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弁護士コラム

相続財産を相続人の1人に勝手に処分された!どうしたらよい?

遺産分割のトラブル
投稿日:2023年04月06日 | 
最終更新日:2024年06月06日
Q
被相続人の生前から死後にかけて、相続人の1人が勝手に財産を処分してしまったのですが、どうしたらよいでしょうか?
また、遺産分割をする前に、相続人の1人が勝手に遺産を管理・収益した場合の対処法も知りたいです。
Answer
相続人の1人が勝手に被相続人の財産を処分したり、管理・収益したりしたときは、その時期が被相続人の死亡の前か後かによって取りうる方法が異なるため、場合を分けて検討する必要があります。
本記事でそれぞれ、説明していきます。

相続財産を相続人の1人に勝手に処分されたらどうする?相続に強い弁護士が動画で解説

被相続人の「生前」に、相続人の1人が勝手に被相続人の財産を処分したとき

被相続人は、自分の財産を勝手に処分した相続人(この人のことを「A」と呼ぶことにします)に対し、損害賠償請求をすることができます。

被相続人がAに対する損害賠償請求権を行使せずに死亡したときは、損害賠償請求権は相続分の割合に応じて法律上当然に分割されますので(最高裁判所昭和29年4月8日判決)、それぞれの相続人は自身の相続分の割合に応じて分割された損害賠償請求権を行使することになります(具体的には、民事訴訟を提起することになります)。

この場合、Aに対する損害賠償請求権は、相続開始と同時に法律上当然に分割されていますので、本来であれば遺産分割の対象とはなりません。ただし、相続人全員(被相続人の財産を勝手に処分した相続人を含みます)の合意があれば、実務では遺産分割の対象に含めています(なお、実務では、明確な異議なく遺産分割調停や審判に応じれば、黙示の合意があるものとして扱われています)。

また、被相続人は、買主に対し、所有者でない無権利者から買ったとして、Aが勝手に売却した物の返還請求をすることもできます。

これに対し、買主としては、Aは被相続人の代理人としての立場で売ったと反論することが考えられるでしょう。被相続人がAに代理権を与えていなかったとしても、Aに代理権が与えられていたと誤解するような外観が存在し(被相続人がAに実印を預けたときなど)、相手方が過失なく上記の外観を信じて買ったときは、その売買の法律効果は被相続人に帰属することになります(これを「表見代理」といいます。要するに、相手方との関係では、被相続人がAを代理人にして売ったのと同じ結果になるということです)。

なお、Aが、被相続人名義の預貯金を勝手に出金したとしても、金融機関は、通帳と銀行印が正規のものであることを確認すれば、通常は債権の準占有者に対する弁済として民法478条によって免責されますので、金融機関の責任を追及することは困難です(なお、出金額が200万円を超えるときは、犯罪収益移転防止法によって運転免許証等による本人確認が義務付けられていますので、この場合に金融機関が本人確認を怠ったとしたならば、尽くすべき注意義務を尽くしていないとして金融機関に対する責任追及ができるものと思われます)。

被相続人の「死後」に、相続人の1人が勝手に被相続人の財産を処分したとき

この点について、民法906条の2は、遺産分割前に特定の相続人が遺産を処分したときには、その相続人を除く他の相続人全員が合意することで、その処分をなかったものとすることができると規定しています。

そのため、Aを除く相続人全員が合意すれば、Aが相続する財産からAが勝手に処分した遺産相当額を減額することができます。そして、Aが相続する財産よりもAが勝手に処分した遺産相当額のほうが多額であれば、Aが相続する財産はゼロとした上で、それを超える部分はそれぞれの相続人がそれぞれの相続分の割合に応じ、Aに対する損害賠償請求訴訟を提起するなどの方法によって回収を目指すことになります。

なお、他の相続人全員の合意を得られなかったときは、Aの遺産の使い込みについて遺産分割手続の中で処理することができません。そのため、遺産分割手続においては、現実に残っている遺産を対象として、Aを含む全ての相続人に対し、それぞれの相続分の割合に応じて分割されることになります。

そして、その後にそれぞれの相続人がそれぞれの相続分の割合に応じ、Aに対する損害賠償請求訴訟を提起するなどの方法によって回収を目指すことになります。

遺産分割をする前に、相続人の1人が勝手に遺産を「占有管理」しているとき

相続人の1人(この人のことを「A」と呼ぶことにします)が遺産を占有管理しているときは、占有管理を始めた時期が、被相続人の生前からなのか死後からなのかで場合を分けて検討する必要があります。

Aが被相続人の生前から遺産を占有管理しているときは、被相続人との間に遺産の占有管理に関する何らかの契約使用収益の対価を支払っているときは賃貸借契約、使用収益の対価を支払っていないときは使用貸借契約)が存在することが想定されます(契約は黙示の意思表示によっても成立するため、Aが占有していることを被相続人が知りつつ何らの異議を述べないまま死亡したときは、被相続人の生前に使用貸借契約が黙示的に成立している可能性があります。また、遺産を占有管理しているAからは、「被相続人の許諾を得て占有していた」という主張がなされることが想定されます)。

Aが被相続人と締結した契約に基づいて遺産を占有管理しているときは、他の相続人は被相続人の権利義務を包括承継する結果、Aとの契約関係も承継することになるため、Aは、他の相続人に対し、自身の占有管理が契約に基づく正当なものであることを主張することができます。

これに対し、他の相続人としては、Aと被相続人との間の契約関係が解消されたことを主張立証するほかありませんが、その主張立証はかなり難しいものと思われます。

Aが被相続人の死後から遺産を占有管理しているときは、既に死亡している被相続人との間の契約関係は想定できません。もっとも、相続人であるAには相続分に応じた共有持分という占有権原があるため、それに基づいて遺産の全部を占有管理することができます(ただし、共有持分を超える残部の使用は、他の相続人に対する関係では不当利得になります)。

しかし、共有に関する管理は持分の過半数で行われることから、他の相続人が過半数の共有持分を集めて「Aではない者に占有管理を任せる」旨を決議すると、Aに対して明渡しを求めることができるようになります。 

遺産分割をする前に、相続人の1人が勝手に遺産を「収益」しているとき

相続開始後に遺産から発生した果実や収益(例えば家賃、地代、駐車場代等)は相続財産そのものではないことから、遺産分割の対象とはなりません(それぞれの相続人がそれぞれの相続分の割合に応じて取得することになります)。

この点について、最高裁判所平成17年9月8日判決は、遺産である不動産から発生した賃料債権について、「遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である」との判断を示しています。

そのため、相続開始後に遺産から発生した果実や収益に関する紛争は、遺産分割調停・審判ではなく、民事訴訟(不当利得返還請求訴訟ないし損害賠償請求訴訟)によって解決を目指すことになります。相続人の1人(この人のことを「A」と呼ぶことにします)が相続開始後に遺産から発生した果実や収益を独占しているときは、他の相続人は、Aに対し、自身の相続分に応じた金額の支払いを民事訴訟等によって請求することになります。

ただし、実務では、相続人全員が合意すれば、例外的に遺産分割調停・審判の対象に含めることができるとしています(東京高等裁判所昭和63年1月14日決定、東京高等裁判所昭和63年5月11日決定)。

相続人の1人が勝手に財産を処分してしまったら、弁護士に相談を

このように、Aが被相続人の財産を勝手に処分したり、遺産から発生した果実や収益を独占したりするときは、相続人全員が合意すれば遺産分割調停や審判で解決することができます(被相続人の生前の処分はAを含む相続人全員の合意、被相続人の死後の処分はAを除く相続人全員の合意が必要です)。

これに対し、相続人全員の合意が得られないとき(反対の意思を明示する相続人がいるとき)は遺産分割調停や審判で解決することができません。この場合は、それぞれの相続人がそれぞれの相続分の割合に応じて分割された損害賠償請求権や不当利得返還請求権を行使し、民事訴訟での解決を目指すしかありません。

また、Aが遺産の占有管理をしているときは、被相続人の生前に、被相続人との間で遺産の占有管理に関する何らかの契約を締結しているかどうかが重要なポイントになります。何らかの契約を締結しているときは、その契約が解消されるまでの間はAに対して明渡しを求めることはできませんが、そうでなければ、他の相続人が過半数の持分を集めて決議することで、Aの占有権原を奪い、Aに対して明渡請求をすることができます。

相続人の1人が勝手に財産を処分してしまった場合等では、法的な手続が必要になります。直法律事務所には、相続法務に精通した弁護士が親身にご相談を承ります。お困りの際は、こちらのお問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせください。

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