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弁護士コラム

火災保険で類焼損害は補償できる?補償する必要性や適用されない事例を解説

対象、補償内容 火災保険
投稿日:2022年03月18日 | 
最終更新日:2023年07月03日

「弁護士コラム」では、生命保険・火災/地震保険に関連するさまざまな情報をUPしておりますが、直法律事務所では、「保険金の不払い」(火災保険に関しては、「火災」を原因とする事故)に限りお問い合わせをお受けしています。何卒ご了承ください。

Q
自宅の火災で隣家が燃えてしまいましたが、隣家が火災保険に入っていませんでした。
隣家に何とか、私の加入している火災保険で補償ができないでしょうか。
Answer
加入している火災保険が、以下に対応していれば補償できます。

■個人賠償責任保険(特約)
一般的に個人が他人に損害賠償責任を負った場合に対処する保険(特約)です。

火災保険、自動車保険、傷害保険などに特約で付帯します。
例えば、自転車事故などで相手を怪我させてしまった場合もこの特約で対応します。
通常はこの補償をきちんとした金額で契約しておけば大丈夫です。

■類焼損害補償特約(特約)
失火で周囲の住宅が類焼した際、近所の人が契約している火災保険の補償が十分でないときなどで補償します。

類焼損害とは

火災・破裂によって第三者の所有物に損害が発生すること

類焼損害とは、火災・破裂を故意または過失により引き起こし、第三者の所有物に損害を生じさせることです。

類焼損害を火災保険で補償する必要性

一般的に失火に賠償責任はない

民法第709条の規定に、「失火の場合には適用しない。ただし、失火者に重大な過失があったときはこの限りではない。」とあります。
つまり、重大な過失でない限り損害賠償は当事者は賠償責任を負う必要はありません。

ご近所との関係性維持に役立つ

重大な過失でない限り、損害賠償責任は発生しません。
もっとも、損害賠償責任はなくとも自身の失火により周囲に損害を与えてしまったことは事実ですので、この損害を補償してあげれば、近所のトラブル(いざこざ)は避けられます。

支払われる火災保険金の種類

支払われる火災保険金には、類焼損害保険金や失火見舞費用保険金があります。

類焼損害保険金

類焼損害保険金とは、延焼先が火災保険に入っていなかったり、入っていてもその火災保険だけでは損害をカバーしきれなかったりした場合に保険金が延焼先に支払われる特約です。
一般的に保険金の支払限度額は保険期間を通じて1億円です。

失火見舞費用保険金

失火見舞費用保険金とは、自身の住宅火災が原因で隣家などが延焼した際、損害を受けた先に支払う見舞金としての保険金です。

類焼損害補償とは異なり、損害を受けた先が火災保険に加入しているか否かに関わらず支払いができる場合が多いようです。

火災保険が適用される事例

火災保険は、予想することができない突発的なトラブル・事故に対して適用されます。

しかしその対象は基本的に保険加入者が所有している「建物」と「家財」に限定されます。
そのため、上記のケースのように類焼損害保険金や失火見舞費用保険金を火災保険で補償するにはオプションに加入する必要があります。

個人賠償責任保険特約や類焼損害特約に加入しておくと、自身の住宅からの失火で近隣の建物・家財が延焼した場合に補償を提供することが可能です。

この特約をオプションとして提供している保険会社も近年では少なくありませんが、主契約の火災保険契約によってはこの特約を付加できない場合もあります。

また通常、自身の失火によって損害を受けた近隣宅は、失火した住宅の所有者が個人賠償責任保険特約や類焼損害特約を契約しているか否か知らないため、損害が発生した場合は自身(契約者本人)から特約について知らせる必要があります。

なお、損害を受けた先が自分自身で火災保険に加入していた場合、その火災保険金の額を加味して個人賠償責任保険特約や類焼損害特約による保険金が支払われます。

損害を受けた先は、出火元が個人賠償責任保険特約や類焼損害特約に加入していたからといって、二重に保険金が支払われる訳ではないことにご注意ください。

個人賠償責任保険特約や類焼損害特約が適用される事例として、下記が上げられます。

  • 自宅の火災が原因で隣家が延焼したが、隣家は火災保険に加入していなかった
  • 延焼防止の消化活動の際に隣家が水浸しになってしまった

失火見舞費用保険金に関しては、契約内容に従って上限が定められています。
失火見舞費用保険金だけが支払われる保険特約では、類焼損害金も支払われる類焼損害特約と比較するとオプションの保険料も安価な場合が多いと言われています。

火災保険が適用されない事例

火災保険自体の性質として、故意または重過失の場合は保険金の支払いがされません。
当然、類焼損害特約や失火見舞金費用保険特約の場合も同様となります。

一方で、類焼損害特約・失火見舞金費用保険特約独自の免責事項として適用されないものもあります。
両者合わせて主に4つの観点があります。

故意の火災・破裂の場合

上記のように、故意の場合はそもそも火災保険自体において補償対象外となるため、類焼損害特約や失火見舞金費用保険の補償もありません。

重大な過失または法令違反がある場合

重大な過失(重過失)の場合も故意の場合と同様、火災保険自体において補償対象外となるため、類焼損害特約も補償されません。

過去、重大な過失として認定され補償がされなかったものとしては以下のような事例があります。

  • 過去に二度火事を出した経験のあるにも関わらず火のついたたばこを故意に放置していた
  • 台所のガスコンロにてんぷら油の入った鍋をかけたまま台所を離れ、過熱されたてんぷら油に引火した
  • 漏電の可能性があり修理等の指摘を複数回受けていたが、適切な措置を講じず漏電により出火した

また、法令違反の例としては以下のような内容が挙げられます。

  • 消防用設備の設置が必要にも関わらず設置されていなかった
  • 避難や消火活動に必要な開口部が確保されていなかった

これらは法令に従った対応をしないまま、建物の増築や接続、建物の使用状況の変更などで発生しています。
知らないうちに法令違反を起こしたということが無いよう、適宜、専門家に確認をしながら対応をするとよいでしょう。

煙損害・臭気付着損害の場合

火災によって発生した煙や臭気による損害は補償の対象外となります。

戦争・外国の武力行使などによる場合

一般的な保険にも免責事項として記載がある文言ですが、戦争や外国の武力行使、革命、内乱などによる場合は補償がされません。

火災保険の保険金を請求する流れ

では、火災保険の保険金を請求する流れを紹介します。火事などの被害に遭った際は気が動転しており、なかなかスムーズに手続きを進めることは困難です。

周囲の協力も仰ぎながら、落ち着いて対応できるようあらかじめシミュレーションをしておきましょう。

①保険会社への連絡

まずは、火災保険を契約している保険会社の問い合わせ窓口に連絡をします。

問い合わせは基本的に契約者本人がします。契約者氏名・連絡先などの基本情報のほか、証券番号も聞かれることがあるため、手元に保険証書を用意しておきます。

また、トラブルや事故の日時・場所・状況や原因などを伝える必要があるため、伝えるべき内容をあらかじめ整理しメモに書き出すと落ち着いて話すことができます。

火災保険については、基本的に損害が発生した日を基準に3年まで遡って請求することが可能です。
特に大規模な災害が起きたときは電話回線が混み合うため、慌てず少し様子を見るのも良いでしょう。

一方で、時間経過に伴い損害状況も変化するため、なるべく早く対応することも求められます。

②保険金の請求に必要な書類を提出する

保険会社への連絡後、提出すべき書類や案内が保険会社から送られてきます。

必要書類は保険会社に確認をする必要がありますが、下記3点の書類は求められる場合がほとんどです。

  • 火災保険請求書(フォーマット指定)
  • 損害箇所の写真
  • 損害箇所を修繕する場合の見積書

③保険会社による現場調査・審査

保険会社から鑑定人が派遣され、現地調査・審査を実施します。
被害状況を確認し、調査結果と申請書類を元に保険金の対象か判断します。

④決定した保険金を受け取り修理する

保険金を受け取り、修理・修繕を行います。
なお、保険金を受け取ったからといって必ずしも修理・修繕をしなければいけないということではありません。

特に家財などの損害の場合は、いますぐに必要ではなくなってしまったということも考えられます。
他の用途で保険金を使用しても問題はありません。

なお、個人賠償責任保険特約や類焼損害補償特約・失火見舞費用保険特約は契約者ではなく、直接損害を受けた隣家等に支払いがされます。

参考:火災保険の保険金に関するトラブル

保険金を申請するには、申請のサポートをする業者も存在します。
保険会社に対して補償を請求するには面倒な手続きも多いため、相談するのも一つの手段です。

しかし、業者の中には詐欺まがいの申請を促したり、高額な手数料を請求されるトラブルも起きています。

特にトラブルや事故が起きていないにも関わらず、火災保険金を使用すれば無料で修理・修繕ができると甘い言葉でそそのかされたり、外壁などの老朽化について危険性を説いたりとさまざまな誘い方があります。

類焼損害が起きるような大きな火災の場合にはこのような話にはなりにくいですが、修繕見積もりを取得する際は相見積もりを取るなどの対応は必要です。

参考:類焼損害補償特約・失火見舞費用保険特約には加入すべきか

先にも触れた通り、重大な過失がない限り「法的には」隣家等の損害について賠償責任を負うことはありません。

しかし近隣住人との関係性によっては、個人賠償責任保険特約や類焼損害保険特約や失火見舞費用保険金の特約に加入しておいた方が良いこともあります。

①隣人との距離の近さで判断する

古くから家族ぐるみで付き合いがある、子供たちが仲が良いなど密接な人間関係を築いている場合、法的に賠償責任がないからといって全く何もしないという訳にはいかない場合もあります。
火災後、引き続き同じ場所で住み続けたいという場合には、加入を検討するもの一つの手段です。

②隣家の古さで判断する

近年では、住宅ローンを組んで物件を購入する場合や、物件を賃貸する場合には火災保険の加入が必須となっています。

そのため新しい世帯が集まるニュータウンや新築マンションでは火災保険加入率が高いため、類焼損害特約を結ばなくとも隣家自体が加入している火災保険で補償がなされます。この場合は、わざわざ類焼損害特約を結ぶ必要はないかもしれません。

しかし、木造建てや築年数の古い物件が並ぶ昔ながらのエリアの場合は、火災保険加入率が低い可能性があります。

そのような状況であれば、近隣住民や自治体などに相談しつつ類焼損害補償特約・失火見舞費用保険金への加入も考慮した方が良いかもしれません。

自分達の住宅の周囲を改めて見直すいい機会にもなります。

まとめ

類焼損害特約や失火見舞費用保険金は、法律の観点では不要なオプションと捉えることもできますが、隣人との関係性維持のためには加入しておいた方が良いケースもあります。

隣人との関係性や街並みの古さなど、状況に応じて追加での加入を検討しましょう。

一方で、特にこの2種類は他の保険と補償内容が重複することもあるため、よく確認することが求められます。

保険会社のサイトにもこの注意書きは頻繁に見られるため、保険料を無駄に支払ってしまっている加入者も多いようです。

加入を検討する際には、保険会社の担当者と相談しながら、自身が加入しているその他の保険とともに契約内容をチェックしてみましょう。

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