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「保険約款」「保険法」とはどう違う?それぞれの意味や内容・必要性について解説!

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投稿日:2022年06月27日 | 
最終更新日:2023年07月03日

「弁護士コラム」では、生命保険・火災/地震保険に関連するさまざまな情報をUPしておりますが、直法律事務所では、「保険金の不払い」(火災保険に関しては、「火災」を原因とする事故)に限りお問い合わせをお受けしています。何卒ご了承ください。

Q
保険に加入することは、保険会社との間で保険契約を締結することだと聞きました。
「保険契約」、「保険法」、「保険約款」の関係について、詳しく教えてください。
Answer
まず「保険約款」とは、保険契約を締結する場合に、同じ契約を締結する契約者に共通の契約条項をあらかじめ定めておいたものを指します。
保険契約においては、保険約款を用いた取引が広く行われています。

「保険法」において「保険契約」に関する規定があり、保険法の規定よりも保険契約者に不利な内容の保険契約・保険約款の定めは無効とされます。

したがって、保険契約・保険約款より保険法が優先されます。

保険約款とは

一般的に契約を締結する場合、契約締結当事者間の権利や義務を定める条項などの、合意内容が定められた契約書を締結します。こうした契約書には、それぞれの取引内容に応じた規定(条項)を設けるのが通例です。そのため、例えばAさんとBさん間の契約書は、CさんとDさん間の契約書と内容が異なるのが通常です。

しかし、保険契約は、保険会社が契約者毎に異なる内容の保険契約を締結するのではなく、あらかじめ保険契約について保険金の支払い条件などの内容を定めておき、それを適用することによって契約を行うという方法が取られています。

このように多数の相手と大量の契約を行う事業者が、顧客との間で契約内容について予め定めておくものが約款です。

そして、保険契約において、保険会社が保険料の支払い方法や保険契約者の告知・通知の義務、保険金を支払う条件などを主な内容として、これらについて定める約款が「保険約款」となります。

なお、約款については令和2年(2020年)4月1日に施行された改正民法において定型約款に関する定めが置かれ、それまで実務上、契約としての法的効力の認められてきた約款について明確な根拠が与えられることとなりました。

しかし、こうした改正はこれまでの保険契約実務を大きく変更するものではありません。

法的な根拠が明確となったという点を押さえておくことで十分でしょう。

保険約款の主な内容

保険約款には様々な保険契約の条件等に関する定めがあります。

保険約款の主な内容は、以下の事項となります。

保険契約を締結する際に全てを確認するのは困難かもしれませんが、重要な箇所については契約前に確認しておきましょう。

①定義

保険約款においては、その約款内で用いられる用語が保険契約においてどのような意味であるかを定める定義規定が置かれています。

保険約款を読むと難解な言葉が多数登場します。読んでいる際に分からない言葉が登場した際には、こうした定義規定を確認しましょう。

②保険の対象となる損害

保険契約は、被保険者に生じた一定の損害を填補するために締結されるものです。そのため、保険の対象となる損害がどのようなものかというのは非常に重要です。

保険約款を確認する際には、自身がカバーしようとしている損害が保険金支払いの対象に含まれているか確認しておくと良いでしょう。

③責任の限度

保険会社が保険契約において負う責任の範囲が限定されている場合には、責任の限度についての記載があります。

責任の限度が定められている場合には、それを超える金額については保険会社は免責されることになるため、事前に確認しましょう。

④保険金の支払い要件

被保険者にとって重要な条項の一つです。保険金がどのような場合に支払われるのかという要件を定めるものです。

そのため、加入の際には必ず確認しておき、担当者の説明と内容が一致しているかも確認しましょう。

⑤告知義務

保険契約において、被保険者は一定の事項について保険会社へ告知する義務を負っています。

例えば、生命保険であれば、自身の健康状態や既往歴について正確に保険会社に申告し、告知する義務を負っています。こうした義務を「告知義務」と呼びます。告知義務違反が認められる場合には、保険金の支払いを拒否される可能性があります。

そのため、契約前にはどういった点について告知義務を負うのか、事前に確認しておくのが重要です。

⑥保険料の払い込み

保険契約では、被保険者は保険料を支払う義務を負います。そのため、保険料の払い込みについて約款内に定めがあります。

自身が負担するお金に関わる事項なので、保険料についても確認しておきましょう。

保険約款には2種類ある

保険約款には、「普通保険約款」と「特別保険約款」の2種類があります。

保険約款がどちらに     あたるかで、効果や内容が異なります。そこで、普通保険約款と特別保険約款の内容について解説します。

普通保険約款

普通保険約款とは、同一種類の保険の内容に共通する事項を定めた保険約款です。

保険約款とは、保険会社が多数の顧客と契約するためにあらかじめ保険契約に関わる約定を定めておくものになります。

約款は、契約者毎に個別の修正や内容の変更をしないで、定型的に定められたものです。約款には、先ほど挙げた保険金の支払い要件や、告知義務などの保険契約における一般的な事項が網羅されています。このような同一の種類の保険契約における共通事項を記載したものが普通保険約款となります。

一般的に保険約款とは、この普通保険約款が該当します。

保険契約の基本的な事項は普通保険約款に定めがあるため、約款を確認する際にはまず普通保険約款を確認しましょう。

特別保険約款

特別保険約款は、普通保険約款と異なり、普通保険約款の定めを排除したり、変更したり、または補充する役割を果たすものです。

約款ではなく契約書で契約を締結する場合には、契約書の定めを修正または変更し、その取引の実態に合致するように修正して締結します。しかし、前述の通り普通保険約款はこうした修正や変更を予定していません。誰とでも同じ内容で締結しているものであるため、個別に修正変更をするという性質をもつものではないからです。

しかし、それを厳格につらぬくと、保険商品毎の特約などを反映することができなくなってしまいます。そうした際に、普通保険約款の特別ルールを定めるのが、この特別保険約款です。

特別保険約款に定められた事項については、普通保険約款に定められた事項に優先して適用されます。そのため、特別保険約款を確認する際には、保険商品の特約が反映されているかという観点から確認すると良いでしょう。

保険約款はなぜ必要なのか?

では、こうした保険約款はなぜ必要なのでしょうか。

保険約款の必要性は、それぞれ保険会社と顧客の2つの側面から説明が可能です。

保険会社にとっての必要性

保険会社は顧客に保険商品を販売し、その保険料から利益を得る事業を行うものです。そしてその契約相手は、多数の人が対象となるため、企業間の契約のように取引毎に契約書を締結し、その取引毎の特性を約定条件や合意内容に盛り込んだ書式を作成するというのは、極めて事務が煩雑になるので、およそ不可能と言って良いでしょう。

また、保険契約の内容は非常に複雑になっており、重要な事項以外の部分について取引毎に詳細を説明するのは保険会社にとって非常に重い負担であり、被保険者もその詳細を理解するのは難しいという側面があります。

他方で、契約条件自体が多くの顧客の間で共通しているものであれば、内容を理解できなかった人とそうでない人との間で大きな利益、不利益の差を生む可能性は低くなります。

こうした点を踏まえると、予め契約条件について定めておき、それぞれの顧客と同一の内容で締結するという約款を準備し、契約を締結することで、その内容に合意したものと扱えれば、保険会社にも顧客にもメリットがあります。そのため、約款を利用した契約締結が必要といえるでしょう。

顧客にとっての必要性

では、約款での契約は顧客にとっては何かメリットがあるのでしょうか。これについては、保険をはじめとする約款による契約が採用されている取引の性質上、細かく契約条件を確認するとかえって顧客にとって時間や手間がかかり、社会生活を送る上で不便であるという点が挙げられます。

また、保険約款は後述するように保険会社が作成しますが、監督官庁による内容の確認を経ているため、保険会社に一方的に有利な内容となるように作成されたものではありません。その他にも、仮に内容に問題があることが事後的に明らかになった場合には、消費者契約法などの規定により一部の効果が否定されるケースもあります。

このように、約款によって契約することは顧客にとってはスムーズに取引が行え、法律などにより顧客の利益が不当に害されることがないように保護が図られているのです。

保険約款は誰が作る?

では、こうした保険約款は誰が作るのでしょうか。これについては、先ほど少しご説明したように、保険会社が原案を作成します。しかし、これだけでは保険会社が自社に有利な内容のみを盛り込んだ約款となってしまう可能性があり、一般消費者の利益が不当に害されてしまう可能性があります。

そこで、保険約款については監督官庁である金融庁が内容について審査・確認を行うことが法令上定められています。

この審査・確認は以下のような事項について行われます。

①保険約款の記載内容

普通保険約款や特別保険約款の記載が、明確で簡素なものとなっているか確認を行います。

②補償または保証内容

保険商品によりカバーされる補償内容などが、法令に適合した内容であるかや支払い事由が明確になっているかという点などについて、審査・確認が行われます。

③告知義務について

告知義務を課す内容が、契約者にとって明確な内容となっているかや、保険会社にとって重要な事項に限られているかという点について、審査・確認が行われます。

④免責事由について

保険商品では、一定の事由については保険事故が生じても保険会社がその一部又は全部について補償する責任を免れる免責事由が定められています。こうした免責事由は、定め方によっては顧客の利益が害される可能性が高まります。そのため、免責事由の定めについて、合理的かつ公平性の観点から問題がないか確認が行われます。

⑤保険金額・保険期間等の定めについて

保険金額や保険期間も、保険契約において重要な事項の一つです。保険金額が補償内容などとバランスの取れた内容である事や、保険期間も保険契約者がリスクを填補するために適切な期間設定となっていなければ、保険契約の意味が失われてしまいます。そのため、これらの点についても審査・確認の対象となります。

この他の事項についても金融庁による審査が行われますが、顧客の利益が不当に害される事がないように、保険約款は内容が審査・確認される制度が取られているのです。

保険法の概要

保険商品は、多数の人の権利利益に影響を与える性質がある事から、法律によって保険契約一般に関する定めが置かれています。こうした一般的なルールを定めるのが保険法です。

保険法は、保険契約の締結から終了までの間における、保険契約の関係者の権利利益について定めることを目的とした法律です。

この保険法は、平成22年4月1日から施行された法律で、比較的新しい法律です。保険法が施行されるより以前は、保険契約に関する一般的な事項は商法の中に定めがありました。

商法は明治32年(1899年)に制定された法律ですが、制定されてから長期にわたって改正されていなかったため、表記の方法が旧字体(カタカナ表記)になっているなど、一般の人が内容を判読し理解するのは難しい内容となっていました。

また、内容も改正されていなかった期間が長いため、現在の保険制度と照らしたときに適合しないなどの問題点が指摘されていました。こうした指摘を受けて、保険契約について特に定めることを目的に制定されたのが保険法です。

保険法の制定により、商法では定めが無かった以下の事項について定めが置かれることになりました。

①共済契約の適用

共済契約とは共済事業を行う団体(共済組合)と契約者(組合員)が締結する契約であり、契約者に一定の事故が起きた場合に金銭を支払う契約となっています。

商法ではこうした共済契約については保険に関する規定の適用がされていませんでしたが、保険法の制定により共済契約も保険法の適用対象となりました。

②傷害疾病保険規定の新設

傷害疾病保険とは、医療保険や介護保険、がん保険などのように、人が一定に疾病や傷害に対して治療を受けた場合やそういった状態になったことを原因として保険金を支払うものです。

これも商法では定めがなく、保険法の制定とともに新設されました。

保険法の特徴

保険法は、先ほど挙げたような、商法のころにはなかった傷害疾病保険規定を新設し現代社会に対応した保険内容とするほか、保険内容に関する様々な点について、被保険者や保険契約者を保護するために以下の様な規定を新設しています。

また、保険法の特徴として、保険法の定め以上に被保険者に対し不利な保険契約の内容を定めても、その内容は無効とする片面的強行法規と呼ばれる特徴を持っています。

①告知制度

保険法では保険契約者や被保険者に対し、保険会社が告知を求めた事項について告知を行う義務を定めています。この告知義務に違反した場合には、保険会社が保険契約を解除できる旨を定めています。

保険契約上、保険法に定められた事項以上に告知義務を被保険者等へ課す等の不利な定めを行っても、その保険契約の定めは効力を生じません。

②被保険者の同意

保険法では、死亡保険で被保険者と保険契約者が異なる場合には、被保険者の同意が必要である旨を定めています。

死亡保険の場合には、被保険者の同意がない限り保険契約の効力が生じません。

③保険契約締結時の書面交付

保険法では保険会社に対し、保険契約時に次の事項について記載した書面を、保険契約者に対し遅滞なく交付する義務を定めています。

  • 保険会社の名称
  • 保険契約者の氏名または名称
  • 被保険者の氏名その他の被保険者を特定するために必要な事項
  • 保険金受取人の氏名または名称その他の保険金受取人を特定するために必要な事項
  • 支払事由
  • 保険期間
  • 保険金の額およびその方法
  • 保険料およびその支払いの方法
  • 危険増加に関する通知をすべき旨が保険契約において定められているときは、その旨
  • 保険契約を締結した年月日
  • 書面を作成した年月日

④支払事由発生の通知等

保険法では保険契約者に対し支払事由が発生した場合には、遅滞なく保険会社にその旨を通知するように定めています。

⑤保険会社の免責

死亡保険において、被保険者が自殺した場合や戦争などで死亡したケースなどでは、保険会社は保険金を支払う義務を免れるなどの免責がされる旨が定められています。

保険法と保険約款はどちらが優先される?

保険法と保険約款が異なる定めがされている場合、保険法と保険約款のどちらの定めが優先されるのでしょうか。これについて、以前の商法では、保険約款よりも法律が優先されていました。

しかし、保険法はこれを見直し、先ほども少しご説明したような片面的強行法規と呼ばれる制度へ変更をしています。

この片面的強行法規とは、保険法が常に保険約款に優先するのではなく、保険法の定めよりも保険契約者にとって不利な内容となっている場合にはその部分を無効とするというものです。

少し分かりにくいので具体例でご説明します。

保険契約において、被保険者は保険会社に対し告知義務が課されており、告知義務違反があった場合には、保険会社は契約の解除ができる旨が保険法上も定められています。

そのため、告知義務違反が認められる状況で被保険者が保険金の支払い請求をしても、保険会社は保険契約の解除を理由に保険金の支払いを拒否することになります。しかし、この場合に保険会社が保険金の支払いを拒否できるのは、あくまでも告知義務違反となった事実と支払い事由に因果関係がある場合のみです。

そのため、例えば保険約款で告知義務違反と無関係な事由によって支払い義務が発生した場合に、保険会社が保険金支払いを拒否できる定めや告知義務違反を理由とした解除を認める旨の定めがあっても、片面的強行法規の性質から効力は認められません。

まとめ

保険約款は、保険契約の内容や重要な事項について記載したものですが、その内容について把握している人は少なく、それにも関わらず約款の内容に原則として保険契約の関係者は拘束されます。

保険約款の内容は、保険法などに照らして適正な内容であることを金融庁が確認・審査したものであり、多くの場合は妥当な内容となっていますが、実際に適用する場面ではその約款が適切に適用されていないと、本来得られるはずであった保険金が得られないなどの損害が生じてしまう可能性があります。

約款だからといって内容を全く確認しないのではなく、重要な部分だけでもご自身が説明を受けた内容と対応した契約内容となっているか、本記事をご覧になったことをきっかけに一度確認されてみることをおすすめします。

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