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弁護士コラム
【不動産の鑑定】相続人が手続に協力してくれない...こんなときどうする?
- 遺産分割のトラブル
- 投稿日:2023年02月01日 |
最終更新日:2023年02月01日
- Q
- 不動産の鑑定をするのですが、裁判所がその鑑定費用の予納を命じても相続人の中に予納をしない者がいるため、手続が進みません。なにかよい方法はないでしょうか?
- Answer
-
手続が進んでほしいと希望する相続人が、鑑定費用を立て替えるべきです。
本記事でわかりやすくご説明します。
鑑定の必要性
遺産分割調停や審判において、遺産の評価に争いがあったとしても、当事者間で評価額に関する何らかの合意が形成できれば、鑑定をする必要はありません。
遺産の評価で最も深刻な争いになりやすいのが不動産ですが、不動産については、
- 1固定資産評価額
- 2相続税評価額
- 3公示価格
- 4基準地標準価格(都道府県内地価調査価格)
といった公的な価格が存在します。
①固定資産評価額は時価の7割程度、②相続税評価額は時価の8割程度と言われており、そのままでは採用することはできず、時価換算するための適正な倍率をいくらにするかを相続人全員で合意しなければならないという問題点があります。
③公示価格と④基準値標準価格はほぼ時価に等しいと言われていますが、これらで示されているのは標準地ないし基準地の時価であるため、立地条件等が異なる遺産の土地にそのまま適用することはできず、やはり何らかの調整が必要になります。
とはいえ、裁判所の鑑定にはコストがかかることから、通常は、私的鑑定書(当事者が懇意にしている不動産業者等に依頼し、近隣の過去の売買額をもとに時価を推定したもの)をお互いに出し合って、いい塩梅の金額で合意することになります。
しかし、遺産の評価について深刻な争いがあり、当事者間で評価額に関する合意が形成できないときは、最終的には裁判所の鑑定によるしかありません(裁判所による鑑定の後に鑑定額を不満に思う相続人が私的鑑定を実施して鑑定合戦が始まることを防ぐため、実務では、私的鑑定書の提出を希望する当事者がいれば事前に提出させ、「裁判所の鑑定は、当事者が提出した私的鑑定書を踏まえた最終的なもの」という体裁をとることが通常です)。
裁判所は、鑑定人を選任した上で、鑑定人に対して鑑定を命じます。大規模庁であれば、家庭裁判所が候補者名簿を備えているため、その名簿の中から選任することになりますが、そのような名簿を備えていない家庭裁判所では、地方裁判所の民事執行担当部から候補者を紹介してもらうという運用をしています。
豊富な専門的知識を有し信頼できる鑑定人の確保は、どの裁判所も重要課題であると認識しています。というのは、お金をもらったとしても面倒ごとに巻き込まれるのは嫌だと考える人が多いことから、多くの裁判所で十分な人数の候補者の確保に苦慮しているからです。そのため、裁判所は、鑑定人に鑑定をさせたものの十分な報酬を用意できず、鑑定人に迷惑をかけるという事態を非常に嫌います(そのような事態になれば、悪評が広まり、裁判所の要請に応じて鑑定人になろうという人がいなくなってしまうおそれがあるからです)。
このような理由で、裁判所は、当事者から鑑定人の報酬相当額の予納がなされたことを確認した後でなければ、鑑定人を選任することはありません。 なお、家事事件手続法30条は、「事実の調査、証拠調べ、呼出し、告知その他の家事事件の手続に必要な行為に要する費用は、国庫において立て替えることができる。」と規定しています。しかし、「事実の調査、証拠調、呼出、告知その他必要な処分の費用は、国庫においてこれを立て替える。」と規定する家事審判規則11条(家事事件手続法の施行によって廃止)が存在していた当時でさえ、裁判所は国庫による立替えを実施していなかったことを考えれば、裁判所が今更国庫による立て替えをすることはないと考えるべきです。
鑑定費用の予納
鑑定を希望する当事者は、事前に鑑定人の報酬相当額の予納金を準備し、裁判所に納付しなければなりません。
鑑定費用(鑑定人の報酬相当額)は、対象物件や鑑定人によっても違いますが、数十万円から事案によっては百万円を超えることもあります(実務では、鑑定人候補者に事前に見積らせ、その金額を予納金としています)。
全ての当事者(遺産分割調停や審判における当事者は全ての相続人)が予納金の負担に納得していれば話は簡単です。それぞれの相続人がそれぞれの相続分の割合に応じて予納金を負担すればよいだけだからです。
しかし、相続人の中に予納金の負担に納得しない人がいると、事態は途端に面倒になります。
まず、裁判所は、通常、予納金の負担に難色を示している相続人に対して予納命令を出すことはありません。なぜなら、予納命令を出したところで実効性がないからです。
そこで、裁判所としては、予納金の負担に難色を示している相続人の説得を試みることになります。
例えば、遺産の中に現金や預貯金があるときは、「鑑定費用は相続人全員に共通の費用ですから、相続人全員の共通の財産である遺産から出しませんか」という説明をすると、自分の懐から金を出すことは嫌だと言う相続人も納得しやすいと言われています(遺産から予納金を出すことを当事者全員が同意すれば、予納金相当額を遺産から除外するとの合意が成立した旨が調書に記載されます)。
また、鑑定すべき多数の不動産が存在することで鑑定費用が高額になってしまうときは、「代表的な幾つかの不動産に限定して鑑定をし、鑑定をしない他の不動産については鑑定を実施した他の不動産の鑑定結果に準拠して裁判所が評価しても異議はない旨の合意をすることで鑑定費用を節約することができます」という説明をすると、それぞれの相続人の負担額が減るため、予納金の負担に応じてもらいやすくなります。
裁判所が説得を試みても予納金の負担に応じない相続人がいるときは、そのままでは鑑定を実施することができないため、鑑定を申し立てた相続人が予納金を立て替えて裁判所に納付するしかありません。
鑑定費用の最終負担
鑑定費用は、審判費用の一部を構成します。そのため、他の相続人が立て替えた予納金は、審判になれば、それぞれの相続人に対してそれぞれの相続分に応じて負担する旨が命じられることになります(家事事件手続法29条)。
しかし、調停は、相続人全員の合意がなければ成立させることができません。そのため、鑑定費用を立て替えた相続人は、鑑定費用の請求を諦めて調停を成立させるか、審判に移行してでも立て替えた鑑定費用の回収を目指すのかを選択しなければならないことになります。
遺産分割のトラブルは、弁護士に相談を
民事事件では、鑑定を申し立てた当事者が鑑定費用の全額を予納するのが通常です(鑑定費用は訴訟費用の一部となり、判決になったときは判決主文で訴訟費用の負担割合が命じられます)。遺産分割でも、審判に至れば、主文で審判費用(鑑定費用は審判費用の一部となります)の負担割合が命じられることになります。
しかし、調停は相続人全員の合意がなければ成立しないため、鑑定を申し立てた相続人に鑑定費用の全額を予納させると、鑑定費用の負担を嫌う相続人の納得を得られず、調停が成立しないリスクが高まります。そのため、裁判所としては、無用な紛争を減らし、相続人全員が鑑定結果を受け入れやすくするため、「相続人全員で希望して実施した鑑定」という体裁を整えることを好みます。裁判所は、通常、相続人全員に対し、相続分の割合に応じて鑑定費用を負担させるべく説得を尽くしますが、それはこのような理由からです。
とはいえ、鑑定費用の負担にどうしても応じない相続人がいるときは、そのままでは手続が進まないため、調停が成立せず審判に移行することも覚悟の上で、鑑定を申し立てた相続人に鑑定費用の全額の予納を命じて鑑定を実施することになります(勿論、予納命令を出す前に、予納命令が出たときには全額納付する意思があるかどうかの確認は済ませてあります)。
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