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弁護士コラム
もらい火は火災保険の補償対象になる!【隣家を延焼させてしまった場合についても解説】
「弁護士コラム」では、生命保険・火災/地震保険に関連するさまざまな情報をUPしておりますが、直法律事務所では、「保険金の不払い」(火災保険に関しては、「火災」を原因とする事故)に限りお問い合わせをお受けしています。何卒ご了承ください。
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隣家からのもらい火で自宅が火事になりました。
火災保険による補償の対象となりますか?保険金は貰えるのでしょうか。
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隣家からの貰い火による火事の損害は、火災保険による補償の対象となります。
ただし、建物・家財両方の損害の保険金が受け取れるかは、加入している火災保険の契約内容によるので、補償対象を確認してみましょう。
なお、失火責任法により、出火者に重過失がない限り、隣家の人に損害賠償請求はできませんので注意してください。
隣家に対して損害賠償請求はできる?
隣家のもらい火によって自宅が火事になった場合、原則として、出火元である隣家に損害賠償請求をすることはできません。
損害賠償請求ができない理由や、例外的にできる場合などについて、以下の内容で詳しく解説していきます。
- 失火者に重大な過失がなければ請求できない
- 失火責任法とは
- 重大な過失と認められるケース
- 重大な過失があっても賠償金を受取れない場合もある
- 火災保険ならもらい火も補償の対象となる
一つずつ確認していきましょう。
失火者に重大な過失がなければ請求できない
失火者に重大な過失がなければ、損害賠償請求はできません。
なぜなら、失火責任法という法律が適用され、過失によって出火した場合の損害賠償責任は重過失がある人に限定されて発生するからです。
つまり、隣家からのもらい火が原因の損害であったとしても、原則として(重過失を認定できなければ)出火者には法的責任を問えません。
そのため、基本的に損傷した建物や家財の修理などは、自分の負担で行うか、加入している火災保険の保険金でする必要があるのです。
なお、失火責任法の対象はあくまでも失火(過失による出火)ですので、わざと出火させた場合には適用対象外となり、損害賠償請求の対象になります。
次に、失火責任法という法律について詳しく確認していきましょう。
失火責任法とは
失火責任法の正式名称は「失火ノ責任ニ関スル法律」といい、明治時代からある法律です。
失火責任法では「民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス」と定められています。
つまり、「失火者に重大な過失がなければ、民法709条の損害賠償請求はできない」ということです。
民法709条は「過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めています。この規定によれば、重大な過失でなくても、過失さえあれば、損害を与えてきた人に損害賠償請求ができます。
失火責任法は、この民法709条の規定を修正し、失火による損害賠償請求の対象を重過失者に限定している法律です。
失火責任法が設けられた理由には、日本には木造家屋が多かったという歴史的な背景があります。
木造家屋が多い場合、失火によって次々に延焼が生じて甚大な損害になってしまう可能性があり、軽過失しかない失火者にすべての責任を負わせるのはあまりに酷であると考えられて設けられた規定なのです。
重大な過失と認められるケース
失火責任法の重大な過失が認められる場合について、判例は「わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態」(最高裁判所昭和32年7月9日判決)としています。
つまり、失火について少しでも注意していれば予見・防止できたのに、ぼんやりとして見過ごした場合に重過失が認定されるのです。
具体的には、以下のようなケースは重過失にあたります。
- 寝たばこによる火災の危険性を認識しながら、何の対策もとらなかったため火災が発生した
- 天ぷら鍋を火にかけたままでその場を離れて火災が発生した
- 配線がたれ下がっているのを電力会社が現認したのに放置したために、強風で電線が切れて家屋の火災が発生した
- 石油ストーブの火を消さずに給油したことにより火災が発生した
- 残火のあった石油ストーブの灰を段ボールに捨てたために火災が発生した
- わらが散乱している倉庫の中でたばこを吸い、その吸い殻を捨てたために火災が発生した
いずれも、火災の発生が容易に予見・防止できたのに、ぼんやりとして見過ごしてしまった事例だといえるでしょう。
なお、同じような事案であっても、個別的な事情が変われば結論が異なる場合もあるので、重過失の一つの参考程度にしてみてください。
重大な過失があっても賠償金を受取れない場合もある
失火者に重大な過失があったとしても、賠償金が受け取れない場合があるので注意しましょう。
損害賠償請求ができたとしても、失火者に資力がなければお金を払ってもらえません。
なぜなら損害賠償請求は、失火者の収入や財産から損害額を支払ってもらうものであるからです。
また、裁判などの手続きをとる場合、基本的に裁判所に火元の原因や過失の割合などを認定してもらう必要があります。
そのため、賠償金を受け取れるのがだいぶ先になる場合も多いのです。
賠償金を使って、火災による被害を受ける以前の生活水準に戻るというのは、すぐにできる対応ではありません。
もらい火の場合には、基本的に賠償金をすぐに受け取れないものだと考え、事前に火災保険に入るなどの対策をしておく必要があります。
火災保険ならもらい火も補償の対象となる
もらい火があって自分の家などが燃えてしまった場合、火災保険に入っていれば補償の対象になります。
火災保険では、もらい火によって燃えた部分だけでなく、消化活動によって水に濡れて使えなくなったことによる損害などにも広く補償されるのです。
建物や家財が燃えてしまった場合でも、火災保険に入っていないと、基本的にはすべて自分で損害の負担をしなければなりません。
どれだけ自分が火事を起こさないように気を配っていても、隣家からのもらい火は防ぎようがないものです。
建物の修繕や家財の修理をするための費用が足りなくて困るという事態を防ぐために、事前に火災保険に入って備えておくのは、安定した生活を守るために有効な手段でしょう。
火災保険の補償対象
火災保険は、火災以外にも、落雷や台風などの自然災害や破損などによる建物・家財の損害に幅広く対応できる保険です。
火災保険では、大きく以下の2つを補償対象とします。
- 建物:建物や建物に付随する門や物置など
- 家財:建物内にあるテレビやテーブルなど
火災保険は、建物と家財をわけて加入する仕組みになっています。
たとえば建物にのみ火災保険をかけていた場合、建物や家財が火事ですべて燃えてしまっても、受け取れるのは建物のみの保険金であり、家財の分はもらえません。
建物や家財の具体的な内容について、より詳しくみていきましょう。
建物
火災保険でいう「建物」は、建物だけではなくその建物に付属したものも含まれます。
保険会社や商品によっても変わりますが、一般的には、以下のようなものが建物にあたります(ただし、申込書等で以下のようなものを除く旨を記載していない場合に限ります)。
- 家屋やマンション
- 建物に付属した門、塀、物置や車庫
- 建具や畳
- 庭木
- 浴槽、流し、ガス台、棚など建物の付加物
- 電気、通信、ガス、給排水管、衛生、冷暖房設備などの設備で建物に付加したもの
- 外灯、テレビアンテナ、機能門柱などの屋外設備や装置のうち敷地内にあるもの
上記でお分かりになるかと思いますが、建物と一言でいっても、非常に広い範囲のものが補償対象に含まれます。
家財に比べ、一つひとつの修理費用が高額になる場合が多いので、実際に損害が発生した際には大きな金額になるケースが多いでしょう。
建物の破損・汚損の事例
火災保険では、火災以外にも落雷・爆発・風災・水災・建物の外部からの物体の衝突・水濡れ・不測かつ突発的な事故(破損・汚損など)・盗難など、幅広い災害の補償が受けられます。
ここでは、建物を対象とした火災保険によって補償が受けられる事例について、具体的に確認していきましょう。
- 隣家の火災によって、自宅にも延焼した
- 隣家から延焼してきた場合、消化活動のために水浸しで建て替えが必要になった
- 揚げ物料理を作っていたら油に火がついて燃え上がり、キッチンの壁が焦げて張り替えた
- 家具の配置換えをしているときにうっかりかべにぶつけて破損した
- 家の中で子どもがボール遊びをしていて、窓ガラスを割ってしまった
- 子どもが壁に落書きをした
契約内容や具体的な状況にもよりますが、上記の事例においては、一般的に火災保険の対象として補償されます。
火災保険は保険会社ごとに独自の商品があるので、補償内容は一律ではありません。
補償対象とされた原因にもとづく損害でなければ、火災保険による補償の対象とはならないので、契約時にしっかり確認しておくようにしましょう。
家財
火災保険の「家財」とは、家具や衣服など引越しの際に持ち出すようなものを指します。
一般的には、以下のようなものは家財です(ただし、申込書等で以下のようなものを除く旨を記載していない場合に限ります)。
- テレビやパソコンなどの家電製品
- ベッド、テーブル、ソファーなどの家具
- 洋服などの衣類
- 自転車
- 本棚や本
家財は一つひとつの損害価格は建物より安価である場合がほとんどですが、火災時に被害を受ける数が多いので、すべて合わせると大きな金額になります。
たとえば、火災が起きた際の消防活動で部屋が水浸しになった場合、多くの家財は使い物にならなくなるでしょう。
火災保険の契約時に家財を対象としていなかった場合、その多額の買い替え費用を自分で負担しなければなりません。
快適な生活に欠かせないものですので、火災保険加入時には家財まで対象にしておくといいでしょう。
家財の破損・汚損の事例
家財を対象とした火災保険によって補償が受けられる事例について、具体的に確認していきましょう。
- 隣家の火災によって、自宅のテーブルが燃えた
- 隣家の延焼を防止する消化活動の際に電化製品に水がかかり壊れた
- 家具の配置換えをしているときにうっかり落として壊した
- 食器棚にぶつかって食器を落として割った
- 子どもが投げたボールがぶつかりテレビの液晶が壊れた
上記の事例の場合には基本的に火災保険の補償対象になりますが、建物と同様、補償対象となるかは契約書をよく読んで確認しておきましょう。
なお、損害額が自己負担額以下の場合には、保険金支払いの対象外になりますので注意してください。
「類焼損害補償特約」なら隣家を延焼させた場合でも補償される
自分の家からの出火が原因で延焼してしまった場合でも、類焼損害補償特約をつけておけば保険会社から必要な保険金が出るので、隣家の人の補償が無理なくできます。
類焼損害補償特約に関して、以下の2点について疑問に感じる人は多いのではないでしょうか。
- 類焼損害とは
- 類焼損害を火災保険で補償する必要性
一つずつ、詳しく説明していきます。
類焼損害とは
類焼損害とは、契約している建物からの失火が原因で、近隣の住宅に延焼し、その住宅に損害が発生した場合をいいます。
前述したとおり、一度火災が起きると周囲の建物に次々と延焼してしまうので、失火者の支払い能力を超えた賠償金になるケースは多くあります。
そのような失火者を守るため、重過失がある場合にのみ損害賠償請求ができるという失火責任法が定められているのです。
類焼損害を出してしまったとしても、重過失がない限り失火者は損害賠償請求をされないので、失火者は法的な責任を負いません。
類焼損害を火災保険で補償する必要性
重過失によって類焼損害を発生させた場合に、火災保険で補償する必要があることは言うまでもありませんが、類焼損害による法的な責任がない場合であっても、火災保険で補償する必要性がないわけではありません。
自分の過失によって隣家の人に損害を与えてしまったことに対して、道義的な責任を感じる人は多いのではないでしょうか。
損害を賠償したいと考えた際、自分の資力では損害の賠償ができない場合に役立つのが、火災保険の類焼損害補償特約です。
周辺住居を巻き込んでしまった場合、保険会社がその相手の損害を補償してくれます。
ご近所との関係性維持に役立つ
相手の過失によって被害を受けたにもかかわらず、その相手に損害の賠償ができないというのは、ご近所の人からすれば非常に不満を感じる結果につながります。
自分には何も過失がないのに、ただ隣に住んでいたために延焼の被害を受けたのですから、文句の一つも言いたくなるでしょう。
延焼によって住む家がなくなってしまう人や生活できなくなる人もいるので、ご近所トラブルに発展するケースは少なくありません。
そのような事態を防止するためにも、延焼させた相手の補償ができる類焼損害補償特約に入っておくと安心でしょう。
支払われる火災保険金の種類
自分が失火元になって近隣の家に延焼してしまった場合に支払われる火災保険金は、以下の2つです。
- 類焼損害補償特約による「類焼損害保険金」
- 失火見舞金費用特約による「失火見舞費用保険金」
いずれも火災保険の特約としてつけるのが、一般的です。
ご近所との関係性維持や道義的な配慮のためにも、火災保険に加入する際には特約としてつけておくといいでしょう。
2つの火災保険金の特徴をみていきましょう。
類焼損害保険金
類焼損害保険金は、類焼損害補償特約の支払い条件を満たした場合に支給されます。
具体的には、保険対象となっている建物や家財から生じた延焼によって、近隣の住宅・家財に損害を与えてしまった際に支払われます。
失火見舞費用保険金の支払い額よりも高額になるケースが多く、保険会社にもよりますが1億円を限度として、実際の損害額が支給されるのです。
保険金の支払いは、契約者ではなく、被害を受けた人に直接支払われるのが特徴です。
被害者が火災保険などに加入していて保険金をすでに受け取っていた場合、その金額を差し引いた額が支給されます。
失火見舞費用保険金
失火見舞費用保険金とは、延焼や消火活動で隣家などに損傷があった場合に、損害を受けた人にお見舞金が出る特約です。
お見舞金の額は、一世帯20〜30万円程度が上限とされている場合が多いです。
被害金額が大きくなるケースの多い火災損害において、やや心もとない金額であるといえます。
もっとも、失火見舞費用保険金は、自由に利用可能なのが特徴です。
ボヤ程度の火事であれば、ご近所との関係性維持には十分役立つでしょう。
まとめ
隣家からのもらい火によって損害が生じた場合であっても、失火責任法により原則として出火者に損害賠償請求はできません。
そのため、自分の火災保険を使って、保険金を受け取る必要があります。
火災による被害は大きな損害になるケースが多いので、自分が被害者になったときに備えて、火災保険には加入するようにしておきましょう。
また、自分が出火者になったときのために、類焼損害補償特約や失火見舞金費用特約などに加入しておくと、ご近所トラブルを防ぐことにもつながります。
火災保険の加入や特約の付与などには保険料が必要になりますが、何かあったときの大きな備えになるでしょう。
保険金不払いほか、火災保険に関してお困りの際は、お早めにお問い合わせください。
(原則として、1都3県を対象としています。)
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