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弁護士コラム

預貯金の仮払い制度とは?~遺産分割前に預貯金を引き出す方法~

遺産分割のトラブル
投稿日:2022年11月29日 | 
最終更新日:2022年11月29日
Q
私は専業主婦をしています。
先日夫が亡くなり銀行にいったところ、遺産分割協議が終わるまで預貯金の払戻しはできないと言われてしまいました。何か方法はないものでしょうか?
また、他にも夫の遺産があるかどうか調べたいのですが、銀行の貸金庫をあけることは可能でしょうか?
Answer
遺産分割協議前に預金債権を引き下ろすには、
①預貯金債権の仮分割
②遺産分割前の預貯金債権の行使
という2つの方法が考えられますが、手続きの容易性の観点から、基本的には②の方法で引き下ろすことを検討すべきでしょう。

また、貸金庫を開けるためには、まず貸金庫の開錠権限を特定の者に付与した旨の遺言書が手元にあるかの確認をします。これがない場合には、相続人の全員の立ち合いの下で、又は一部相続人については同意書か委任状を得る方法によって、銀行で貸金庫の開錠手続きをします。

本記事で詳しくご説明します。

預貯金の仮払い

前提

相続は、被相続人の死亡により発生します(民法882条)。

相続がされると、相続人が複数いる場合には、民法第898条「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」という規定に従い、遺産分割が終了するまで相続人全員で共有することとなります。

そして、従来は、遺産分割協議前の預貯金債権は、相続分に従い相続人それぞれに帰属することから、相続人それぞれが持分に応じた預貯金の引き下ろしができるとする考え方と、相続人全員の共有状態となり、共同行使によってはじめて預貯金の引き下ろしができるという考え方が存在していました。

つまり、本ケースに置き換えると、被相続人である夫の妻が、遺産分割協議前に相続財産である預貯金債権の自己の相続分につき、単独で引き下ろすことができるか、それとも相続人による共同行使によってはじめて引き下ろすことができるのかという点の対立があったということになります。

この点について、最高裁の判断(最大決平成28・12・19決定、最判平成29・4・6判決)によって、遺産分割前の預貯金債権の払い戻しを受けるには、共同相続人全員による共同行使が必要とされることになりました。つまり、上記考え方のうち後者の考え方が採用されたのです。

そうすると、相続人である妻は、単独で預金債権を引き下ろせないこととなります。

では、本件でも、妻は夫の預金債権を一切引き下ろせないのでしょうか?

預貯金の払戻し制度

相続人の1人が、自己の持分についても単独で引き下ろせないとすると、葬儀費用・生活費・相続税・相続債務等のために行う緊急の支払いも困難となり、不都合な事態が生じることがあり得ます。

そこで、預貯金の払戻し制度が創設され、各相続人は、遺産分割が終わる前でも、一定の範囲で預貯金の払戻しを受けることができるようになりました。

具体的には、

  1. 1預貯金債権に限り、家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件が緩和され、また、
  2. 2預貯金債権の一定割合(金額による上限あり)については、家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口における支払を受けられる

ようになりました。

①預貯金債権の仮分割

従来から、家事事件手続法第200条2項に規定される「仮分割の仮処分」という制度がありました。これは、相続人による家庭裁判所への申立てが認められれば、遺産分割前であっても相続人間の共有財産である預貯金を認められた範囲で引出して使うことができるものです。

このように、上記最高裁の判断以前であっても、家事事件手続法200条2項の仮分割の仮処分を活用することによって、遺産分割協議が成立する前でも預貯金債権を分割することは可能でした。

しかし、家事事件手続法第200条2項による仮分割の仮処分は、「急迫の危険を防止するため必要があるとき」でなければ、仮処分が認められず、適用要件が厳格でなかなか利用できない制度でした。

そこで、家事事件手続法の改正によって新たに家事事件手続法200条3項が新設され、遺産に属する預貯金債権のみを対象とする場合に「急迫の危険を防止するため必要があるとき」という要件を「行使する必要があると認めるとき」という要件に緩和しました。

その結果、200条3項に基づく仮分割の仮処分の要件は、

  1. 1本案係属 (遺産分割の審判または調停の申立てが存在すること)
  2. 2権利行使の必要性 (相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を、当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときであること)
  3. 3他の共同相続人の利益を害しないこと

の3つであるといえます。

遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分

家事事件手続法第200条

(1項省略)
 家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者又は相手方の申立てにより、遺産の分割の審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。
 前項に規定するもののほか、家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権(民法第四百六十六条の五第一項に規定する預貯金債権をいう。以下この項において同じ。)を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでない。

仮分割仮払い制度は、預貯金の仮払いとは異なり、払戻し金額に1/3という制限はありませんが、他方で、遺産のうち「市場性のある遺産総額」の法定相続分が上限となり、相続債務があるときは、遺産総額の計算にあたり考慮されます。
また、「仮払い」制度であり、遺産分割調停・審判では、仮払いされた預金を含めて調停・審判をすることとなります。

②遺産分割前の預貯金債権の行使

上述した仮分割仮払制度は、裁判所による手続きも要することから、時間・費用等の面でのコストが大きく、緊急時に容易に利用できる制度ではありませんでした。

そこで、平成30年の民法改正によって民法第909条の2が新設されました。

同規定によって、各相続人は、遺産分割協議が整う前でも単独で、裁判手続きを経ずに、預貯金債権の3分の1に自身の法定相続分を乗じた金額について、払戻しを行うことができることとなりました。

次に、具体的な算定方法を考えてみましょう。

例として、被相続人の財産として、甲銀行の普通預金に600万円、乙銀行の普通預金に900万円の預金があった場合で、法定相続人が妻と子供というケースを考えてみましょう。

この場合、被相続人の配偶者である妻(法定相続分2分の1(民法900条1号))は、遺産分割成立前に単独で、甲銀行から100万円(=600万×3分の1×2分の1)、乙銀行から150万円(=900万×3分の1×2分の1)の預金払戻しを受けることができることとなります。

もっとも、預貯金の引き出しには、金融機関ごとに150万円までという限度額がありますので注意してください。

上記例によれば、仮に乙銀行に1200万円の預金債権があった場合には、計算上は200万円(=1200万×3分の1×2分の1)が払戻しを受けられる額ということになりますが、このうち150万円の限度でしか引き下ろすことができないということになります。

そして、この民法909条の2の規定に基づいて預貯金の払戻しを受けるには、相続人の一人は金融機関に対し、

  1. 1被相続人が死亡した記載のある除籍謄本
  2. 2相続人の範囲及び法定相続分が分かる全戸籍(除籍・原戸籍も含む)

を提示していく必要があるといえます。

遺産の分割前における預貯金債権の行使

第909条の2

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

本件ケースの検討

ご相談者様が遺産分割協議前に預金債権を引き下ろすには、前述した通り、

  1. 1預貯金債権の仮分割(家事事件手続法200条3項)
  2. 2遺産分割前の預貯金債権の行使(民法909条の2)

という2つの方法が考えられます。

では、いずれの手続きによるべきなのでしょうか?

民法909条の2の方法による預貯金債権の行使には、先述した通り150万円という限度額があります。そのため、限度額以上の引き下ろしを求める際には、家事事件手続法200条3項に基づく預金債権の仮分割による方法によることを検討すべきでしょう。

もっとも、同法200条3項による方法は、裁判手続きを要する上、要件も民法909条の2より厳格であるといえます。

したがって、手続きの容易性の観点から、基本的には民法909条の2による方法で預金債権を引き下ろすべきでしょう。

まとめ

民法改正によって、被相続人の預金債権について、相続人の1人が払戻しを受けることは法律上容易になったものといえます。

もっとも、引き出す金額やその目的によっては法的手段や必要な手続きが大きく異なることになるので、迷われた場合には当事務所の弁護士にお問い合わせください。

貸金庫の相続

前提

貸金庫契約は、銀行の金庫室内の一部を貴重品などの保管場所として借りる賃貸借契約であるため、貸金庫を開錠する権限を有するのは契約者本人のみということになります。

そして、契約者が死亡した場合には、上記契約関係も相続人に承継されることとなります。

相続された契約関係は他の相続人との共有となること、貸金庫の中に保管されている被相続人の財産も遺産分割までは相続人間の共有状態にあるため、銀行側としても特定の相続人にのみ開錠権原を与えることができないでしょう。

そのため、相続人全員の同意によってのみ、貸金庫の開錠は認められているといえます。

では、貸金庫を開錠するためにはどのような手続きを踏む必要があるのでしょうか?

相続人による貸金庫の開錠

遺言がある場合

遺言には、遺言執行者の氏名と遺言執行者の権限の内容を書くことができます。

そのため、遺言に遺言執行者の氏名、及び同人の権限の内容として被相続人の貸金庫の開錠権限を加えることで、他の相続人の同意なく貸金庫を解錠することができます。

もっとも、このような遺言を作成しても、これを貸金庫に入れてしまうと遺言書に基づく遺言執行者を選任して、当該遺言執行者による貸金庫の開錠ができないので注意しましょう。

遺言がない場合

遺言執行者が貸金庫の開錠権限を有するとの遺言がない場合には、相続人全員の同意によってその全員で開錠しなければなりません

もっとも、現実に相続人全員が立ち会うことが難しい場面も多いでしょう。

そこで、立ち合いをすることのできない相続人については、あらかじめ貸金庫を解錠する事に関する同意書や委任状を集めておくことで、相続人の代表者が貸金庫を開けることができます。

なお、貸金庫の解錠に際し、立会人が相続人の代表者のみの場合には貸金庫の中身を確認できるにとどまるのが通常で、その解約と中身の持ち出しは原則としてできません。相続人の代表者によって、遺産を隠蔽される恐れがあるからです。

この場合において、相続人の中に連絡が取れない者や行方不明者がいる場合は、不在者財産管理人を選定して同人に開錠の場に同席してもらうべきでしょう。

不在者財産管理人が選定されれば、行方不明の相続人の代わりに遺産分割協議に参加したり、貸金庫の開扉に立ち会ったりしてもらうことも可能となるからです。

不在者財産管理人の選任や申立て方法がわからない場合には、弁護士や司法書士に相談することをお勧めします。

相続人全員の立ち合いの下で貸金庫の開錠を行う場合には、必要書類として以下の物を準備しておきましょう。

  • 貸金庫の契約者が死亡したことが分かる除籍謄本
  • 続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 貸金庫契約時の届出印
  • 貸金庫開扉申請書
  • 貸金庫の鍵もしくはカード

そして、相続人の一部が貸金庫の開錠に立ち会わない場合には、同意書や委任状の用意を忘れないようにしましょう。

全相続人の同意が得られず、貸金庫の開錠ができないとき

全相続人の同意が得られず、貸金庫の開錠ができない場合には、以下の3つの方法が考えられます。

①公証人に貸金庫の中身を確認する事実実験公正証書の作成を依頼しましょう。その後、家庭裁判所の審判で貸金庫内の遺産を取得するという方法があります。

②金融機関が、上記①の方法による開錠を拒否する場合もあります。この場合には、保全処分により遺産管理人を選任し、貸金庫の開扉をさせることになります(ただし、この方法でも、金庫内の開扉はできても、搬出はできません。遺産目録に計上し、最終的には、審判で取得して搬出します)。

③平成30年民法改正で認められた遺産の一部分割の審判で、「貸金庫契約の契約者たる地位」のみ一部遺産分割の審判をしてもらい、契約上の地位を引き継いだ相続人に開扉してもらう方法も考えられます。

本件ケースの検討

上記流れを踏まえると、まず相談者様は、貸金庫の開錠権限を特定の者に付与した旨の遺言書が手元にあるかの確認をすべきでしょう。

これがない場合には、相続人の全員の立ち合いの下で、又は一部相続人については同意書か委任状を得る方法によって銀行で貸金庫の開錠手続きをすべきでしょう。

具体的には、上記必要書類を準備した上で、銀行に貸金庫開錠の予約をし、相続人立会いの下で貸金庫を開錠し、貸金庫契約の解約手続きを行い、必要に応じて、相続人全員の合意のもと、中身を持ち帰りましょう。

相続人の同意が得られない場合や、行方不明者がいる場合等、貸金庫を開けることが困難な場合は専門家に相談しましょう。

まとめ

貸金庫の開錠権者を定めた遺言がある場合を除き、貸金庫の開錠は相続人全員の立ち合いの下、行わなければなりません。

そのため、相続人間でのトラブルがあり、貸金庫の開錠が困難な場合には専門家に相談しましょう。

お困りの際は、当事務所の弁護士にお問い合わせください。

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