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弁護士コラム
暴力をふるう子に相続させたくない!【相続廃除】
- 遺産分割のトラブル
- 投稿日:2022年08月24日 |
最終更新日:2022年08月24日
- Q
-
私の子供は長男、次男の2人です。
長男は日頃から暴力を振るい、非行を繰り返しています。
この長男を相続させないようにすることは可能なのでしょうか?また、可能なのであればその手続き方法を教えてください。
- Answer
-
家庭裁判所に請求して、長男の「廃除」が認められれば、長男の相続権を剥奪することができます。
本コラムで詳しく解説します。
廃除とは
廃除とは、相続人の意思に基づき、遺留分を有する推定相続人から相続権を剥奪する制度です(民法892条)。(「推定相続人」とは、現時点で最先順位にある相続人のことです。)
被相続人は、遺言をすることで、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続させることができます(最高裁判所平成3年4月19日判決は、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」との文言を用いた遺言について、「何らの行為を要せずして被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである」との判断を示しています)。
したがって、被相続人が特定の相続人に遺産を相続させたくないと考えるのであれば、他の相続人に遺産を「相続させる」との遺言をすればよいということになります。
ただし、相続人には「遺留分」があります。遺留分とは、遺言によっても侵害することができない相続人の権利であり、民法によって一定の割合が定められています。
今回のQでは、相続をさせたくない長男には8分の1の遺留分(相談者の配偶者が生存しているとき。配偶者が既に死亡していれば長男の遺留分は4分の1となります)があるため、相談者が次男に全ての遺産を相続させる旨の遺言をしたとしても、長男は、相談者の遺産の8分の1(相談者の配偶者が生存しているとき)ないし4分の1(相談者の配偶者が既に死亡しているとき)について、遺留分侵害額請求権を行使して取得することができます。
「廃除」とは、遺留分を有する推定相続人(設例では長男)から相続権を剥奪することで、被廃除者が遺留分侵害額請求権を行使できないようにする制度になります。
廃除事由
民法892条は、廃除事由として、
- 1被相続人に対する虐待
- 2被相続人に対する重大な侮辱
- 3その他の著しい非行
の3点を挙げています。
廃除が認められると、推定相続人から相続権を剥奪するという重大な効果が生じます。そのため、一時的な激情に基づくものや被相続人にも責任がある場合などは廃除事由にならないと考えられています。裁判所としても、相続権を奪うに値する程度のものであるかどうかを慎重に判断していると言われており、廃除の認容率は30%程度にとどまるとする文献もあるくらいです。
ところで、高齢者虐待防止法2条4項は、高齢者に対する虐待として、
- 身体的虐待
- 保護の懈怠(ネグレスト)
- 心理的虐待
- 性的虐待
- 経済的虐待
の5種類を規定していることから、廃除したい相続人が被相続人の養護者であるときは、高齢者虐待防止法に基づく虐待認定(市町村が行います)を受け、それを証拠として裁判所に廃除の請求をすることが考えられます(排除したい相続人が被相続人の養護者でなくても、高齢者虐待防止法に基づく虐待認定がなされるケースと同程度の虐待をしていたということを主張立証することで、廃除の請求が通りやすくなるでしょう)。
廃除の方法
廃除は、被相続人の生存中でも、あるいは遺言によってもすることができます。
前者は、被相続人の生存中に家庭裁判所に調停や審判を申し立てることによって行います。
後者は、遺言の効力が発生した後、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の請求をすることによって行います。
なお、廃除を求める相手方(設例では長男)が未成年者で、被相続人がその親権者のときは、その子のために特別代理人を選任することになります(民法826条1項)。
廃除の効果
廃除を認める審判が確定すれば、被廃除者(今回のQでは長男)は直ちに相続権を失います。この場合、裁判所書記官は、遅滞なく被廃除者の本籍地の戸籍事務管掌者に通知しなければならないものとされており(家事審判規則100条)、廃除請求をした人は、審判確定日から10日以内に戸籍の届出をしなければなりません(戸籍法97条)。
この点について、大審院昭和17年3月26日判決は、廃除の効果は届出によって発生するのではない(審判の確定によって直ちに発生する)との判断を示しています。
また、廃除を認める審判の確定が被相続人の死亡後であったときは、廃除の効果は被相続人の死亡時にさかのぼって生じるものと考えられています。
なお、廃除を認める審判は、被廃除者の相続権を剥奪するだけのものです。被相続人と被廃除者との間の扶養義務その他の身分関係には影響せず、被廃除者が受遺能力を失うこともありません(設例で言えば、長男を排除した後、相談者が長男に特定の遺産を相続させる旨の遺言をのこせば、長男はその遺産を取得することができます)。
また、廃除は代襲相続原因になりますので、被廃除者に直系卑属(今回のQで言えば、長男の子)がいると、被廃除者を廃除した上で他の相続人に遺産を相続させる旨の遺言をのこしたとしても、被廃除者を代襲相続した被廃除者の子は遺留分減殺額請求権を行使することができます(被廃除者の子が未成年者であれば、被廃除者は、被廃除者の子の法定代理人として被廃除者の子の遺留分減殺額請求権を代理行使することができます)。
廃除の取消
被相続人は、廃除を認める審判が確定した後であっても、いつでも廃除の審判の取消しを請求することができます。この場合に特別の理由は要りません。
また、被相続人は、遺言によっても廃除の取消しをすることができます。この場合は、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の取消しの請求をすることになります。
廃除の取消しの審判が確定すると、被廃除者(設例では長男)は相続人としての地位を回復します。排除の取消しの審判の確定が被相続人の死亡後であったときは、取消しの効果は被相続人の死亡時にさかのぼって生じるものと考えられています。
なお、被廃除者のほうから廃除の取消しを請求することは認められていません。
まとめ
このように、廃除が認められるには高いハードルがあります。
そして、この高いハードルを乗り越えて廃除を認める審判を得たとしても、被廃除者に代襲相続人がいるときは、他の相続人に全ての遺産を相続させる旨の遺言をのこしたとしても、被廃除者の代襲相続人に遺留分減殺額請求権を行使されてしまうことになります。
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