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弁護士コラム
生命保険の説明義務とは?【保険契約者が知るべき重要ポイント】
- 給付金の種類、補償内容 生命保険
- 投稿日:2023年06月22日 |
最終更新日:2023年07月03日
「弁護士コラム」では、生命保険・火災/地震保険に関連するさまざまな情報をUPしておりますが、直法律事務所では、「保険金の不払い」(火災保険に関しては、「火災」を原因とする事故)に限りお問い合わせをお受けしています。何卒ご了承ください。
目次
説明義務について
保険会社や保険代理店など保険募集人は、保険募集によって締結させようとする保険に関して、顧客に対する説明義務を負います。これは、保険契約者と保険会社や保険募集人とでは、保険契約を締結する際に、情報格差があるためです。
つまり、保険会社や保険募集人が顧客よりも情報を持っているため、顧客が自己決定することが困難であるということが根拠とされています。
説明が義務づけられている事項は、説明があったとすれば保険契約者が保険契約を締結しなかった、または当該保険契約とは別の保険契約を締結したといえるような、重要性のある事項です。この「重要性」は、保険契約者一般を基準にして判断されます。しかし、明らかに一般の保険契約者と異なる属性がある場合(例えば、日本語を理解できない外国人や高齢者である場合等)、当該保険契約者の属性に対応した説明が必要と考えられます。
また、最近では、ネット上で保険が販売されていますが、このような場合、対面で販売する場合と同じような説明をすることができません。そのため、目的が特殊な保険や特約などを販売する場合、十分な注意喚起が必要です。
もっとも、保険会社が保険契約を締結する際には、契約内容について、どのような範囲で説明すべきか、どの程度の詳しさが求められるかなどについては、明確に法定されていないのが現状です。
この点、業法等の情報提供義務を具体化する契約概要や注意喚起書面等の文書に記載が義務づけられている事項であるか否かは重要な参考資料となります。しかし、業法で文書記載が義務づけられているからといって説明義務の対象事項が限定されるわけではありません。説明義務のある事項かどうかは、保険契約者が自己責任で契約締結をすることができたかどうかで判断されます。
保険業法における規律
保険業法は、保険会社に対する行政監督法であり、保険契約者保護の観点から保険募集に関する規律が定められています。保険業法では、保険会社が顧客へ重要事項説明を行う体制を整備することが求められています。また、保険契約者や被保険者に対して虚偽のことを告げたり、重要な事項を告げない行為を禁じています。
平成26年改正保険業法
平成26年に改正された保険業法では、情報提供義務(保険業法294条)と意向把握義務(同法294条の2)が新設されました。
(ア) 情報提供義務保険会社は、保険契約の締結や保険募集に関して、保険契約の内容や保険契約者に参考となる情報を提供しなければなりません。 (イ) 意向把握義務保険会社は、顧客の意向を把握し、顧客の意向に沿った保険契約の締結等の提案や説明を行い、顧客が意向と契約内容の一致を確認できる機会を提供しなければなりません。 |
平成26年改正保険業法の評価
平成26年改正保険業法は、従来の法律であった保険業法300条1項1号が間接的に保険会社に重要事項の説明を義務付けていたのに対し、情報提供義務は直接的な規律に変更したと評価できます。
一方、意向把握義務は保険会社が顧客の意向を把握し、契保険会社が顧客の意向を理解し、提案される保険契約がその意向に適合しているかを確認する機会を提供する義務です。合致していない場合は、保険会社は顧客の意向に合った保険契約を推奨する義務があります。これは、保険契約者が学説のいう助言義務に近いと言えます。
金融商品取引法
有価証券や通貨等の相場変動により保険契約者が投資損失を被るリスクを負う変額保険・年金や外貨建保険・年金などのような投資リスクのある保険は、特定保険契約と定義されます。この特定保険契約には、保険業法294条1項の情報提供義務などは適用されず、金融商品取引法の規則が一部適用されます。これには、運用実績連動型保険や解約返戻金の額が金利・通貨価格・金融商品市場の変動により保険料の合計額を下回るおそれがある保険契約、外国通貨で表示される保険金額などが含まれます。
例えば、変額生命保険は特定保険契約に該当し、金融商品取引法のルールが一部適用され、適合性原則に従った保険募集が要求されます。
【コラム 説明義務と助言義務について】
契約者と保険会社の間で説明義務と助言義務という2つの重要な概念が存在します。これらの概念は、保険契約者が適切な保険商品を選ぶ際に役立ちます。
- 説明義務: 保険会社が顧客に対して契約に関する重要事項を知らせる義務です。顧客は、提供された情報を基に自己責任で契約の締結を決定するので、顧客の自己決定の前提を整備する義務といえます。この義務は、事業者と顧客間の情報格差を埋めるために信義則に基づいて課されます。
- 助言義務:保険会社が顧客に対して契約が有利かどうかに関する情報を提供する義務です。これは、顧客の自己決定を超えた利益を実現するための情報提供をする義務と言えます。助言義務が認められる場合は、顧客が保険会社の専門的能力に信頼を寄せる場合です。
保険募集の際には、保険会社や保険募集人は、説明義務のみならず、助言義務まで負うのかが論じられています。ただし、説明義務についても、金融商品販売法においては顧客の個々の事情に即した説明が求められている等の点で、助言との区別は必ずしも明確ではなく、連続的なものと考えられます。裁判例では助言義務という概念は認められていませんが、実質的に助言義務に近い義務を認めていると考えられるものもあります。
従って、説明義務と助言義務の概念的区別にこだわるよりも、どのような状況でどのような説明義務があるかを明らかにすることが重要です。
保険契約者は、これらの概念を理解し、自分に適した保険商品を選ぶ際に参考にすることが重要です。保険会社は、顧客に対して適切な説明と助言を提供することで、顧客のニーズに適した保険商品を選択できるようサポートする役割を果たします。
【コラム 乗合代理店の説明義務】
銀行や保険ショップなどの乗合代理店が比較推奨販売をする場合には、原則的にその推奨の理由を顧客に対して説明しなければなりません。そして、保険契約者が保険募集人の推奨に依存する状況がある場合には、保険契約者の保険需要に合致しない保険を推奨しない義務のみならず、原則として、保険契約者の最善の利益になるような保険を推奨する義務(ベスト・アドバイス義務)を負うと考えるべきです。
【コラム 生命保険等の乗換・転換の勧誘に関する説明義務】
生命保険等の乗換・転換の勧誘については、契約者が現在加入している保険と異なる保険に移行するメリット・デメリットを説明する必要があります。特に、既存の保険契約を解約する場合には、保険契約者に損失が生じる可能性があるため、説明が重要です。
この乗換・転換によって得られるメリットや、既存の保険契約にはない保障内容などを適切に説明することで、保険契約者が適切な判断を下すことができます。そのため、保険募集人は、保険契約者の利益を最優先に考え、適切なアドバイスを行うことが求められます。
以上のように、保険募集人は保険契約者に対して、保険商品の説明を適切に行い、保険契約者の保険需要に合致する商品を推奨することが求められます。また、乗換・転換の勧誘においては、保険契約者の状況に即して丁寧に説明することが義務づけられています。これらの義務は、業法によって定められており、保険契約者の利益を守るために非常に重要なものです。
説明がなされるべき時期
説明は、保険契約者が契約締結の意思決定をする前になされる必要があります。生命保険会社の場合、保険契約者の申込の直前に契約のしおりが交付されることがありますが、これは申込の意思決定が実質的にされた後に交付されるものであるため、説明義務の履行があったかどうかの判断には考慮されないとされます。
このように、保険会社や保険募集人には、保険契約の内容について丁寧に説明する義務があるため、保険契約者は、自己の状況に合わせて、最適な保険商品を選択することができます。
説明義務違反について
違反が認められる場合
裁判例に従って考えると、説明義務違反があったと認められる事例は、次の3つに分けることができます。
- 1法令等により、説明すべきとされている事項を説明しなかった場合
- 2情報提供が十分でなかったため、保険契約者が、保険契約を締結するか否かの判断を適切にできなかったと言えるような場合
- 3法令等に基づく事項の情報提供はされたが、それでは足りなかった場合であり、それは当該保険契約者の個別事情に即して考えると保険募集人が提供した情報だけでは当該保険契約者が適切に保険契約を締結するか否かの判断ができなかったと考えられる場合
このように、法令等に基づく情報提供はされている場合であっても、保険契約者が求めている保険内容と合致しない保険を、説明しないままで契約してしまった場合には、説明義務違反が認められます(③)。
ただし、③の説明義務違反が認められるのは、当該保険契約者の保険に対する固有の保険需要(どのような保険を求め、必要としているのか)について保険募集人が知っており、その保険需要から見ると、保険募集人が推奨して締結させた保険契約は当該保険需要に合致するものとはいえない場合などです。
なお、このような場合、学説のいう助言義務違反にも該当しうるのですが、助言の前提として個々の保険契約者がどのような保険を求め必要としているのか等の事情を保険募集人が調査すべき義務があると考えられています。しかし、裁判例で説明義務違反が認められるのは前述のとおり個々の保険契約者の保険需要に関わる事情を保険募集人が知っていた事案に限られており、助言の前提として個々の保険契約者の保険需要に関わる事情を調査する義務まで認める裁判例はありません。
この点、平成26年の業法改正において、保険会社や保険募集人が顧客に対して意向把握・確認義務を負うことが法定されました。
これにより、保険会社または保険募集人は、保険契約の締結等に関し、顧客の意向を把握し、これに沿った保険契約の締結の提案、および当該保険契約の内容の説明および保険契約の締結に際しての顧客の意向と当該保険契約の内容が合致していることを顧客が確認する機会の提供を行わなければならないとされています。つまり、保険会社または保険募集人は、顧客の保険需要について調査の上で保険需要に合致する保険を推奨し、もし合致しない場合には明確に説明する義務を負うと考えられます。
このような法的基盤が整えられたことで、保険会社や保険募集人は、顧客の保険需要について調査の上で保険需要に合致する保険を推奨し、もしそういう保険でない保険を推奨する場合にはその旨を明確に説明することが求められています。
【コラム 保険業法違反と民事責任について】
保険業法違反と民事責任の関係性について解説しましょう。
保険業法は行政監督法であり、これに違反する行為は行政処分の対象になり得ますが、直接民事責任につながるわけではありません。
例えば、保険業法300条1項1号違反となる虚偽の告知または不告知があった場合でも、一般には、それだけで保険契約が無効とはならないと考えられます。これは、それ以外の各規制についても同様と解されます。ただ、虚偽の告知や不告知により保険契約者の意思表示について民法の詐欺や錯誤の要件が備われば詐欺や錯誤の効果が発生するなど、民事上の効果が発生することもあります。しかし、規制違反ということだけで当然に契約の無効をもたらすかどうかは、慎重に解する必要があります。
この点、「業法違反が不法行為成立要件としての違法性の重要な判断要素であることは認められる」との有力な見解もあります。その見解によれば、保険業法の規律に違反する行為は、保険会社に不法行為責任を生じさせると考えられます。
保険会社は、顧客との間に情報や知識の格差があるため、説明は顧客の意思決定に重要な影響を及ぼすと考えられ、仮に業法に定めがなくても、信義則上の説明義務があると解されています。つまり、私法上の説明義務があると考えられます。
この私法上の説明義務は、契約締結の判断に影響を与える重要な事項を説明する義務と考えられており、重要な事項を適切な方法で正確に一般的な顧客に理解できるように説明する義務が含まれます。そのため、重要事項を説明しない場合や、事実と異なる誤った説明をする場合も説明義務違反となります。しかし、このような一般的な顧客向けの説明で十分か、個別具体的な顧客に合わせた説明まで必要かについては議論があります。
過去の裁判例では、保険募集過程で不実表示がなく、契約内容について文書で説明がなされている場合、さらに口頭で説明しなかったとしても、説明義務違反による不法行為責任の成立を認めるのは困難とされていました。ただし、特定の状況下では、不法行為責任が成立する余地があるとも解されていました。
まとめると、保険業法違反行為と民事責任の関係は複雑であり、保険業法に違反する行為が直接民事責任に結びつくわけではないものの、有力な見解によっては不法行為責任が成立すると考えられています。また、保険会社は信義則上の説明義務があるとされており、重要な事項を適切な方法で正確に説明する必要があります。ただし、個別具体的な事情に応じた助言の要否については、各規律では明確に定められていないため、慎重な判断が求められます。
【コラム 損害賠償に関する2つの方法(原状回復的損害賠償と履行利益的損害賠償)】
保険契約には、保険会社や保険募集人が保険商品や保険契約に関する重要な情報を適切に説明する義務があります。しかし、この義務を違反した場合、保険契約者が損害を受けた場合、故意または過失があった場合には、保険会社や保険募集人は損害賠償責任を負うことになります。
説明義務違反による損害賠償には、原状回復的損害賠償と履行利益的損害賠償の2つがあります。
原状回復的損害賠償は、保険会社や保険募集人が情報提供義務を適切に履行していた場合、保険契約者が保険契約を締結しなかったはずであるとして、支払保険料相当額の損害賠償が認められます。
一方、履行利益的損害賠償は、保険会社や保険募集人が情報提供義務を適切に履行していた場合に、保険契約者が得られたであろう利益相当額の損害賠償が認められます。
保険契約者が損害を受けた場合には、原状回復的損害賠償を請求することが一般的です。
また、履行利益的損害賠償を請求する場合は、保険会社や保険募集人が適切に情報提供をしていた場合に、保険契約者が締結した保険契約よりも有利な保険給付が得られる保険契約を締結していたはずであるとして、その有利な保険給付を得られる保険契約の保険給付相当額を損害として賠償請求することがあります。ただし、保険契約者の主張する保険契約が成立しうる場合でも、保険契約者がその保険契約を締結したであろうという可能性が認められなければ、保険給付を受けられなかったことについて因果関係のある損害とは認められません。例えば、保険契約者が自己の疾患について健康状態を虚偽の内容で申告した場合、保険契約が成立したとは認められないため、履行利益的損害賠償は請求できません。
以上のように、保険会社や保険募集人が説明義務違反を犯した場合には、保険契約者に対して損害賠償責任が発生する可能性があります。ただし、その損害賠償の額は、原状回復的損害賠償と履行利益的損害賠償に分けられ、保険契約者の主張する保険契約が成立しうる場合でも、因果関係があると認められなければ、履行利益的損害賠償は請求できません。
【コラム 損害額について】
説明義務違反が認められた場合の損害額の算定には、いくつかの問題があります。
一般的に、保険契約が既に解約されている場合には、差損説という考え方に基づいて、払込保険料額から解約返戻金額等の返還額を控除した金額が賠償額とされることが通例です。
ただし、この方法では、解約をいつしたかによって賠償額が変動するという問題があります。不法行為が成立した時点を基準時として賠償額を決定するのが本来であり、解約時点を基準時とする方法は不合理であると指摘されています。
また、解約時点では保険契約者はまだ保険保護という利益を享受しているため、これを考慮せずに賠償額を算出することに問題があるとの指摘もあります(このような損益相殺を行うかどうかは、裁判例によって異なります)。
一方、保険契約者が解約しないまま、差損説により損害賠償を請求した場合には、解約をしていない以上、損害が生じたとは言えないとして請求を棄却する裁判例もあります。
なお、最終的に、損害賠償額の確定にあたっては、保険契約者の事情に応じて過失相殺が行われることがあります。特に情報提供義務違反の場合には、大幅な過失相殺が行われることもあります。
以上のように、説明義務違反による損害賠償額の算定には、いくつかの問題があります。
賠償額の算定方法や過失相殺の有無など、複雑な問題が存在するため、保険契約に係る説明義務違反に基づく損害賠償請求をするには、契約内容を十分理解の上、保険会社に対して法的交渉を行う必要があります。
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