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弁護士コラム

火災保険の免責とは?

給付金の種類、補償内容 火災保険
投稿日:2022年02月27日 | 
最終更新日:2023年07月03日

「弁護士コラム」では、生命保険・火災/地震保険に関連するさまざまな情報をUPしておりますが、直法律事務所では、「保険金の不払い」(火災保険に関しては、「火災」を原因とする事故)に限りお問い合わせをお受けしています。何卒ご了承ください。

Q
この度、風災事故で自宅の窓が一部損壊しました。
風災事故から既に2年が経過してしまいましたが、補修業者に修理費用の見積もりを依頼したところ、10万円と言われました。
この費用は火災保険で補償されますか。
一般的な火災保険金が支払われないケースとなる免責事項についても教えて下さい。
Answer
免責とは、保険会社が保険金の支払いを免れることです。
逆に言えば、損害が発生しても保険金を受け取れないことを言います。
ただし、「免責金額」と「免責事項」は意味合いが全く違います。
免責金額とは、保険請求する際に発生する自己負担金です。
たとえば、ご質問者様のように、風災で窓ガラスが割れて10万円の損害が発生した場合を考えてみましょう。免責金額が0円であれば、自己負担なしでガラス交換できますが、免責金額10万円に設定すると、10万円以下の損害が発生しても保険請求するメリットがなくなってしまいます。
免責金額の設定方法については、各保険会社によって異なります。免責金額を大きくすれば、その分、設定保険料を安くすることができ、「免責金額が0に近づけば近づくほど、保険料は高くなる」ということになります。
お住まいの地域の災害リスクも考慮したうえで、どれだけの自己負担ならば問題ないか考えて設定するようにしましょう。
他方で、免責事項とは、保険の対象(建物や家財)に損害が発生しても、一定のケースに当てはまる場合は、保険金が支払われないとあらかじめ提示されている事項のことをいいます。

以下で、具体例を見ていきましょう。

はじめに 火災保険の免責とは?

免責とは、保険会社が保険金の支払いを免れることです。逆に言えば、損害が発生しても保険金を受け取れないことを言います。ただし、「免責金額」と「免責事項」は意味合いが全く違います。

そこで、火災保険における「免責金額」「免責事項」のそれぞれの意味を紹介するとともに、火災保険を契約する際に多くの方が迷う「免責金額」の設定の仕方などについて説明します。

免責金額について

免責金額とは

免責金額とは、保険請求する際に発生する自己負担金です。

たとえば、ご質問者様のように、風災で窓ガラスが割れて10万円の損害が発生した場合を考えてみましょう。

免責金額が0円であれば、自己負担なしでガラス交換できます。
免責金額1万円に設定した場合は、9万円の保険金と1万円の自己負担で対処します。
免責金額10万円に設定すると、10万円以下の損害が発生しても保険請求するメリットがなくなってしまいます。

免責金額10万円にしたら保険に入る意味がないと思われるかもしれません。
ただし、複数のガラスが割れたり、外壁材に大きなダメージを受けて数十万円~数百万円の損害が発生した場合には、10万円分を自己負担するのみで、残額については保険修理することができます。

免責金額はなぜ設けられているのか?

では、免責金額は何のために設けられているのでしょうか?
一言でいえば「希望する補償範囲に応じた保険料の負担を求めるため」です。

自動車保険の場合、保険金の支払い対象となる事故が起こったとしても、数万円の修理代を出せば問題ないことも珍しくありません。
そのような軽微な金額まですべて保険で補償していては、保険会社に多大な負担と手間がかかります。
そこで、加入者に対し、許容できる自己負担額を免責金額として設定してもらい、免責金額が低くなればなるほど、毎月の保険料を高くすることでバランスを取っています。

免責金額が低ければ低いほど、補償範囲は広がり、保険会社の負担と手間は増えるので、加入者も相応の負担をするべきであるという考え方が背景にあるためです。

免責方式の種類

火災保険の免責金額の設定にはフランチャイズ方式と免責方式(エクセス方式)の2つの方式があります。

フランチャイズ方式は、一昔前の火災保険の風災補償に20万円の金額設定で標準的についていました。一定の金額までは全額自己負担で、一定の金額を超えたら全額保険金が支払われる、という方式です。
現在でも、一部の商品はフランチャイズ方式が採られています。

最近の火災保険はもう一方の免責方式が多いです。これは、一定の自己負担額を定めて、損害額からその自己負担額を除いた金額を保険金として支払われる、という方式です。

これだけではわかりにくいので、以下では具体例を用いて説明します。

フランチャイズ方式で免責20万円と免責方式で免責5万円の設定の場合で比べてみます。

損害額フランチャイズ方式免責方式
損害額3万円保険金:0円
自己負担:3万円
保険金:0円
自己負担:3万円
損害額15万円保険金:0円
自己負担:15万円
保険金:10万円
自己負担:5万円
損害額30万円保険金:30万円
自己負担:0円
保険金:25万円
自己負担:5万円

フランチャイズ方式は損害額が20万円を超えるまでは全額自己負担、20万円以上の場合は全額保険金が支払われる、という方式です。

免責方式で免責金額が5万円の場合は、損害額がいくらであっても5万円の自己負担をし、残りの金額について保険金が支払われる、という方式です。

免責金額の設定方法

免責金額をどう設定するかは保険会社・保険商品によって異なります。

つまり、免責金額を設定できるか、設定できるとすればどういった金額の選択肢があるかは、保険会社によって差があるということです。

ある損保会社では免責金額の選択肢が「1万円、2万円、3万円、5万円、10万円」となっているのに対し、別の損保会社では「5千円、3万円、5万円」となっていたりします。

免責金額を大きくすれば、その分、設定保険料を安くすることができます。逆に言えば、「免責金額が0に近づけば近づくほど、保険料は高くなる」ということです。

災害別に設定できる免責金額

火災保険は火事・爆発・落電の基本補償に加えて、水災・風災・破損/汚損と災害内容別に様々な補償があります。

ここで、一般的な火災保険が想定している事故の例をみてみましょう。

事故の種類具体例
火災家が火事で燃えた。
落雷雷の影響で自宅のパソコンが壊れた。
破裂・爆発ガス漏れしているのに気づかないでコンロに火をつけたら爆発した。
風・雹・雪による災害台風による強い風の影響で屋根が飛んでしまった。
水漏れマンション、アパートなどの集合住宅で、他の住人が水道栓を締め忘れていたため、天井から水漏れした。
衝突自動車が自宅に突っ込んできた。
騒擾(じょう)自宅付近で大規模なデモが起き、自宅の壁が壊された。
自宅に空き巣が入った。
水災台風や集中豪雨で床上浸水した。

保険商品によって免責金額を付けられる項目が異なりますが、一般的に基本補償全てに免責金額を設定するか、風災(ひょう災、雪災含む)と破損/汚染の項目に限定して個別に免責金額を設定できる商品が多いです。
最近の保険は、風災や水災補償そのものを外せるカスタマイズ性のある商品が増えています。

免責金額を付けるか決める際は、補償そのものを外すことも踏まえて検討すると良いでしょう。

免責金額の設定幅

免責金額をいくらに設定できるかは保険会社や商品によって異なります。
火災保険全体の免責設定の相場は、基本補償全般で免責なし~10万円です。

国内3大損保の免責金額の例

  • A社:免責なし、1万円、3万円、5万円、10万円
  • B社:免責なし、5千円、3万円、5万円
  • C社:1万円、2万円、3万円、5万円、10万円

なお、最近では、火災保険のカスタマイズ性を高めるために、免責金額の選択肢を増やした保険商品も増えています。

そのような商品では、免責金額と反比例して保険料は割安になっていくという特徴があります。

保険料はどのくらい変わるのか

免責金額と保険料がどれくらい変わるかは、保険会社や建物の条件、補償プランによって様々です。
例えば、免責金額を付けることで年間保険料が5千円安くなれば、10年で5万円弱の差が出ます。(なお長期契約の場合は、全体的に割安になります)

火災保険の保険請求をする機会は数年~数十年に1回あるかないかといった程度であることが多いです。
数年~数十年分の保険料の違いも考慮して免責設定を検討しましょう。

免責金額の設定のポイント

免責金額をいくらで設定するかは、万が一の時にいくらの自己負担であれば出すことができるのかがポイントです。
免責金額を高くすれば保険料が安くなりますが、それで自己負担額が増えることで生活の再建に苦労するのなら、本末転倒です。

迷ったときには、保険会社や代理店に相談して、免責金額によって保険料の負担がどう変わるかを確認しつつ設定を決めるとよいでしょう。
また、補償ごとに免責金額を設定できる場合は、起こる可能性が高い災害に対する補償の免責金額は低めにした方がよいでしょう。例えば、近くに海や川があったり海抜ゼロメートル地帯に住んでいたりした場合は、水災補償の免責金額は小さくすると安心です。

対象物件の災害リスクを考慮しましょう

火災保険で保険請求する主な事例は次のことがあります。

  • 台風による飛来物で窓ガラスが割れた
  • ひょうや雪で屋根に補修が必要な傷ができた
  • 大雨で床下洪水が起こった

火災保険の請求事例で非常に多いのが窓ガラス破損です。
補償内容によっては、生活者の過失で割ってしまった場合(破損)や、第三者の嫌がらせの投石(イタズラ)でガラスが割れた場合も補償されます。その他、氷や雪による被害、洪水などの水災が多いです。

一方で、火事や爆発による保険請求件数は少なく、発生すれば数千万円単位の損害になります。
免責金額を決めるときは、火災や爆発のリスクよりも、窓ガラスが割れやすい環境や、雪や洪水被害が起こりやすい地域かなど、災害リスクを考慮して決めましょう。

免責設定の決め手になる事例の一部を紹介します。

  • 水災リスクの低い立地で、家の窓には全て雨戸が付いているので免責金額を10万円に設定した。
  • 過去10年以内に床下浸水を起こしたことがあったので再発の懸念を考慮して「免責なし」に設定した。

免責金額は支払い可能な額にしましょう

最近では免責金額の上限が20万円、30万円、100万円と高額設定できる保険も登場していますが、
常識の範囲内で考えると適切な免責金額の設定額は高くても5万円か10万円です。
災害や火災など保険を利用する事態はいつ起こるか分かりません。
免責金額は、貯蓄の中からいつでも支払える範囲の金額にしないといけません。
長期契約する場合は、今ある貯蓄や経済力だけではなく、保険契約期間中の将来で経済的変化がある可能性も考慮しましょう。

いつでも払える免責金額に設定する考え方の一例を紹介します。

  • 引越費用等で貯金を使い果たしてしまいそうなので免責なし、もしくは免責1万円など保険請求時の負担が少ないプランにする。
  • 今現在、貯蓄に余裕があって直近1年で大きな買い物をする予定もない。直近の保険料を安くしたかったので、保険期間1年で基本補償免責20万円、風災補償免責50万円に設定した。
  • 今現在の貯蓄や経済力に余裕があるけど、20年の長期契約をするにあたって、念のため免責設定は3万円にしておいた。
  • 長期契約で保険料を安くしたい。仕事が公務員で保険契約期間中は仕事が安定している見込が高いので、免責20万円の15年契約(※)にした。

※大手損害保険各社は、火災や自然災害の被害を補償する火災保険について、2022年10月から10年契約を廃止し、最長5年ごとの更新にする方針を決めました(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211115/k10013347851000.html)。

免責事項について

免責事項とは

免責事項とは、保険の対象(建物や家財)に損害が発生しても、一定のケースに当てはまる場合は、保険金が支払われないとあらかじめ提示されている事項のことをいいます。

免責事項の具体例

免責事項の例として、以下の6つをあげることができます。

  1.  建物の経年劣化による損害
  2. 重大な過失で発生した火災により生じた損害
  3. 契約者本人・家族の故意による損害や法令違反
  4. 地震・津波・噴火による損害
  5. 戦争・外国の武力行使・革命などによる損害
  6. 核燃料物質または核燃料物質によって汚染された物の放射能による事故

建物の経年劣化による損害

建物は古くなれば、当然使い勝手が悪くなります。また、屋根が壊れたり、雨漏りしたりといった事態も起きやすくなるでしょう。
しかし、火災保険が本来補償の対象としているのは「偶然且つ突発的な事故」です。
そのため、当然に起こりうる経年劣化による事故は補償の対象外とされています。
経年劣化と自然災害が重なるケースが極めて多く、注意が必要です。
屋根がもともと経年劣化していたところに、台風の暴風に襲われて破損し、雨漏りが起きた損害などは、よく調査対象となるケースが多いようです。
基本的に、損害を引き起こした直接の原因が自然災害であれば、火災保険の補償対象となります。
しかし、直接の原因が自然災害であることを証明することは、意外に難しく、自然災害が発生した日時・原因が、はっきりとわかるケース以外は、気象庁の過去の気象データなどで、可能な限り特定する必要があります。

重大な過失で発生した火災により生じた損害

いわゆる「寝タバコ」など、注意を怠ったために発生した火災の場合も、重大な過失に該当し、火災保険による補償は受けられません。
ガスコンロの消し忘れや鍋を火にかけたままキッチンを離れたなどの場合も、これに該当する可能性があるので注意しましょう。

契約者本人・家族の故意による損害や法令違反

「保険金目当てで家に火をつけた」という場合などがこれにあたります。
当然、この場合は火災保険による保険金の支払いはありません。

地震・津波・噴火による損害

これらの災害は地震保険の補償対象となっているため、火災保険本体のみの契約では保険金の支払いが受けられません。
火災保険を契約する場合は、地震保険もセットで検討しましょう。

なお、火災保険の保険商品の付帯補償には、地震・津波を原因とする火災によって建物が半焼以上となったり、家財を収容する建物が半焼もしくは家財そのものが全焼となったりした場合など、一定の場合には保険金を支払う設定になっているものもあります。

戦争・外国の武力行使・革命などによる損害

いわゆるテロやクーデターです。
一度起こると広い範囲に損害が発生し、保険でカバーするのは保険会社に莫大な負担が生じるため、免責事項となっています。

核燃料物質または核燃料物質によって汚染された物の放射能による事故

いわゆる原子力災害です。
原子力災害はめったに起きないうえに、実際の損害の程度が想定しづらいという前提であるため、補償対象外となっているのが現実です。

補足 保険金請求の時効について

ご質問者様は、2年前の風災被害についての被害にかかる自宅の窓の損傷の保険金を請求しています。
そこで、保険請求における時効について説明を補足します。

保険法に基づき、被害が発生してから3年を経過すると保険金請求債権も時効にかかります。

一般的に、事故から相当の時間が経過すると事故の調査などが困難となり、適正・迅速な保険金支払いができなくなるおそれがあります。
このため、保険会社の保険金支払義務は、被害が発生してから3年を経過した時点で時効によって消滅するとされているのです。

保険法 第95条(消滅時効)
保険給付を請求する権利、保険料の返還を請求する権利及び第63条又は第92条に規定する保険料積立金の払戻しを請求する権利は、3年間行わないときは、時効によって消滅する。【強行規定】

保険金請求権の消滅時効の起算日は、保険法に規定が設けられていないので、民法の一般原則により判断することになりますが、保険商品や保険金の種類などにより異なりますので、注意が必要です。

事故発生のときの保険会社への通知と同様に、保険金の請求についても失念しないよう、事故発生後、すみやかに行う必要があります。

なお、自動車保険や火災保険では、事故発生時の義務として、他の保険契約等の有無・内容を遅滞なく保険会社に通知することなどが約款で規定されているのが一般的です。

まとめ

免責金額とは、簡単に言えば自己負担金額です。

免責方式とフランチャイズ方式によって保険金の支払が変わってくるので、どのような契約になっているのか確かめておくとよいでしょう。

免責金額を高く設定すれば保険料が安くなりますが、万が一の時に自己負担額が増えてしまいます。
お住まいの地域の災害リスクも考慮したうえで、どれだけの自己負担ならば問題ないか考えて設定するようにしましょう。

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