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弁護士コラム
火災保険を契約する際の告示事項とは?
- その他
- 投稿日:2022年02月27日 |
最終更新日:2023年07月03日
「弁護士コラム」では、生命保険・火災/地震保険に関連するさまざまな情報をUPしておりますが、直法律事務所では、「保険金の不払い」(火災保険に関しては、「火災」を原因とする事故)に限りお問い合わせをお受けしています。何卒ご了承ください。
- Q
- 火災保険の告知事項とは何ですか。
-
告知事項とは、保険者(保険会社)が保険料を設定するにあたって参考とする保険契約者(被保険者)側の重要な情報のことを指します。
保険契約を締結する者(保険会社からするとお客様)と被保険者は保険会社に対して、以下の事項などを告知しなければならないことが多いです。
1. 保険の対象物
2 .保険の対象物の所在地
3. 保険対象物の所有者
4. 保険対象物を収容する建物の種類・構造・用途
(例:コンクリート建築なのか木材建築なのか、住宅なのか飲食店なのか等)
5. 他の火災保険契約等の有無(特に重複保険について)
※X社と火災保険契約を締結しつつ、Y社とも火災保険契約を締結する場合等を指します。
告知事項と告知義務
保険法4条には、「保険契約者又は被保険者になる者は、損害保険契約の締結に際し、損害保険契約によりてん補することとされる損害の発生の可能性・・・に関する重要な事項のうち保険者になる者が告知を求めたもの・・・について、事実の告知をしなければならない。」と規定されていることから、被保険者となる予定の方と保険契約者は保険会社に対して保険契約の締結時に保険対象に関する損害に結びつく重要な事実を告知しなければなりません。
またこの重要な事実について事実とは異なる内容を告げてはなりません。
ここで、保険契約者と被保険者という2つの言葉が出てきましたが、保険契約者とは、保険契約を締結した人で、保険料を支払う人を指します(保険法2条3号参照)。
被保険者は、保険金を受け取る人を指します(保険法2条4号イ参照)。
必ずしも両者は同じではありませんが、同一人であることが一般的です。
また、両者は個人に限定されず、法人でもなることが可能です。
そして、告知事項としては、ご質問に対する回答として説明した上記①〜⑤が典型的には挙げられます。
これらの事項が告知義務となっているのは、保険会社は、リスクに応じて保険料を設定するところ、これらの事項がリスクの判断材料となるからであり、また、これらの事項は保険契約者・被保険者(お客様)側のみが知っていることが多いためです。
告知義務に違反した場合
解除の可能性
保険法28条1項には、「保険者は、保険契約者又は被保険者が、告知事項について、故意又は重大な過失により事実の告知をせず、又は不実の告知をしたときは、損害保険契約を解除することができる。」と規定されていることから、お客様が上記告知事項を故意又は重過失により告知しなかった場合は、告知義務違反として保険事故の発生の前後を問わずに保険会社に保険契約を解除されてしまい、保険事故時に保険金が受け取れなくなる可能性があります。
もっとも、保険会社が契約時に告知義務事項を告知されなかったこと又は事実とは異なる事項の告知をされたことについて知っていた場合や保険会社の過失により知らなかった場合には、保険会社は契約を解除できません(保険法28条2項1号参照)。
また、告知義務違反のあった事項と発生した事故との間に因果関係がない場合も、保険会社は解除による保険金の支払拒否ができません(保険法31条2項1号ただし書参照、「因果関係不存在特則」と呼ばれます。)。
では、お客様が告知を求められた事項について知らなかった場合はどうなるのか?という疑問があると思います。
この疑問に対する判例の明確な見解は判明しておらず、知っている事実のみ告知すれば告知義務違反にならないとする学説や、知らなくとも知らないことにつき重過失がある場合には告知義務違反となるとする学説が対立しているのが現状ですので、可能な限り告知事項に関する事実ついて把握しておくのが良いでしょう。
解除の流れ
保険会社が告知義務違反による解除の意思表示をするときは、被保険者ではなく保険契約者に対して行います。
そして、解除は保険会社が告知義務違反を知った時から1ヶ月以内又は契約締結時から5年間以内に行われなければ、以後、保険会社は契約を解除できなくなります(保険法28条4項前段参照)。
そのため、解除されるとすれば、この間に行われるでしょう。
そして、保険契約が解除されると保険会社はお客様に対して保険事故による保険金を支払う責任を免れます(保険法31条2項1号本文参照)ので、被災したとしても保険金は受け取れません。仮に、被災により保険金が支払われた後であったとしても、その支払われた保険金は返還する必要があると保険会社の約款に規定されていることが一般的である点に注意してください(保険法31条2項3号参照)。
さらに注意すべき点は、解除がなされると経過していない保険期間※のお客様が支払った保険料は解約返戻金として戻ってきますが、既に経過した保険期間に対する保険料は戻ってこない点です。
※保険期間については「Q:火災保険の保険期間は?責任期間との違いについても解説」の記事をご参照ください。
重複保険
上記告知項目の中でも特に注意すべき項目が、⑤の他の保険契約の有無であり、それが重複保険に当たるかどうかという点です。
重複保険とは、お客様がX社と火災保険契約を締結し、さらにY社とも火災保険契約を締結し、両社と保険対象・保険事故・保険期間を同じくする契約を締結し、かつ、両者の保険金額(保険会社が支払う保険金の限度額で契約時に設定するもの)の合計金額が保険価額(保険対象の評価額)を上回る場合をいいます。
要件にするならば、以下の3つになります。
- 保険対象・支払対象となる保険事故・被保険者・被保険利益(保険対象に偶然に事故が発生することにより、ある人が損害を被るおそれが場合における、保険対象とある人との間に存在する利害関係のことをいいます。)が同一の火災保険契約が複数個存在すること
- 保険期間が重なること(全く期間が重なるのではなく、一部重なる場合を含みます。)
- それらの保険契約の保険金額の合計が保険価額を超えていること
例えば、お客様が保険金額4000万円の住宅を有していたとして、X社とこの住宅の保険金額を4000万円、保険期間を明日から5年間とする火災保険契約を締結し、さらにその2年後、Y社ともこの住宅の保険金額を2000万円、保険期間をその時から3年間とする火災保険契約を締結する場合が重複保険となります。 |
また、重複保険は火災共済も含みます。そのため、火災保険+火災保険、火災保険+火災共済、火災共済+火災共済なども含みます。
ここで、重複保険の有無が告知事項であるということは、重複保険をすることは自体は許されるのか?ということが気になるのではないかと思います。
保険法20条1項を参照するに、重複保険のときであっても保険者(保険会社)がてん補すべき損害額の全額を給付する義務を負っていることや、判例の動向を見るに、重複保険をしたことをもって火災保険契約が解除されるとは考えらえていないようですが、以下の事例おいては解除されています。
保険契約者が不法に保険金を得る目的をもって重複保険をした場合(東京高判平4・12・25判時1450号139頁参照) 保険者が重複保険の事実を保険契約者から通知されていれば、危険増加を測定できたにも関わらず、通知がされず、この測定の機会を奪われた時(高松高判昭58・6・16判タ509号152頁参照) 共済契約者(お客様)が重複契約の存在を知り、かつそれが告知事項と認識し又は重大な過失により認識していなかった場合で、諸般の事情から道徳的危険の存在が単なる漠然とした不安の程度を超えてある程度具体的に推認される場合(仙台高秋支判平4・8・31判時1499号142頁参照) |
もっとも、これらの判例は保険法が施行されるよりも前(保険法の施行は2010(平成22)年4月1日)のものですので、必ずしもこの基準だけで判断されず、保険会社に確認する方が良いといえます。
また、被災時に受け取れる保険金は実際に生じた損害額までですので、重複保険をしたとしても損害額以上の保険金を受けられるわけではありません。
そのため、X社の保険金額が保険価額に満たない場合は、Y社とさらに契約し保険価額と保険金額の差を埋めることも考えられますが、それでも、複数社と契約する手間や保険料の合計を考えると複数社と契約することにメリットがあるかは注意が必要です。
なお、火災保険とは異なり生命保険や障害疾病定額保険においては、重複保険をしたことだけで解除される可能性があるため注意が必要です。
告知の方法
保険法の改正により、告知は自発的にするのではなく、保険会社からの質問に応答する形で行われます。
実際には、お客様が書面に列挙された質問事項に回答する形での告知となります。
そして、告知は、民法上は代理人により行うことができますが、保険会社から渡される告知書には被保険者本人が告知すべきことが記載されていることが一般的です。
また、他人のために保険契約を締結する場合でも保険契約者がそのことを告知しなかったために保険契約が無効となった事例もあります(水戸地裁平成24・6・29判時2180号133頁)。
さらに、代理人によって告知する場合、民法101条2項により、告知義務違反についての故意又は重大な過失があるかどうかは代理人を基準に判断されることになります(告知義務者に告知することだけを指示された代理人が告知する場合を除きます)。
例えば、子供が保険契約を締結するにあたって、親が子供の代理人として子供の所有する家屋を保険対象として保険契約を締結する場合で、かつ、親が子供の所有する保険対象の家屋について、告知事項を告げなかった場合には、親が告知事項を知らなかった、告げなかったことについて、親に故意、又は、重過失がないかを判断することになります。しかし、親が子供から保険会社に告知事項を告知することだけを指示された場合には、子供に故意、又は、重過失がないか判断することになります。 |
そのため、被保険者本人により告知することが困難な事情もあるとは思いますが、告知義務違反になるリスクを低減するためには、本人が告知した方が良いといえるでしょう。
まとめ
以上のように告知義務に違反しますと、被災した際に保険金が得られなくなるだけではなく、無駄に保険料を支払うことにもなる可能性がありますので、被保険者本人により正確に告知事項に回答されるようにして下さい。
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