続人が葬儀費用などの必要な金銭を銀行から仮払いしてもらえる「預貯金仮払い制度」が利用できるようになりました。引き出す時点で家庭裁判所の調停や審判の申し立てをしていなければ、遺産分割協議前の段階でも、相続人1人で請求することができ、金融機関ごとの出金が可能です。

出金額は、「相続開始日の預金残高×1/3×請求する相続人の法定相続分」の計算式で求められ、上限額150万円まで出金できます。なお、出金した金銭は、葬儀費用など使途を決めておき、他の親族に私的な使い込みを疑われないよう、領収書などをしっかり保管しておきましょう。

必要書類は主に下記の4点です。

  • 故人の出生から死亡までの除籍謄本、戸籍謄本、全部事項証明書
  • 請求する相続人の本人確認書類、印鑑証明書
  • 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
  • 申請書(各金融機関所定の様式)

(※金融機関によって必要書類や出金までの必要日数が異なる可能性があります。)

死亡保険金からの支払い

死亡保険金を葬儀費用に充当する方法について説明します。

まず、保険会社のお客様相談室や代理店に連絡を取り、必要書類を用意します。

必要書類は以下の通りです。

  • 請求書(保険会社所定の様式)
  • 死亡診断書
  • 被保険者の住民票や戸籍抄本(発行から3か月以内のものに限ります)
  • 保険証券
  • 振込口座届出書
  • 受取人の本人確認書類や印鑑証明書

死亡保険金は遺産分割協議を経ることなく、書類が揃えば受け取れる金銭です。ただし、死亡保険金が振り込まれてから払おうとすると葬儀費用の支払期限に間に合わないことがあるので、早めに請求する必要があります。解約払戻金を受け取っていた場合には死亡保険金が貰えないことがあるので、保険証書などで契約内容をよく確認しておきましょう。

(※保険会社によって必要書類や出金までの必要日数が異なる可能性があります。)

葬儀費用による相続税の控除について

葬儀費用としてかかった部分は、相続税の控除を受けられます。葬儀費用は金額が大きいため、相続財産総額から葬儀費用を控除できれば、相続税を大幅に減らすことが期待できます。

葬儀費用は相続税の控除対象となる

法律上、葬儀は主宰者と葬儀業者との契約であり、かかった葬儀費用は相続税を計算する際に遺産総額から控除して、相続税を安く抑えることができます。社会通念上、故人のためにお金をかけて葬儀を行うことは当然のこととされているため、控除の対象として認められています。先述の通り5つに分けた葬儀費用の中でも、控除の対象となる費用対象にならない費用があります。

控除の対象となる費用は、具体的には以下の通りです。

  • お通夜、葬儀、告別式での祭壇や骨壺、マイクロバス代などの費用
  • 火葬、埋葬、納骨に関する費用
  • 葬儀に関して振る舞われた料理代やお菓子代
  • ご遺体の搬送費用
  • 寺院や僧侶に支払うお布施、読経料、戒名料、お車代
  • 葬儀を手伝ってくれた人への心づけ
  • その他葬儀に伴いかかった交通費、死亡診断書等の費用

反対に控除の対象とならない費用は以下の通りです。

  • 香典返しの費用
  • 墓碑、墓地の購入代金、墓地の借入料
  • 初七日法要や1周忌の費用
  • 死亡解剖に要した費用
  • その他喪服代、遠方から参列してくれた親族の宿泊費用

控除できる葬儀費用の範囲と上限

葬儀費用の全てが相続税の控除対象となるわけではありません。

国税庁が定める葬式費用として控除できる範囲や上限は、以下のようなものです。

(1) 葬式若しくは葬送に際し、又はこれらの前において、埋葬、火葬、納骨又は遺がい若しくは遺骨の回送その他に要した費用(仮葬式と本葬式とを行うものにあっては、その両者の費用)
(2) 葬式に際し、施与した金品で、被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに要した費用
(3) (1)又は(2)に掲げるもののほか、葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うものと認められるもの
(4) 死体の捜索又は死体若しくは遺骨の運搬に要した費用

(引用:国税庁ホームページ 第13条《債務控除》関係|国税庁

実務上認められている費用の範囲と上限額は具体的な金額では定まっていないものの、目安としては、葬式の前後にかかる費用のうち必ず必要な費用であり常識的に妥当であり極端に高額ではないと判断されるような金額に抑えなければなりません。

葬儀費用控除の注意点

控除申請時には、領収書原本の保管が最も重要となります。

領収書がない状態での申告は、架空計上や脱税と判断されて控除を受けられなかったり、税務署から厳しい指摘を受けたりする恐れがあります。一度紛失すると、再発行ができないと考えておくのが無難でしょう。万が一、領収書を紛失した場合や、心づけなど領収書の発行をお願いしにくい性質の費用の場合には、メモや帳簿に詳しく丁寧に情報を記載すると、領収書の代わりとして申告時に相続税の控除を受けることが可能です。

具体的には下記の内容が明記されているかチェックする必要があります。

  • 葬儀業者やお寺の名前、担当者や僧侶の氏名
  • 支払先の住所や電話番号
  • 支払った日付、金額、目的
  • 葬儀の内容

なお、領収書の宛名は喪主または相続人など代表者の名前を入れてもらいましょう。受け取った代表者は、自宅の金庫などで厳重に保管して覚えておくようにしましょう。

また、お布施は対価ではなく謝礼の気持ちであり、そもそも取引ではないという理由から領収書を発行しないお寺もありますので、事前に確認しておくことが大切です。

葬儀費用に関するトラブルを防ぐために

葬儀費用を巡るトラブルにはさまざまなものがあります。葬儀は価値観や宗派によっても大きく異なります。

故人の子どもやきょうだいが多い場合や、見栄や世間体を気にして豪華な葬儀をしたいと主張する親族がいる場合には、特にトラブルになりやすいです。そのため、故人が生前のうちに葬儀費用について話し合いを重ねておくことが大切です。また、遺言書で葬儀費用について指定しておくことで、トラブルを避けられるようになります。

生前に葬儀費用について話し合っておく

まず、故人が生前のうちに、喪主や相続人となる可能性のある親族全員で話し合いをすることです。

具体的な話し合いの進め方とポイントとしては、まずは喪主、すなわち葬儀費用の負担者を決めておきましょう。葬儀の規模や形式について故人の希望をできるだけ聞き取り、相談先として信頼できる葬儀業者や弁護士を見つけておくことが重要なポイントです。

遺言書で葬儀費用について指定しておく(してもらう)

次に、故人が生前のうちに遺言書で葬儀費用に関して指定しておくことです。喪主は誰がやるのか、どのような方法で葬儀費用を支払うか規模や形式などを明確に生前のうちに指定してもらうとスムーズな葬儀が期待できます。

ただし、遺言書通りに執行できるよう法的強制力を持たせる事項は限られています。これを遺言事項といいますが、葬儀費用の指定は遺言事項に含まれず、付言事項として遺族に向けたメッセージと共に書く必要があります。最終的には故人の遺志を汲み取って付言事項を実行しようとする遺族全員の協力が必要不可欠です。

遺言書の種類には、自分で作成する自筆証書遺言秘密証書遺言、公証役場で立ち会いの下で作成と保管がしてもらえる公正証書遺言の3つがあります。遺言書の記載内容や種類を間違えるとかえってトラブルの原因になりますので、不安な場合には弁護士などの専門家に作成を依頼することも検討しましょう。

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相続や葬儀に関しては話し合いでの決定が基本となり、実際は慣習に従うのが一般的です。そして、支払い方法をいくつか用意して、遺族全員と合意できる方法で葬儀及び相続税申告に臨むのが理想です。法律で規定がないだけに長期化や泥沼化を招きやすく、当事者となると正確な判断がなかなかできないものです。

少しでも不安になった時点で、弁護士などの専門家に相談し、事前対策を練っていきましょう。

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