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弁護士コラム
火災保険で盗難被害の物品は補償される?カバーできる盗難被害の例をご紹介
「弁護士コラム」では、生命保険・火災/地震保険に関連するさまざまな情報をUPしておりますが、直法律事務所では、「保険金の不払い」(火災保険に関しては、「火災」を原因とする事故)に限りお問い合わせをお受けしています。何卒ご了承ください。
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火災保険で盗難被害の物品について補償されることがあると聞きました。
具体的にどのような場合に補償されるのか教えて下さい。
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盗難補償があれば、侵入犯による盗取、損傷、汚損についても補償されます。
窃盗だけでなく、強盗事件や、侵入者が物色したが、家人が戻ってきたので逃げて行ったような未遂のケースも含まれます。
目次
日本における盗難被害の発生件数
諸外国に比べると、日本の刑法では「物を盗む」ことに対する処罰は厳しいと言われています。
江戸時代は10両以上、盗むと死罪でした。さすがに今は窃盗で死刑はないですが、殺人罪の最低が懲役5年(刑法199条)、これに対して窃盗の最高刑は懲役10年(刑法235条)です。にもかかわらず、窃盗犯は後を絶ちません。
警察の統計を見ると、過去十数年間は、盗難全体としては減少傾向にあり、ピーク時の22%程度にまで減少していることは事実なのですが、件数そのものは53万件を超えており、まだまだ多いと言えそうです。
住宅への侵入犯の数を見てみると、令和2年度の警察統計で、強盗151件、空き巣13,906件、忍び込み(就寝時に侵入)5,937件、居空き(家人がいるときに侵入)1,181件、住宅侵入11,021件となっており、強盗と住宅侵入を含めると、1日平均88.2件も侵入事件が発生していることになります。盗難に限っても50件を優に超えます。
犯罪率や検挙率を考えると、諸外国に比べてまだまだ日本は安全だと言えますが、その安全神話も、犯罪の巧妙化、ハイテク化などで、昔のように安心していられるわけでもありません。
実際、侵入犯の多くは一般家庭を狙っており、玄関や出入り口、窓からの侵入が多くあります。盗難の被害は勿論ですが、侵入の際に窓ガラスを壊されたり、床を汚されたりして被害を受けることが多いです。
幸いにして未遂に終わって金品を盗まれなかったとしても、壊されたドアや鍵などの修理費用がかかることもあります。
これに備えておくことは、決して無駄なことではないでしょう。
火災保険の補償対象は3パターン
火災保険の補償の対象は、「建物のみ」、「家財のみ」、「建物と家財」の3つのパターンがあります。
「建物」は家屋や物置、ガレージなどの建物以外に、門や塀、ポストなどを対象とします。
「家財」は家の中の家具や電化製品、衣類などを対象にします。
「建物のみ」の場合には家財、「家財のみ」の場合には建物は補償の対象になりません。
家全体を盗難から守りたい場合には「建物と家財」を対象にしなければなりません。
火災保険で盗難の補償がある、というと違和感を覚える方がいらっしゃるかもしれませんが、加入している保険に盗難補償があれば、対象次第で補償の対象になります。
建物
火災保険における「建物」とは、一般的には「建物と、建物に付属して動かすことのできないもの」のことを言います。土地は含まれません。
一戸建ての場合には、家屋などの建物そのものに加えて、備え付けのエレベーターやリフト、ガレージやカーポート、システムキッチンやガス台、流し台、調理台、浴槽・トイレ(便器)、電気やガス、床暖房やセントラルヒーティングなどの設備、物置などの付属建物、門や塀、建具(畳やふすま、備え付けの押し入れ、靴箱など)を指します。
マンションやアパートなどの集合住宅の場合には専有部分が対象となり、共用部分は含まれません。
ちなみに、建物に侵入されるケースで最も多いのは、一戸建てでは窓ガラスを破られることですが、中高層住宅では施錠忘れ、無施錠のケースが50%を超えます。
一戸建ての住宅でも約20%で、結構多いことがわかります。
まずは戸締りを確認することが建物への侵入による被害を防止する第一歩と言えるでしょう。
家財
基本的には、「建物」以外のものは「家財」とみなされます。
タンスやチェスト、テーブルなどの家具、テレビ、冷蔵庫、洗濯機などの家電製品、パソコンや周辺機器、洋服、カーテン、自転車などはすべて家財です。
ただし、何でも補償されるという訳ではなく、補償のための特約が必要な「家財」もあります。具体的には、一定の金額以上の装飾品、貴金属や美術品、現金・小切手、有価証券などです。
ペットの動物、植物、コンピュータのソフトウェア、データ類、プログラム、自動車、自動二輪車(排気量125㏄以下の原動機付自転車を除く)などは補償されません。
現金や有価証券の類は20万円と限度額が決まっており、また30万円を超える高価な装飾品、貴金属や美術品は「明記物件」となり、特約が必要です。
契約時に保険会社に申告する必要があり、それを怠ると補償の対象にはなりません。
貴重品や高額なものについては、万一に備えてデータ化し、写真と共に購入額、購入先、保管場所などをしっかりと記録しておきましょう。
建物と家財
「建物と家財」の場合、「建物」の被害、「家財」の被害、いずれのケースでも補償されます。
「侵入犯が窓を壊して入室し、土足で家の中を荒らしまわって、現金とパソコンを盗んでいった」というようなケースでは、建物にも家財にも被害が及んでいます。「建物と家財」を対象にした保険に加入していれば、侵入犯による破壊、汚損、盗難があった場合には、「建物」、「家財」共に補償の対象になります。
注意が必要なのは、自動車や自動二輪車の盗難は、敷地内に止めてあり、「建物と家財」を対象にした火災保険であっても、補償対象にはなりません。自動車保険での補償対象になります。
なお、排気量125㏄以下の原動機付自転車の場合は原則として「家財」とみなされますが、敷地の中など定められた保管場所に止めていなかった場合には補償されません。
また、住宅と店舗が一緒になっているような場合、住宅に保管していた商品や材料、業務に使用する備品や什器なども、火災保険の補償の対象外になります。こちらも専用の保険でカバーすることになります。
盗難による盗取・損傷・汚損は補償される?
最近の火災保険は、文字通りの「火災」だけではなく、様々なトラブルの補償がついていることが多いです。
保険会社によって異なりますが、わかりやすく「総合保険」というような名称の商品も多くなっています。
すでにご紹介したように、盗難補償があれば、火災保険で侵入犯による盗取、損傷、汚損についても補償されます。窃盗だけでなく、強盗事件や、侵入者が物色したが、家人が戻ってきたので逃げて行ったような未遂のケースも含まれます。
火災保険に盗難補償が付いていれば補償の対象になる
火災保険の補償範囲は、火災、落雷、破裂・爆発(ガス漏れなどによるもの)、風災(台風や暴風雨などによるもの)・雹災・雪災(豪雪や雪崩などによるもの)、水災(台風や洪水などによる水害など。津波は含まれません)、建物外部からの物体の落下・飛来・衝突、漏水などによる水ぬれ、騒擾や集団行動による暴力行為、盗難による盗取・損傷・汚損、不測かつ突発的な事故などがあります。
ただし、すべての火災保険が対象になるという訳ではありません。火災保険に盗難補償がついているかどうかで、補償の有無が決まります。全ての火災保険がカバーしているわけではありません。
補償範囲が広くなれば保険料は高くなります。契約時に必要な補償範囲をよく考えて契約しましょう。
火災保険でカバーできる盗難被害の例
火災保険でカバーできる盗難の補償範囲は、先程説明した「建物のみ」、「家財のみ」、「建物と家財」のパターンによって異なります。
「建物のみ」の場合は、「家財」に関しての補償はありません。
逆に、「家財のみ」の場合には、「建物」の被害についての補償はありません。保険料を節約しようとして、「建物と家財」両方を対象とする保険に加入していない場合には注意が必要です。
例えば、窓ガラスを割って空き巣が侵入し、現金10万円入りの財布を盗んでいったというケースを考えた場合、「建物のみ」の場合には、窓ガラスの破損の補償はありますが、盗まれた10万円と財布の補償はありません。
逆に、「家財のみ」の場合、窓ガラスの補償はないのです。両方をカバーするためには、「建物と家財」を範囲とする保険に加入していなければなりません。また、後始末にかかった清掃費などは火災保険では補償されません。
なお、現金・切手・その他の有価証券の補償には上限があること、高額の品には契約時に申告が必要であることは覚えておきましょう。
「建物」の補償でカバーできる盗難被害の例
「建物のみ」を補償対象にした場合には、空き巣や忍び込みなどの窃盗犯が家屋などの建物に侵入し、その際に建物そのもの、或いはその付属品や建具などが何らかの損害を受けた場合に、保険金が支払われます。
具体的に、補償対象になるケースを見てみましょう。
- 犯人が敷地内に侵入する際に門扉を壊された。
- 犯人が玄関から侵入する際に、ドアの鍵を壊された。
- 犯人が家屋に侵入する際に、部屋の窓ガラスを割られた。
- 犯人が盗品を持ち出す際にドアを破壊した。
- 犯人が土足で屋内に侵入したため、フローリングの床が大きく傷つけられた。
- 犯人が車を盗む際にガレージのシャッターを壊された。
- 庭にあったガーデニング用の農具を入れておいた物置を盗まれた。
- 犯人が物色する際に建て付けの収納器具を壊した。
- 犯人が防犯カメラを破壊した際に壁を壊した。
以上のようなケースで補償の対象になります。
未遂のケースでも、破損や汚損などの被害があれば、補償されます。
「家財」の補償でカバーできる盗難被害の例
建物に加えて「家財」も補償対象にしている場合、空き巣や忍び込みなどの窃盗犯が家屋などの建物に侵入し、家財に対して何らかの損害を与えた際に損害保険金が支払われます。
具体的には、下記のようなケースにおける補償が想定できます。
- 空き巣に侵入され現金を盗まれてしまった
- 空き巣に侵入され宝飾品や絵画が盗まれてしまった
- 泥棒にブランドバックやアクセサリーを盗まれてしまった
- 泥棒に自宅に置いていたタブレット端末やノートパソコンを盗まれてしまった
- 駐輪場に置いていた自転車が盗まれてしまった
前述の通り、現金・切手・その他の有価証券の補償には上限があります。
そのため、タンス預金などで貯めていた現金が盗難に遭った場合、その金額を何らかの形で証明できたとしても、必ずしもすべてが損害保険金として戻ってくる訳ではないことを認識しておく必要があります。
30万円を超える高額の品については、火災保険契約時に保険会社に対する申告が必要です。この申告が漏れていた品については補償の対象外となることがあります。
また、自宅で店などを営んでいる場合、業務用の設備や商品などは補償対象外となることがほとんどです。
自動車やバイクを盗まれた場合は補償の対象になる?
自動車やバイクに関しては、盗難補償に限らず火災保険自体の対象外となります。自動車やバイクのトラブルに備えるためには、車両保険やバイク保険に加入します。
例外として、火災保険の対象となっている建物内(マンションの駐車場・駐輪場を含む)に置いてあった自転車や125cc以下のバイク(原動機付自転車)の盗難については、補償対象となります。
ただし敷地内ではなく道路などに駐車してあった場合は、自転車でも補償の対象とならないため、必ず然るべき場所で管理しておきましょう。
盗難被害に遭ってしまったときの保険請求の流れ
実際に盗難被害に遭ってしまった際は、どのような手順で損害保険金の請求をすれば良いのでしょうか。
盗難を発見した直後は、何者かに自宅侵入されたことへの恐怖などから、冷静に物事を進められないこともあります。
もしものことが起きた際に備えて、あらかじめどのような手続きが発生するのか確認しておきましょう。
①警察に連絡・盗難届を出す
まずは盗難被害を受けた地区の警察に連絡し、盗難届を提出します。同時に、特にクレジットカード・キャッシュカードや通帳、印鑑などが盗難されている場合にはすみやかに金融機関に連絡し、悪用される前に利用停止の手続きを行いましょう。
日頃からスマートフォンやパソコンで各金融機関にログインしていれば、インターネット上で簡単に利用停止の手続きや再発行手続きを実施することが可能です。
②受理番号をもらう
警察に盗難届を提出すると、「受理番号」を受け取ることができます。おおよそ盗難届の提出から1週間程度で発行されることが多いようです。
保険会社よりも先に警察に連絡するのは、保険会社への申請時にこの受理番号が必要になるためです。
③保険会社に連絡
受理番号が発行され次第、保険会社へ連絡をします。
被害を受けた直後はショックで混乱していることもあるため、落ち着いて連絡ができるよう信頼できる家族や友人に協力してもらうことも大切です。
損害保険金の請求期限は、原則として損害を受けてから三年と定められています(保険法第95条)。そのため慌てる必要はありません。
盗難被害に遭った際に部屋を片付けてしまう方もいますが、被害を証明することが困難になります。被害状況を写真に残しておく、どこまで片付けてしまって良いか確認する、などをしましょう。
④現場確認調査
保険会社による現場確認調査が実施されます。どこに何があったか、どんなものが盗難被害にあったかを説明する必要があります。
大切なものでも、盗難被害に遭った後では思い出せないこともあります。このような不測の事態に備え、大切なものは写真を撮影しておく、高額なものはリスト化してまとめておく、
家電やブランドバックの保証書は保管しておくといったことが重要です。
また、クレジットカードの明細をパソコンからダウンロードしておけるようにしたり、定期的に自宅全体の写真を撮影しておくことも有効です。
⑤必要書類を用意
必要書類については保険会社から説明がされます。主に、保険金を請求するための書類と、事故内容を説明するための書類が必要となります。
その他、盗難の際に生じた破損や汚損があれば修理をする場合の費用見積書、盗難品の価値・価格を証明するための保証書や領収書、写真なども求められます。
特に盗難品の価値・価格を証明する書類や写真があるかは、保険金の支払い額に大きく影響するため重要なポイントです。
被害額が証明できる場合、申請額のうち全額が保険金として支払われることもありますが、証明できないものや曖昧なものについては、申請額のうち数割の支払いということやその部分における申請が受理されないこともあるようです。
⑥保険金を受け取る
損害保険金は、損害の額から自己負担額(設定している場合)を引いた額となります。
また、「再発防止費用特約」というものを取り扱っている保険会社もあります。これは、盗難の再発防止のため被保険者が有益な費用を支出した場合、保険会社がその費用も補償する特約です。
このような特約を付帯している場合は、上記の損害保険金とは別に保険金が支払われることもあります。
例えば、防犯のための金庫や防犯ガラスの設置費用、見廻りサービスの利用費用などが該当します。
保険金の振込タイミングは、請求手続き完了後から原則30日以内(保険法第21条・第81条に基づく「相当の期間」)となっていますが、前後することもあるようです。
保険金受領後に盗難物が発見された場合は?
損害保険金受領後に盗難物が無事発見されることもあるでしょう。その場合は、保険会社への連絡が求められます。
損害保険金受領後は、盗難物の所有権は保険会社にあります。元の持ち主だからといって、勝手に処分や所有してはいけません。
とはいえ、愛着のあるものだった場合は自分が保有したいということもあるでしょう。その際は、受領した保険金を保険会社に返還することで所有権を自分に戻すことが可能です。
まとめ
火災保険への加入は、住宅ローン契約時に必須となるため、火災を始めとする自然災害への備えはできていることが多いでしょう。
しかし日本における盗難被害の数を鑑みると、自然災害だけでなく盗難被害に対して備えることの重要性がわかります。
火災保険のオプションとして盗難補償を付帯できることは、まだまだ十分に認知されていません。
いざという際に役に立つ付帯補償であるため、特にマンションの一階に住んでいる、オートロックがないアパートに住んでいるといった場合は検討してみてください。
一方で補償対象や内容が広範囲になれば、それだけ保険料は高額になります。自宅の警備サービスや家財の金額などを加味し、盗難補償を付帯するか否か検討すると良いでしょう。
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