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弁護士コラム
生命保険金は相続財産になるのか?最高裁判例をもとに解説!
- 遺産分割のトラブル
- 投稿日:2023年06月06日 |
最終更新日:2024年04月22日
- Q
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相続人が受取人である生命保険金は、相続財産になるのでしょうか?
また、保険金受取人を「法定相続人」と特定していた場合は、
相続放棄をした者であっても、その1人として考えるのでしょうか?
- Answer
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保険金受取人を相続人と指定された生命保険金は、相続財産にはなりません(保険金受取人の固有財産になります)。
また、保険金受取人を相続人と指定された生命保険金は、被相続人が死亡した時点における相続人の固有財産になるため、相続放棄をした相続人であっても受け取ることができます。
本コラムで詳しく解説します。
最高裁判例
この点について、最高裁判所平成16年10月29日決定は、次のように判断しています(①から④の番号は解説の便宜上から振ったもので、判決文の原文には記載されていません)。
①被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人と指定して締結した養老保険契約に基づく死亡保険金請求権は、その保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであって、保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく、これらの者の相続財産に属するものではないというべきである。 |
①について解説
最高裁の上記決定のうち、①の部分は、生命保険金は保険金受取人に指定された者の固有財産であり、相続財産(被相続人の遺産)からは離脱しているという伝統的な判例理論(大審院昭和6年2月20日判決、最高裁判所昭和40年2月2日判決)を確認したものになります。
保険金請求権は、被相続人の死亡によって発生するものです。そのため、既に死亡している被相続人の遺産に含まれることはありません。
なお、最高裁判所昭和40年2月2日判決は、保険金受取人が抽象的に「相続人」と指定されたケースについて、「特別の事情がない限り、被保険者死亡の当時相続人たるべき個人を指定した「他人のための保険契約」と解するのが相当であり、当該保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に、相続人の固有財産となり、被保険者の遺産より離脱していると解するのが相当」と判断しています。
さらに、保険受取人が抽象的に「相続人」と指定され、かつ複数の相続人がいるときの帰属割合について、最高裁判所平成6年7月18日判決は、「保険契約において、保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合は、特段の事情のない限り、右指定には、相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を相続分の割合によるとする旨の指定も含まれているものと解するのが相当である。ただし、保険金受取人を単に「相続人」と指定する趣旨は、保険事故発生時までに被保険者の相続人となるべき者に変動が生ずる場合にも、保険金受取人の変更手続をすることなく、保険事故発生時において相続人である者を保険金受取人と定めることにあるとともに、右指定には相続人に対してその相続分の割合により保険金を取得させる趣旨も含まれているものと解するのが、保険契約者の通常の意思に合致し、かつ、合理的であると考えられるからである。」と判断しています。
②また、死亡保険金請求権は、被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり、保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであるから、実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることはできない。したがって、上記の養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当である。 ③もっとも、上記死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであり、保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。 ④上記特段の事情の有無については、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。 |
②③④について解説
最高裁判決②③④は、生命保険金が相続財産にならないとしても、特定の相続人が保険金受取人に指定されているときは、特定の相続人の特別受益となり、相続分の計算をする際に相続財産に算入されるかどうか(これを「持ち戻し」といいます)について判断したものになります。
民法903条1項は、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」と規定しています(これに該当するものが「特別受益」になります)。
保険金受取人が生命保険金を受け取ることができるのは、被相続人が生前に保険料を払い込んでいたからこそです。
そのため、被相続人が生前に保険料を払い込んだことが民法903条1項の規定する「遺贈」や「贈与」(すなわち「特別受益」)に該当するかどうかが争われたのですが、最高裁判決②はこれを否定し、原則として特別受益ではないと判断しました。
とはいえ、保険金の金額によっては、保険金受取人として指定された相続人と他の相続人との間に「民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しい不公平」が発生します。最高裁判決③は、そのような著しい不公平が発生するときは民法903条を類推適用して特別受益とするという例外的な場合について言及しました。
そして、最高裁判決④は、上記の著しい不公平が発生するかどうかを判断する際の具体的な基準を列挙したものになります。
保険金受取人が「相続人」と指定されている場合に相続人が相続放棄をしたケース
民法939条が「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」と規定していることから、相続放棄をすると、保険金受取人となることができる「相続人」という資格を失うのではないかが問題となります。
この点について、名古屋地方裁判所平成4年8月17日判決は、搭乗者損害保険の死亡保険金について、死亡保険金請求権は被保険者の死亡により保険金請求権が発生した時点における第1順位の法定相続人が取得してその固有財産となったので、その後にその相続人が相続放棄をしたとしても後順位の相続人が保険金を取得することはないとの判断を示しています。
また、民法に関する最高の権威書である「新版注釈民法(27)」は、「相続放棄は相続財産の帰属のみに関わり、相続放棄者は相続財産に含まれない財産(受取人の固有財産と考えられる生命保険金請求権など。名古屋地判平4・8・17判タ807・237参照)の取得、祭祀財産の承継、さらには、相続人不存在となる場合の特別縁故者として財産の分与を受けることも妨げられないとされる。」と記載し、上記名古屋地裁判決を支持しています。
したがって、保険金受取人が「相続人」と指定されている場合に相続人が相続放棄をしたとしても、相続放棄をした元相続人は自身の固有財産として保険金を受け取ることができます。
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このように、被相続人の死亡によって発生する生命保険金は、被相続人が死亡した時点における相続人の固有財産となり、各相続人が相続分の割合に従って取得することになります。
なお、相続放棄は被相続人の死亡後にすることができるものであり、相続放棄をする時点では相続分の割合による保険金が相続放棄をした相続人自身の固有財産となっているため、相続放棄をした相続人であっても保険金を請求することができます。
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